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Rematch-14 頼る相手を間違えたが故に


 魔王教徒全員にバルドルとグレイプニールを触らせた。良からぬ事を企んでいれば、その場で縛り上げる。


 持ってきた魔具は30個。魔力を持っている魔王教徒は14人。一部抵抗しようとした奴がいたけど、オルターの冷たい視線と向けられた銃口には敵わなかった。


 隠れている奴はいない。この島に他の拠点はない。それはグレイプニール達が読み取ってくれている。

 ただ、問題は蟲毒の準備がかなり進んでいる事だった。


「成る程ね。武器をまともに扱った事がないジャビを頼る理由が分かったわ」

「魔王教徒の拠点を告発して謝礼金貰った方が賢いもんな」

「わざわざバスターが魔王教徒側につく理由がない、か」


 魔王教徒の拠点を発見、もしくは有力な証言が出たなら、それだけで高額な報酬が出る。魔王教徒側についたって金持ちにはなれない。食うに困らない程度だ。

 おまけに魔王教徒と共に活動したって、その実力は表に出ない。それでは昇格も出来ないし、武器や防具も良いものに新調できない。


 そのせいで魔王教徒は蟲毒を行ったとしても、そのモンスターを仕留めることが出来ない。そのうち育てているモンスターが強くなり過ぎて、対抗できるモンスターの捕獲もできなくなった。

 今はアンデッドの瘴気に浸らせて、少しでも進化が進まないかを観察している時期だったみたい。


「弱いモンスターだったら倒して放置されているものもあるけど、強いモンスターは燃やすのは当たり前になってるもんな」

「うん、そのおかげで攻撃術士の数が足りないなんて言われてるし」

「強いモンスターの死体を手に入れてアンデッドにするのも難しいよね」


 死霊術は人を相手にした戦いを得意とする反面、モンスターを攻撃する手段に乏しい。魔法の才能があっても、その才能を活かしきる事ができないんだ。

 それなら魔王教徒の中でも死霊術を覚えずに攻撃術や治癒術を覚える人がいてもいいのに。


 とはいえ、強力な魔術書はバスター証を見せて購入するのが必須。バスターとしての功績を積み重ねる事が出来ないから、良い魔術書も買えない。

 攻撃術の達人がいないから、強力な魔術書の職人にもなれないし、作る事も出来ない。


 結局、ジャビのような強い一般人を連れて来て、蟲毒で生き残ったモンスターを仕留めさせるしかなかったんだ。


「ぬし、ゆきますか?」

「そうだね、どれくらい強いモンスターになってるか分かんないけど、放っておくわけにもいかないし」

「ぴゃーっ!」

「魔王教徒が自力で仕留められるといっても、せいぜいオレンジ等級程度だろう。大勢で挑んでパープル。それなら俺達で行けるはずだ」


 父さんがよいしょと腰を上げ、戦いに行く……のかと思ったら、水が抜けた拠点の中に下りていく。


「父さん?」

「魔王教の事が分かる資料や、魔王教徒の魔術書を探そうかと」

「ああ、そうだね。連絡先や相手の名前、その居場所なんかも分かるかもしれない」

「お前たちは捕えた魔王教徒の見張りを。俺とバルドルで探すから」


 そう言って父さんは1つの小屋に入っていった。


「なあなあ、その強いモンスターは倒しに行くのか?」

「うーん、この人達を放置しておくわけにもいかないし」


 グレイプニール達が心を読んだからと言って、後で心変わりしないとも限らない。迎えの船が来るまで、少なくとも数日は見張りになるだろう。


「ぬしぃ……もしゅた、斬りますか?」

「迎えに来てくれる船に事情を伝えて、全員を護送できないとな」

「おぉう、ボクかなち」


 捕えた魔王教徒達は意気消沈。定期的にグレイプニールで心を読むけれど、オレ達から逃げたところで絶海の孤島からは出られない。

 生きていくための食糧の確保も難しく、教団の補給船だってうまく来れるか分からない。


 成す術なし、それならおとなしくしていた方がマシ。そう考えているみたい。


「それにしても、暑いな」

「イース、アイスバーンでぱぱーっと冷やしてくれないか」

「そんな、人を便利な道具のように」


 炎天下に放置すれば、魔王教徒達が熱中症にかかってしまう。いくら悪人とはいえ、捕えた後に虐待するのはなんか違う。


「捕えた奴らを小屋の中に戻さないか? この日差しと暑さで衰弱されたらたまらない」


 オレの提案に、魔王教徒達はどこかホッとしたようだった。

 オレ達は怪我人を含め全員をくぼ地の中へと移動させ、3つの小屋に振り分けて入らせた。


 オレ、オルター、レイラさんとジャビ。それぞれが小屋に割り振られた魔王教徒を見張る。まあトイレに行ったり飯食ったりは自由って事で、軟禁に近いかな。


 父さんはそれぞれの小屋を回り、外の警戒もしてくれる。夜はグレイプニールとバルドルが外で見張り。1日のうち、父さん、オレ、オルター、レイラさんの順で1人ずつ6時間の睡眠を取る事も決めた。


 昼間でも小屋の中は暗くて、寝るのに困る事はない。


 俺は見張り当番の小屋に入った後、項垂れる魔王教徒に声を掛けた。


「なあ。あんた達は何で魔王教徒になろうと思ったんだ」

「……」

「いや、別にグレイプニールで心を読んでもいいんだけどさ」

「……じゃあ喋る必要はないよな」

「まあね。でも、こんな状況で意地を張る必要、もうないと思うんだ」


 グレイプニールは便利だ。容赦なく相手の考えを暴くことが出来る。だけど、それに頼りきりになったら……オレは相手に心を開かせる力を失ってしまう気がするんだ。


「あんたは恵まれた立場だから、俺達にそんな上から物を言えるのさ」

「そうかな。まあ確かにオレは恵まれた境遇に生まれたと思うよ。でも……英雄の子なんだから、英雄の子供のくせに、そう言われるのもきつかった」


 みんな作戦遂行や助かる事を諦めているけど、反省はしていない。オレは捕まえて引き渡すだけじゃなく、魔王教徒の目を覚まさせたくなった。


 こんな教団に頼らなくても生きていけるんだと思えなければ、いつか刑務所を出た時、魔王教団に戻ってしまうかもしれない。


「実力で成り上がるんだ、親の名前を出さなくてもオレはやれるんだ、そう思っていた時期もあったよ。でも、親の存在を伏せたオレなんて誰も興味なかったんだ」

「……」

「身体能力しか取り柄がない猫人族が田舎から出てきた、くらいにしか思われなかった。名乗れば姓でバレる。仲良くなろうにも新人はみんなパーティーを組んでた」

「自分の身の上を勝手に話すのはいいけどよ、何が言いたいんだ?」


 んー、やっぱり反応は鈍いか。

 オレから身の上話をすれば、他の人も話しやすいかと思ったんだけど。


「そうして気付けば半年が経ってた。オレは1人で数日掛けて1つクエストをこなすのがやっと。食うに困って酒場でアルバイトさ」

「……」

「オレ達が捕えた魔王教徒の中には、路頭に迷っていたら、魔王教徒が手を差し伸べてくれたって人もいた。もしあの時、魔王教徒が素性を隠してオレに手を差し伸べてたら」


 魔王教団だと気付かずに、加担する側に回っていたかもしれない。


「……俺は魔王教徒の2世だ。魔王教徒になろうと思ったことはない、生まれた時から魔王教徒だった」

「僕は恐喝から助けて貰ったんだ。魔法が使えると言ったら、うちで魔法の研究者を募集してるって」

「俺はミスラで恋人に金を持って逃げられてさ。途方に暮れていたら、男が現れて辺境を開拓して新しい村を作るのに人手が足りないと」

「俺は友人と思ってた奴に裏切られてね。復讐を手伝ってくれる人を探していたら、呪術の研究をさせてくれると声を掛けられた」


 みんな、積極的に「魔王教徒になろう」としたわけじゃなかった。自分が困っていた時、現れたのが魔王教徒だったに過ぎない。


「……オレは、仲間に恵まれて運よく魔王教徒にならずに済みました。頼る相手を間違えたからって、自分まで間違っている奴に合わせる必要ないと思います」

「別に魔王教に思い入れがあった訳じゃない。必要としてくれただけだ」

「じゃあ、今度は魔王教団の解体のために、力を貸してくれませんか」

「え?」

「内情を知る人が1人でも多く必要なんです。必要とするのがオレ達じゃ駄目ですか」

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