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LEGEND OF SWORD‐07



 飄々としたように聞こえるかもしれない。だけどオレ達はピリピリしていた。だって、ここにいるのは魔王教徒の中でも選りすぐりの奴らばかりだぞ?

 ここだけは死守しなければと集められた、敬虔な魔王教徒信者ばかりなんだ。


 ジャビもいたエインダー島のように、「戦わせてあげよう」「研究させてあげよう」という言葉にホイホイ乗っかっただけの奴らとは比較にならない。


 爆弾を体に巻いて自爆、なんて話も聞いた事がある。誰も殺さず連れ帰るという目標があるだけでなく、オレ達の仲間から1人も負傷者を出したくない。だから行動には注意していた。


「ああ、喋る気がないなら無理に話さなくてもいいよ、僕が心を読むからね。心は言い間違いもしないし、噛まないし、嘘もつかないからその方が早い」

「おぉう、ぼくも心、読むよごでぎます! まるどむ、ぼくさでますか?」

「距離を取る意味では、あたしが適任だと思うけれどねえ」

「んな事言ったら、俺っち片方置いときゃ、みんな離れていられるぜ」

「ちょっと待って下さいよ! 頑丈さならボクが一番だと思いますけどね!」

「ぼく……えっとお役に、立てない……よね」

「あーもう黙って! 大丈夫、四六時中襲われる事を想定して爆弾巻いてるわけないんだから」


 武器達が五月蠅い。黙らせた後、オレは1人のおでこにグレイプニールを押し付けた。


「おぉう、まくらん、持てくるまい、小屋おいでくるしまた。あまほにちゅかう、ないぢます」

「体に巻き付けたりはしてない、穴を掘るのに使う大事なものだからって」

「イース、次にあの穴の中にいるのが何かを調べて。アンデッドならあたし達のヒールが効くはずよね」

「わたし、ノーマ、レイラ、それにシークも少し……全員で攻撃できれば心強い」

「おっとシークは治癒術が下手だからやめておこう。僕も癒し殺すのは得意じゃないのでね」


 グレイプニールが心を読む。だけどグレイプニールの知識量では、得たものを上手く説明できないみたい。ビアンカさんがグングニルで魔王教徒に触れ、ようやく正体が判明した。


「ノーマさんの話、魔王教徒の仕業で間違いなかったのか」

「博物館から骨を盗んで、それをアンデッド化の材料にするとはね、それは思いつかなかった」


 蟲毒に利用していたのは、やっぱりドラゴンの骨。アンデッド化させる際、操れる奴がいるかどうかも確認したうえで、操った後は他のモンスターを与えて食わせていった。


 骨だけだった体には次第に腐肉が付き始め、今はアンデッドドラゴンとして穴の中で生活している。ズーみたいな鳥系のモンスターを捕まえられず、まだ飛ぶ力は与える事が出来ていないらしい。


「ドラゴンが完全体でない事は喜ばしい。だけど、問題はそこじゃないよな」

「魔王教徒が自ら犠牲になる事で、アンデッドドラゴンに知恵を与えようとしている。自ら人族の行動を把握、理解できるように試みているのね」

「普通に考えたなら、アンデッドの脳は腐っているか、一部のみ機能している状態だ。通常は攻撃性と食欲だけで動いている。理解などしないと思うが」


 それはオレ達も思った事だ。幾ら体を動かす事まで出来るようになっても、自分で考える所まで再生するだろうか。


「そんな事の為に、自分達の命を捨てるなんて」

「は? そんな事だと? ふざけるな! この世界は狭い町や村の中でもいがみ合い、傲慢な奴だけが上に立てる不平等な地獄と化している! 浄化こそがふぐっ!」

「うっせーばーか。自己紹介すんな、ムゲンの大地にそんな奴いねえんだよ」


 ジャビが魔王教徒の頬を蹴り飛ばした。きっと魔王教徒は尤もらしい事を言って信者を少しずつ増やしてきたんだろう。

 その結果、命を捨てる事になったら元も子もないのに。


「教団内の狭い世界で何が分かる。思い込みで決めつけた結果、お前ら何か幸せになったのか? 誰かのためになったか? 何かの為になったのか?」

「さあ、他にも詭弁を主張したい方は? 命が惜しくないくらいだから、それなりの覚悟があるのよね」


 オレとレイラさんで畳みかけると、誰も何も言わなくなった。

 結局は、追い込まれて勝ち目がない事を自覚しながら悪あがきしていただけ。それを自覚してもいるという事だ。


「アイツらを全員捕まえて、身投げを防ぐ。まずはそれからだ。えっとシークの父ちゃん達も全員でパッと行ってサッと終わらせようぜ!」


 残っているのは一部の小屋だけ。捕えた奴らから得た情報だと、まだ10名程の精鋭死霊術士が残っている。

 その中にアンデッドドラゴンを操っている奴がいるんだ。


「武器達が顔を覚えたから。そいつを叩けばいい」

「そいつが、教祖って事?」

「教祖が誰か、こんなに大勢の前では信者にも明かさないようだよ」


 オレ達の背後から声を掛けたのは、アゼス達だった。魔王教徒として活躍していた彼らは、ある程度の内部事情を知っている。

 だけど、最近の動きまでは知らないはずだよな。


「一応、俺達は魔王教徒だからね。各地の魔王教徒にどうなっているのか聞きまわったのさ。幹部クラスを含め、教祖の居場所は分かっても誰が教祖なのか知らなかった」

「そう言えば、バルドル達も教祖が誰なのかまでは探れていない」


 伝説の武器達の能力によって、顔や名前がバレる。教祖が誰なのかが分かれば、オレ達は必ずそいつを狙う。

 だから魔王教徒は対策したんだ。教祖はごく一部の人間にしか正体を明かしていない……?


 いや、そのごく一部の連中はどこにいる?

 少なくとも捕えた中には1人もいないぞ。残った10人の中にいるのか?


「おい、他に何か知らないのか!」

「……フン、それが人に物を聞く態度か」

「生憎、お前に発言は求めていない。心を読めば分かる」

「チッ」


 拘束した全員の心を読んでいくも、誰一人として教祖が誰かを知らなかった。それどころか、誰なら知っているのかも分からない。


「なあ、一応確認なんだけどよ。アンデッドを操ってるやつがアンデッドに食われたらどうなるんだ?」

「……えっ」


 ジャビの言葉に、みんなが固まるのが分かった。

 術者が死んだら、アンデッドは無力化されるか、既に自我があればそのまま動く。問題は操っていたアンデッドが術者を取り込んだ場合。


「術者が操っているアンデッドは、つまり……術者の一部、だよな。グレイプニール達はそういう存在のはず」

「まさか、死霊術士が自らアンデッドドラゴンとして……そんなの上手くいくはず」

「いや、成功したんだよ」


 1人の男がオルターの言葉を遮った。ジャビに蹴られ右頬を腫らした魔王教徒だった。


「お前ら、共鳴ってやつをするんだろ? 一緒の事だ。すでに操っている状態だから、アンデッドだろうが身体を1つにするのは難しくねえんだよ」

「モンスターと、共鳴!?」


 そんな、でもアダマンタイトじゃない武器達と、共鳴? 

 ……そうか、武器かどうかじゃなく、相手と同じ気力や魔力を共有し、心身一体となる気があるのかどうかが重要なのか。


「なぜそれを言う気になった」

「フン、俺達はどうしようもねえクズの集まりだぞ。どうせもう目的も果たせねえ。それなら裁判に掛けられた時、少しでも大目に見てもらえる手段を選んだまで」


 大目に見るなんて誰も言ってない。でも諦めてくれたのは好都合。


「僕達武器は、持ち主の分身だ。術式を発動させ、持ち主の気力や魔力で生きている。術者と持ち主が同一人物なら、共鳴は難しくない。僕とシークのようにね」

「そんな、バルドルの言う事が正しいのなら……」


 きっと、背筋が凍ったのはオレだけじゃない。あのドラゴン、穴の中から出られないんじゃない。出ないんだ。


「共鳴した状態で、術者の気力魔力を取り込ませている。術者は死ぬけど、その肉体を保持している……その状態だと共鳴が解けないというのか?」

「じゃあ、あの穴の中にいるのは」

「既に共鳴した状態の、術者自らが餌となった蟲毒モンスター……?」


 それは、人の思考や言葉を理解し、自分で考える「元は人族だった」アンデッドという事。

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