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Synchronicity-12 敵の動き



 管理所に協力して貰い、嘘の行動記録を伝えてもらう事は可能だ。けれど、協会本部の人が転勤して来たら? 実態を調べに来たら?

 管理所の職員が処罰されてしまわないだろうか。


「秘密裏に行動できるように……か」

「替え玉を用意って訳にもいかねえよなあ」

「……なんでオレの耳を見るんだよ」

「イースだけじゃねえ、ジャビもそうだよ。背格好の似てる人族はまあなんとかなるけど、猫人族も犬人族もまず探す所から難しい」

「ふふん。おれの自慢の耳と尻尾は唯一無二! 誰も敵わねえ!」

「だから困ってんだろ」


 ジャビが得意気にしているけど、その耳と尻尾が今は仇となっているんだってば。

 確かに、オレも各地を旅して出会った猫人族は2、3人だった。犬人族に至っては見かけるどころか、ムゲン特別自治区外での存在すら情報がない。


 皆で悩んでいると、ベネスさんが電話の合間を縫って案を出してきた。


「ねえ、あんた達。替え玉を考えるくらいなら多少のリスクは覚悟してるって事でいいんだよね」

「え? まあ、そうね。正攻法でバレないように動くなんてまず無理だもの。あたしらが監視されている以上、町の入退門の時間まで調べられているでしょうし」

「うん。だから、普通に出たらいいのよ。しれっと外に出て、帰ってこなかったらいいわけ」

「……えっ?」


 それがなぜ案として有効なんだ? そんなことしたら、ギリングから移動した事はバレるよな?

 帰ってこなかったら不審に思われるわけだし。


「すみません、ベネスさん。つまりどういうことですか」

「あんた達はこのところ小さなクエストを受けて、ジャビの特訓をしてきた。なんならクエストを受けて、イサラ村の手前まで行って5日帰ってこなかったり」

「まあ、そうですけど……でも列車に乗るにはリベラに入町しないといけませんよ?」

「魔王教団がどこに潜んでいるか分かんないっすよね。俺らの動きに合わせてリベラや途中の町が襲われたら」

「ほんと、あんた達まっすぐね。そんなの、ビアンカさんに相談して、ユレイナス……あーもう電話! シュベイン、説明交代!」


 ベネスさんは再び掛かってきた電話に出てしまった。ユレイナス? ユレイナス商会の事か。シュベインもベネスさんの意図を把握しているのかな。


「あー。まあ、ユレイナス商会に協力して貰うって事だ。町に入った事にしなきゃいいんだろう?」

「え、入門手続きをしないって事?」

「積み荷として駅に運び入れてもらえばいい。ユレイナス商会は汽車の貨車を1つ定期契約で貸し切っているから、その貨車にいつ何を乗せようが構わないんだ」

「それって……汽車の係員に怒られないの? 正攻法じゃ無理とは言ったけれど、あたし立場上、規則違反はちょっとね」

「荷物番を乗せるなんて、よくあることさ。高価なものを運ぶ際は、いつも護衛のバスターを1組乗せる」


 オレは汽車に不慣れ……というか、出身のナイダ共和国の首都近辺の短い路線に1度乗ったのみ。このジルダ共和国だってギリングを起点にした南北だけ、東西には移動していない。

 ギリングの西隣にあるリベラから汽車が出ているけれど、その乗り方なんかも実はあまりよく分かっていない。


 そう考えると、国境越えも大陸間の移動もしたけれど、このシュトレイ大陸の西部は未知の世界。旅と言っても、実はそんなに動き回っていない事を思い知る。


「駅で身分確認はしないって事? でも入町手続きは合法的じゃない方法ですり抜けるって事だよね」

「ましてやカインズ港はエンリケ公国。密入国までは流石に駄目だろ」


 悪人を捕まえるためとはいえ、その為なら悪い事をやってもいいなんて本末転倒だ。ベネスさんの密入国案は却下。


 その後、色々と話をしたけれど、合法的に国境を超える手続きをしないなんて不可能という結論に至った。汽車に乗る、乗らない以前の問題だ。

 ノーマさんに会うだけなら、どこかで落ち合えばいい。でも本部職員が黒幕かどうかは、実際に本部へ赴かないと確認しようがない。


 オレ達が黒幕の存在に気付いたかどうか、察知されていないだろうか。オレ達の行動に気付いて、グレイプニールでの取り調べから逃れる事はないだろうか。


「ぬし、ボクお考える、知りますか? なおうきょうと、なおうきょうとちまう、知りますか?」

「目的はそこなんだけど、たまたま黒幕の奴がいないって可能性もあるんだよな。そこにいる人だけ調べる事が無駄とは言わないけど」

「本部の人が全員揃っている、か。そうだ、あたしちょっとノーマさんに連絡を取ってみる! オレンジ等級への昇格を受け入れる旨と、そのお礼って事で」

「その会話、誰かがノーマさんの近くで聞いている可能性もありますよね。込み入った話は出来ないと思うっスけど」

「ノーマさんが電話の意図に気付いてくれるかどうか……」


 ノーマさんが本当に本部を疑っているのなら、電話を絶好の機会だと思ってくれるだろう。グレイプニールで調べ、魔王教団のスパイを見抜くための。


 いずれにせよ、電話する事自体は自然だし、お礼もすべきと思う。オレ達はレイラさんに電話を任せ、本部に魔王教徒がいた場合の事を打ち合わせる事にした。


「なあなあ、グレ坊。おまえ、ノーマって人の考えから黒幕を読み取れなかったのか?」

「グレ坊って……グレイプニール、どうかな」

「ぼく棒ちまう! ぐえいむにーゆ、剣ます! じゃみあまやりまさい!」

「ん? あー坊やの坊が棒きれの事だと思ったのか。ちがうぞ?」

「あまやりまさい!」

「わかったわかった、ごめんな! だっておめーの名前、長いんだもんよ」

「ぬし付けるしまた、つもい名前ます!」


 勘違いしたグレイプニールのせいで話が脱線してしまったけど、ノーマさんが黒幕を知っているなら、出会ったあの時に伝えてくれたと思うんだよね。


「グレイプニール、ノーマさんは信用できると思ったんだよな」

「ぴゅい」

「どうして信用できると思ったんだ?」

「のぉま、しんよ、よごでぎる、もしえるしまた。悪いこと考えまい。たちゅける、おたよりまさい、思うしまた」

「怪しい奴がいるかどうか、目星がついているかどうかは把握していないって事だね」


 オレ達の考え過ぎ? でもオレ達がギリングにいる事を把握済みで、オレ達を始末しようとしているのなら、空振りは避けたいはずなんだ。

 アンデッドも蟲毒のモンスターも、そんなに簡単に用意できないんだから。ましてや強いバスターが集結している所で空振りすれば、倒されて終わり。


 いや、待てよ。

 ノーマさんと会って話をするのは必須として、奴らはエインダー島で野放しになっているモンスターの事も把握したいはずなんだ。

 どうなっているのか、伝える事が出来たのはオレ達と、あの場にいて収監されている魔王教徒だけ。


 話を聞くだけで満足するだろうか。現地の様子を見に行きたい、そう思わないだろうか。


「本部の人って、エインダー島を見に行きたいと思うよね」

「うーん、ミスラの職員が遠くからでも見ているとは思うけど」

「じゃあ、エインダー島に向かうための許可を貰いに行くって口実はどうかな」

「許してくれると思う? 勝算があると思われたら、すぐに止められるわ」


 ノーマさんが味方なのは間違いない。だけど、敵が誰かを把握しないと意味がない。オレ達はエインダー島の事を知っている。何かきっかけでもなければ本部の人だってエインダー島にはいけない。

 敵にとってもその目で確かめるチャンス。きっと、自分が監視として行くと言い出すはずなんだ。


「きっと黒幕は自分の目で確かめたくなっている。怪しまれずに現地に向かえるわけだ。別行動を取ればグレイプニールにも悟られない。必ずオレ達を追って行動する」

「おとり、って事ね。堂々と向かい、堂々と帰れる案だけど…」


 方針は決まりつつあった。

 そんな時、ベネスさんが電話に出て、しばらくして受話器を置いた。


「……あんた達、ちょっと大変な事になってるかも」

「えっ」

「たった今、全バスターはそれぞれの登録地へ帰還し、備えろって話になった」

「なんですって? あたしとオルターとジャビはギリングだけど、イースは」

「……ナイダ王国に戻らないといけない。向こうの方が動きが早かった、か」


 ナイダ王国出身のバスターは少ない。父さんも母さんも、登録地はギリング。


「魔王教徒の狙いは、おそらくイース……」

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