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Synchronicity-08 必要とされたいから



 騒動の大きさを考慮し、結局酒場シンクロニシティは24時を待たずして店を閉める事になった。

 今回は押収品を無断で持ち出した男の犯行だから、ギリングに死霊術が広まった可能性は低い。だけど他の町ではどうだろうか。


 テレストがそうだったように、死んだ人にまた会えると聞けば縋る人もいるんじゃないだろうか。

 死霊術でアンデッドを作り出す方法をばら撒かれたら?


「ぬし、おじゃべり、しますか?」

「ん? うん、何かあった?」

「……ボク、もしゅた、斬るよごでぎます」

「うん、そうだね」

「死にもも、生きももちまう。斬るできますか?」

「まあ、アンデッドはモンスターだし生き物じゃないから斬り倒せるね」


 願わくば、かつて人だったアンデッドじゃない事を。

 レイラさんは、今日ヒールを掛けてアンデッドを浄化した。アンデッドとはいえ人だった。きっと今頃悩んでいると思う。

 アンデッドに人としての尊厳があるのかないのかは議論がなされるべき事。その点をグレイプニールに語って理解してもらえるのか。


 そう思っていたら、グレイプニールは予想外の発言をした。


「ぬし、しれいむちゅ、掛けるさでる、死にももなりますか?」

「そうだね、オレも奴らに何かされないとは限らない。アンデッドにされる可能性はゼロじゃない」

「あんでっど、死にもも。もしゅたます。ボク、どしますか? ぬし斬る……いやます」

「えっ」

「ボク、ぬしいまい、おじゃべりでぎまい。ぬし死にもも、ボク、アンデッドなりますか? お別れますか?」


 咄嗟に答えられない。というか、分からない。

 オレがアンデッドになったら……アンデッドにも魔力や気力は残るんだろうか。


「おるた、れいら、じゃみ、死にももなる。ボク、斬りますか?」

「それは……」

「もしゅた、倒す……ボク、おるたも、れいらも、じゃみも、ぬしも、斬るいやます」


 グレイプニールも考えていたんだ。


 モンスターの定義に当てはまるから何でも斬りたい訳じゃない。

 人のための武器として、人のためになるのかどうかを考えてくれていたんだ。


 そんな葛藤を与えてしまったのは、他でもない人自身。

 武器ですら嫌がるものを生み出す魔王教徒。奴らを何としてでも止めないといけない。


「ぬしあんでっど、ボク斬るでぎまい。もしゅた斬るでぎまい剣、だめますか?」

「……グレイプニールは、グレイプニールが斬るべきと思ったものを斬るんだ。斬らない方がいいと思ったらオレを止めてくれ。君が武器として誇りに思えない事はしない」

「ぬし誇るよごでぎる、ボクよごでぎます。い、いちゅのため、ボクよごでぎます。ぬしいや、ボクしまい。ボクいちゅの剣、あびちぃ剣ます」


 オレの気力と魔力を使って作られた、オレの分身。一緒に戦う事を選び、オレのためになる事なら何でもしたいと言ってくれる忠剣。


 聖剣や冥剣なんて二つ名はなくとも、オレにとって最高の忠剣。

 オレが信じる道を、グレイプニールを携えて共に進めばいいんだ。オレが心を決めないと。


「もし……アンデッドにされていたら、それを倒してでも止めて見せる。人としてではなくモンスターとして誰かを襲うなんてさせない。人じゃない姿にされても、人としてしたくなかった事はさせない」

「ぴゅい。ボクもお柄伝います」

「うん」


 オレが感謝するだけで幸せと言ってくれる。

 ちょっと高かったけど、天鳥の羽毛マットをオレからの宝物と言って喜んでくれる。

 オレは大切にされる事に慣れ過ぎていた。グレイプニールを大切にして信じていれば、いつだってオレは活躍できた。


「グレイプニール、考えがあるんだ」

「ぷぁー? 何ますか?」

「世界中の人々に、グレイプニールをバルドル達と並ぶ名剣と呼ばせる。親の七光りを嫌って何もしてこなかったオレだけど、本当は……悔しいんだ」

「おぉう、ボク、でせちゅ?」

「ああ、父さん達を超える。オレと一緒にいるグレイプニールを、バルドル達が羨むくらい活躍させて伝説を作るんだ」

「でせちゅ、なるます! ボク、何しますか?」

「魔王教団を完全に消滅させる。奴らが生み出したモンスターを、オレ達でやっつける。今回の騒動で伝説になれなかったら、もう二度と機会はない」


 魔王教団の活動は悲劇だし、出来ればあって欲しくない。

 だけど、それを誰が止めるのか、それはオレでありたい。

 結果、伝説にはなれないかもしれない。それでも自己満足じゃなくて、誰よりも活躍したと言い切る事はできる。


 今いるバスターの中で1番になる。


「グレイプニールとなら、出来る」

「ぴゅい」


 朝になったら、レイラさんとオルターに相談しよう。ジャビの装備もしっかり揃えて戦力を上げる。

 等級で線を引く事を後悔するくらい重要なバスターになってやる。





 * * * * * * * * *





「まあ、そうね。その思いに関しては私も完全に同意。そうじゃなくても、やっぱり死霊術が蔓延るのは危険だし」

「ある意味、死霊術ってバスターと相性が悪いからな。死者への冒涜と言っても、それを斬ったり撃ったりするのは倫理的な面で抵抗がある。先手を打ちたい」

「なあ、捕まえに行くのか? ちゃんとモンスターと戦えるのか? おれ早く昇格して、もっとつえー装備揃えてえんだけど」

「クエストは後で受ける。そろそろクエスト数は十分だし、ジャビもホワイト等級に昇格と思う」

「いつも全力だから、レインボーストーンの判定も既にブルーに到達してるもんね」


 管理所より早く情報を得て、オレ達から管理所に情報を渡す。等級はどうしようもない。だけど英雄の子だからと特別扱いされたくもない。


 だったら、戦力以外の面で重宝されるのが一番早い。アマナ島でも言われたけれど、連れて行かないけど情報だけくれなんて言わせない。


「まずはテレストに連絡ね。アゼスさん達に最新の話を聞きましょう」

「アマナ島に電話して、警備艇のスズキさんやタナカさんの話も聞いてみようぜ」

「それなら、オレはマイムに電話します。ビッグさんやショットさんは船の上でも、元バイト先に何か聞いてみたい」

「おぉう、みゃいむ。ぬしおるしまた?」

「そう。バスターもよく来てたからね、噂話も入ってくる」


 戦力として腕も磨くけれど、管理所にアピールできるだけの知識と情報が必須。そこで認めて貰えなければ、オレ達は魔王教団解体の最前線に立てない。


「よし、じゃあそれぞれ動いて。ジャビ、あなたは引き続き戦闘訓練よ、午前中で1つクエストを完了して、お昼に戻って来て」

「よっしゃ!」

「あーっ! ぬし、ボク、ボクもしゅた、斬りますか!?」

「分かった分かった。どうせ今頃マイムは真夜中だし、電話を掛けるのはこっちが夕方になってから。行こう」


 レイラさんはやりたい事があると言うから、クエストに出るのはオレとオルターとジャビ。


 ……と思ったら、何故かシュベインが付いてきた。


「シュベイン?」

「忘れて貰っちゃ困る。俺はまだバスターを辞めちゃいないからね。たまには体を動かしたいのさ」


 そう言ったシュベインは、現役時代の装備を全て失っているはずだ。オレ達が救出した時も、装備はボロボロでその場に置いてきた。

 義足はすっかり慣れたようだけれど、現役の時に使っていた大剣だってもう持っていないはず。


「おいシュベイン。装備も武器もねえだろ? まさかスーツにコートで来るつもりか」

「ふふん、ちゃーんと頼んであるんだよ。管理所で待っていてくれ!」


 シュベインはそう言って走っていく。

 ホワイト等級に上がった程度だった、よな? まあ、戦いたいと言うなら止めはしないけど……。

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