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Ark-04 脱出計画



 父さんに言われ、オレは各小屋を回った。結局オレ達は誰も仮眠を取っていない。全員が小屋から出てきた時、レイラさんとオルターは揃って欠伸をしていた。


「皆、真剣に聞いてくれ。俺達が全員生きて島を出られるかどうかの事態だ」

「えっ?」

「どういう事だ! あんた達の迎えの船も来るんだよな?」

「2日遅れてはいるが俺達の仲間の船だって来るし」

「いや来ない。おそらく後何か月経っても来ない」


 父さんの発言に、魔王教徒達はざわつき始めた。当然だろう、オレ達はやって来た魔王教徒の補給船も捕まえようなんて話をしていたんだから。

 その船が来ないと断言した事に、皆が怪訝そうな顔をする。


「船は既に着いていた。その上で、今も北東に放置されている」

「……はっ? もう着いている?」

「俺達はどのように物資を運んでいたのか知らない。ただ船はあり、蟲毒の付近に荷物が散乱していた」

「た、確かに……蟲毒のすぐ近くに餌置き場があるけど」

「回りくどい説明をしないでくれ、つまりどういう事なんだ」


 動揺した魔王教徒達が父さんに詰め寄る。父さんは真剣な表情ながら「まあ、そうだね」と努めて平静を装った。


「あのー、つまりだね。船でやって来た魔王教徒達は行方不明って事さ。僕達が見つけた船には誰も乗っていなかったし、積荷は復路用と思われる水と食料、数名の鞄があるだけだった」

「行方不明?」

「うん。蟲毒の周辺には人の腕が転がっていたよ。僕達が来なかったら、それが君の腕になるかもしれなかったね。死に損ないになれて良かった」

「バルドル、死に損ないの使い方間違ってる」


 バルドルの空気を読まない発言に、魔王教徒達はドン引きだ。事情を今知ったというのはレイラさんとオルターも同じだった。


「しみぞこまい、何ますか?」

「死に損ない。死ななかった、って事」

「おぉー、死にももならまい。良います」

「ちょっと待って、おじさま。つまり、強いモンスターが蟲毒の崖下から這い上がって来たって事?」

「じゃあここも安全ではないって事ですよね? 何で真っ先にここを襲わないんだろう」

「この場所の存在を認識していないのか、この数日のうちに幸か不幸か餌を食べたいだけ食べて満足しているのか、ってとこだと思う」


 皆の顔色が悪い。そりゃそうだ、制御不能な強いモンスターがうろついているんだから。自分達が生み出したとはいえ、アンデッド化させなければ操る事は出来ない。

 そして、魔王教徒達には魔具が装着されている。


 それ以前に、魔王教徒はモンスター相手に戦えるだけの戦力を持っていない。人を騙し打ちしたり、心理戦をしたり、そんなのモンスター相手じゃ通用しないから。


「ど、どうすんだよ、あんたらが退治してくれてんのか?」

「船があるんだろ? 船でみんな逃げようぜ!」

「そいつまだ島の裂け目にいるんだよな? な?」


 魔王教徒達は次第にパニックを起こし始めた。魔具を外そうとしたり、頭を抱えたり、足枷のままうろうろしたり。


「姿は見えなかった。もし見えていたら戦わないといけなかっただろう。今はその裂け目とやらで餌をゆっくり喰っているんだろう」

「その餌を食い終わって腹が減ったら……」

「食べ物を求めて外に出てくるだろうな」


 魔王教徒達の顔色が一斉に青くなった。

 オレ達はまだ戦う術がある。5日生き延びる事が出来れば迎えが来る。だけど魔王教徒達は逃げきれるだろうか。オレ達が守れるという保証はない。

 次に食べ物となるのは彼らだ。


「た、助けてくれ! 魔王教徒に手を貸した事、罰を受けるのは覚悟している!」

「助けてくれって言われても……あたし達が勝てる相手か分からないし」

「なあ、戦ってみたら勝てたりしねえのか?」

「戦う事は出来るだろうね。でも、シーク、イース、レイラ、オルター、この4人で全員を守れると思うかい」

「おれも戦う! 武器ならこいつらに借りてんだ。そこにある斧と剣と槍、好きなの使っていいってよ」


 ジャビはまだ事態の深刻さを理解していない。戦うチャンスに喜び、どの武器にしようかなどと悩み始めた。

 そんなジャビにオレが苦言を呈する前に口を開いたのはオルターだった。


「おいジャビ。戦うくらい俺達全員覚悟してんだよ。だけど聖剣バルドルが言った事、もう1度よく考えろ」

「4人戦えるんだろ? おれも戦えば5人じゃん」

「そうじゃねえよ。おまえバスターになりたいんだろ? 今のお前の志じゃ、バスターにはなれねえ」

「なんでだよ、おれ強いぞ」


 ジャビはどんなモンスターと戦ったとか、一撃で倒せたとか、そういう話しかできない。バスターに本当に必要とされるものは強さじゃないのに。


「ボクつもい、よごでぎる剣ます。けでのも、もしゅた斬ゆためちまう。ボクはぬしもため斬ゆます。ぬしお助けるます。ぬしよごできる、死にももならまい、ボクしまわせ」

「バスターはね、自分のために力を使うんじゃないの。困っている人を守るために武器や魔法を使うの。戦えたらそれでいいみたいな考えの人、バスターに必要ない」

「んー何が違うのか分かんねえ、倒したらみんな守れるだろ?」


 ジャビはレイラさんの言葉でも納得しなかった。


 ジャビは人族の教育を受けた事もない上、猫人族よりも人族との交流がない。犬人族でムゲン特別自治区を離れた人なんて、ひょっとすると10人もいないかもしれない。

 混血を含めた猫人族だって自治区外には100人もいないし。


 バスターとは何かをきちんと理解していないのは、ジャビのせいではない。これは仕方がないのかもしれない。


「バスターは武器を持つ。武器を使えばモンスターを倒せるけど、人を傷つける事だって出来るだろ」

「あ? 何で?」

「……世の中には悪い人がいるんだ」


 オレはジャビに殺人や強盗などの犯罪がある事を伝えた。今日出会ってすぐの時もそうだったけど、犬人族には基本的に悪人という概念がないからだ。


「……つまり、この魔王教徒の上の偉い奴みたいなことか?」

「そう。そういう奴に武器を渡すと、人を殺すために使ってしまう。だから強いだけで武器を使う許可は出せないんだ」

「んと、悪い事しないのと、コドクの奴と戦うの、何か関係あるのか?」

「戦いたいだけの奴は連れて行かない。何のために武器を振るうのか、自分で答えを出せないうちは駄目だって事」


 ジャビは不満そうにしているけど、ここはバスターとして譲れない。


「とにかく、ここは安全とは言えない。そして5日後に来る船に全員乗るのも不可能だ」

「ふ、船を造るってのはどうだ? 小屋の板を使えばいかだに出来るよな」

「この絶海の孤島から木製の板に乗って20名が脱出? 転覆するのは明らかよ」

「2,3人が乗る程度の小舟ならなんとか頑丈に作れる。帆もシーツを使えばなんとか」

「そうしたいならしてもいい。人の気配が強いこの場所に居続ける事も、大きな音を立てる事も、得策とは思えないけどね」


 人の匂いが残り、そこから船を製造する音が響いてきたなら、狙うのは当たり前だ。蟲毒の裂け目からここまでは僅か1時間。少し彷徨えば辿り着いてしまう。


「……すぐにでも遠くに行った方がいい、って事だな」


 魔王教徒達は互いに頷き、拠点を捨てて逃げることを了承した。俺達に攻撃を仕掛けて返り討ちにあった奴には、レイラさんが仕方なく治癒術をかけた。


「ま、魔具はそのままでいい! だけど手枷や足枷は外してくれないか! これじゃ逃げられない」

「……分かった。変な気を起こした奴は島からの脱出に手を貸さない、いいな」


 オレがそう言った事で、父さんが全員の拘束を解いた。

 みんな逃げても生きていられないと分かっているからか、逃げようともしない。


「さて、どうしようか」

「この人数で5日も逃げ続けられるかな」

「……いや、無理だ。どのみち迎えの船には10人も乗せられない」

「じゃあ、倒すしかないって事っすよね」

「ねえおじさま。仮に今そいつが食事中なら、今が一番安全って事よね」

「まあ、そうだな……」


 レイラさんがしばし考え込んだ後、とんでもない事を言い出した。


「食事中にぱぱーッと船まで行って、とりあえず脱出しちゃいませんか」

「……えっ?」

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