Comatose Dreamer‐04 嘘つきの真実
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「では、お願いしますね!」
「本当に大丈夫か? まあ、話を聞く限りじゃカインズの方が厄介だが」
「もし足止め出来りゃ、しておくから。2つの国の首都が壊滅なんて話になれば、バスター不要論も加速してしまう」
「大丈夫よ、あんた達の責任なんて声が上がったら、私達が許さないから」
「ったく、噂通りの行動力っつうか。実際こうして会うまで親の七光野郎だろうと思ってたぜ」
早朝、普段より1両多い汽車が首都ヴィエスを出発した。乗ったのはここまで一緒に来たバスターの8割。残りの2割とヴィエスのバスターは首都防衛戦のため待機。
元々バスターが少ない首都だからか、シルバー等級はこの場に1人もいない。ヴィエスに滞在していたバスターも含め、パープル等級2組、オレンジ等級6組、ブルー等級9組、ホワイト5組。
100名程度の人数で、数十万人もいる住民を守れるのか。こればかりは向こうの作戦が分からない以上、やってみないと分からない。
「向こうからの汽車が出発した時、足止めに失敗したら避難指示、か。半日余裕があると言ってもどこに避難させるのか……」
「とりあえず、バスターが警戒していると悟られないよう、装備を着るのは連絡があってからでお願いします!」
そうしてオレ達が泊まっているホテルの前で打ち合わせたのが、もう3時間前の事。
「ぬし、ボク……邪魔もも?」
「邪魔だと思っているのは魔王教徒だ。オレ達はグレイプニールを頼りにしてる」
確かに、魔王教徒にとって、伝説の武器は厄介だと思う。だからって、オレ達の立場をなくし、バスターを辞めさせるためにここまでやるのか。
「おれ、ちょっと町の中歩いてくる。部屋でダラダラしてても暇だし」
「俺は銃の手入れを念入りにしていく。町中で戦いになった場合、照準の先に民間人がいる状況も想定される」
「あたしは雑貨を買い足しておこうかな。きっと治癒術を掛け続ける事態になるから」
「オレも行き……あー、グレイプニールを持ったままの移動は出来ないんだった」
10時過ぎ、先にジャビが散策に出かけ、オルターは銃の手入れを始めた。レイラさんは大きなカバンを持ち、商店街の方へと向かった。
しばらく体を伸ばしたり筋トレをしたところで、オレは出かける準備をする。
「ぬし?」
「ん? あれイース、どうした? 装備は着るなって話だったよな」
「ん? ああ、グレイプニールを所持して歩き回る訳にいかないし、バスター専用の機械駆動四輪にでも乗ってみようかと」
「そっか。バスに乗るだけなら装備着なくても」
「私服だと耳はともかく、しっぽを隠せないんだよ」
しっぽを背中と軽鎧の間に挟み、不自然さをなくすため小さなカバンでしっぽの付け根を隠す。そんな様子を見て、オルターは成程と笑った。
オルターからツバ付きのキャップを借りて強引に耳を隠せば、一見猫人族とは分からない。
「じゃあ、ちょっと行ってくる。荷物は置いてくけど、外出する時はフロントにカギを預けといて」
「分かった」
外に出て11時発のバスを待ち、乗り込んだ時の乗客はオレ1人。
その後、数分で商店街の入り口でもう1人乗り込んできた。
「りぇいら、来るしまた!」
「イース、お待たせ。グレイプニールも覚悟はいいかしら」
「ふひひ、ぬし一緒、置いでいぐの嫌しまた!」
「レイラさん、似合っていますね」
「そう? ありがと」
乗り込んできたのはレイラさん。動きやすそうな新品の白いローブに、外のぬかるみにも強い幅広なブーツ型の足具。この短い時間で選んだ装備だ。
「上手くいくかな」
「オルターとジャビには悪いと思ってます。でも、狙いはオレとレイラさんですよね」
「英雄の子供って意味ではそうね。だけど伝説の武器の使い手って事も含めたら、イースだけを狙ってるかも」
「それでもこうやって付いてきてくれたのが有難いです」
オレとレイラさんは賭けに出た。
オレ達が町の中にいなければ、直接オレ達を狙ってくれはしないかと思ったんだ。首都もカインズも、出来れば無傷であってほしい。
その為に出来る事があるなら、やってみようと思ったんだ。
「まさか、あたし達だけで魔王教徒と立ち向かう事になるとはね」
「結局、オレ達って英雄の子なんですよ」
「ほーんと、英雄のお嬢さん! なーんて何も良い事なかったなあ」
どこまで誰が本部と繋がっているかは分からない。多分、黒幕は汽車の乗客名簿にも目を通す。オレ達が移動したらすぐに連絡しろと言われているかも。
だったら、お望み通り行動記録を残してやる。ヴィエスの西門から堂々と出ていくオレ達を追ってくればいい。
オルターやジャビまで危険には晒せない。これはオレとレイラさんだけで決めた事。
30分程で、バスは西門に到着した。バスは西門で30分程待機し、折り返しで駅に向かう。ここで降りる事が出来るのは、クエストを受けている人と、そのまま退門する人だけ。
「一応、クエストを受けたんだよね」
「えっ、何を受けたんですか」
「入退門の情報が伝わるのに時間差ありそうだし、ゴブリン退治5体をね。管理所でクエスト受けたら、向こうにも伝わるかなと」
「ぴゃーっ! ごむに、斬りますか!? ふひひっ、いさちむりにもしゅた倒す、うれちいまあ……」
これからの死闘を覚悟しているというのに、グレイプニールは呑気なものだ。むしろ、それくらい落ち着いていた方がいいのかな。
「じゃあ、ゴブリン退治、しますか」
「ぴゅいっ!」
嬉しそうなグレイプニールを連れ、オレ達は首都の門を潜る。
門の入り口から出口までは30メルテほどの通路になっていて、外壁の厚さは倍ほどもある。アンデッドはこの堅牢な壁をどうやって超える気なのか。
「……この周辺で、トンネル掘ってるのかな」
「それ以外に方法あるかしら。首都の警備はすり抜けられる程甘くはないと思う」
となると、みんなで周辺の調査をするのも有効かもしれない?
まだまだ、出来る事はあるんじゃないか。
でも、その動きを察知され、オレ達の警戒が解けた頃に襲われては意味がない。
バスターの移動制限は恐らく掛からないけれど、バスターの移動が制限された場合、オレは故郷のナイダ王国の首都、レイラさん達はギリングから出られない。
そうなると、首都を襲ってもオレ達のせいには出来ない。それでもなお襲う可能性はあるけど……。
「イース?」
「……地下道を掘ったり、してないよなって」
「アンデッドを操っているなら、魔具で魔力の痕跡を見つけられる。向こうからの汽車が出発してから総出で外壁の外の魔力を追えばいいだけよ」
「そっか。カインズと一緒だから問題ないね」
そうやって話をしながら、ゴブリンを見つけては倒していく。そろそろオルターとジャビがオレ達の失踪に気付いただろうか。
汽車が出てから、もう6時間程。あと数時間で皆がカインズ港に着く。
乗車名簿にオレ達の名前がない事、クエストを受けている事、そして門を出ている事、それらは伝わっただろうか。
「ちょっと、休憩して……」
「ぬし! てり、来るしまた!」
「えっ、テリー……さん」
グレイプニールに呼ばれ、ふと入退門へと目を向けた。そこにはテリーがいて、オレ達に手招きをしていた。
「どうしたんですか、なぜここが」
「追っておりましたので。僕の弟子から連絡がありましたよ。協会本部の幹部数名が駅に向かったと」
「お弟子さん? え、カインズ港にいるんですか!?」
「はい」
「やっぱり、ヴィエスを襲うため……」
「ねえ、奴らはこの付近にアンデッドを隠していないかしら!」
そうだ。もしその情報があれば、先に潰しておける。
「アンデッドは隠しておりましたが、既に掃討作戦の一環で発見、処分されています」
「えっ? じゃあ、どうやって襲うつもり?」
「ご案内します」
「はい?」
案内? テリーは何を知っている?
「あなた達を連れ出す方法を考えていましたが、自ら出て下さって手間が省けました。おっと、僕は彼らの手先ではありませんよ、名剣グレイプニールに誓って」
「目的は、何?」
「グレイプニールさん、協力に感謝します」
「えっ」
「ぷぇぇ、ぬしぃ、ごめまさい……」
グレイプニールは、知っている事を黙っていた?
「ノーマ氏ですが、現在拘束されております。救出に向かうなら今しかありませんので」
「もしかして、ヴィエス襲撃は、嘘?」
「ええ。道中で詳しく話しましょう」