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Rematch-04 復讐の島へ



 * * * * * * * * *



 船はアマナ島から南下し、夕方に小さな島へ到着した。エインダー島までの距離はあと半分くらいかな。


 島には小さな集落が1つだけあって、人口は80人程度らしい。農家が4軒、養鶏家1軒、農家兼商店1軒、酒屋兼居酒屋1軒、鍛冶金物屋1軒、木材屋兼大工1軒、元バスター1軒。残りの12軒は全て漁師だった。


 役場の支所もあり、そこには役人とその家族が住んでいる。

 聞いた家の数より建物が多く見えるのは、各家庭に納屋があるからとの事。


 木は自生しているけど、最初はわざわざアマナ島から資材を運んだというからすごい。家々は木造ながら、どこか新しくも見える。


「へえ、20年くらい前は誰も住んでいなくて、無人の漁師小屋と、エインダー島調査のための補給物資があるだけだったのに」

「入植は12年前からなんですよ。イグニスタさんがお見えになった後、アマナ島の住民の一部が移り住んだのです」

「人が多いアマナ島の方が生活も便利でしょ? どうしてここに」


 上陸の2時間前からケアを掛け始めたせいか、レイラさんとオルターは元気だ。海が思いのほか凪いでいたのも幸いしたようだ。


「この付近は潮の流れの緩急が、身が引き締まったマグロの成長にちょうどいいのです。水が湧いているのも幸運でした」

「美味い魚が取れるから、か。でも鮮度は」

「そのために、引退したバスターのうち、治癒術と攻撃術が使える夫婦を招いたそうですよ。氷結魔法で鮮度を保ち、出荷するんです」

「島の北部では少量ですが上質な石油も沸き続けているので、分留塔を建てて、船の燃料や家庭で使用する燃料を精製しています」


 しかも島にいるモンスターはラビだけ。だからこんな辺境の小さな村でも存続できるんだろうな。


 集落は島の北側の一部にあり、5分も歩けば端から端に辿り着く。


 島は平坦な北から、南に向かって斜面となっていて、島の北端は高さ100メルテ以上の切り立った崖になっているという。島の形はおおよそ北に頂点がある三角錐。だから土地が低い北部にしか港を作れない。


 島は傾斜があるだけで山はなく、歩こうと思えば1周ぐるっと歩ける。周囲は2キロメルテもないんだって。

 家があり、水があり、木々があり、畑も家畜も、魚もある。燃料は使いたい放題。

 島が大きくて上陸に適した港を大きく築けたら、この島に住みたい人はもっといるのかも。


「とりあえず、集落のまとめ役をご案内します。生憎、外との電話線は繋がっておりませんから、皆さんがいらっしゃる事を事前に伝えてはおりませんが」


 皆で寝泊まりできるような宿屋はない。地酒を出す居酒屋はあるけれど、島外からの来訪に備えるだけの十分な食材があるわけでもない。


 船の中で夕食を済ませた後は、船に必要な水と、精製された備蓄の燃料を積み込み、集落のまとめ役の家に向かった。





 * * * * * * * * *





「ああ、あなたがあのシーク・イグニスタさんですか。それにそのお子さん、ゼスタ・ユノーさんの娘さん、そしてそちらが……」

「オルター・フランク氏です。銃術士で、今年の新人最速のブルー等級昇格者です」

「ほぉ、それはなんとも頼もしい。わたしはニタ・ヤマダと申します。村という程でもないですが、一応村長と呼ばれとります」

「俺の紹介、なんつーか恥ずかしいので……銃術士のオルターとだけ覚えていてもらえると」

「あのー、僕の事にも言及してくれても?」

「ボクもあるますよ? ぐぇいむにーゆ、ゆらしくね!」


 村長のヤマダさんは、武器達にも丁寧に頭を下げてもてなしてくれた。村長と言うが、つまりは国から派遣された役人だ。


 派遣されたというか、移住と共に自治を任されたって感じらしい。


 ヤマダさんは、タナカさんが話してくれた島の説明と、おおよそ同じ事を話してくれた。タナカさんとスズキさんがこれからの動きを伝えると、ヤマダさんは深く頷いた。


 なんだろう、タナカさんとスズキさんに何かを確認しているような目が気になる。


「生憎小さな島で観光客も来ませんから、たいしたもてなしも出来ず申し訳ないです。英雄様にお越しいただいたというのに」


 当たり障りのない挨拶をした後、オレ達は警戒艇に戻った。港は天然の岩場を利用していて、コンクリートで固められているのは船が着く桟橋だけ。波を遮るものがない。

 停泊中でもやや揺れるせいで、レイラさんとオルターは寝られるのかと不安そうだ。


「まあ、文句は言えないけどね。船が走ってる時よりはマシか」

「俺はもう寝る事にします。寝不足だとますます気分悪くなるから」

「ケア掛けるから、効いているうちに寝ましょ」


 そう言って2人がベッドに向かおうとした時、スズキさんがオレ達に声を掛けた。


「すみません、集落の皆さんが、お伝えしたい事があると」

「えっ?」


 集落の灯りが僅かにあるだけで、周囲は空に星が浮かぶだけの漆黒の闇に包まれている。時計を確認すると、この島の時間で既に21時を回っていた。


 オレ達はスズキさんに続いてメインサロンからアフトデッキに出た。オルターとレイラさんは、アフトデッキからジャンプして港に立つ。船の上で話を聞くと揺れるから嫌なんだろうな。


 そこにいたのは子供も含めた数十人……いや全島民かも。

 村長のヤマダさんが一番前に、その他の島民がその後ろでこちらをしっかりと見据えている。


 誰かが口を開くのを待つように、外海の強い波は桟橋にぶつかり、静寂を打ち消す。

 警戒艇や漁船がゴム製の保護板に擦れ、音がキュキュッと響く中、最初に口を開いたのは父さんだった。


「どうしたんですか、何かあったんですか」

「……どうだい、何か言い難い事があるのなら、僕とグレイプニールに触れてみるかい。そうすれば君達が喋らなくても、僕達がその考えを読み取るよ」

「ボク、よごでぎますよ。ボクとまるどむ、お喋らまいこと、分かるでぎます」


 島民が揃っているのだから、内緒の話ではないと思う。この島には島外から盗み聞きに来ることも出来ない。

 武器達が気を利かしてくれたけど、口に出して言えない事じゃないと思う。


「……タナカさん、スズキさん、本当に大丈夫なんですよね」

「ええ、大丈夫です」


 大丈夫って、何のことだろうか。

 まさか、この島にオレ達を閉じ込める作戦だった……とか?


「あの、あたし達をどうにかしよう、って話じゃないですよね。この島に置き去りにするとか、考えてませんか」

「……俺も罠に嵌められたのかと」


 ああ、レイラさんもオルターも同じことを考えていたんだ。

 多分、オレ達と父さんがいれば、島民に負ける事はない。でも船の操縦は出来ないから、助けが来ない限り脱出は不可能だ。


 もっと言えば、エインダー島に置き去りなんてことになったら……。


 エインダー島には食べ物も飲み水もない。まあ水は魔法で出して、渡り鳥を仕留めたら肉にも困らないけど……木も生えていないとなれば雨風も凌げない。

 動物もいないし、釣り竿がないから魚も釣れない。というか、そんな生活は嫌だ。


「大丈夫だよ、僕はスズキさんに触れられた時、その考えを読ませて貰った」

「バルドルが大丈夫と判断したなら、この人達は敵じゃないよ。イース、警戒を解いていい」


 父さんがそう言った事で、心なしかヤマダさんの表情が柔らかくなった。ただ、その表情とは裏腹に、口から出た言葉は衝撃的なものだった。


「夕方にお伝えした移住の話、あれは表向きのものなんですよ」

「表向き? え、本当は違うって事ですか」

「おぉう、やまな、うそつきますか?」

「嘘じゃないけど、他にも理由があるって事だね」

「おぉ、ほんとうつき」


 移住の真の目的、それをオレ達に明かす必要があるって事だよな?


「我々は、26年前にエインダー島で死んだ魔王教徒の……遺族なんですよ」

「えっ」

「あの時、生き残った魔王教徒がいたの。そいつから拠点にいた信者の名前を訊き出して判明したのが、私達の親や子供だった」

「あなた方を憎んでいるのではありません。彼らが火砕流によって死んだという証言は、魔王教徒側の生き残りから聞いています」


 一番驚いているのは父さんだ。バルドルは知っていて黙っていたんだな。


「我々はですね、魔王教徒になった身内を恥じると共に、引き込んだ魔王教を許せないんです」

「わたし達のけじめ、念願。魔王教徒への復讐のためのお願い、聞いて貰えませんか」

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