LEGEND OF SWORD‐02
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「久しぶりにこんな大勢の獣人族が集まったなあ。ぼく以外にシャルナクちゃん、イース、ジャビくん! それだけでウキウキするよ」
「おぁ? うき、何ますか?」
「ウキウキね。楽しいってことだよ」
「おぉ、つもいもしゅた倒す、斬ゆ、うきうき!」
「もっと言葉も知らないといけないね。まあ焦らなくてもいつの間にか語彙力が増してるものだから。君はイースと成長していけばいいさ」
「グレイプニールはまだ人の世界に出て日が浅いですからね。イヴァンさんが人族の世界で暮らし始めた頃を思い出します」
イヴァンさんとアレスは、イサラ村の住民が魔王教徒に攫われた時以来の再会。アレスは伝説のバスターの中で最年少だったイヴァンさんの大剣だ。
必然的に年下扱いされてしまうので、グレイプニールの存在は弟が出来たようで嬉しいらしい。戦闘に関する事は誰……じゃなかった、どれよりも熱心に教えてくれる。
「クレスタさん達、来てくれねえかなあ……俺の神様、ブラックアイ様! ああ、一緒に戦えるなら、移動中ずっと銃の事を語り合いたい!」
「ああ、来るって言ってたぞ。明日こっちに着いて、そのまま合流だってよ。ビアンカとシャルナクが連絡を取ってるよ」
「ほんとっすか! ああ、緊張で手が震えて狙いが定まらないかも」
レイラさんのお父さんであるゼスタさんの言葉に、オルターは珍しく感情を全開にし、飛び上がって喜ぶ。
その少年のような笑顔が最近は密かに支持されてるんだけど、本人はバーで働いてる時も銃の話以外で饒舌にならないし、好意にも気づかないんだよね。
彼女が欲しいとか言いながら、銃の事しか見えてないんだもんなあ。
「レイラちゃんの装備姿は初めてね。事務所で働いてる姿もいいけど、やっぱりあなた現場向きよ。そう言えば髪型……変えた? 前髪の感じが以前と違うかも」
「ビアンカさんほんと!? 分かります!? 分け目を変えて、前髪も短くしたんです! うちの男達、ぜんっぜん気付かなくて! お父さんなんか、しばらく見ないうちに大きくなったな……なんて言うんですよ!」
「ゼスタ、あんた娘が何歳か分かってんの? レイラちゃんこんなに立派に育ったってのに」
「急に俺に話を振るなよ」
再会の喜びが勝ってるからか、今から最終決戦って感じがまるでしない。他のパーティーも呆気に取られてるよ、何しに集まったのか分かんなくなりそう。
「なあ、おれシークさん以外知らねえんだけど、誰が誰なのか教えてくれねえか?」
「あ、そっか、ジャビは初めての人ばっかりだったね」
置いてけぼりだったのはオレだけじゃなかったみたい。良かった……のかな?
「父さんは分かるよね、その隣の猫人族がオレの母さん、シャルナク。背中の弓はアルジュナだ」
「あのー、イース。僕の紹介がないのだけれど」
「バルドルは会ったから分かるぜ、よろしくな」
「どうもね」
「シャルナクだ、宜しく。犬人族のバスターとは心強いね。キンパリ村のボフさんやジャラトさんは元気かい」
「ジャラトはおれの親父だぜ」
「そうなのかい!? これは驚いた。是非宜しく伝えておくれ」
母さんはジャビの父さんを知ってるのか。世間は狭い……あ、そうか。爺ちゃんってナン村の村長だったっけ。顔が広いのも当たり前か。
「アルジュナっつう弓は喋らねえの?」
「喋るとも。アルジュナ、恥ずかしがらずに挨拶を」
「は、初めまして……あの、アルジュナ、です」
「おう! 宜しく! おめー伝説武器のくせになんか声ちっせえな」
「戦いだしたら分かるよ」
戦いになったら豹変するからね、アルジュナは。どの伝説武器よりも勇ましくなる。まったく、誰に似たんだか。
「そっちの背の高い人がゼスタさん。レイラさんの親父さんだ。持ってるのは冥剣ケルベロス」
「よろしくな! 双剣とはちょっと違うけど、君は両手のグローブで戦うんだろ? 両手で戦うコツなんかは教えてあげられるぞ」
「ほんとか!? レイラさんのおやっさん、いい人だな! ケルベロスも宜しくな」
「おうよ! 俺っちを呼び捨てとはいい度胸だ。でも嫌いじゃねえ」
「そっちがビアンカさん。そして魔槍グングニル」
それぞれの紹介をし、ジャビが全員を覚えた頃、ようやく目的地となる島の話になった。
やっぱり、ここにいる誰もが島の存在を知らなかったみたい。オレ達は元副会長から聞いた島の様子を出来るだけ詳しく説明する事にした。
「高い所でも標高10メルテ程度、か。遠くから見えないし、それじゃ発見も難しいわね」
「あたしら300年以上もあり続けて、そんな島の話は聞かんかったばい。バルドル坊や、あんた勇者ディーゴと一番近いエインダー島に住んどったろ、聞いた事なかったんね」
「300年物の槍が、同じ300年以上物の僕を坊や扱いするのはやめて欲しいのだけれど。島の存在が話題に出た事はなかったね」
大昔から存在を知られていなかった、もしくは知っている人がいたかもしれないけど、特に重要視されていなかったか。魔王教徒が偶然見つけた説が濃厚だな。
「平たく隠れにくい地形、包囲する事自体はそんなに難しくない。そんなに大きな島じゃなさそうだし、魔王教徒が準備できる船の速度も大したことないはず」
「ただ一度海上に出てしまえば、探すってのはとても難しい。逃げる先があるかは分からないけど、そうなるともう探す当てがなくなる」
「んじゃあ、近隣の大陸の沿岸も巡回させりゃいいんじゃねえの?」
「……そうね、ジャビの案を採用! 念のためという事で提案してみる」
レイラさんが部屋を出て職員へ話をしに行った後、オレ達はどのような役割で、どのように攻め込むか、打ち合わせを始めた。
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「……グレイプニール、起きてる?」
「ぴゅい」
「オレさ、こんなに大きなことになると思ってなかったんだよね」
「おぁ? なおうきょうとますか?」
「うん。オレ、ほんとバスターとして活躍する事、諦めてたんだよね。グレイプニールを手に入れてから、ようやく責任感が出た。でも、そこそこの活躍しか出来ないと思ってた」
いよいよ決戦。島に着くまでの船は、数隻に分かれる事になる。みんなで打ち合わせをし、出発したら現地まで打ち合わせは出来ない。
明日の夕方には出発し、協会の警備艇で2週間弱。距離にして1万キロメルテほど、途中で4つの港に寄って、先発隊のオレ達が先に乗り込む。
警備艇は何隻もない。補給船の速度だと、3日くらい遅れてしまう。不安が無いとは言えない。無鉄砲にエインダー島へ乗り込んだ時よりも緊張している。
「ぬし、ボクつもいちまうばすた、ぬしにしまい。ぬし、つもいばすたます。諦めるよごまい」
「うん、有難う。英雄の子だとかいったん置いて、オルターと一緒に戦い始めてからさ。目の前の事を必死にやるだけで日々が過ぎていったんだ」
「ボク、いぱいもしゅた斬るしまた。お楽しみしまた。ぬしよごでぎる、褒めらでる、ボクも嬉しまた」
「レイラさんの事務所で仕事受けてさ、オルターと一緒にクエストこなしてさ。そしたら魔王教徒の出現。本音を言うとさ、チャンスだと思っちゃった」
これを解決すれば英雄の子なのに、親は凄かったのにと言われずに生きていけるのではないか。不謹慎にもそう思っていた。
「だけど、魔王教徒に苦しめられている人達と接していくうち、浅はかな自分の願望のために他人の不幸を利用するなんて、魔王教徒と一緒だと気付いた」
「ぬし?」
「色々考えながら、でも目の前の事で精一杯で、自分がどうあるべきか、グレイプニールが誇れるバスターはどんなだろう、って分からなかった」
「おぉう……」
「しかも相手は魔王教徒、つまり人で、父さん達のようにアークドラゴンを倒す訳でもない。グレイプニールはこれから、強いモンスターを倒しに行くわけじゃない」
事件を解決する。それは功績ではあるけれど、グレイプニールの武器としての矜持は置き去りになる。
「目標が何かも決まってない。目の前にある事をするだけで精一杯。そんなオレを、誇りに思ってくれるかい。相手がモンスターじゃなくても戦ってくれるかい」
「ぴゅい」
「えっ? そんなに、軽く頷いてくれるのか?」
「ボク、ぬしの愛剣ますよ? ぬしとボク、いっしょ。やりたいこと、いっしょます。ボクがぬしをでせちゅにするます。ふひひ、ボクえらい。撫でますか?」