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Comatose Dreamer‐07 真相と信頼と誇り



 * * * * * * * * *




「事情は分かったけど、俺達を信用してくれてもいいじゃないっすか」

「それは本当にごめん。万が一の際の全滅を避けたかったの」

「俺とジャビが一緒に行っちゃあ台無しなのは理解していますよ。でも俺達に秘密にするのは違うでしょ」

「うん、ごめん。考えが浅かった」


 ヴィエスに戻った後、オルターからしっかりと叱られた。

 当然だと思う。仲間に黙って別行動をし、一歩間違えば命を落としていたかもしれないんだから。

 信用してないと言っているようなもの。


 でもさ。そう思われてでも、やっぱり巻き込みたくなかったんだよね。


「なあなあ、ヴィエスを襲う計画は嘘だったって事か?」

「……ジャビ、出歩いてた間、何食べた?」

「何も食べてねえぞ」

「口の端にクリームソースついてるけど」

「あっ」


 ジャビは慌てて口の端をゴシゴシこする。この4人の中で、もっとも充実した首都滞在だったのは、ジャビだと思う。


「コホン。ヴィエス襲撃を避けたければ、おとなしく言う事を聞け、オレを差し出せってのが目的だったからね」

「それにしても、ベネスさんがここまで動いてくれているとは」

「あたしもここまで手を回してくれてるとは思わなかった。あんまり任せっきりだとマスターの座が危ないかも」


 魔王教徒の計画は阻止され、カインズの水路も制圧された。バスター協会の内通者も駅で捕えられた。

 他に内通者がいるか、いないか。それはこれからオレ達が出向き、グレイプニールで調べる。


 グレイプニールは、ノーマさんの事も調べた。

 ノーマさんにこれ以上の秘密はない、というのが結論だった。彼女は闘技場で魔王教徒が生み出したモンスターを目の当たりし、危機感を持ったんだ。


 同時に、そんなモンスターの対処法を知っているオレ達に興味を持ち、早い段階で協会直属のバスターにしたかったみたい。


 だけど予想外の出来事が起きた。それが、オレ達の昇格保留。

 実力に見合わない昇格を嫌がったオレ達は、オレンジ等級への昇格もしばらく申請しなかった。

 そうなると活動制限地域に派遣することは出来ない。


 魔王教徒の動向調査だった時はアマナで許可を貰ったけど、明らかに強過ぎるモンスターがいる今のエインダー島じゃ事情が異なる。

 ブルー等級を派遣するのは幾らなんでも特別扱いが過ぎるし、弱いバスターを危険な場所に送るなんて、協会そのものへの批判に繋がってしまう。


「あなた達が真面目過ぎたのが良かったのか、悪かったのか。でもはっきりした。4人共私が心から信頼できるバスターよ」

「有難うございます。といっても、今回は特に激しい戦いを繰り広げたわけでもないですし」

「激しい戦いはこれからよ。エインダー島で起きている事を、あなた達の言葉で話してほしい」


 エインダー島の調査については、既にバスター協会も動こうとしていた。しかし、魔王教徒との内通者の存在も既に疑っていた。

 しかもノーマさん以外にも疑っていた人がいて、その人が等級で参加資格を分けたんだ。


 魔王教徒に協力しながらバスターとしての活動も全う。そんなにバスターは甘くない。パープル等級にもなれば、有象無象のバスターとは違って一目置かれる。


 魔王教徒が金に困った若いバスターを引き込んでも、パープルまで上がれる保証はないし時間も掛かる。


 そこまで等級が上がれば、バスター側が魔王教徒に与するメリットは殆どない。魔王教徒は通報されるどころか、その場で捕えられる可能性もある。もちろん戦っても勝てない。

 魔王教徒がバスターになったとしても、各地の管理所と疎遠ではいられない。辺境ばかり回っていても目立つ。


 結局等級での線引きに関しては、強いバスターが必要というのは表向きで、本来の目的は魔王教徒の息が掛かったバスターを入り込ませないためだった。


 うん、それなら納得だ。


「手の内を明かせないって、こんなに回りくどくなってしまうんだな」

「本当は話せるのが一番いいの。オルター・フランク、分かってくれるかしら。イース・イグニスタ達は、話したくても話せなかったの」

「……そう、ですね」

「グレイプニールでさえも、私やテリーの事をイース・イグニスタに話せなかった。秘密は時に苦しいもの。気持ちを分かってあげて」


 グレイプニールがオレに秘密を作った。そう聞いてオルターは酷く驚いた。そして、どれだけ信頼していても、相手のために話せない事があると理解してくれた。


「まあ、知られたくない事もあるもんね? イース」

「え、何の話でしょう」

「ううん? 何でもないよ? ねー、グレイプニール?」

「ふひひ、いみちゅ!」


 ああ、捕り物騒ぎの時のおっぱい騒動の事か。オレ何も言ってないじゃん……。





 * * * * * * * * *




「おぉう、うごく止めまさい」

「どうせ逃げられないんだから抵抗すんなよ」

「ジャビ、押さえといて!」

「よっしゃ、いいぜ! グレ坊ぜーんぶ暴いちまえ!」


 次の日、オレ達はカインズ港に向かい、留置所で黒幕と対面した。


 見た目は人の良さそうな小太りのおじさん。白髪が混じり始め、オールバックで額を出した、どこにでもいそうな容姿。


 その黒幕の肩書は、まさかのバスター協会の副会長。こんな人が黒幕だったなんて……。


「副会長ともあろう人が、なぜバスターを欺き、魔王教に加担したんですか」

「どうせその剣で調べたなら分かる事だろう。聞くまでもない事を」

「ふひひ、ぼくよごでぎます!」

「グレイプニールさんに聞かなくても、私は理由に心当たりがある」


 ノーマさん曰く、副会長の息子は剣盾士だった。


 3年でバスター専門課程を卒業。腕前としては並みでも心優しく、仲間と一緒に危険なクエストを受けるというよりは、人助けに繋がる事を進んでやっていたそうだ。


 そんな息子さんは、ブルー等級に昇格する直前、モンスターとの戦いで命を落とした。多くが悲しみ、如何に人として素晴らしい人物だったかを、涙ながらに語ってくれる人もいた。


 当時、副会長はまだ主任だった。

 どれだけ褒められても、人のために頑張る者ほど早く傷つき、早く死ぬ。日銭を稼げさえすればいいような怠惰なバスターがブルーやオレンジの等級へ上がり、大きな顔をする。それを見てきた。


「……そうさ、俺は許せなかった。こんな腐りきったバスターなんて存在も、バスターなどとという身分がなけりゃ何の価値もない腐った奴も、全員始末してやると」

「あなたが腐ってちゃ、世話ないわね」

「なんだと?」


 レイラさんの言葉に、副会長が苛立ちを見せる。


「自分の子供が死んだのに他人が生きてるのはおかしい、なんて馬鹿な話よ」

「怠けて過ごしている奴らが生きて、どうして俺の息子が死ななきゃならないんだ!」

「死ぬような目に遭ったからよ、それだけ。息子さんにはその覚悟があった。親のあなたにはなかった。それだけ。だったらバスターになる事を止めたら? 無関係な他人より、あなたの責任でしょ?」

「うるせえ! お前に何が分かる!」


 副会長はレイラさんを睨み、留置所中に響き渡るほどの大声を出す。流石にうるさ過ぎたのか、それとも何を言っても無意味と思ったのか。レイラさんはため息をつく。

 すると、それまで黙っていたジャビが首を傾げながら応じ始めた。


「おれらに分かるわけねーだろ。なんで悪人の気持ちなんか分かってやんなきゃなんねえの」

「……」

「おれはムゲンの戦士ジャラトの息子である事を誇りに思ってる。今おっさんがやってる事、息子が誇らしいと思える事か?」

「誇りの話なんか今はしていな……」

「おれ、おっさんみたいな親父は誇れねえや。人殺しに協力するクズは無理だ」


 ジャビの言葉に副会長は何も言わなくなった。飾らず真っすぐなジャビの言葉は深く突き刺さったんだろう。


 そんな会話の終わりに、突然グレイプニールが何かを読み取り始めた。


「ぴゃあっ! おぉう、なおうきょうと、いぱいおるます。あち行く、こち行く、もしえるます」

「あちこち? バスターによる捜索が終わった地域や、鉢合わせにならない街道を教えていたって事だな」

「ぴゅい。なおうきょうと、おぁ?」


 突然、グレイプニールが素っ頓狂な声を上げる。


「どうした? 何かあった?」

「なおうきょうと、しにももさでる」

「何? 何を見ているんだ」

「こどく、つもいもしゅた、つくらでます。なおうきょうと、使うさでます」


 待った。今、グレイプニールは何て言った?

 蟲毒、モンスターの作成、それに魔王教徒を……使うだって?


「イース、今のって……蟲毒の材料に魔王教徒自身が使われているって事か? そういう事を言ってんのか?」

「おい、おれ達が島にいた時は人なんて材料にしてねえぞ? 他のトコでは人まで食わせてたって事か?」

「嘘でしょ? 副会長……あなたどこまで腐ってんの」


 魔王教徒を、材料に? 何故仲間を? 

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