Synchronicity-04 久しぶりのフルメンバー
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「はぁ~……ただいまあ」
「お帰りなさい、なんだか久しぶりね。そっちの子、ジャビくんかな。宜しくね」
「おう! えっと、宜しくな!」
「お帰りなさい! 事件屋は開店休業状態っすけど、仲介屋としては順調ですよ。バーの方も」
数日経って、オレ達はやっとギリングに戻って来た。外は寒いけど明るく、町の時計台は13時を指している。
「ぬし! きかいこどしゃ乗りますか?」
「お前気に入ったのか? もうしばらく乗らないよ」
「おぉう、あびち」
手前のアスタ村でじいちゃん達と会って、飯屋に寄って……そこから30分経ってないのか。機械駆動二輪って、慣れると本当に速いな。
乗れるのは整備された街道に限るけど、燃料にさえ気を付ければバスターにとってかなり有用かも。
「もう動けない……お水ちょうだいベネス」
「あんた一応ここのマスターだよ? 部下より先に寛がない」
「あたしが一番体力ないもん……デビッドに会いたい」
「デビッドって誰だ?」
「レイラさんの飼い猫だよ。レイラさんがいっつもアルバム見てるだろ、あいつだよ」
レイラさんはただいまと言いながら応接用のソファーに座り込む。
ユレイナス商会に機械駆動二輪を返しに行かないといけないし、自分達の荷物もなんとかしないといけない。俺は宿も取らないと。ああ、ジャビの宿もか。
でも、シンクロニシティの扉を開けた途端、オレ達は1歩も動けなくなった。
「ゆっくり休んでられる状況じゃないけど、もう今日と明日は無理だ。銃の手入れもしっかりやんないと次の旅は無理」
「オレもちょっと疲れたよ。まずは宿を取らないと」
「あたしも。ベネス、あたしの家とオルターの家、どうなってる?」
「大丈夫、一応社宅扱いにして経費処理してる」
「ありがと。一度家に帰るかな……みんな疲れてて大変だろうけど、夕方にここに集まってくれる?」
途中の宿で洗濯する事もあるけど、装備も含め、基本的には着たままが多い。バスターの身なりから、ホテルなんかはバスターお断りってところもある。
オレはひとまず宿を取る事にし、後ろを振り向いた。
「ジャビ?」
「おれ、早くバスターになりてえんだけど。ここに着いたらバスターになれるって、ほんとだよな?」
「とりあえず、色々と手続きがあるんだ。後でゆっくり」
「今すぐだと、だめなのか?」
ジャビはバスターになれる日を心待ちにしていた。着いたらすぐにバスターになれると思ったんだろう。ジャビは悲しそうに耳を垂らし、自分の尻尾をぎゅっと抱く。
期待しているのは知っているし、オレ達にとっては大事な仲間だ。これからバスターとして戦ってもらうし、戦力として申し分ない事はここまでの道のりでよく分かってる。
オレが仕方なくジャビのために立ち上がった時、シュベインが口を開いた。
「不可能じゃないよ。でも、ちょっと考えてみようか」
「考える? 何を?」
「レイラさんはヘトヘト、オルターは銃の手入れをしないと銃が駄目になる。イースは宿を取らないと荷物も置けない。君もそうだ。その状態で、自分の用事を優先かい?」
「……でも、おれ、やっとバスターになれるって」
シュベインは首を横に振る。レイラさんとオルターには、俺に任せろと言った。
「そんな態度では、事件屋シンクロニシティとして君を送り出す事は出来ないよ」
「そうね、私も事件屋として資格を持ってるし、レイラの代わりに手続きできる。でも身元引受人はレイラ。あなたは特例だし、レイラ達と一緒じゃないとバスターでいられない」
「バスター協会はレイラさん達を見込んだ。ジャビを任せられると判断した。君は、そんな仲間のおかげでバスターになれる。ちょっとは仲間を思いやれないかい」
シュベインとベネスさんの言葉に、ジャビがハッとした。
ジャビは喜怒哀楽が大袈裟で、物を知らない。狭い村から出て魔王教徒の拠点で過ごし、人族ばかりの環境に身を置いたことはない。常識と言われる部分はオレより疎いと思う。
でも、悪人ではないんだ。楽しい事が好き、面白い事には首を突っ込みたがる。でも人が嫌がる事をしたくてする奴じゃない。知らないだけなんだ。
「おれ、そこまで考えてなかった。ごめん、みんなの用事が終わってからで、いい」
「あー……ごめんなさい。あたしもジャビが楽しみにしてるの分かってたのに」
「オレも、ジャビの手続きの件、先でもいいですよ。レイラさんが引受人でも、同じパーティーから保証人が他に必要だったはず」
「それなら俺の方がいい。俺はこの町出身だし、管理所登録もギリングだから」
今から登録してもいいという流れになり、ジャビは嬉しさを隠せず尻尾をぶんぶん振っている。
「バスターになっても気を付けろよ。ジャビ、君はなんとなーく素直で純粋で、悪い人にもすぐ騙されそうな気がする」
「実際に魔王教徒に騙されてるもんな。慎重にならないと」
シュベインとオルターの言葉に、ジャビは恥ずかしそうに俯く。一応、反省しているんだよな。でも、気を付けているとは言い難いか。
「いいか、今のうちに教えとく。バスターになったからって、油断すると取り返しのつかない事故や怪我に遭う。俺がそうだ」
そう言って、シュベインは自信の左足のズボンの裾をまくった。義足だ。
シュベインはジャビの好奇心や軽さが、いずれ自分と同じ事態を招くと思ったんだろう。
だけど、それはジャビには響かなかった。
「うおー、なんだそれ! カッコイイな! 見せてくれ!」
「お、おいシュベイン……もしかして新調した? カタログで見てたやつじゃねえかそれ」
「125万ゴールドのあれだよな? え、オレ達が行ってる間に?」
ジャビだけでなく、オレ達にも響かなかった。
「へへっ、買っちゃった。毎日モヤシ炒め生活で我慢したよ」
「バーでお客さんにお酒奢って貰ってしこたま稼いですぐ買ったの。ほんっとシュベインってば」
「あたしがいない間、ぼったくりとか言われてないでしょうね、もう」
義足を戒めにするはずが、話はとんでもない方向へと脱線する。
そんな空気の中、オレはハッと気が付いた。
「あれ? 待った、ジャビの住所、ムゲン特別自治区だよな? 登録って、住所がある国内じゃないと駄目だったりする?」
「ムゲン特別自治区には管轄の管理所がないの。出張所はあるけど……だからどこの管理所でもいいのよ。住所確認書類や身元確認書類については、シークさんが署名してくれてるみたい」
「あっ、そうなんだ」
「バスターになれるってのは確定。手続きがいつでもバスター資格は逃げないけどね。さて、どうする? ジャビくん」
ベネスさんが尋ねると、ジャビが尻尾をバッサバッサ振りながら口を開いた。
「おれ、手続き明日でもいい。確かにおれ、みんないないとバスターになれねえし、何も分かんねえし、とりあえずみんながやる通りに従う」
「従うなんてかしこまらなくていいわ。あたし達、約束は守る。あなたにバスターの事をしっかり教えて、納得した上でバスターになってもらう」
「分かった。イース、宿行こうぜ! オルター、本当にこの手袋貰っていいのか?」
「いいよ、素手に小手じゃ絶対きつい。俺は家に予備があるからあげるよ」
「やった!」
ジャビは良い意味で単純だ。切り替えも早い。その場その場では深刻に悩むし、反省もする。でも引き摺らない。
そういう点では、同じ世間知らずで能天気だとしても、グレイプニールの方が執念深いかもしれないな。
「ぬし、きかいこどしゃ、買いますか?」
「えっ!?」
「ボク、ほちいます」
「2000万ゴールドなんて持ってないよ」
「おぉう……きかいこどしゃ、ドドドド言うします。好きます」
「天鳥の羽毛マット買うのとワケが違うんだぞ。2000万もありゃ家買ってるよ」
「きかいこどしゃ……買うよごでぎまいなすか?」
「買えない」
「ぷぇぇ」
そりゃあ、あれば楽だし速いし大助かりだ。でも、持ってたって4人乗りは出来ないからな。4人分揃えるなんて無理だし、ジャビとレイラさんは運転すらできないし。
オレもコケないように必死だし。
まだ春の手前、吐く息は白い。2週間前には真夏の南半球にいたし、体の調子がおかしくなりそう。街角に残る白い雪にはしゃぐジャビを連れ、宿へと向かった。