LEGEND OF SWORD‐03
グレイプニールは、自分がモンスターを斬り倒す事より、自分がオレの役に立てる事を誇りに思ってくれる。
バルドル達が嫌というわけじゃない。みんな素晴らしい武器だし。でもオレにとっての相棒はやっぱりグレイプニール以外考えられない。
* * * * * * * * *
「クレスタさん! お待ちしていました!」
「おーう、元気だったか! オルターはなんだか垢抜けたな」
「ディズさんは来られなかったんですか?」
「ああ。バスターの指導者やってるからあいつ。田舎でバスターなんかろくにいない村に移り住んだから、抜けるわけにはいかないらしい」
次の日、オルター待望の銃術士クレスタさんが到着した。背負うバッグは数十キロありそうなのに、軽々と小走りまでしている。
銃術士は体力が必要、いつもオルターが言っている事は本当なんだな。銃を何丁も背負ってるんだし。
「よし、もう1度打ち合わせしたら、その後は各班で買い出しに行ってくれ」
「ぬし! ボクたち、なおうきょうと戦うますか? もしゅた戦うますか?」
「状況次第だなあ、着くまで分かんないかも」
「安心しておくれ。モンスターの方は僕達で倒しておくとするよ、イース」
「魔王教徒相手だと斬れないからだよね」
「おっと、僕の刃より鋭い返しをどうもね」
まとめ役の管理所職員が丁寧に情報を整理し、魔王教徒とどう戦うのかを決めていく。
死霊術でこちらの動きを見られていないとも限らない。夕方の出発は真っ暗な夜中の出発に変更となった。
「対人戦って、ほとんどのバスターが経験ないと思うんですよね」
「一方、魔王教徒は最初からこちらを殺しに来る、という理解で良いのでしょうか」
「魔王教徒の死霊術を見た事ある人は?」
父さんの呼びかけに、半数のバスターが手を上げた。魔王教徒掃討戦に参加しても、実際に戦った人は更に限られる。
モンスターは炎を吐くやつが一部いるにしても、術を使う事はない。
魔王教徒が作り出したモンスターと戦ったのも、闘技場で一緒に戦ったバスターや、掃討戦で2,3組が戦ったのみ。
未知のモンスターを相手にしながら、人を相手に対応って、実はかなり難しい。バスターはいかなる時も人に力を行使しちゃいけないんだ。
人は裁判で裁かれる。結果がどうせ死刑であっても、悪人ならバスターが殺してもいいなんて認められない。
「その死霊術って、具体的にどう対処すればいいの? どういう術があるの?」
「そうですね……」
父さんは少し考え込み、黒板に解説を書き始めた。
そんな時、会議室の扉が開かれた。
「よーう」
「久しぶりだね」
男が2人、それとテレストの正装である白いローブを着た男が入って来た。
「あっ! アゼスさん、ティートさん!」
「どうしてここに」
「どうしてって、呼ばれたんだよ。魔王教徒と戦うなら、元魔王教徒の死霊術士に聞けってね」
アゼスさんとティートさんは元魔王教徒で死霊術士だ。今はテレストで魔王教徒対策の役人をしているはず。
オレ達もテレストの勲章持ちだし、無関係ではない……ああ、そうか。テレストは正式に魔王教徒殲滅戦に手を貸すって事なんだな。
「王から命じられましたよ、イースさん達を手伝うようにと。テレストの勲章を持ったバスターが戦う事は、テレストが戦うに等しいと」
「そんな大きな話にされると緊張しますね……」
少し懐かしい話をした後、2人は自己紹介をし、自分達が何のために来たのかの説明を始めた。
「つまりあなた達を練習台として、魔王教徒との戦い方を学ぶ?」
「そうです。死霊術を実際に浴びせられた人は、そう多くないと思います。慣れて下さい」
皆で町の外に出て、始まったのはアゼスとティートによる実戦訓練。
魔王教徒はバスターと違い、詠唱後に術名を口にしたりしない。
バスターの場合、パーティーの連携のため、技や術の名前を大声で伝える事が有効とされている。
モンスターは言葉を理解しないから、それによって対策される事もないからだ。
だけど、魔王教徒はバスターの言葉を理解する。そして毒沼を発生させるのに、詠唱に必要なければわざわざ大声で叫んではくれない。
なにより、バスターは殺さず生け捕りする事が目的という戦いが滅多にない。
「これがポイズンボグだ! 毒の沼を目の前に出される可能性を考えて、直線的で動きの分かりやすい攻撃ばかり畳みかけない事!」
「地中を移動する事も出来る。だけどしっかりと見極めたなら対策は容易だ」
「この術、影と影を移動するの。だけど地中に潜る瞬間に顔を向けていた方向にしか移動できないから、それをしっかり見て!」
影移動は、オレ達がギリングで魔王教徒と戦った時に見切った術だ。それを2人が何度もやって見せてくれる。
おかげで潜った後にどの付近を見ていたのかまで分かるようになった。さすが、ベテランだ。ジャビも反射神経が良く、見切る事に問題はなさそうだ。
「ヘルファイアという術、これが唯一と言っていい魔法らしい魔法です。注意して欲しいのは、この術が人体ではなく気力を焼くものという事です」
「気力を焼く?」
「一度火が付いたら、気力を使い果たすまで燃え続けるんです。治癒術士は近接攻撃職に、障壁の魔法を掛けてあげて下さい」
これまで対策をせずに戦ってきたけれど、それは各拠点の死霊術士の熟練度が低かったから乗り切れた部分も大きい。
シュトレイ山では、グレイプニールとの共鳴でゴリ押ししただけだし。
「治癒術士も結構忙しくなりそうね……補助と回復は担当を分けた方がいいのかな、でも自分のパーティーの動きは自分が一番分かってるし」
「私が全体を見るから大丈夫よ」
ノーマさんが各パーティーの補助に回ってくれるなら心強い。父さん達は問題ないだろうから、魔王教徒との戦いに慣れていないパーティーはノーマさんに任せて、レイラさんはオレ達だけに集中できる。
「なあ、気力を焼くっつうのは、一度焼かれたら終わりなのか?」
「解除は難しいと思う。これは一種の呪術であって、毒の解除とは原理が異なる。そういう魔法もいずれ開発されるだろうけど」
「ふひひ、ボクがなおう、吸収するます!」
「んじゃあ、もし喰らったらグレイプニールか他の伝説の武器にお願いすりゃいいか」
伝説の武器達は、魔法も気力も引き出したり遮断したり、色々自在に出来るんだって。魔王教徒と戦うなら、伝説の武器達は必須と言っていい。
「なあ、モンスターを斬りたいのはもちろんなんだけどよ。そういう事情があるなら俺っち達は魔王教徒の制圧に回った方がいいんじゃねえのか」
「そうだな、捕獲戦についてもやったことあるし……シークもいいよな?」
「そうだね。バルドル、ご愁傷様」
「うわーん」
「じゃあ、わたしはみんなのサポートに回ろう。アルジュナの特性として、最前線より一歩下がって見渡し、皆の邪魔になる個体を射抜く」
父さん達は全体のサポートに回ってくれるみたい。そうなると、オレ達は捕獲や討伐など目の前だけに集中できる。
「ボクとビアンカで、モンスターとの接近戦の援護をしよう。アレスは大振りで、魔王教徒への加減が難しい」
「そうね、私もちょっと突くなんて出来ないし」
「ボクはいいですよ。大剣は盾の役目も出来ますから、どっちに回っても」
「あたしもええよ。派手な技が多いけん、捕獲の手伝いには向かんけんね」
「んじゃあ俺とオルターは離れた所で狙撃だ。全員が前線に出る、俺達は自分で自分を守る覚悟がいるぞ」
「はい!」
アゼスとティートも同行する事になり、夜には全員がそれぞれの船に乗り込んだ。オレ達先発隊は、物資の船が追いつくまで退路がない。
「よし! 出航! 最終決戦だ!」