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Rematch-13 蟲毒



 ジャビに説明するのは骨が折れた。猫人族よりも人族との関りが少ない彼らは、基本的に悪人という概念がないんだ。悪と言えばモンスターや自然災害を指す。


 長年自治区から出なかった猫人族も同じ傾向がある。敵という概念はあるけど、確かに悪人への警戒心はあまり強いとは言えない。

 ムゲン自治区にある猫人族の村「ナン」の家々には鍵なんてないし、犬人族の村「キンパリ」は、そもそも玄関扉がない。


 もっと言えば、各村共に牢屋が出来たのだって、20数年前の魔王教徒狩り以降だ。


 ナンの猫人族は1700人、キンパリの犬人族は1300人。その混血「ワント」は合わせて100人弱。その他、家族単位で移動生活をしているのが200人程度。

 広いムゲン自治区内にたったそれだけしかいないのだから、悪事など働けば生きていく術を失う。


 水場を失い、力を合わせる狩猟は出来ない。植物が生えているのは各村の周辺くらいで、移動式住居で暮らす放浪民でもなければ、他の水場は分からない。


 そんな環境で生きてきたジャビに「こいつらは悪人だ」と言っても、ピンとこない。説明が難しく途方に暮れていた時、文字通り「助太刀」してくれたのはバルドルだった。


「僕達の事は知っているね、ジャビくん」

「おう! 英雄シーク・イグニスタと聖剣バルドルっていやあ、村の皆の憧れさ! 本当にいるんだなあ」

「……僕達はかつて魔王教徒と戦ったんだ。彼らがモンスターを使って人を襲ったからね」

「なんでだ?」


 バルドルは根気よく魔王教とは何か、彼らが何をしているかを説いてみせた。時折父さんが補足をし、オレ達も見聞きしてきた事実を伝える。


 奴隷という言葉すら知らない彼も、しばらく説明を受け、ぼんやりとは理解できたようだ。一応、オルターが見張りをしてくれているけど、魔王教徒達はすでに戦意喪失してしまったようだ。


「つまり、おれ達にとってもモンスターって事だな」

「まあ、脅威という意味ではそうだね」

「おれ、てっきり修行させてくれてんのかと思ってたよ。なーんだ、あのモンスターを使って人を襲わせようとしてたんだなあ。んじゃあ全員倒せばいいのか? 斬っちまうか」

「おっと、シーク以上に無慈悲深い子だね」

「俺は慈悲深いじゃん」


 父さんとバルドルが無慈悲談議に花を咲かせ始めた。脱線を始めると止まらないんだよね。


「それで、グレイプニールが読み取ったのはどんな事だった? せっかくアンデッドを集めてるのに、ジャビに修行と偽って倒させようとしたのは何で?」

「なおうきょうと、あんでっど、集めるします。じゃび、斬るます。あんでっど、いぱいしにももなられます。負のちかま、いぱいなるます」

「……確かに、アンデッドは負の力の集合体みたいなものだし、治癒術や炎で浄化しない限りその場に負の力が残り続けるね」

「負のちかま、いぱいなるしまた、もしゅた持てこまれ、もしゅた、もしゅたと戦うます」


 負の力が集まった場所に、モンスターを投入する? そしてモンスター同士で戦わせる……って事か?


「え、何でそんな事をするんだ?」

「つもいもしゅた、残まれなす。いちまんつもいもしゅた、そだまれなす」

「……意図的に強いモンスターを?」

「ぴゅい」

「蟲毒……ね」


 ふとレイラさんが呟いた。コドクって、何だろう?


「そうだなあ、強くても1匹だけじゃあ寂しいよなあ」

「ああ、そういう事?」

「おおう、ぬし、ボクあるします。あびちぃならまいなすよ?」

「違う。1人ぼっちって意味の孤独じゃなくて」


 あ、違うんだ。ジャビもまだ分からないみたいで、「じゃあ寂しくはないのか~」なんて勝手に納得してる。


「ぬし、ひとり。ボク、ひとちゅ。ひとりぼっちちまう。ひとりひとちゅ。あびちぃちまう」

「グレイプニール、あなた一度寂しいって言葉から離れてくれる? 元は虫の毒っていう意味なんだけど」

「毒蜘蛛か! でも内臓取りゃ食え……」

「ジャビ」

「なんだ、おれの知らない毒抜き方法か?」

「とりあえず黙って聞ける?」


 レイラさんが眉をしかめながら笑顔を作る。


 ジャビは純粋過ぎる。まあ狭い世界で生きてきた犬人族にとって、身の回りにある事象からしか連想できないのは仕方ない。


 というか、虫の毒と聞いて同じことを思ったなんて事は……黙ってた方が良さそうだな。


「古代の呪いの儀式の一種よ。同じ場所に虫を集めて、共食いをさせるの。そうして最後に残ったのは一番強い個体と言える」

「残った個体をどうするんですか?」

「当初はその毒を使う呪術だったらしいけど。長い間負の力を受け続け、倒した相手にも付近の負の力がべっとり付いてる。それを食べ続けた強いモンスターを操ることが出来たら」


 負の力を1体に集中させる……って事? それまでにモンスター同士で喰らい合って蓄積された負の力が、最後の1体の体に全て吸収される?


 考えられなくはない。それに負の力が溜まり続けたら、鳥型のモンスターが嗅ぎつけて集まってくる可能性もある。そうなるとエインダー島はモンスターの巣になってしまう。

 異なるモンスター同士が集まり、喰らい合い混ざり合う事によって、新種のモンスターが出てくるかもしれない。


「成程、かつてのアークドラゴンも、そのようにして生み出されたかもしれないね」

「おっと、バルドルちゃんと話聞いてたんだ」

「剣聞きの悪い事を言わないでおくれ。シークのお母さんやチッキーと違って、僕は話を聞くのが得意なんだ」

「バルドルは聞く3倍くらい喋ってるけどね」

「聞くより喋る方が得意だからと言って、聞くのが不得意ってわけじゃないよ、イース」

「ふひひ、ぼくおじゃべるお得意さま!」

「グレイプニールは……もうちょっと頑張ろうか」


 ……減らず口って言葉、っていうか口はどこだって話なんだけど、バルドルに相応しい言葉だと思う。バルドルを言い負かせるのは父さんくらい。

 グレイプニールにいたっては「さまが付く方が強い」くらいの認識だし、問題外だ。


「アークドラゴンは確認出来る限り1体しかいない。1体だけじゃ種として存続出来ない事は知っているし、あんな個体が何体もいたなら、人はここまで繁栄出来ない」

「それは、確かにそうだと思う」

「もしかしたら4魔と言われたゴーレム、メデューサ、キマイラ、ヒュドラ、この4体も意図的に生み出された可能性がある」


 4魔。アークドラゴンに仕えるモンスターと言われた強いモンスターだ。かつてバルドル達を使っていた勇者ディーゴ達でさえ、倒せなかったという。

 バルドルを除く他の伝説武器達は、それらを封印するための触媒となって300年間4魔を封印し続けていたんだ。


 もしそれに匹敵するようなモンスターを生み出されたら。オレ達に倒せるんだろうか。


「一応、言っておくとだね。もし4魔の1体でも現れたなら、君達では勝てないよ」

「……実力が、足りないって事?」

「それもある。僕達やビアンカ達が全員手伝ってくれたとしても互角だろうね。シーク達の身体能力は10代、20代の時とは違う」

「ぬしとぼく、きょうめいしますか?」

「僕達も共鳴は出来る。君とイース、それに全盛期を過ぎた僕達の共鳴程度で倒せるようなモンスターを、わざわざ生み出そうと思うかい」


 オレ達が倒せないモンスターを生み出そうとしているって事か。


「用意しようとしてるのは、既に倒されたような強さのモンスターじゃない?」

「あたしが言い出した事だけど、なんか嫌な予想しちゃったかな」

「え? おれ戦いてえけど! なあなあ、おれをバスターにしてくれねえかなあ!」

「……獣人族には特例制度があるけど、かなり厳しかったはず。その話は戻ってからよ」


 蟲毒……か。という事は、どこかにモンスターを隠してるって事か?


「おーい、どうやらこいつら降参みたいだぜ」


 みんなで考え込んでいると、オルターが背後でオレ達を呼んだ。


「こいつら全員降参だってよ。魔力持ちには全員魔具を填めていくから、グレイプニールと聖剣バルドルで1人ずつ心を読んでくれ」

「ぴゅい」

「まったく、君達ってば剣使いが荒いんだから」

「へへん、俺は銃使いだからな」


 オルターがバルドルに勝ち誇ったような笑みを浮かべる。蟲毒に関する話は中断し、オレ達は魔王教徒の逮捕に取り掛かった。

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