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Rematch-05 この島という理由



 オレ達は「任せて下さい」と言えなかった。


「ぬし?」

「……ううん、大丈夫」

「なおうきょうと、ちかまれますか?」

「うん、捕まえるよ」


 これまでも魔王教徒に痛めつけられた人々を見てきたけど、憎しみを露わにしていたアゼスだって、自分で淡々と復讐を計画し、実行していた。


 誰だってバスターになれるチャンスはある。だけど、人に復讐するために武器や魔法を使う事は出来ない。そんなことをすれば魔王教徒と一緒だ。


 弔いたくとも、家族が命を散らした島へ上陸する事は出来ない。遺体は溶岩の下にあり、墓も用意できない。


 そもそもこの人達は魔王教徒じゃない。元魔王教徒でもない。

 家族を魔王教徒に奪われ、行き場のない怒りと悲しみを抱えながら、せめてもとこのエインダー島に一番近い土地まで越して来たんだ。


「……どうして、国やバスター協会に陳情しなかったんですか。魔王教徒の存在に気付いていたからこそ、ここに移住したんですよね」

「信用できなかったからだ」

「私達の頼みを聞いてくれる職人はいたでしょう。だけどその人だけが動いて解決できる?」

「必然的に複数の協力者を集める事になる。バスターから事務員まで、その中に魔王教徒と繋がる者がいないと言い切れるか。その身内や知人に情報は洩れないのか」


 確かにそうだ。オレ達だって内通者がいる事は確認済みだし。頼りたいが、頼れない。自分で何とか出来る域の話でもない。

 この島の人達は、ずっと信頼できる相手を待っていたんだ。


「エインダー島で起きた事、どこまで知っていますか。あの噴火を起こしたのは」

「アダム・マジックでしょう、知ってます。シークさん達の証言は聞いていますから」

「アダム・マジックの事は、その仲間であった俺の事は、恨んでいないんですか」


 父さんが静かに問いかけ、また波が大きく打ち付ける音が響いた。

 聞こえようで、父さん達だけ逃げて魔王教徒を見捨てたようにも受け取れる。


「……当初、あなた方が見捨てた、陥れた等々を疑いました。恨みを募らせなかったと言えば嘘になる」

「でも、生き残った者の話を聞くうち、あなた達が誰も殺さなかった事、あくまでも捕えようとしていたのだと聞きました」

「なぜ魔王教徒側からシーク達に有利な証言が出たのか、伺っても?」


 確かにバルドルが言う通りだ。まさか生き残りの中に、魔王教団に潜入していた人がいたのか?


「自分達が教祖として慕っていたアダムが敵だったと知り、仲間もほぼ全員死んだとあれば、魔王教徒で居続ける事が出来なくなったんじゃねえの」

「オルターさん、確かにそれもあったようですが。あの場にいたのが本意ではない魔王教徒もいたんですよ」

「本意じゃない? え、まさか」

「……困っている人を助けるフリして引き入れ、魔王教団以外には頼れないようにして支配していたんです」


 驚いた。魔王アークドラゴンが存在していた時期から、魔王教徒は奴隷を使っていた?


「そっか、イヴァンも奴隷にされていたんだった」

「成る程ね。だとしたら、あの時の僕達はその可能性を考えて、もっとよく諭すべきだったのかもしれない」


 父さんとバルドルは後悔しているようだった。その雰囲気をぶち壊したのは、レイラさんだった。


「シークおじさま。目の前にいる方々がおじさまを恨んでいない、それが全ての答えだとは思いませんか」

「……だけど」

「本意か否かは別として、魔王教徒として活動し、誰かに危害を加えようとしていたのです。洗脳されていたからと言って、それを仕方ないと言ってやる必要はないと、あたしは思います」


 レイラさんの毅然とした態度は、打ち付ける波すら躊躇したのではと思うほどだった。


「レイラさん、何もそこまで……」

「事情があれば悪いことをしてもいいだなんて、あたしは思わない」


 レイラさんは再度きっぱり言い切った。


「経緯は可哀想だと思う。だけど、逆らう勇気を持てない自分の弱さの代わりに他人を犠牲にして、その犠牲になった人になんて声かけるの?」

「それは……」

「この人も無理矢理悪い事をさせられていたの、だから責めないで、可哀そうだと思ってって? 可哀想は必ずしも正義じゃないでしょ」


 レイラさんはなぜこのタイミングでここまで強く言い切るのか。目の前には魔王教徒に引き込まれ、火砕流に巻き込まれた者の遺族がいるのに。

 父さんとバルドルを庇っているようでもないし、オレはレイラさんの態度が気になっていた。


「シークさん、バルドルさん。レイラさんが言った通りです。もちろん、死んで当然とは思っていませんが」

「わしらがここで留まり、行動に移せないのもまさにそれが理由だ。悪人相手だから親族の仇討ちをしても良いとはならない」

「でもね、出来る事はあるの。私達がただ感傷に浸るためにここにいると思う?」

「わたしらは復讐を手伝って欲しいと言ったんだ」


 ……どういう事だ?

 魔王教徒に殺されたから、殺し返すというわけにはいかない。だから攻撃をしようとは考えていない。だけど……ここには復讐のために住んでいる?


「……あっ、そうか」

「イース、何か分かったのか?」

「皆さん、復讐のためにここに住んでいる、って事ですよね」

「その通りですよ」


 ああ、そうなんだ。この人達は、ここにいたら魔王教徒に復讐できると考えているってこと。それがなぜここなのか。


 この島の位置と、オレ達がどのようにして辿り着いたのか、それが答えだ。


「エインダー島へ上陸しようとすれば、一番近いアマナ島から向かうのが一番ですよね」

「まあ、そうだけど……他所から来る事も出来るよな」

「燃料をめいっぱい詰め込めばね。だけど片道ならまだしも、往復しようとすれば足りない」

「……そっか! エインダー島に向かうなら、この島で必ず補給するよな」

「そう。そしてエインダー島に向かうのに、物資や人を排除し、この島を無視して燃料積んで往復する事は考えられない」


 うん、そうなんだ。この人達は、魔王教徒が必ずこの島に立ち寄らなければならないのを分かっているんだ。だからずっと魔王教徒を待っていたんだ。


「ごめんイース。でもそれって、魔王教徒がエインダー島に絶対向かうと確信してなきゃ成功しないよね」

「絶対に向かうんだよ。むしろ、今まで向かいたくても向かえなかったんだ」


 30年近く前なら、まだ帆船が主流だった。だけど今の時代、大きな帆船なんてほぼない。観光用の近距離航路くらいだし、目立ち過ぎる。

 父さんもようやく分かったようだ。


「噴火の影響で付近だけが浅くなり、エインダー島周辺の潮の流れはかなり速くなった。燃料補給のない帆船で上陸するのはかなり難しい」

「エインダー島に向かいたくとも、今や帆船は非現実的。燃料の補給なしでは向かえない。そんな時、この島に人が住み、燃料補給も出来るとなれば」

「エインダー島に来る理由って、何? 絶対に来るって言い切れるのはどうして?」


 レイラさんの疑問に対し、島民は自信満々だった。村長のヤマダさんは小鳥に餌を撒くような仕草をして笑った。


「餌を撒いたんですよ」

「エインダー島のラスカ山の麓で何かの跡があるらしいぞと」

「きっと成敗された魔王教徒達が遺したものだろうってね、噂を流したんだ」

「なるほど! その噂の真相、魔王教徒は確かめたいって思うよね」


 当時の事を知っている魔王教徒のうち、生存している人はほんの2,3人。魔王教徒達はそれが誰でどこにいるのかを知らない。


 実際に向かい、利用できるものがないかを見てみたいだろう。


「確かに、魔王教徒のアジトの残骸があるという話、管理所で働いていた頃聞いた事があるわ。おじさま、実際はどうなんでしょう」

「高温の火砕流に焼き尽くされて、ほぼ何も残ってないよ。ごく一部、300年以上前にあった村の石垣とか、石の柱はあったけど」

「おぉう、うそつきますか?」

「何かの跡としか言ってないんだ。魔王教徒のアジトの残骸があったとは言っていない」

「ああ。そうしてわたしらが計画的に住み着いて12年。2年前からついに立ち寄る船が現れ始めた」

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