LEGEND OF SWORD‐06
オレの呼びかけが響き渡り、皆が高台へと避難する。ゼスタさんとジャビがギリギリまで魔王教徒を捻じ伏せていたけど、ただならぬ気配には気付いてくれたみたい。
オルターとクレスタさんが陣取った高台からは、島のおおよそを見下ろす事が出来た。北の沿岸では、船長達が沖へ船を避難させていく。
魔王教徒の数はかなり減っている。簡素な小屋が幾つも建っているから、その中にまだ潜んでいるかもしれないけど……地面に倒れている人数は少なく見積もって100。
相手の戦力はかなり削がれているはずだ。
「イース、何を見たんだい」
「父さん、アンデッドが地面に倒れたのを見た?」
「ああ、ゼスタとジャビがどんどん魔王教徒を拳やケルベロスで殴って、気絶させていくから」
「おう! 全力でやってるぜ? 伝説の武器だろうが伝説のバスターだろうが、おれの方がいっぱい倒してやる。それがどうしたよ」
「俺達、死霊術士かどうかまでは確認していたわけじゃないけどな」
「操られていたアンデッドは動かなくなるものよ? イース、何、どうしたの?」
ジャビとゼスタさんもまだ原因に気づいていない? でもアンデッドが地面に倒れていく様子はだいたいみんな見ている、か。
「俺達も確認した。レイラさんの脇にいたアンデッドを狙った瞬間、標的がその場に崩れて空ぶったから」
「ごめん、あたし撃たれたのか勝手に倒れたのかまで見れてない」
「いや、距離は数メルテ開いてるんで、左右視界の外だと思います、大丈夫っすよ」
「オルターは正面の小屋から左、俺は右で分担していたんだけど、その現象はどっちに偏っているというわけでもなかったな」
オルターとクレスタさんも把握できていない。高台からは、奥の窪んだ場所の様子までは見えていない、ってことか。
この島にいるアンデッドは、材料となる動物やモンスターの死骸を集めたもの。言い方は変だけど、自然発生したものじゃなくて操っているものなんだ。
死霊術士が何らかの理由で操れなくなれば、アンデッドはまた死骸に戻る。それ自体は不自然なことじゃない。
だけど、その原因はジャビとゼスタさんが倒してくれたおかげ、だけではない。それが見えてしまったんだ。
「死霊術士が、大きな穴の中に飛び込んで……いや、身投げしている」
「どの辺りだ」
「この指の先、あの少し盛り上がった場所の奥に、大きな穴が開いてる」
「グングニル、投げるから見てくれる? できれば全容を把握したい」
「ええ考えやね。任せとき」
ビアンカさんがグングニルを真上に投げ、グングニルが高い位置から穴のある場所を見た。
オレ達から数メルテ離れた地点で難なく受け止めるビアンカさんの腕前は、他の槍術士も見習った方がいいと思う。
「どうだった? 高さが足りなかったなら、もう一回投げてもいいけど」
「見えたばい。まあ、直径20メルテってとこかね、イース坊や、あんたよう気が付いた。身投げする瞬間は見とらんけど、中に何人か倒れとった」
「アンデッドがバタバタ倒れていったのは、そいつらが身投げして操れなくなったから? それが本当なら、降参って事か? まさかな」
「クレスタちゃん、それは違うばい。身投げした死霊術士達は、餌になるんよ」
「えっ……」
餌になる。まさか、蟲毒? この島でも蟲毒を試していたって事か?
「どんなモンスターだった? 一応、蟲毒モンスターがいる事を想定して来てはいるけど」
「おっとシーク、死霊術士が自らを餌にするというのなら、ひとまず奴らが『人であり』なうちに捕えて供給を建つべきだと思うのだけれど」
「そうだな、バルドルの言う通りだ。蟲毒の件は分かった。でも穴から這い出て来れないから、魔王教徒はここで拠点を維持できているんだ。ひとまず全員を拿捕しよう」
父さんの呼びかけで、みんながそれぞれ魔王教徒を全員捕まえる事に専念する事になった。魔王教徒の狙いを暴き、蟲毒への養分を絶たないと。アンデッドを倒すのは後回しだ。
「バルドル、ケルベロス、アレス、アルジュナ、それとグレイプニール。あんたらにはあたしが見たものを伝える」
武器達をグングニルに触れさせる。武器達は蟲毒の中にいたモンスターの情報を共有したみたいだ。
「おぉう……見たことまい。けるめろちゅ、あで、何ますか?」
「ドラゴン種だな。俺っちが実際に見た事ある種類じゃねえけど……絶滅したと言われるドラゴン種をどうやって手に入れたんだ」
「ドラゴン……そう言えば。南のライカ大陸の博物館が襲われて、一部の化石が盗まれたの。ドラゴン種の骨もなくなっていたはず」
「本当ですか? もしかして犯人は……」
「見つかってないの。骨も盗まれたまま取り返せていない。情報だけ回って来たんだけど、バスター協会が出る幕はないって事で要請はなかった」
ノーマさんが聞いた話が、魔王教徒の仕業って可能性はある。ドラゴン種を……まさか蟲毒で復活させようとしているのか?
「骨を置いているだけではアンデッド化しないし、進化もしない。死霊術士が操っているはずだ」
「操れなくなって暴走する前に止めないと。エインダー島のようになったら手が付けられなくなる」
父さん達が緊張しているって事は、ドラゴン種の相手がどれ程難しいかって事だよね。とにかく、今は死霊術士を全員捕まえて、蟲毒の中にいるモンスターを倒す。それしかできない。
「わたしとノーマでアンデッドの相手をしよう。みんなは魔王教徒の捕獲を! イース、シーク、ビアンカ、ゼスタ、イヴァン、レイラ、拘束用の魔具を10個ずつは持って行ってくれ」
「俺とオルターはここに残って狙撃だ。安全地帯の確保をしておく」
「足りない分は合図くれたら俺が持っていく。任せてくれ」
「有難う、オルター。よし、捕獲作戦開始だ!」
* * * * * * * * *
「うぉら! おとなしくしやがれ! ぶん殴ってでも止めてやっからなあ!」
「殴っておとなしくなった相手にそれを言うのか? ジャビおめえおもしれえな」
「ケルベロス、お前完全によそ見してるだろ。いくら峰打ちが面白くないからって」
ジャビとゼスタさんの機動力は流石のもので、魔王教徒が反応する前にはもう気絶させている。
オレもグレイプニールの側面を使って足払いしているんだけど、2人の漏らした奴を処理しているような状況だ。
「クソッ、クソッ! どうして影移動の動きが読まれているんだ!」
「ヘルファ……ごぶぇっ」
「はい失礼したね。ああ、本当に思っているわけではないのだけれど、社交辞令だから嘘にはならない」
「バルドル、集中して。もし君に舌があったなら絶対噛んでるよ」
「わはっ! ふひひ、まるどむ怒るさでしまた」
「むう! イース、君の愛剣の躾はどうなっているんだい」
「父さんの躾をことごとく拒否するバルドルが言っちゃうの? それ」
術を吸収してくれるから、死霊術ごときオレ達の敵ではない。仕留める事ができないせいで武器達はあまりやる気がないんだけど。
小屋の中に隠れていた奴らも全員捕まえ、1時間ほどでほぼ捕まえ終わったと思う。動いているアンデッドはいない。
倒れているアンデッドも、ノーマさんとレイラさんと母さんで浄化している。
「アレスを使って手加減するの、本当に大変なんだよ。大剣の側面で死なない程度の力加減で殴れって、モンスター斬ってた方が楽だよな」
「殺人剣呼ばわりは困りますからね。でも、正直に言うと人が相手ってのは面白くありません」
「アレスで玉ねぎをみじん切りにする方がまだ簡単かも」
今回、イヴァンさんとアレスが一番大変だったのかも。
魔王教徒は悪だけど、殺すわけにはいかない。死刑になる奴がいるとしても、それは国際法で判断されるのであって、オレ達が手を下す事は出来ない。
その手加減がむしろ殺すより難しくて疲れるんだけど、戦う相手としてはゴブリンより弱いからね。
「よっしゃあ! 俺様が最後の1体を射抜いてやったぜ! 一掃は済んだ、これで……ボク、ちゃんと役に立てたかな」
アルジュナがいつもの気弱なアルジュナに戻った。もう敵となる対象がいないって事だ。
「さあ捕まった諸君、この島での計画を聞かせて貰おうかな」