Synchronicity-09 みもたむろちゅ、斬りまさい!
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「そっち行ったぞ!」
「ああ、狙う」
発砲音と共にゴブリンの頭が吹き飛んだ。
振り返ればシュベインが大剣で斬り倒しつつ、義足で蹴りも繰り出している。ジャビは武器ではなく小手を強化したものでキラーウルフを殴り倒し、足具も使ってかかと落とし。
一時期燻っていたり、片足が無かったり、最近戦闘を始めたばかりだったりとは到底思えないメンバーだ。
特にシュベインの戦い方は見ることがなかった。現役に戻ろうとしていないのが勿体ないくらい良い動きだ。
「って、他人に感心している場合じゃない、よな!」
「みもたむ……ろちゅ! あち、斬りまさい!」
「ああ、振り……払う!」
ギリング北の平原は雪解けも始まり、同時にモンスターも集まり始めている。人や動物が減った冬で腹を空かせた個体が我先にと獲物を求め、この平原に集まるんだ。
中にはそんなモンスターを捕食しようと、ミノタウロスのような強いモンスターが追いかけてくる事もある。
今戦っているのも、そのミノタウロスだ。
「うちろ! せまか、斬りまさい!」
「背中……スラッシュ!」
しゃがみこんで足払いをし、ついでに軸足とは逆を斬り飛ばした後、背後でそのまま背中を斬り上げる。
ミノタウロスの利き足を封じてしまえば、とりえず蹴りと突進は防げる。
怖いのは角による突き上げと、オレの腕の3倍も4倍も太い腕で繰り出される殴打。
「距離を取る!」
「じゃあおれが……うおらあっ!」
ミノタウロスの背中を蹴るようにして飛び退き、振り向きからの角による突き上げを避ける。
そうしてオレに注意が向いた事を利用し、今度はジャビがミノタウロスの後頭部を殴りつけた。
元々獣人族は狩猟をし、集落の周辺を自分達で警備している。だから、良く考えりゃ元々戦える人が多いんだよね。
ジャビの連携も戦いも、殆ど指導はうけていないのにばっちりだ。
「イース、跳べ!」
「分かった!」
気力を込めたシュベインのフルスイング。平たい部分で靴裏を打ってもらい、オレは更に足をバネのように使う。そうやって勢いをつけて飛び掛かり、攻撃の威力を上げるんだ。
かつて槍術士のビアンカさんとも繰り出した合わせ技。
剣を水平に振り払い、その軌跡から気力の刃を扇状に発生させる「剣閃」以外、剣術士には遠距離攻撃の手段が少ない。
こうやって自分が向かうってのが現実的で、やっぱり威力も高い。シュベインが大剣を使う事が、今回の戦闘ではとても有難い。
「突き、しますか!」
「ああ! スラストソード!」
ミノタウロスはジャビへと振り向いて殴打を繰り出した直後。片足になってバランスが悪く、ぐらりと体が左に傾いている。
これなら反撃される心配もない。
「よっしゃ、当てたぜ!」
オレが打ち飛ばされた直後、駄目押しで発砲音がした。
万が一を考えてか、オルターが反撃を抑えるために右の角を撃ったんだ。
「有難う、オルター!」
オルターは特に喜ぶそぶりも見せず、別のモンスターを狙う。
だけど上手くいったって心の中でニヤニヤしてるな、絶対。
「よしっ!」
オレはお膳立てを無駄にしないよう、グレイプニールをミノタウロスの背中に突き立てる。その直前、グレイプニールと共鳴した状態で。
「ギエェェェーッ」
「届いたか!」
「ちんぞ、破るしまた!」
刃渡りは30セルテ程度、短剣の分類に近い。そんなグレイプニールが柄まで埋まる程深く突いた事で、どうやら心臓を貫けたようだ。
地面としっかり水平に撃ち飛ばしてくれたシュベインのお陰だな。
ミノタウロスが血を吐き、巨体は地面に倒れた。討伐は成功だ。
「ふう、回復や補助の魔法を掛けてもらえる事の有難さ、レイラさんがいない時に身に染みるな」
「ハァ、ハァ……さすがに俺、現役じゃないから体力が、キツイわ……」
「銃を持ち変える暇はあるけど、装弾の暇がねえ、ちょっと時間稼いでくれるか!」
「とりあえず全部殴り倒せばいいんだろ? なあイース、全部倒していいんだよな!」
「ああ、オルターの援護だ、周囲全部蹴散らす!」
4人で総攻撃を始めてもう2時間近い。周囲にはチラホラと別のバスターもいる。というか、異常事態に気付いて駆けつけてくれたんだ。
ギリングの北門から歩いて僅か10分程。何をしているのかが町の外壁の上からすぐ見える距離。そんな場所にミノタウロスが十数体。
高い木や岩がないため、本来なら撃ち落とされるのを恐れて現れないはずのズーが上空で旋回。
今日のギリング周辺は明らかにおかしい。
「ふんーっ!」
「ジャビ、そっちは任せた! オルター、いけるか!」
「あと2挺!」
討伐は順調ではなかった。最初はもっと遠く、双眼鏡で覗かないと見えないくらいの位置で戦っていたんだ。
だけどミノタウロスが10数体にゴブリンの群れが複数。それを狙うキラーウルフまで現れたなら、4人では食い止めることが出来ない。
ジリジリと下がっていき、外壁の上の警備が気付いてくれて、ギリングの町内に援軍を求める放送を流してくれたんだ。
「イース!」
「レイラさん、来てくれたんですか」
「放送を聞いて驚いたわ! シュベインと交代するつもりだったけど、ちょっと無理そうね」
「シュベインの動き、とてもいいんです。オレ達の実力で考えると、同じくらいでバランス取れていいと思うんです……よっと!」
棒きれを投げつけてくるゴブリンを叩き斬り、レイラさんとオルターを守るような体制に切り替える。
レイラさんが来てくれたから、もう負傷や疲労を気にしなくていい。これで存分に戦える!
「ぬし、共鳴まだしますか?」
「ああ、続く限りずっとやろう!」
「ぴゃーっ! みもたむろちゅ! きらむるふ! ごむに! じゃぎじゃぎ斬る、ぼくつもい、みな知るます、うぁーぐえいむにーゆすばまち、よごでぎる剣、思うます! しまわせ……」
「えっと……何? とにかく倒しまくる!」
興奮してよく分からない事を喋り倒すグレイプニールはさておき、戦わないという選択肢はない。
「おい君達! 危ないから下がれ、まだかなり若いだろう!」
「私達で対処するから、あなた達は弱い個体を確実に仕留めていって!」
「等級は? あなたたちまだ1年目か2年目くらいじゃない?」
町の中から、新たにバスターのパーティーが駆け付けてくれた。
そのバスター達は、オレ達を見てミノタウロスの相手をするなと言ってきた。きっと無謀な戦いだと思ったんだろう。
「ご心配なく。うちの事件屋メンバーは精鋭ですから」
「事件屋? あ、もしかしてあのゼスタ・ユノーの娘のところの……」
「ユノーの娘なのは事実ですけど、ギリングではユノーの娘じゃなくて事件屋のレイラで名前が通ってますので。親の名前で商売してません」
グレイプニールが「しまわせ!」と感想を漏らす合間に、レイラさんが毅然と言い返す声が聞こえる。
「まあ、見ててく下さいよ。もうじきオレンジ等級、ミノタウロスの相手くらい、できなきゃ失格なんです」
オルターはノリに乗って大口径のリボルバーとライフルとショットガンを使い分け、大きなバズーカまで使おうとしている。
「オルターおれが殴る分は残しておいてくれよ! 遠くねらえ、遠く!」
「分かってるさ! 遠くの奴こそ倒し甲斐がある! ジャビは届く範囲だけ相手しとけ!」
「おーう!」
ジャビもなんだか戦いに余裕がある。
きっと魔王教徒の許で戦う役をしていた時は剣を使っていたものの、純粋に武器の使用が合っていなかったんだろう。
「よっしゃ、準備万端! みんな時間稼ぎ有難う!」
オルターが4つも5つも銃を並べ、持ち変えながらどんどん発砲し始めた。やっと使える状況になったって事なんだろう。頭上のズーが減ったら、もう上空に注意しなくても良くなる。
オルターが様々な銃を使い分ける余裕を持ち、輝けるような戦闘に持ち込む事がオレ達の使命。
銃術士が扱いにくい職なのは間違いない。だけど、その銃術士が活躍できるパーティーは絶対に強い。
そして、オレ達は今、活躍させられるだけの実力がある。
「よし、オレ達も本領発揮……」
「うおぁぁぁみむたむろちゅ、斬るさでまさぁぁぁい!」
「オレの掛け声を掻き消すなよ、いくぞ!」