Comatose Dreamer‐01 首都ヴィエスへ
Comatose Dreamer‐英雄の戦い‐
バスターの動きが制限された。
ただ、はるか遠くを旅している者や、町に寄ることが出来ず、通達を知らないバスターもいる。
施行までの猶予期間は1か月。それを過ぎる場合、直近1か月以内に町や村への立ち入りがない場合のみ認められる。その間になんとかしないといけない。
「新人の活動も始まるってのに、こんな馬鹿な事考えたやつは誰よ、まったく」
「でも、まだ1か月あります。イースがナイダ王国に戻るとなれば、カインズ港から南西に向かってナイダ王国を目指すし、カインズには行けますね」
「……その航路を見越している、とは考えられないか? 相手は俺達が考えるより1歩先を読んでるよな」
シュベインの言う通りだと思う。オレがどう動くか、予測くらい立てていると思う。でも南に下ってテレスト港からママッカ大陸を目指すとなれば、1人で行動する距離が長すぎる。それこそ、奴らの狙い通りだ。
「ぬし、ぬし!」
「ん、どうした」
「テレスト、行かまいなす。カインズ、行くします。わるもも、会うします。わるもも、つもいばすた、いぱいの場所、いる安全ます」
「……うん、オレもそう思ってる。オレ1人で動く以上、出来るだけ他のバスターが周囲にいる状況を作りたい」
「なーに言ってんの。カインズに行くならあたし達も一緒に行くって。1か月の猶予期間はまだ自由に動き回れるんだから」
「あ、そうか」
1か月の猶予。オレ達がこの1か月で行動を取る事を見越しているのではないか。
協会本部はオレ達が怪しんでいる事を知っているのではないか。
だとしたら……。
「むしろ好都合、かな?」
「どういうこと?」
「抗議しに行くという形にすれば自然ですよね」
「どう動こうが向こうの狙いは分からない。イースがナイダ王国に戻っちまえばそこで襲われる。少なくとも敵はカインズ港に来ることを想定しているだろうな」
「おれはどっちでもいいぜ、さっさと悪い奴ぶっ倒して、バスターの等級上げてもらいてえし」
善は急げ。今からリベラに向かえば、まだギリギリ夜出発の汽車に間に合うらしい。
「シュベイン! あなたは預言者の話を持ってきた警察官に会って、依頼書を受け取ってきて! ベネス、本部へ抗議しに行きたい連中をかき集めて! 1時間後、北門に集合、いいわね!」
「え、えっ!?」
「はい!」
オレとオルターとジャビはすぐに荷物の準備。シュベインとベネスさんは戸惑いながらもすぐ手配を始めてくれた。
「さあ、忙しくなるわよ。魔王教徒がその気なら、受けて立とうじゃない!」
* * * * * * * * *
「おぉう、いぱい」
「ま、駄目だと言う権利は誰にもないとはいえ、よく集まったな」
全員が用意をして戻ってきた頃、北門には300名近いバスターが集まっていた。モンスターの繁殖力を考えると、この人数が1週間以上いなくなるのは不安だ。新人の活動が始まる前に戻って来たいところ。
……と思ったら半数はギリングを守るため残ってくれる協力者らしい。
「みなさん、お集りいただき有難うございます! これより、バスター協会本部へ殴り込みに向かいます!」
「おーっ!」
「よっ、レイラちゃん!」
みんな、今回の突然の措置に怒り心頭。オレと同じナイダ王国出身の人もいたし、レンベリンガ村に行った事がある人もいるという。
もっと遠いライカ大陸の人なんて、もう今から移動を始めないと間に合わない。パーティーの中で1人だけ出身が違うって人もいるし、みんな納得いかないよな。
「これだけいれば、なんとかなる、か」
「ああレイラ。リベラと、途中の村でも合流があるから。首都とカインズの同業者も」
「えっ」
「あんたの留守を預かってた私を見くびらないで」
「間に合った! 警察官から正式に依頼書貰ってきました! 預言者は首都ヴィエスの北の村にいるとの事です!」
同志は多い。隠密行動出来る魔王教徒より多いだろう。強さに差はあれど、ここまで堂々と行動すれば、敵だって対策のしようがないはず。
「ん-」
「どうしたんだ?」
「いや、これだけ集まってるとよ、おれ達が戦う場面ねえなあと思ってさ」
「まあそうだな、ジャビは等級を上げたい所だろう」
「ジャビ、エインダー島遠征をパープル等級以上に絞ったのは、強いバスターが手助けできない状況を作るためだったと思ってるの」
「強い奴がいない状況を作って、イースを潰そうとしたんだな。それを指示した奴も一緒なのか?」
「あたしはそうじゃないかと思ってる」
ユレイナス商会の協力も受けてリベラ到着した時、あまりの人数にリベラへの入町門は大混雑。全員が入るのに1時間は掛ったかな。
そこで更に50名が加わり、オレ達は夜出発の汽車に乗り込んだ。
* * * * * * * * *
「汽車ってすげえな! こんなに早く動く乗り物があるなんて知らなかった!」
「ああ、驚いたよ。船より早いものがあるなんて」
2日後の夕方、オレとジャビが汽車に大はしゃぎしているうちに、とうとう首都ヴィエスに到着した。
幾つかの国の首都に行ったけれど、ヴィエスは高い建物がどこまでも並んでいて、人も凄く多い。着ている服は誰もが余所行きのような上等品。
街並みは綺麗なんだけど、なんだろう。オレ達なんてお呼びじゃない雰囲気だ。
「久しぶりに来たけど、あたしこの町じゃ生きていけないなあ」
「え、どうしてですか? 俺はワクワクしますけどね」
「息が詰まるというか、隙が無い感じが苦手なの。あ、オルター。武器を持って歩けるのは駅から半径1キルテ以内だからね」
「あー、首都はそういった制限があるんでしたね。忘れてました」
ヴィエスの町中を移動する際は、基本的に武器の帯同が許されないんだって。バスター管理所は駅のすぐ近くだけど、この場所は町のど真ん中。入退場門が遠いから、機械駆動四輪のバスって乗り物で移動するそうだ。
「クエストを受けて、指定の門まで向かう以外の行動は取れない、か」
「バスターをあんまり信用してない感じだな」
「おぉう、ボクどごにも行けまい……」
「グレイプニールと一緒に動けないのなら、オレも首都で生きていくのは無理だ」
「ふひひ、ぬし、ボクと一緒」
武器を置かなければ町を歩くこともできない。そんな所、オレは御免だな。
この人数が各ホテルに散ると超満員。ユレイナス商会が協力してくれなかったら、泊まれない人が出ていたかもしれない。
ビアンカさんの実家、本当にすごい会社なんだなあ……。
「明日の朝には汽車が出るから、6時には駅に向かう事になる。それを逃すと12時発になるけど、長居する必要ねえから」
「そうね。服、お化粧品……お洒落に興味はあるけど、それは帰りでいいわ」
「オレ達はカインズ行きでいいんですよね? 預言者に会うのは別の人に任せて大丈夫かな」
「全員ぞろぞろ行っても仕方ないもんね。預言者の言う事が真実なら、狙われているのはイース。汽車や大きな町のような襲えない環境に身を置くべきだわ」
4人が同じ部屋。レイラさんも誰がスパイか分からない中、他の女性メンバーとの相部屋を選ばなかった。オレ達がどうこうするなんて今更ないし。
ホテルに着いて一息ついていると、部屋の扉がノックされた。
「はい」
「イース・イグニスタさんは在室でしょうか」
「イグニスタはオレですけど」
「テリー・アイマーという男性がフロントで面会を希望しております」
「え、……誰?」
名前に聞き覚えはない。レイラさんもオルターも、もちろんジャビも首を横に振る。
まさか、魔王教徒側からオレに接触?
「お会いになりますか?」
どうする。1人で会わなければ大丈夫か?
複数名潜んでいたとしても、バスターが大勢泊まるホテルでオレを襲うだろうか。
「イース、相手に心当たりは? 親父さんの知り合いとか」
「その方、用件を言っていませんか」
「研究成果をお伝えしたいと」
研究?
「あ、もしかして預言者……!」