Synchronicity-03 帰路
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「ええかね、あんた達。武器の力ば、よう信じなさい。出来んかもっち思いよって勝てる戦いは無いとよ」
「そうそう。グレイプニールはその点よく分かってそうですね。気力に満ち溢れていますよ!」
「おぉう、ボク何、分かりますか?」
「……うーん、分かってなくてもやる気があればなんとかなります!」
世間話をし、グングニルとアレスの激励を受けつつ、オレ達はビアンカさん達と別れることとなった。ママッカ大陸への船便は夕方に出てしまうらしい。
伝説武器は自分が一番だと確信しているし、自分の持ち主が一番だとも思っている。だけどグレイプニールや他の武器への敬意も持ち合わせている。特に、まだ経験の浅いグレイプニールが持ち主を守れなければ、喋る武器達の信頼が揺らぐ。
グレイプニールに言い聞かせる様子は、なんだか親子みたいだった。
「ジャビの事、任せたからね。レイラ、あなた怪我しないでよ? 話だとゼスタが毎日毎日、怪我したって連絡が入ってないか協会に連絡してるらしいわ」
「えっ、嘘でしょやだ……恥ずかしい」
「ふふふ。イース、たまには親に連絡しなさい。あんたが村に連絡した日、そりゃもうシャルナクが張り切って凄かったらしいし」
「ああ、周囲を飛ぶ鳥型のモンスターがいなくなったらしいね」
「あー、想像がつく。母さん、弓を構えると人が変わるからな……」
イヴァンさんが笑顔でオレ達と握手してくれる。とても力強い。この魔王教徒殲滅作戦にも人一倍の思いがある。
イヴァンさんはかつて魔王教徒の奴隷だった。
ムゲン特別自治区のナン村から狩りに出た後、そのまま攫われて背中に術式を刻まれ、ヒュドラやアークドラゴンの封印を解く鍵にされようとしていた。
もしかしたら、アンデッドの材料にされていたかもしれない。今でもイヴァンさんの背中には消えない跡がある。こんな力強く笑顔が似合う人なのに、過去はとても悲しいものだ。
「あ、あと兄に連絡して、テレストの北にあるナハラ村からの足を回して貰ってるから。ユレイナス商会を御贔屓に」
「有難うございます、助かります」
「魔王教徒のアジトを潰したのは……えっと、シュトレイ山か。あの時より随分と精悍な顔つきで安心したよ。シークさんが俺の役目は終わったなって言ってたの、よく分かる」
2人はオレ達の名残惜しそうな表情を笑いながら、じゃあと言って港を目指し歩いていく。英雄目当ての人の波もそれと一緒に動いていき、オレ達は旅立ちを促されたのだと分かった。
「さてジャビ、これからテレストまで船で行って、そこからはキャラバンを頼って北を目指す。途中で戦いがあるかもしれない」
「おう!」
「おい、ジャビの武器はどうするんだ? まだバスターじゃないし、委ねられたとはいえ武器を持たせる権限はあるんだっけ」
「ううん、まだない。事件屋に戻って準登録しないと持たせられないわ。いくら身内でも規則は破れない」
エインダー島では武器を持っていたが、あれは規則違反だ。ましてや人目につく場所で武器を持たせていれば、それこそ特別扱いだと白い目で見られてしまう。
「じゃみ、なおう使いますか?」
「おれ? 魔法は使えねーぞ、使い方わかんねーもん」
「グレイプニール、魔法も駄目なの。とにかく早くギリングに帰るしかない」
これから丸腰の一般人を護衛して戻る事になる。オレ達にとってはちょっとしたクエストだ。
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「まさかの結果ね」
数日が経ち、オレ達はテレスト王国の首都テレストロードにいた。冬の終わりとはいえ砂漠は寒い。日差しだけ痛いのに寒いんだ。
「まさかの結果ってのは、どっちの事ですか?」
「どっちもよ」
驚いたのは2つ。
1つは、ジャビが何でも殴り倒そうとする事。ゴブリンやキラーウルフ相手だと、実際にはめた小手で倒しちゃう事。
もう1つは、テレストで出会ったアゼスやティート達が、魔王教解体の人員ではなく、ちゃんと役人として働いていた事だ。
あの時ティートと共に裁判を受けたメンバーは、魔王教徒をおびき寄せる作戦を実行し、幹部を含め150人も捕まえる事が出来たんだ。
それ以前に捕まえていた奴らも含め、魔王教徒関連の逮捕者は200名ほどになる。
テレストにとっては好き勝手にコキ使える労働力。
アゼス達は「あっち側にならなくて良かった」と笑っていた。テレストの領地内に、魔王教徒の拠点はない。入って来ても待っているのは地獄。
オレ達の手柄だとも言ってくれた。
「アゼスがあたし達が王国騎士だからって、すぐ移動手段の確保をしてくれたのは助かったわ」
オレ達はテレストの管理所に報告し、その足で王宮にも向かった。謁見は出来なかったけれど、大臣は話を聞いてくれた。
魔王教徒が言っていた新しいモンスターとは、蟲毒だったという事。成功は7割程度、アンデッド化してしまい、魔王教徒も手に負えない状況になる事。
魔王教徒の証言と各地の様子を照らし合わせ、ようやく全体像が見えてきたようだ。
「ムゲン特別自治区のアルカ山はビアンカさん達が見てくれる。マガナン大陸のシロ村付近はシークさん、シュトレイ山はシャルナクさんが向かってくれた。後はうちの父が何を発見するか」
「オンドー大陸は4魔もアークドラゴンも封印されていなかったんだろ? あまり被害の話も聞いた事ないし。英雄の師匠が住んでるって事は、実力あるバスターも多いはず」
「なあ、出発まだ? おれ早くバスターになりてえんだけど」
「なれていなくても、もう既に戦っているじゃない。あたし達と一緒にいれば急ぐ必要ないわ」
「お、それもそうだな!」
クレスタさんや、その仲間の皆さんも動いてくれている。
単純なジャビに笑いつつ、数名の兵士と共に砂漠に強い馬の背に乗る。馬は慣れた様子で砂の街道を歩き始めた。
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テレストロードから馬で5日目の朝、オレ達はジルダ共和国に入った。ナハラ村からは馬を乗り換え、ユレイナス商会の用意した馬に乗り換えるはずだったんだけど。
「えっ」
「こっちの方が速いのでね。砂漠ではさすがに乗れないが、街道を行くのなら大丈夫だ」
「いや、あの、あたし乗った事ないんですけど」
「オレもないよ、えっと」
目の前にあったのは、4台の機械駆動二輪だった。どうやらオルターが以前乗った事で、オレ達全員が乗れると思われたようだ。
ビアンカさん……3人はともかくジャビは無理だって分からなかったのかな。
「ちょっと練習させてやるから」
「いや、えっと……キャッ!?」
機械駆動二輪のハンドルに手を掛けた瞬間、レイラさんがこけた。一度乗っているオルターは、もう自由自在に操っている。オレは歩いた方が速いような速度でゆっくりと前進。
「腕を曲げるんじゃない、手ごと重心を右に倒して曲がる!」
「そんな事……うわっ!」
油断したらアクセルとブレーキを間違えるし、力が入ると何かの拍子にアクセルも入るし、曲がろうとしても曲がってくれない。
でも、ここで乗れなかったらこの先に行けるのはオルターだけ。オレ達は馬車を待つことになってしまう。
「最悪あと1人乗れるようになりゃあ、2人乗りで2台出せば……」
ユレイナス商会の人がそう言ってくれるけど、レイラさんは前進すら出来ず、倒れた機械駆動二輪を起こす事も出来ず、もうやだ! と叫んでる。
ジャビは何度言ってもアクセルとブレーキを同時に掛けようとするし、走った方が速いと謎の自慢を始めてる。
「いいか兄ちゃん、お前が乗れなけりゃ、あの2人のどっちかが運転する事になるんだが」
「……頑張ります」