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Synchronicity-03 帰路



 * * * * * * * * *




「ええかね、あんた達。武器の力ば、よう信じなさい。出来んかもっち思いよって勝てる戦いは無いとよ」

「そうそう。グレイプニールはその点よく分かってそうですね。気力に満ち溢れていますよ!」

「おぉう、ボク何、分かりますか?」

「……うーん、分かってなくてもやる気があればなんとかなります!」


 世間話をし、グングニルとアレスの激励を受けつつ、オレ達はビアンカさん達と別れることとなった。ママッカ大陸への船便は夕方に出てしまうらしい。


 伝説武器は自分が一番だと確信しているし、自分の持ち主が一番だとも思っている。だけどグレイプニールや他の武器への敬意も持ち合わせている。特に、まだ経験の浅いグレイプニールが持ち主を守れなければ、喋る武器達の信頼が揺らぐ。


 グレイプニールに言い聞かせる様子は、なんだか親子みたいだった。


「ジャビの事、任せたからね。レイラ、あなた怪我しないでよ? 話だとゼスタが毎日毎日、怪我したって連絡が入ってないか協会に連絡してるらしいわ」

「えっ、嘘でしょやだ……恥ずかしい」

「ふふふ。イース、たまには親に連絡しなさい。あんたが村に連絡した日、そりゃもうシャルナクが張り切って凄かったらしいし」

「ああ、周囲を飛ぶ鳥型のモンスターがいなくなったらしいね」

「あー、想像がつく。母さん、弓を構えると人が変わるからな……」


 イヴァンさんが笑顔でオレ達と握手してくれる。とても力強い。この魔王教徒殲滅作戦にも人一倍の思いがある。


 イヴァンさんはかつて魔王教徒の奴隷だった。


 ムゲン特別自治区のナン村から狩りに出た後、そのまま攫われて背中に術式を刻まれ、ヒュドラやアークドラゴンの封印を解く鍵にされようとしていた。

 もしかしたら、アンデッドの材料にされていたかもしれない。今でもイヴァンさんの背中には消えない跡がある。こんな力強く笑顔が似合う人なのに、過去はとても悲しいものだ。


「あ、あと兄に連絡して、テレストの北にあるナハラ村からの足を回して貰ってるから。ユレイナス商会を御贔屓に」

「有難うございます、助かります」

「魔王教徒のアジトを潰したのは……えっと、シュトレイ山か。あの時より随分と精悍な顔つきで安心したよ。シークさんが俺の役目は終わったなって言ってたの、よく分かる」


 2人はオレ達の名残惜しそうな表情を笑いながら、じゃあと言って港を目指し歩いていく。英雄目当ての人の波もそれと一緒に動いていき、オレ達は旅立ちを促されたのだと分かった。


「さてジャビ、これからテレストまで船で行って、そこからはキャラバンを頼って北を目指す。途中で戦いがあるかもしれない」

「おう!」

「おい、ジャビの武器はどうするんだ? まだバスターじゃないし、委ねられたとはいえ武器を持たせる権限はあるんだっけ」

「ううん、まだない。事件屋に戻って準登録しないと持たせられないわ。いくら身内でも規則は破れない」


 エインダー島では武器を持っていたが、あれは規則違反だ。ましてや人目につく場所で武器を持たせていれば、それこそ特別扱いだと白い目で見られてしまう。


「じゃみ、なおう使いますか?」

「おれ? 魔法は使えねーぞ、使い方わかんねーもん」

「グレイプニール、魔法も駄目なの。とにかく早くギリングに帰るしかない」


 これから丸腰の一般人を護衛して戻る事になる。オレ達にとってはちょっとしたクエストだ。





 * * * * * * * * *




「まさかの結果ね」


 数日が経ち、オレ達はテレスト王国の首都テレストロードにいた。冬の終わりとはいえ砂漠は寒い。日差しだけ痛いのに寒いんだ。


「まさかの結果ってのは、どっちの事ですか?」

「どっちもよ」


 驚いたのは2つ。


 1つは、ジャビが何でも殴り倒そうとする事。ゴブリンやキラーウルフ相手だと、実際にはめた小手で倒しちゃう事。


 もう1つは、テレストで出会ったアゼスやティート達が、魔王教解体の人員ではなく、ちゃんと役人として働いていた事だ。

 あの時ティートと共に裁判を受けたメンバーは、魔王教徒をおびき寄せる作戦を実行し、幹部を含め150人も捕まえる事が出来たんだ。


 それ以前に捕まえていた奴らも含め、魔王教徒関連の逮捕者は200名ほどになる。

 テレストにとっては好き勝手にコキ使える労働力。

 アゼス達は「あっち側にならなくて良かった」と笑っていた。テレストの領地内に、魔王教徒の拠点はない。入って来ても待っているのは地獄。


 オレ達の手柄だとも言ってくれた。


「アゼスがあたし達が王国騎士だからって、すぐ移動手段の確保をしてくれたのは助かったわ」


 オレ達はテレストの管理所に報告し、その足で王宮にも向かった。謁見は出来なかったけれど、大臣は話を聞いてくれた。


 魔王教徒が言っていた新しいモンスターとは、蟲毒だったという事。成功は7割程度、アンデッド化してしまい、魔王教徒も手に負えない状況になる事。

 魔王教徒の証言と各地の様子を照らし合わせ、ようやく全体像が見えてきたようだ。


「ムゲン特別自治区のアルカ山はビアンカさん達が見てくれる。マガナン大陸のシロ村付近はシークさん、シュトレイ山はシャルナクさんが向かってくれた。後はうちの父が何を発見するか」

「オンドー大陸は4魔もアークドラゴンも封印されていなかったんだろ? あまり被害の話も聞いた事ないし。英雄の師匠が住んでるって事は、実力あるバスターも多いはず」

「なあ、出発まだ? おれ早くバスターになりてえんだけど」

「なれていなくても、もう既に戦っているじゃない。あたし達と一緒にいれば急ぐ必要ないわ」

「お、それもそうだな!」


 クレスタさんや、その仲間の皆さんも動いてくれている。


 単純なジャビに笑いつつ、数名の兵士と共に砂漠に強い馬の背に乗る。馬は慣れた様子で砂の街道を歩き始めた。





 * * * * * * * * *





 テレストロードから馬で5日目の朝、オレ達はジルダ共和国に入った。ナハラ村からは馬を乗り換え、ユレイナス商会の用意した馬に乗り換えるはずだったんだけど。


「えっ」

「こっちの方が速いのでね。砂漠ではさすがに乗れないが、街道を行くのなら大丈夫だ」

「いや、あの、あたし乗った事ないんですけど」

「オレもないよ、えっと」


 目の前にあったのは、4台の機械駆動二輪だった。どうやらオルターが以前乗った事で、オレ達全員が乗れると思われたようだ。

 ビアンカさん……3人はともかくジャビは無理だって分からなかったのかな。


「ちょっと練習させてやるから」

「いや、えっと……キャッ!?」


 機械駆動二輪のハンドルに手を掛けた瞬間、レイラさんがこけた。一度乗っているオルターは、もう自由自在に操っている。オレは歩いた方が速いような速度でゆっくりと前進。


「腕を曲げるんじゃない、手ごと重心を右に倒して曲がる!」

「そんな事……うわっ!」


 油断したらアクセルとブレーキを間違えるし、力が入ると何かの拍子にアクセルも入るし、曲がろうとしても曲がってくれない。


 でも、ここで乗れなかったらこの先に行けるのはオルターだけ。オレ達は馬車を待つことになってしまう。


「最悪あと1人乗れるようになりゃあ、2人乗りで2台出せば……」


 ユレイナス商会の人がそう言ってくれるけど、レイラさんは前進すら出来ず、倒れた機械駆動二輪を起こす事も出来ず、もうやだ! と叫んでる。

 ジャビは何度言ってもアクセルとブレーキを同時に掛けようとするし、走った方が速いと謎の自慢を始めてる。


「いいか兄ちゃん、お前が乗れなけりゃ、あの2人のどっちかが運転する事になるんだが」

「……頑張ります」


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