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Synchronicity-11 内通者の存在



 魔王教団の目的については、即日全世界に知らせが入った。


 といっても、まだ研究者の予測に過ぎないから、各地に散ったバスター達をギリングに終結させるなんてのは無理だ。


 研究者の予測を逆手に取って、各地を占拠して回る可能性だってある。ギリングのバスター管理所の前所長のように、アンデッド化させられる人が出てしまうかも。


 魔王教団は、罪なき人々をアンデッドにするほど見境がない。オレ達を餌におびき寄せるとして、他の地域の人々を不安にさせるわけにはいかないんだ。


「……さてどう、しようかな。って、まあ極端な事を言えばやるべき事は1つなんだけど」

「1番の理想、オレ達が強くなる事、ですよね。魔王教徒の襲撃をオレ達だけで対処出来るようになれば」

「と言っても、俺達の実力なんて、中堅バスターに並ぶかどうか。そりゃ闘技場の一件でも見せつけることが出来たし、弱くはねえ」

「でも、あたしたち、功績だけはやたら目立つだけで、どうしても等級が先行している感は拭えないのよね」


 オレにあれだけ自信を持てといったレイラさんも、実力不足は認めている。外に出るのは明日からにし、オレ達は事件屋に戻って今後の動き方を打ち合わせていた。


 シュベインも帰るに帰れず、ベネスさんは管理所との連絡でさっきから電話にかかりきり。


 どうしてそこまでして、魔王教団はオレ達を狙うのか。どうしてそこまでして、世界を破滅させたいのか。

 アークドラゴンのような強いモンスターはいないし、エインダー島のアンデッドを見る限り、蟲毒で生み出したモンスターを操る事もできない。

 ちまちまと奇襲をかけたって勝てないのは分かっているはずだ。


「なあなあ、魔王教団の本拠地をぶっ潰したらいいんじゃねえのか? 襲ってくるのを待つよりその方が早いじゃねえか」

「本拠地だと思ったエインダー島が本拠地じゃなかったの! というより今あの島はお手上げだし」

「まあ、よく考えたら当たり前なんですよね」

「えっ?」


 オルターが紙を取り出し、机の上で何かを描き始めた。

 地図……か?


「おるた、おえかきますか?」

「絵を描いてるんじゃねえよ。あれは気づかれないようにモンスターを育てる場所だった。あんな何もねえところじゃ、外の話も入って来ない。そんな不便なところを拠点にするかって事」


 オルターは世界中の主要都市の名前を連ね、大雑把な地図へと書き記していく。更には発見された拠点の位置、自分達の旅の軌跡も。


 オルターは何を伝えたいのか。それは書き終えたものを見てすぐに分かった。


「……魔王教団の拠点はいっぱいあったけど、全部が町から遠い。そして町の中に入り込んで悪さをしていたのは、ギリングとテレストロードだけ?」

「テレスト王国の小さな集落はアンデッド生産拠点にするつもりだったようだし、実質その2つだな」

「オレ達はその2つとも行ってる。そして、その2つの町ではグレイプニールが魔王教徒の企みを暴いてる」

「ふひひ、ボクよごでぎます! なおうきょうと、倒すしまた!」

「そうだな、グレイプニールのおかげ」


 つまり、この2つの町でオレ達を監視するのは無理なんだ。

 グレイプニール達の能力については、魔王教徒も知っている事。いくらオレ達が隠したって意味がない。父さん達がアークドラゴンと戦った当時、その特技を隠していなかったからね。


「それでもオレ達がギリングにいる事は把握しているんだな。オレの故郷であるレンベリンガを狙ったのでもない」

「そ。つまり、内通者の自覚がない協力者がいるって事だと思わないか」

「待って、途中の町や村を通過した時に、どこに行くのか見当をつけた可能性はないの?」

「行先ならそうですけど。ギリングに留まっている事まで分からないですよね」

「そっか……」


 魔王教徒と繋がっている自覚がないまま、オレ達の動きを教えている人達がいるって事? でも、それしか考えられないよな?

 ギリングでクエストを受けていたとはいえ、クエスト完了報告者の名前までは公開されていないはず。


「なあなあ、バスター同士ってよ、今どこにいるのか分かるのか?」

「立ち寄って記帳した管理所から、おそらくここにいるって推測するくらいかな」

「そっか。んじゃやっぱりギリングにいたぞって教えねえとダメなのか」

「あっ……ジャビ、良い事、言ったかも」

「お? そうか? イース、何かあったのか?」


 そうだ、何か、引っかかるんだ。

 このご時世、もう魔王教徒ってなあに? なんて人はいない。各管理所も、町や村だって魔王教団を警戒している。

 協力者を炙り出したと同時に、新たに協力するような奴も少ないと思う。


 オレ達がどうしているかなんて、一般家庭で話題になる事もない。

 逐一他所から電話で確認するような奴がいたら、きっと怪しい。魔王教徒だって疑われるような行動をしないよう徹底しているはず。


「管理所も警察も役人も、魔王教徒との繋がりは警戒しているんだ。オレ達の動向をわざわざこまめに他の町の奴に伝えるもの好きもいないと思う」

「ま、聞いてくる奴がいても怪しいもんな」

「だけど、オレ達の動向を探る事が可能って事だ。それはつまり」


 みんなの視線がオレに向けられた。みんなも気づいたんだろう。


「バスター、協会」

「おいおいおい、それはさすがに突飛な考えじゃないのか?」

「そうだ。このギリングじゃ管理所の所長まで狙われてるんだ。その所長が操られていて、俺は仲間も足も失った。繰り返させるもんか」

「オルター、シュベイン、オレはギリングのとは言ってない」


 思い出したんだ。

 オレがバスターとして再出発するきっかけとなったあの日を、オレは忘れた事はない。


「オレがマイムで働いていた事は、話したことがあると思う」

「酒場だったよな? そのおかげで、シンクロニシティは夜間のバー営業をするようになった」

「そう。あの町でオレの本名を知っていたのは数人だ。居酒屋の店長、アパートの大家さん、あとは管理所の職員。他の人にはイグニス・イースターと名乗っていた」

「まあ、獣人族のバスターは珍しいけど、いないわけでもないしな。通用するか」

「おぁ? ぬし、いちゅちまう? いぐにちゅ? 誰ますか?」

「オレのウソの名前だよ。偽名を使っていたんだ」

「おぉう、うそつき、だめます。ほんとつき、いいます」

「うん、今は反省してる」


 偽名を使い、クエストも全くやっていなかった。でもゼスタさんはオレを訪ねてきたんだ。


「レイラさん。ゼスタさんがクエストもやっていない、普段は偽名を使い、父さん母さんにも居場所を教えていなかったオレを、どうやって訪ねられたと思いますか?」

「うちの父が? そうね、記帳情報を確認したのかも。協会本部の名誉職だから、イースの行動記録は見れる……うっそ」

「そうです。協会の本部は、オレ達の居場所を確認できるんです。悪い事に、ギリングをはじめ、各管理所は魔王教団騒動で頻繁にやり取りしています」

「無自覚な内通者は、まさかの各地の支部、つまり管理所……」


 バスター協会の本部には行っていない。父さん達も、バスター協会を訪ねてはいないと思う。職員を調べてはいないんだ。


 だとしたらまずい。オレ達は各地で記録を残せない。


「……あたし、ノーマさんに連絡とってみる。闘技場であたし達をオレンジ等級に推薦してくれた女の人よ」

「あっ、あの人そういえばバスター協会本部の人でしたね。でも、あの人が魔王教徒との内通者って可能性は? あの場に居合わせたのが不自然だったかも」


 ノーマさんが? オレ達をあんなに推してくれたのに?

 その疑念は、グレイプニールが解決してくれた。


「おぁー? のおま、だいじょぶますよ? のおま、ボクの柄握るしまた。あきゅしゅ、しまた。なおうきょうと、ちまう」

「そうか、ノーマさん、自分から柄を握ってくれてたよな。内通者ならそんな事しない、というか、それがノーマさんが本当に伝えたい事だったんだ」

「どういうこと?」

「自分は協会の中で信用できる存在だよって」


 バスター協会の本部は、このシュトレイ大陸西部のエンリケ公国の港町カインズにある。行こうと思えば数日。


 問題はいかに管理所に口止めし、各町の入町記録を知られずに移動するか……。


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