Synchronicity-02 4人目の仲間
「グレイプニールとイースの力を合わせた結果、か」
「しっかり変わってるね、間違いない」
「おおぅ、ぱぽる」
「これが……オレの今の力」
共鳴をした後、レインボーストーンの色はハッキリと変わった。魔力もあるからか、鮮やかな紫とはいかなかったけれど、オレ達はパープル等級の能力があるという結果だ。
「グレイプニールはアダマンタイト製だし、そりゃオレの力を引き上げてくれるよな」
「確かに、武器が何かでその威力は大きく変わるわね。だけど、グレイプニールさんはあなたの一部であって、切り離しては考えられないでしょ?」
「あ……」
確かに、ノーマさんの言う通りだ。共鳴した時、グレイプニールはオレの一部。というか、そもそも剣としてアダマンタイト製ではあるけれど、オレの分身であって、アダマンタイトの体を持つオレ、って考え方もできるのか。
「グレイプニールは、イースでもある。そういう事ですよね」
「んじゃあイースにこんな能天気で子供っぽい部分があるのか」
「ぷぁー? もうてんち、何ますか? ボク、こももますか?」
「オレにこんな部分、あるっけ」
「本当は無邪気なのに、英雄の子って看板のせいで出せなかったのかもね」
グレイプニールがオレでもあるという考え方で、皆が笑い、そのまま変わらないでくれとからかう。
グレイプニールはオレと同じだと聞いて、嬉しいみたい。
「そう、イースくんが生み出した子供というより、分身。よく覚えておいてね」
ノーマさんはそう言った後、レインボーストーンを職員さんに返却した。パープル並みの力があると示した事で、今後管理所としてどのような判断が下されるのか。
後はもう任せるしかない。
自分を誇れ、自信を付けろ。
オレはそう言われて闘技場で戦ったし、自分を評価してくれと堂々と主張するべきだとも思う。実際に自信も付いた。
だけど、オレ達が仮に強いとしても、パープル等級が相応しいかは疑問だ。
「俺達の能力に関しては把握出来ました。先輩方と堂々の力があると分かって嬉しいとも思います」
「うん?」
「でも、圧倒的に経験が足りません。オレ達、オレンジ等級以下のバスター達を導き、指導するのは無理だと思います」
「あー……そうだよな。強さでは合格しても、じゃあ役割までこなせるかは別問題だよな。助けられて駒として動く強さだけじゃ足りない」
オルターも同じ意見みたいだ。
「あたし達が後輩バスターの面倒を見たり、戦術指南するほどまで育っているとは思えないわね。その点に絞って言えば、同じブルー等級にも負けてる」
ああ、分かった気がする。なぜ、バスター協会がパープル等級で線を引いたのか。
オレ達は駒であり、今のバスター事情として、あの人造モンスター相手に駒の面倒を見る余裕なんかないんだ。
「クエストの達成数、経験年数が昇格に影響するって、実は理に適っていたんだな」
「ふうん、あなた達が一周まわってその結論に達するとはね」
ノーマさんは意外と冷静なオレ達に驚きつつ、理解してくれた。
そりゃパープル等級までサクッと上がれたら嬉しいよ。でも、肩書に中身が追い付かない苦しみは嫌という程分かってる。
「オレンジ等級を推薦しているけど、あなた達どうする?」
「……春まで待っていただく事は可能でしょうか」
「それは問題ないと思う、昇格拒否には当たらないから。でも、それだとエインダー島への討伐作戦には参加できなくなるわ」
「あたし達が必要だと思って貰えなければ、結局は自己満足ですから」
ノーマさんはレイラさんに「成る程ね」と笑い、推薦の保留を受け入れてくれた。
オレ達はこれまで事件屋として……って意識はそこまでなかったけど、魔王教徒関連の事件を追及し、解決してきた。
それは主に事件屋としての能力を証明した形だけど、これからはバスターとしての強さを磨かないといけない。
魔王教徒の件は、結局みんなに伝えることになってしまった。エインダー島の事も、結局は闘技場での一件を説明するため、隠す事なく話してしまった。
管理所側ももうオレ達を引き留める理由はない。
「バスターとしての経験や、モンスターの討伐数を増やそう。オレ達に圧倒的に足りていない部分を」
「おぁっ、もしゅた、斬りますか!」
「ああ、これからは飽きるくらい倒さないとな。強くても慣れてなけりゃ意味がない」
「ぴゃあぁー!」
「よし、じゃあ一度ギリングに戻りましょう。ベネスとシュベインにも話さなくちゃ」
そういえば……北半球が冬に入って以降、テレストにアマナ島、ラスカ火山……もう随分と戻っていない。
「ノーマさん、色々口添え有難うございました」
「報酬の件は? まだ管理所の見解待ちでしょ」
「惜しいですけど、オレ達には時間がないので、待っていられません」
「じゃあ回答次第でレイラちゃんの事務所に送金、そう伝えておくわ。いずれにしても、3月までにオレンジ等級への推薦はしておく」
「有難うございます」
ノーマさんに頭を下げ、ねぎらいの言葉を貰うと、オレ達は早速移動のためその場を後にしようとした。
石造りの管理所内に、足具の音が響き渡る。その音は扉の外の騒々しさに掻き消された。
「うう、寒い……何だ? 何か騒ぎ?」
「あっ」
管理所の建物の前に人だかりが出来ている。その中心にいたのは……
「え、ビアンカさんと、イヴァンさん?」
「あれって」
「おぉう、じゃみ」
もう1組の英雄夫婦、ビアンカさんとイヴァンさん。
そりゃあ人だかりが出来て当たり前だ。だけど2人はムゲン特別自治区に里帰りしていて、ついでにママッカ大陸の調査を担っていたはず。
それに、なんでジャビが?
あいつはアマナ島で魔王教徒の件で事情聴取を受けていたはずだ。それがなぜここに? というかビアンカさん達と一緒にいるんだ?
バスターになるための手伝いはしてあげると言ったものの、それはジャビと魔王教徒の関係性や、その他諸々が解決してこそ。
「あっ! イース! レイラ!」
「久しぶり! そっちはオルターくんだったね、元気そうだ」
「こんにちは、どうしてここに? ジャビも一緒だし」
猫人族のイヴァンさんと犬人族のジャビが一緒だと更に目立つ。そこに英雄の子供達まで揃えば、珍獣を見るかの如く人が集まる。
もう注目されることは仕方ない。オレ達は気にせず立ち話を始めた。
「イース! おれ事情聴取終わった! バスターになりてえんだ、宜しくな!」
「よ……はい?」
「船便はアマナ島から一度ママッカ大陸に寄るでしょ? シークはマガナン大陸に行ったし、ちょうど港町にいた私達に、ジャビの護送の相談があって」
「え、護送?」
「うん。協会はジャビを事件屋シンクロニシティに任せると決めたわ」
オレ達に、任せる?
つまりジャビはお咎めなしで、バスターとしての活動を認められたって事?
「え、え、ちょっと待って下さい! あたし達何も聞いてないんですけど!」
「ギリングの事務所にはもう連絡が行ってるはず。君達は移動するし、確実に連絡が付くのは事務所だから」
「……管理所が教えてくれなかったのは、俺達が知らない事を、知らなかったからって事か」
ジャビは明らかに新品のバックパックを背負い、目をキラキラさせて尻尾も振れている。旅立つ気満々だ。
「ちょうど良かった、ここで出会えたなら俺たちママッカ大陸に戻れるよ」
「お嬢とイヴァンちゃんは魔王教徒の拠点潰しの途中やけんね。ママッカ大陸はバスターが少ないけん、あんまり空けとられんと」
「イヴァンさんは、結局里帰りも2日しか出来てませんからね。まあぼくはモンスターを斬れるならどこでも大歓迎ですけど」
イヴァンさんに続き、魔槍グングニルと炎剣アレスも事情を説明してくれる。わざわざジャビを送り届けてくれるつもりだったのか。
「これで4人パーティー、か」
「仲間は欲しいと思っていたから、まあいいとして」
「おまけに、後輩を育てる経験も出来るって事だ」
こんなに早く追いつかれるとは思っていなかったけど、ちょうどいいタイミングかもしれない。
戦力が増すのは願ってもいない事。
「いずれにしても、あたし達は一度ギリングに戻る。ジャビ、それでいいかしら」
「バスターにしてくれるならどこでも!」
ジャビは嬉しそうに答える。
この日、オレ達はこうして待望の新メンバーを迎えることになった。