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Rematch-10 真の意味での共闘



 グレイプニールが、そんなことを……。

 いつも撫でろ、褒めろと主張しているから、自分が認められたくて褒められたくて必死なんだと思っていたのに。


 グレイプニールはオレの気持ちを分かっていたのに、オレはグレイプニールの気持ちを分かっていなかったんだ。


「英雄の子だから、優遇されているから。そんな事、本当に強いバスターに向かっては言わないんだ」

「誰もおじさまに向かって、聖剣を持っているから強いなんて言わないでしょ。聖剣バルドルが持ち主を選ぶのは周知の事実だし」

「……うん」

「俺がグレイプニールに気力を流したとして、同じ強さになったかは分からない。イースとグレイプニールだから、今の状態なんだろ」

「……うん」


 バルドルは遥か昔、魔法の祖であるアダム・マジックの魔力で喋れるようになった。父さんが持ち主になってからも、気力や魔力を入れ換えられるまで数年あった。

 その間でも、バルドルはハッキリと父さんが自分にとって最高の持ち主だと分かったって言ってた。


 誰の気力や魔力で術式が発動したかじゃない、誰が使っているか、誰の気力を刃に変えているか。


「……バルドルは、それまでの持ち主をどう思ってた?」

「大切に思っていたさ。けれど、自分の威力を完全に発揮できているとは思っていなかった。僕達にはそれが分かる」

「グレイプニールは、自分の限界以上の威力で戦っていたって」

「君がグレイプニールにとって、最高の持ち主だという事さ、イース。もう一度問おう。グレイプニールは君にとって、誇りとなっているかい」


 グレイプニールは自慢の剣だ。それは間違いない。


「うん、オレにとって自慢の愛剣だ。他の武器を持つ事なんて考えられない」

「ふうん。じゃあ、君とグレイプニール、一緒にして誇れるかい」

「……」

「即答しなくちゃね。君は自己肯定感が低い、まるでシークみたいだ。君が肯定しないから周りが肯定しているというのに、どうしたら自己否定を諦めるのさ」

「いいのかな。オレは……自分に自信をもって、オレは凄いんだって、思っていいのかな」

「思うのは勝手だよ。状況次第で言わずにおくのも賢いけれどね」


 思うのは勝手……確かに、誇らしいんだぞ、凄いんだぞと主張しなくてもいいんだ。思うだけなら……。


「うん、オレはグレイプニールと一緒なら自分を誇れる。でも正直に言うと、グレイプニールなしの自分を誇れるとは思えない」

「君らしい答えだね。それでいい。グレイプニールにとって一番嬉しい言葉だと思うよ、思いが本当に伴っているならね。グレイプニールが目覚めたら伝えてあげておくれ」


 休憩の間、俺は言われた事をずっと繰り返していた。

 グレイプニールがオレを必死に持ち上げてくれているのに、俺は低い場所に留まろうとしていた。

 自分は駄目だ、凄いのは親なんだと考えて、自分が低い所にいるための言い訳にしていた。


 そうやってくすぶる自分でいる事で、オレはどこか安心していたんだと思う。不幸せな自分に酔って、本当はやれば出来る、でもやらないだけと思われたかったんだ。


「……頑張るよ、父さんの目の前で、バルドルにここまで言われて変われないなら、オレは一生自分を誇りに思える瞬間を迎えないと思うから」

「あたしも同じような事を考えて生きていたから、その決意も理解できる。あたしが父親のコネや自分の人脈を最大限利用できるまで、何年もかかったから」


 オレはグレイプニールを優しく拭き、アジトがありそうな方角を睨んだ。アンデッドを差し向けたのだから、魔王教徒はこの戦いを見ているはずだ。拠点に乗り込まれる事も想定しているはず。


「グレイプニールは起きないけど、アジトを覗きに行かない?」

「そうだな、ちょっと体力も回復したし」

「疲労はあっても、暗くなってから闇討ちされるのは避けたいよね」


 万全の態勢ではなくても、次の準備をされるまえに決着させたい。


「行くか」

「疲労困憊だと思われないように堂々と行くぞ。レイラちゃん、時折範囲ヒールを。アンデッドを隠していたらそれで見つけられる」

「俺も魔具で魔力の痕跡を追う事にする。その代わり狙撃に移るまで時間が掛かる。頼んだぜ、イース」


 4人で魔力の痕跡の先へと歩き出す。海からラスカ山へ向かい始めて1時間。なだらかな斜面が急になり始める地点に、広く深い亀裂を発見した。


 冷えた溶岩の真っ黒な地面に幅十数メルテ、長さ数百メルテの穴が空いている。遠くからでは分からなかったけど、その裏手の少し窪んだ場所には、木造で低い屋根の粗末な小屋が建っていた。


「……あれ、アジトだよな。つかあの仲間で痕跡が続いてる」

「小屋は4つ……大きさからして、1棟にせいぜい4,5人か」


 あの小屋で寝泊まりしているのなら、人数は多くて20人程。見えないからと油断して生活しているのか、物干し竿には服が駆けられ、鍋や野菜のくずが散乱していた。

 足元には所々水たまりがある。数日以内に雨が降っていたのか、それとも水魔法を使ったのか。


 小屋からは音が聞こえない。こんなにあからさまな状況でも息を潜めているなんて。


「どうする? 1棟ずつ対処?」

「いや、相手が何人いるかもわからないのに」

「そうだな……ちょっと失礼」


 そう告げると、父さんは急に魔法を唱え始めた。


「え?」

「ストーン」


 父さんは魔法で背丈ほどの岩を大量に生み出し、小屋がある窪みを囲んでいく。岩が地面に落ちる振動は小屋にも伝わっていると思うんだけど……まだ魔王教徒は出てくるつもりがないらしい。


 隙間はあるものの、オレ達は積み上げられた岩の上から小屋を見下ろす形になっていた。


「父さん、何してんの」

「こうすれば出てこれないだろ。さて」


 父さんはとっておきと言ってウインクした後、瓶入りのエリクサーを飲み干した。


「みんなも飲んでくれ、どうなるか分からないから」


 オレ達がエリクサーを不味そうに飲み干すのを見て、父さんは手を前に突き出した。何の魔法を唱えるのかと思ったら……。


「アクア!」


 父さんは急にアクアを唱え、小屋がある窪みへ水を注ぎ始めた。


「ちょっと、何をしてんの」

「いやあ、水溜まりを見て思いついたんだ。小屋を焼き払っちゃうと、逃げ遅れて焼け死んでしまうかもしれない。そうすると放火殺人だろ? 誰も見ていないとはいえ」

「この島はアマナ共和国の管轄だから、事件はアマナ共和国の法律で裁かれるわね。どこの国でも、放火殺人は死刑や終身刑だったはず」

「そ。だからファイアじゃなくてアクアで水攻めにしてみようかなって。膝くらいまでの水位なら命に別状はない。さ、手伝ってくれ」


 父さんは呑気に鼻歌を歌いながら、結構な威力で魔法を放つ。窪みは20メルテ四方あるかどうか。屋根は窪みからかろうじて出るくらい。窪みの周りは岩地獄だ。


 10分も続けているとさすがに水が溜まってきた。どこかから水が抜けているようだけど、貯まる速度の方が早い。もう床上まで水がきているのを見て、父さんがそろそろかと呟く。


「バルドル、いいかい」

「いつでもー」


 何をしようとしているのか、さっぱり分からない。だけど嫌な予感はしていた。


「イース、魔術書を手放してサンダーを。弱い雷で感電させる」

「うえっ?」

「はい、掛けた掛けた! サンダー」

「さ、サンダー」


 とんでもない事をさせる親だ、と初めて思った。だけどこのまあ、確かに焼き殺すわけにもいかない。捕えないと魂胆も分からないし。


 オレがサンダーを唱えると、小屋からガタガタと音がした。ピリッとしたんだろうな。


「これで出てこなかったらもう少し水を貯めて、ブリザードで凍らせてみようか」

「……父さん、楽しんでない?」

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