Synchronicity-01 実力主義
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「だーめ、駄目だってば! あのね、成果は同じなのに、今の等級が何かで報酬変えるって正しいと思うわけ? みんな納得するわけ?」
「いや、しかしですね、我々としましても……」
「そりゃあちょっと手を貸しましたって程度なら私も言わないよ? こんな事。シルバーやパープルのバスター達の先陣を切って動いた子に対してこれ? 冗談じゃない」
翌日、管理所に向かい、昨日の闘技場での一件を報告した。協力してくれたそれぞれの話を聞き、管理所も事態の重さを理解してくれた。
エインダー島での騒動は父さんが動いてくれたこともあり、ある程度把握してくれているみたい。
審議中ではあるけれど、オレ達のオレンジ等級昇格は固いと言われた。事情を聞かれた観客や出場者達がオレ達を評価し、推薦してくれたんだ。
オレも協力してくれた全員の名前を挙げ、彼らがいなければ対処できなかったと伝え、昇格への加点をお願いした。
それと今ノーマさんが騒いでいるのは、ちょっとまた別の事。石造りの広い管理所内に、ノーマさんの声が響き渡る。
「ノーマさん、落ち着いて」
「そうですよ、あたし達がバスター達の無謀な挑戦のきっかけになるのもまずいですし」
「いーや、これは言わせて。貢献にはそれなりの報酬が当たり前! 現地で詳細を目の当たりにしたのはレイラちゃん達よ? 今回対処したのもレイラちゃん!」
「そ、そう言われましても、ブルー等級としての報酬や待遇の上限が」
ノーマさんが怒っているのはおおまかに2点。
1点は、同じことをやったのに、参加者の等級によって管理所からの謝礼金の額が違った事。
もう1点は、オレ達のエインダー島奪還作戦への参加はやはり認められない、という事。
同一の労働をしたのだから、同一の報酬であるべき、というのがノーマさんの弁。もっと言えば、一番活躍したのはオレ達だと言い、そのオレ達が最も報酬が低いのはおかしい、という事らしい。
「ノーマさん、俺達は金のためにあいつをやっつけたんじゃないっスから……」
「明日以降もバスターとして怪我も病気もせず、安泰な活動が出来る保証は?」
「え?」
「私達バスターは自己責任。もしもがあっても誰が面倒見てくれるわけでもない。管理所は報酬をもって責任を果たした事になるのに、これで責任を果たしたと言える? 1パーティーにたった5万ゴールドで?」
ノーマさんは本部側の人物で、管理所の所長とだって対等に話が出来る立場にいる。とはいえ、こっちが望んでいた作戦への参加も含め、全てを進言してくれるとはおもってなかった。
職員さんは申し訳なさそうだ。
「……協会の会長に話を通してみます」
「是非そうして。等級並みの働きでいいや、なんてバスターが量産される前にね」
ノーマさんはご立腹だ。オレ達よりご立腹。
「おぉう、ノーマ、おこますか」
「うん、怒ってるね」
「おぉう、ノーマおこ。ぬし、おでんじ等級、しますか?」
「そうだといいんだけどね。でもオレンジじゃ参加させてくれないらしい」
「ボク、もしゅた斬るよごでぎます、いぱい斬るます。ぬしつもいばすたなるます。ぱぽる等級、しますか?」
「パープルになるには時間が無さ過ぎるよなあ、さすがに父さん達だってこんなに昇格早くなかったよ」
ノーマさんがごねても、オレ達の参加は多分無理だと思う。レイラさんが闘技場で
荒稼ぎしたお金もあるし、もうこの町に用はない。
「あーもう! 頭固いんだから! ちょっとレインボーストーン出してくれる? 絶対にこの子達の気力と魔力、オレンジ超えてるわ。能力があって功績も大きければ文句ないじゃない!」
「ノーマさん、大丈夫です。オレ達はもう1つくらい何か役に立ててから、ここまでやったんだぞと胸を張って申請しますから」
「あたしも事件屋として協会職員の立場にいます。規則を守らせる側の気持ちも分かりますし」
オレ達がなだめ、ノーマさんはやっとため息をついた。諦めてはいないみたいだけど。
「私の出身、シロ村なの。分かる?」
「シロ村って、確かバルドルが好きな村だったよな。ほら、イースの親父さんがキマイラを倒した」
「そう、ギタのシロ村。あたしはあの事件の時、まだ母親のお腹の中だった。あなた達の親に救われたの、私は。父親はあの時死んで母は苦労したけど、生きていればこそ」
そう言ってノーマさんはオレ達に力強いまなざしを向ける。
「今度は私が助ける番。あなた達もきっと英雄になる。私が活躍させてみせる。でもそのためには正当な評価を受け、活躍の場に立てないと駄目なの」
ノーマさん、父さん達が戦ったシロ村で生まれたのか。大きく言えば助けてくれるのは父さん達がいるから。これはコネじゃないのかな。
「イースは特別扱いされたくなくて、実力で成り上がろうとしているんです。勿論俺もレイラさんも」
「特別扱い? 確かに恩人の子だから贔屓にしたいわ。だけどちゃんと聞いて、もう1回言うから。正当な評価を受け、正当に活躍の場に立たせる」
「もしここにいるのが英雄の子じゃなくても、ですか」
「改革推進部会の会長よ? 私は。バスターの地位向上、正当な評価、正当な報酬、そこに英雄の子だからって文字はないわ」
オレ達だけでなく、どのバスターも実力以上には評価しない。だけど、実力に見合わない評価なら是正する。それが改革推進部の理念の1つらしい。
「レインボーストーン、持ってきました」
「じゃあオレンジとパープルを握って。ああ、モンスターと対峙した時の緊張感を持ってね。イース君はまずグレイプニールさんを脇に置いてから」
言われた通りにこぶし大の石を握る。レインボーストーンは気力、魔力の量や質によって変色するから、変色すれば相応の実力があるという事になる。
「俺がいく」
そう言って真っ先に石を握ったのはオルターだった。
「……オレンジの実力はある。集中力、気力を一定に保てているのね、日頃から鍛錬を欠かさない証拠。銃術士はちょっと特殊だから厳しいと思うけどパープルは」
「パープルは……変わらない、ですね」
「銃を構えて、本気で何かを狙って。ああ、撃っちゃ駄目だからね」
そう言われ、オルターがリボルバーを1丁手に取った。それを遠くの応接室のドアノブに向ける。
「……あ、色が変わった! ほら、これ変わってますよね!?」
レイラさんが大声を上げ、オルターも慌ててリボルバーの引き金から手を放した。色はすぐ元に戻ったけど、確かに石は紫色になっていたんだ。
「そう、これが実力。実力は普段持っているものじゃなく発揮するもの。いざって時に発揮できるかが重要。オルター君はそれが出来る、パープル等級のバスターの働きが出来るって事」
「俺が……」
「レイラちゃん。いけるよね」
「はい……」
レイラさんが石を握る。魔法使いの魔力に触れると石は黒く変色するんだ。オレンジの石は黒ずんでいく。
「オレンジの基礎はあるって事。次、あなたが全力で支援しないといけない状況を思い浮かべて、治癒魔法を放って」
「わ、分かりました。……ケア! ヒール・オール! ラピッドステップ!」
魔術書を開き、レイラさんが魔法を畳みかけた。その効果に邪魔されそうになったけれど、握りしめられた石は確かに黒っぽく変色した。
「うん、実力は到達してる。3人しかいないパーティーで死戦を潜り抜けたからこそ。背伸びした戦いをしてきたおかげで、自らの魔力を引きずり出せるようになったんだわ」
驚くレイラさんにウインクをし、ノーマさんはオレに石を握らせる。
「この時点でもうオレンジの石は変色。実力は十分って事。さあ、パープルの石を握って」
「はい」
「技を放ってもらうわけにはいかないけど、全力は簡単に測れる」
「どうすればいいんですか?」
「あなたの全力は、グレイプニールさんとの共鳴でしょ。共鳴して、あの魔法剣を」
共鳴は疲れないと出来ない。オレはちょっと待ってくれと言って無意味に気力を使って跳んだり跳ねたりし、5分程駆け回った後でグレイプニールと共鳴した。