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Comatose Dreamer-03 2つの戦場


 港町カインズ。世界の港において最重要港と言われている町だ。造船技術は日進月歩、帆船と機械駆動を合わせた高速船は、今のところエンリケ公国の国有会社しか製造できない。

 交易品なら何でもカインズの町で揃う。そんな人や物の出入りが激しい港町だから、検閲もかなり厳しいはずなんだけど。


 魔王教徒がいないか、各町も調査して回っているはず。ゼスタさんもこの付近を訪れ、冥剣ケルベロスと調べ回っているんだから間違いない。


「港町の地下に、水路があるんですか」

「大昔には下水道として使われていたんだ。警備で調べるのは港と周辺、それに入退門周辺。下水道まで遠くから地中を掘っているなんて思っていないさ」

「でも、下水道に変な穴が開いていたら気付くでしょ?」

「下水道の地図なんて残っていない。本来どうであるはずか、誰も知らないんだ」


 テリーさんは分析結果と実際にアンデッドを通して見たものを合わせ、現状を教えてくれる。でも、気になるのはそれだけじゃなかった。


「あの、わざと塞がなかった移動経路ってどういう事ですか」

「ああ、それはですね! 僕はこう、調べるという事が好きで、趣味というか……探検したいと思っているんですが、やはりこう……」

「コホン」

「ああ、すみません! 管理所の方とも警察とも色々連携しておりまして。調査済みの場所、土地柄、それらから現実的に行動可能な経路を複数割り出しました」

「魔王教徒を、誘導したって事?」

「まあ、そういう事ですね」


 なんってこった。自分達もかなり打ち合わせをし、実際拠点を潰しまわってもいた。

 その時点で、協会側もバスターにすべての情報を公開していなかった、ってことか。

 もしくは、掃討作戦に参加できる等級までで情報を止め、オレ達には話さなかったのか。


 各地の管理所も各地の警察組織も、バスターだけでなく専門家に協力を仰いでもいただろう。でも、なんだか警察の人の話だと、テリーの事は小耳に挟んだ程度のような印象だった。

 という事は……?


「あの、テリーさん。もしかしてオレ達と会う事は秘密、ですか? パープル等級未満には情報を流さないと言われていませんか」

「ええ、言われていますよ。察しが良くて見込んだ通りです」


 やっぱり。テリーさんはバスター協会本体も、管理所も、どちらも信用していないいんだ。


「その話は既に協会側へ伝わっている話、ですよね。あたし達にその内容を伝えに来たんですか? 恐らくこの話は明日エンリケ公国にある本部で聞けます」

「ああ、そうだよな。ノーマさんが俺らの味方なら、隠している情報も教えてくれるはず」

「ああ、あなた達にもちゃんと協力者がおられるのですね! それなら話が早い」


 テリーがニッコリと微笑み、うんうんと何度も頷く。


「なあ、おれ全然わかんねえ。難しい話ついてけねえ。まさか、グレイプニールまで話理解出来てねえよな?」

「ぷぁー? ぬし分かるしまた、ボク、もしゅた倒す!」

「よかった、分かんねえのおれだけじゃなかった」

「ちょっと、分からないからって安心しないで。大きな町の地下で戦いが始まろうとしてるのに」

「あー、それは確かにそうなんですけど。君たちはこの町に残って下さい」


 どういう事だ? 戦場はカインズの町。まさにバスター協会の足元からアンデッドが溢れようとしているのに!


「……グレイプニールに触れてもらっていいですか」

「ええ、勿論。そうですよね、全幅の信頼は難しいですよねえ」


 そう言いながら、テリーは人差し指でグレイプニールの柄に触れる。嘘は言っていない、こちらを貶める意図はない、って事なんだろうけど。


「おぉう。てり、ちきんと話ちまさい。おじゃべりよごでぎまいなすか? ボク、おじゃべりますか?」

「何? 何かあった?」

「なおうきょうと……おぉう、ぬし、ここ、どこますか?」

「ここ? え、首都ヴィエス?」

「みえちゅ! なおうきょうと、みえちゅ来るます」


 魔王教徒が首都に来る?


「なあ、回りくどい話はいいから、つまりどういう事なんだ? あんたカインズの水路の話をしに来たんじゃねえの」

「はい、水路の話はするつもりでして。えっと、その水路にバスターをおびき寄せて、その間に首都を襲うつもりなんですよ」

「えっ」

「バスター協会には、首都を狙っているという話はしていません、はい」


 ん? ……あっ、そういう事か。分かった。テリーはバスター協会を信用していないんだ。


「つまり、今バスターがカインズを目指している事はみんな知っている、って事ですよね。バスターの移動制限を掛けたなら、必ず抗議を受ける」

「そこまで見越して、わざとカインズに集めようとしているの? だけど水路のアンデッドを消滅させるに十分な人数が集まるわ。作戦は失敗に……」

「もしかして! この移動制限を掛けようと提案したのが……ノーマさん」

「はい、その通りです。そこまですべてお話するつもりでしたが、ノーマさんをご存じなら丁度よかった」


 ノーマさんが敵じゃないことは、グレイプニールがちゃんと証明してくれた。この移動制限にはちゃんと意味がある。

 ノーマさんにとって、これは賭けだったんだ。


「あたし達が黙っていない事、何かウラがあると思ってくれる事を期待したのね」

「なぜテリーさんはその事を伝えに……あっ、わざと塞がなかった移動経路の話が、ここに繋がるって事か!」

「黒幕は、バスターの移動制限には賛成。だけど、そうなるとバスターが集まり、カインズでバスター協会も人々の生活、物流、それらを破壊する計画が台無し」

「そこから一番近く、かつ最も効率的に破壊できるのが、ヴィエス」

「でも、魔王教徒の狙いはオレだって」


 魔王教徒はオレを狙っているんじゃなかったのか? 移動経路を塞がれているからって、仕方なくヴィエスを襲うのか。


「水路のモンスターは、予定通りカインズで暴れるでしょう。今日、バスターがカインズに向かい、その折り返し便で協会本部の数名がヴィエスにやってきます」


 ヴィエスにバスターが集まっていると情報が入ったとして、解散して地元へ戻れと注意するため。だけど入れ違いになる。

 そうやって黒幕は怪しまれずにヴィエスへと到着し、ここで計画を実行する。


 オレ達はカインズに行き、ノーマさんから水路の真実を聞かされる。その頃、ヴィエスは壊滅……。


「オレ達が、みんなを決起させてカインズに向かったせいで」

「まさか、あたし達は責任を取らされてバスターを辞めさせられるってわけ!?」

「ただでさえ武器帯同では町の中を動けない。普段からヴィエスは手薄だ。そこを更に無防備にさせたのは俺達だって話にすんのか」


 狙いは俺、それはオレを殺そうとしているのではなく、オレの地位を奪うって事だったんだ。


「イースさんのご両親にも責任の話が及びます。レイラさんのお父様もそうでしょう」

「ビアンカさんも、ユレイナス商会と協力しオレ達に手を貸した。だとすると、残るイヴァンさんと炎剣アレスは?」

「イースと同じ猫人族だから、猫人族は危ないなどと触れ回るつもりだろう」

「伝説の武器が活躍できない状況を作って、そこから世界の破壊を進める……」


 迷っている時間はない。どうする。ノーマさんは、多分ヴィエスを襲う計画を把握できていない。

 ヴィエスもカインズも、間違いなく大きな被害が出る。


 どちらも見捨てられない。


「ぬし! ちゅる、どうしますか?」

「ちゅ……あ、テュール! オレの叔父さんも喋る鎌を持っているんです!」

「テュールも戦えないのは一緒だろ? きっと持ち主も変えない」

「アスタ村を狙う可能性はありません、あの付近はアークドラゴンを倒した地であり、モンスターが嫌がるのです」


 喋る武器農具が無事でも、持ち主が動けなければ意味がない。

 それに他のバスターは、本当に内通者じゃないのか。1人ずつ確認する時間もない。


「なあ、イース。おれ達はこっちに残るんだろ? 半分くらいカインズに行かせりゃ、半分はこっちに残れる」

「……そうね、手分けしましょう。あたし、管理所に行ってくる! 今カインズに残ってるバスターの人数と等級を調べて、パーティーの振り分けをするわ!」

「俺も行こう。イースは残ってくれ、魔王教徒に勘繰られるとまずい」


 まずいことになった。このままじゃ、大きな町が2つも壊れてしまう。

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