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Comatose Dreamer‐06 知られたくない秘密



 捕えられた魔王教徒を前に、オレ達はゆっくり近寄ってしゃがんだ。

 黒いローブをはぎ取れば、短髪で痩せて頬のこけた中年男が鋭く睨み返してくる。


「質問をする」

「黙秘す……」

「答える必要はない、全部分かるから」


 取り押さえられた男に、「村人」達が縄を掛ける。オレは魔王教徒の頬にグレイプニールを当てた。


「ここで何をするつもりだった。協会本部の内通者は誰だ。お前らの本拠地はどこにある」


 グレイプニールが読み取っていく。

 静かな時が流れ、皆がグレイプニールの言葉を待つ。

 その言葉よりも前に、突如としてグレイプニールが気力を放った。


「どうした、おい」

「許す、よごでぎまい! いちゅこもす、許すよごでぎまい!」

「グレイプニール、落ち着け!」

「嫌ます! ボクのぬします! いちゅあちゃきむちさでるは許すしまい!」


 後半は何を言っているのか上手く聞き取れなかった。ただ、グレイプニールが怒っているのは間違いない。

 オレの気力を無理矢理にでも引きずり出し、強制的に共鳴させようとしているかのようだ。ここで共鳴してしまえば、グレイプニールは目の前の魔王教徒を斬ってしまうのではないか。


「グレイプニール、オレはここにいる、大丈夫だ。オレもこいつを許さない。何を知ったのか、教えてくれ」

「ぬしこもす、思うしまた! ぬしこもちてしにももこどぐ入でる、食べまさいさでる、あやつむしだいます!」

「ねえイース、グレイプニールは何て言ってるの?」

「俺を殺そうとしている、オレを殺して蟲毒の材料にする、オレを食べた奴は……グレイプニールのように簡単に操れると考えている」

「はぁ? 馬鹿な考えね。イースを殺した時点でグレイプニールもただの剣に戻るわ。蟲毒に投げ込んでもただの餌と変わらないってのに」


 オレを蟲毒に突き落とし、オレとグレイプニールのような関係をアンデッドと結ぼうとしたのか。


 死霊術の元もオレがグレイプニールに意思を持たせた方法も、どちらもアダム・マジックが編み出したものだけど、グレイプニールがどうやって喋っているのか、魔王教徒は知らないんだ。


「ボクのぬし、きじゅちけるぜったい許すよごでぎまい! こもちゅしまい言うしまさい!」


 グレイプニールは自分では動けない。だけど、その禍々しい気力は魔王教徒を震えあがらせた。


「グレイプニール、オレのために怒ってくれるのは有難いけど、とにかく今は魔王教徒の計画を暴いてくれ」

「ありがとござまい! なにもありがとござまい! なおうきょうと、もしゅた! ボクもしゅた斬ゆ!」

「魔王教徒も人だ、オレが殺すことは出来ない! 落ち着け!」

「嫌ます! あんでっどさでるしにもも、ボク一緒でぎまい! こいちゅ、ぬしよごとり! なおうきょうと、あんでっどボクのぬしするしたいます! ぜったい嫌ますよ!」


 ああ、そうか。グレイプニールを利用し、忠実なアンデッドを作り出したいんだな。

 魔王教徒はかつてゴーレムをアンデッド化して操り、父さん達を苦しめたと聞いたことがある。でも、きっとその当時の技術も知識も受け継がれていないんだ。


 逃げ延びた魔王教徒が、この25年ほどでなんとかここまで戻せた。だけど使役できるのは、バスターが落ち着いて対処できる程度。

 じゃなきゃ、蟲毒のモンスターが手に負えなくて退散なんて事にはならない。


 どうにかして強いモンスターをアンデッド化し、操りたい。その為にオレとグレイプニールの関係を利用したい、か。


 だとすると、戦えないチッキー叔父さんと大鎌のテュールは大丈夫だろうか。きっと共鳴は出来るんだろうけど。そこまで行きつく前に、ここで全てを暴かないといけないな。


「自分の口で言ってもいいんだぞ。そうすれば余計な事をバラされずに済む」


 魔王教徒は言い当てられた事に驚愕し、グレイプニールから逃れようとしている。そのうち別の事を考えて妨害しようと考えたのか、グレイプニールが意味不明な事を言い始め、それと共に怒りが収まってきた。


「なおうきょうと、ぬし持てくまさい言うさでた。でも……ちかまるならかわいいおねたよいしまた、おぱいおちちゅけでちかまれしまた! さでるよごでぎるまあ」

「……え? おっぱい?」

「おぉう、おぱいちゅきますいみちゅ! ちまうこと思う! おぱい、おぱい……おぱいちゅきいみちゅ! ぐえいむにーゆおぱい言うやめくまさい! 思うしでいるます」

「……ヘンタイね」


 敢えて何と言っているかは伏せるとして、違う事を考えたら考えたで、恥ずかしい事がどんどんバレていく。哀れというか何というか。


「はっ、この期に及んでネエチャンの乳を思い浮かべるとはな。大した魔王教徒さんだ」

「サイテー……コホン、死霊術で逃げようとしないって事は、あたし達が死霊術士を何十人と捕まえてきた事を知ってるのね」

「……」

「何とか言いなさいよ、おっぱいさん」


 死霊術士は黙ったまま、耳まで真っ赤になっている。おかげでグレイプニールの怒りは収まったけど、こんな公開処刑、オレなら絶対に嫌だな。


「ぬし」

「ん? 何だい」

「ぬし、おぱい好きますか?」

「えっ……と」

「やだ、イースまで変態……」

「ちょーっと! オレまだ何も言ってませんけど! グレイプニール、それはオレとグレイプニールだけの秘密にしないか?」

「ぴゃーっ! ぬし、ボクだけ! いみちゅするます!」


 きっと、グレイプニールは何が人にとって恥ずかしい事か分かってない。知りたかったから聞いただけ。危うくオレまで公開処刑されるところだった。


「英雄、色を好むってか? まあちっとは遊んでそうな整った顔してるもんなあ?」

「そういう話している場合じゃないでしょう! おいグレイプニール、早くこいつらが作ってる蟲毒の場所を暴いてくれ!」


 オレも知ってるバー・シンクロニシティの常連さんが、オレを見て揶揄う。そういえばこのおじさんも引退バスターだったっけ。気まずいったらないよ。


「おぉう、ぬし、こどく残るしでいまいなす」

「え、蟲毒は残っていない?」

「ぴゅい」

「そんなはずはないわ! イースを蟲毒に入れる計画なんでしょ? それにエインダー島は大変な事になっているわ!」

「つもいもしゅた集めるよごでぎまい。えいんだと、もうどうするよごでぎまい。ぬしこどく入でる、あたまちくこどく作る」

「……オレを、人を蟲毒の材料に」


 魔王教徒の計画はこうだった。


 強いモンスターを集めようにも、もう魔王教徒の包囲網は狭められて満足に活動できない。魔王教徒に対モンスターの戦闘能力は殆どないうえ、武器防具の入手も難しい。

 水路で飼っていたアンデッドの存在もバレてしまった。


 エインダー島のアンデッドを操る術を開発するまでのつなぎとして、人質にしたノーマさんと引き換えにオレを殺す。

 そしてオレをアンデッド化させ、操る。殺すのを躊躇う状況を作る。オレにモンスターや人々を殺させ取り込ませ、強化する。


 強化したオレをエインダー島の失敗作と同等までに育て、あちらを取り込ませたなら、もう誰も倒せない従順な駒が出来上がる。


 その間、オレを利用して父さん母さん達をおびき寄せ、取り込めたらなおよし。


「……そんなの、人がすることじゃない」

「エインダー島の失敗作は、誰も操っていない状態だった。最初から操っていればいけると思ったわけね。イースとグレイプニールの関係を研究して、忠実なアンデッドに仕立てる」

「ボクぜったい嫌ます!」

「もちろん、オレも嫌だ。ったく、ベネスさんがこんな大がかりなおとり作戦を考えてくれなかったら、こいつを逃すところだった」

「あ、水路の方は殆ど倒し切りましたね。僕が操っていたアンデッドも今倒されました」


 テリーがカインズの騒動の終結を教えてくれた。

 魔王教徒は、騒動に大勢を取られている間にオレをおびき出し、始末する。それが狙いだったわけだ。村人が魔王教徒の仲間だったら、確かにオレはノーマさんとの人質交換に応じたと思う。


「私の知りたかった事も、ようやくわかった。有難う、イース・イグニスタ、レイラ・ユノー」

「あたしは、その、本当に何もしてないですし! ベネスがこんな事を計画していたなんて知らなかったし」

「あなたの事務所がなかったら、ベネスちゃんも動けなかったのよ」

「ノーマさん、知りたかったことって」

「魔王教徒は本当に追い詰められているって事。そして、魔王教徒はエインダー島を占拠しているモンスターを操れていないって事よ」


 魔王教徒の残りがどこにいるのかも、しっかりと聞き出した。魔王教徒殲滅まであと少しだ。


 アマナ島の南西およそ300キルテに浮かぶ、航路から遠い無人島、そこが最後の拠点。


「ここまで暴いて、あとは任せろなんて言いませんよね、ノーマさん」

「うーん、そうね。ちょっとだけ考える時間をくれるかしら」

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