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Rematch-06 グレイプニールの秘密



 立ち寄る船? この海域を通過する必要がある航路は皆無と言っていいのに?


 南のライカ大陸からの航路は、東のマガナン大陸の港を経由するものばかり。

 大陸沿いの方が波は穏やかだし、大きな町もある。人口の少ないアマナ島まで、直行便を用意する程の需要もない。だからこの島があるからって、わざわざ寄る船なんかまずない。


「そもそも、この海域は南から北へ向かう海流のせいか、遭難船はまず漂着しない」

「ライカ大陸から来るにしても、エインダー島が南南東にあるからな。漂着するにしてもエインダー島に着くんだ」

「マガナン大陸から来るのなら、エインダー島をわざわざ避けて、アマナ島ではなくこの小さな島に辿り着くのは至難の業よ。海上でたまたま見つけて目指せる島じゃない」

「あの、この島の名前は」

「小さな島、よ。名前はないの」


 島民達は名前を付けず、今でも小さな島と呼んでいる。確かに世界地図はおろか、アマナ共和国の地図でも点くらいにしか載っていないような島だ。


 三角形の島の1辺はせいぜい数百メルテ。一番高い崖も100メルテちょっと。遠くからでもハッキリ分かるような島じゃない。

 むしろ噴煙を上げる標高2000メルテ級のラスカ火山ばかりに目が行く。


 偶然流れ着くような潮の流れでもないとすれば、目指さなきゃたどり着けないよね。


「立ち寄るようになった船は、この島からどこに行ったんですか」

「マガナン大陸に行く、と言いながら去っていったよ。全長30メルテくらいの船かな、えらく古い船だ」

「不審に思った住民が船で後を付けたんだが、エインダー島へと進路を変えた」


 アゼスが言っていたずっと変わらない拠点の1つが、恐らくそこなんだ。エインダー島には電話線を引いていない。勿論電話番号もない。

 アマナ島のミスラまで定期連絡と物資の補給のため通っているんだろう。


 アゼスが教えてくれた電話番号は、ミスラの民家の電話番号だった。管理所やアマナ共和国との話し合いの結果、敢えてその家の者を捕まえずに泳がせている。


 エインダー島に魔王教徒がいるのはほぼ間違いない。何をしているのかは分からないけれど、過酷で不便な隔離された環境をわざわざ選んだと考えた方がいい。


「……エインダー島にはモンスターがいない。いたとしても燃料を大量に使い、ちまちまとアンデッド化させて各地に送り込むのは効率が悪いな」

「僕達以外にも調査隊が何度か上陸しているけれど、渡り鳥くらいしかいないはずだ。冷え固まった溶岩の上で育つ作物もない」

「木々もない、燃料もない、食べ物もない。それでも拠点にする意味は」


 エインダー島には今なお噴煙を上げ続けるラスカ火山があり、溶岩の下に遺跡がある。でもそれだけの島だ。


「もしゅた、おられまい? おぉう、……ボク、何も斬れまい」

「この1,2年で状況が変わっていなければね」

「……行けば分かる話よ。とにかく皆さん、有難うございます」

「なに、わたしらは魔王教徒らしき奴らが現れても、本当に信用できる者が現れるまで何も出来んかったんだ。こちらこそ感謝をお伝えしたい」

「俺たちも、小さな島出身なんですよ」


 タナカさんもスズキさんも、この島の島民だった。外の誰に頼れば良いのか分からないのなら、自分達が島外に出て橋渡しをしようと考えたそうだ。


「イースさん、レイラさん。あなた方は親の名前で苦労したと言っていましたね。親の名前が付いて回ると」

「ええ、まあ……七光りというやつですから」

「でも、時にそれが俺達みたいに誰を信じていいか分からない奴には助かるんです」


 オレやレイラさんが有名人の子供だから助かるって、どういう事だ? 何らかの優遇を受けられるから? それとも他の有名人への伝手になるから?


「まあ、そうね。あたし達が英雄の子だから、シークおじさまも駆け付けてくれたんだし」

「いやいや、そうじゃないんですよ。そりゃ頼もしいですけど、復讐のために手伝ってくれと言って呼ぶわけにもいかないです」

「じゃあ、どういう事?」


 オレもレイラさんも、親のお陰でいい思いしているはずと言われたり、親とのコネの為に近づかれたりと、人間不信一歩手前くらいに嫌な思いをしてきた。

 親とのコネが狙いじゃないなら、何が目的なんだろう。


「イースもレイラさんも、親父さん達の事がなくてもいい奴だ。復讐したいから手伝ってくれって言われて喜んで手を貸す性格じゃねえよな。うーん……」


 ああ、やっぱりオルターも分からないみたいだ。

 そうだよな、オレ達が英雄の子で助かった、でも親が目的じゃないって言われても……まさかオレ達の身代金目的の人攫い? 絶海の孤島だし気付かれない……けど、んな馬鹿な。


「ぬし、トウさんいまいも、つもいますよ? 良い子ね、思うます。ボク、ぬししんじるます。ななみかり関係まいなす、ボクぬし好きます」

「あ、うん……ありがとう」

「トウさん、まるどむ、関係まいなす。ぬし良い子」

「ええ、活躍は知っていました。それを知ることが出来たのは、お2人が良くも悪くも有名人の子供だからです」

「魔王教徒を捕えようと活躍していて、親が英雄という保証もある。あなた達なら信頼できると思いました」


 そうか、親の七光りを浴びようって思うだけじゃないのか。

 父さん達の存在が、オレ達の身分の保証になってもいたんだ。


 英雄の子だから、悪い事はしないはず。信頼できるに違いない。そう思ったんだ。

 優秀に違いないとか、いい思いを出来るに違いないとか、そういう企みばかりじゃなかったんだ。


「……そうね、あたし達を直接知らなかったとしたら、どうしたって前評判を基準にするよね。信頼に足る人物かどうか、判断できる材料はないんだもの」

「言わば保証人ってことか」


 島民の皆が大きく頷いた。


「あの、それなら僕とシークに直接頼んでも良かったと思うのだけれど。その、モンスターを斬る事が出来ない依頼を僕とシークが歓迎するかは別としてね」

「俺は別にいいけど……」

「むぅっ、君はいつから僕の忠人じゃなくなったんだい、シーク」

「忠人はやめろ、忠剣の人版ってことなんだろうけど、なんかやだ」


 うーん、そうだよな。オレ達なんて、功績はあってもバスターとして強いわけじゃないし。


「その理由は分かるぜ。英雄達に頼めば、たとえシークさん達が望んでいなくても管理所は高額なクエスト費用を要求するよな」

「その通りです。オルターさんが言った通り、我々が直接シークさん方に頼む伝手も、お金もありません。我々が現実的に依頼できるのは、あなた達だけなのです」

「でも、オレ達は呼ばれてきたわけじゃありません。アマナ島に向かわない可能性もあったかと」


 アゼスさんが関与しているのか? でも、それならアゼスさんがオレ達に最初から説明をしてくれても良かったんだ。


「グレイプニール、もう大丈夫だ。イースに教えてやってくれ」

「……えっ? 父さん、何を」


 急に父さんがグレイプニールに呼びかけた。何を教えるって? グレイプニールは何かをオレに隠していたのか?」


「……ぬし、ごめまさい。ボク、共鳴しまた」

「共鳴? え、いやあ共鳴はした事あるけど」

「ぬし、おなすびする、おしゃべります」

「寝言って、こと?」

「ぴゅい。ボク共鳴、しますか? おしゃべります。ぬし、共鳴しでくでるます」


 ……え? オレ寝ぼけて共鳴してるって事か?


「ぬしおうち、おでんわしまた時、ボクおばんご、覚えるしまた。ボクおでんわする、まるどむおじゃべりしまた」

「グレイプニールが教えてくれたのさ」

「うっそ、オレの知らないところで」

「なるほどな、テレストにいた時、イースが夜中電話してるのを見掛けたんだけど。あの時の中身はグレイプニールだったのか」


 まさか、グレイプニールがオレを操って電話を掛けていたなんて……。


「グレイプニールを責めないでくれ、これは俺が頼んだ。グレイプニールが作られた日の夜、農鎌のテュールがグレイプニールに言葉を教えただろう? その時に伝えてもらった」

「イースが僕やシークを頼りたくなくても、危険な時に駆け付ける事くらい許しておくれ。自己責任と言われるバスターだけれど、君が死んだり傷つくのは嫌なんだ」


 父さんがオレの欠けた左耳を見つめている。

 ああ、そうか。オレは親に頼りたくないと意地を張って、心配する父さん達の気持ちを軽んじていたんだ。


「グレイプニールをくれたのは……オレが欲しがったから、活躍できるからじゃない。オレを守るためだったんだね」

「ああ、アゼスの事も聞いた。グレイプニールがマイムに行きたいと言わなかったかい? 本当はマイムで落ち合うつもりだった」

「……そういえば」

「言ってた。あたし達がアマナ島への直行を決めたから、マイムへの誘導をやめたのね」

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