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Rematch-03 伝説の英雄と伝説の聖剣。


「嘘だろ、何で父さんが」


 見た目では年齢不詳、色白で黒髪。オレになんとなく似たその顔は、紛れもなくオレの父親だ。

 アークドラゴンと共に5年間封印され、時が止まっていたせいか、40代半ばとは思えない。

 並んで兄弟と見えるってのは言い過ぎだけど、もしも父さんが世界中で知られる人物じゃなかったら、この人が27歳の時に誕生したのがオレだと言っても冗談に思われそうだ。


「おっと揺れる……おお、イース! 元気だったか」


 知らされていなかったから、てっきりオレ達3人と1本だけなんだと思ってた。いや、よく考えればそうだよな、功績や親の偉業があったとしても、バスター歴1、2年の新米3人組だけに任せるはずはない。


 驚いているのはオレだけではなかった。


「うわ、えっ? し、シーク・イグニスタ!?」

「君がオルターくんか、いつもイースが世話になっているね。レイラちゃん、元気だったかい?」

「びっくりした……ご無沙汰しております、シークおじさま」

「あの、僕にもご無沙汰しておりますを言ってもらっても?」

「ご無沙汰ね、バルドルさん」

「どうもね」


 ああ、一気に実家に帰ってきたかのような雰囲気。聖剣バルドルも相変わらずだ。そういえば、グレイプニールはバルドルを見た事がないんだっけ。


「ぬし、ぬし!」

「ん?」

「ごむさた、何ますか?」

「久しぶりって意味だよ。ほらグレイプニール。オレの父さんと、聖剣バルドルだ」

「おぉう、トウさん、まるどむ」


 父さんがオレに近づき、軽くハグをしてくれる。伝説の英雄なくせして、見た目にも行動にも威厳なんかない。オレより背は低いし、体も細い。

 一体、どこにアークドラゴンと対峙し、戦える力があるんだろうか。


「ほんと、イースはシークおじさまそっくりね。目がおんなじだわ」

「背は随分と前に俺を追い越したもんな。伸び伸びと育て過ぎちゃったかな」

「親子で並んでる姿って貴重じゃないか? シークさん、後で一緒に写真をお願いしてもいいですか?」

「写真? ん、いいけど」

「あのー、僕にも一緒に写真をどうですかと聞いてくれても?」

「聖剣バルドルも是非! わあ、今から何しに行くか忘れそうなくらい幸せだ!」


 オルターは目を輝かせて感動を口にする。自分の親がそんな風に言われるなんて……なんか恥ずかしい。

 役人の2人まで写真機を用意し始めたし。今から魔王教徒を捕まえに行くって、分かってるんだろうか。


「しゅ、出発しませんか? 早く行った方が」

「待ってくれ、今でももう気分が悪くなってきてんのに、船が進み始めたら船酔いで写真どころじゃなくなるんだ」

「あたしも、正直今回は自信がないかも。小さい船の方が揺れるって話は聞いているし、元気なうちに撮っておきたい」

「おぉう、写真。ぬし、ボク写真撮らでる、しますか?」

「写真撮られたいのか?」

「ぴゅい」


 みんなそんなに写真が好きなのか。風景の写真は好きだけど、あんまり得意じゃないんだよなあ。

 旅に出てから何度か記念撮影はしたけど、いつも表情がぎこちないと言われるんだ。


「イース、君の剣の使い心地はどうだい? まあ僕程ではないにしろ」

「グレイプニールは優秀だよ。モンスターの斬り方、斬るべき場所、色々教えてくれる」

「へえ、意思を持ってすぐだというのに、主に対してすべき事をきちんとやっているんだね。うん、忠剣に相応しい」


 どうやらバルドルはグレイプニールを認めているみたいだ。いつもは自身がどの武器よりも優秀だと信じて疑わないのに、不思議だ。


「テュール、ボク喋るでぎる、もしえるしまた。まるどむ、お喋りますか?」

「まだ流暢に話せる訳ではないんだね。僕はまるどむではなくて、バルドルだ」

「おぉう、分かるしまた。まるどむ、ゆらしくね!」

「……まるで遠い昔、いつかの僕のようだ」

「えっ、グレイプニールもいつかバルドルのようになってしまうの?」

「おっと、聖剣と呼ばれる程素晴らしい僕に何か不満でもあるのかい? イース」


 だって、たどたどしく喋るグレイプニールが、ちょっぴり皮肉っぽいバルドルのようになってしまうなんて……。


「そっか。イースのお爺様の家に寄った時に聞いたけど、あの鎌のテュールさんに言葉を習ったから、たどたどしくも丁寧な口調なのね。その、口はないけれど」

「うん、そこはテュールに感謝してる。ケルベロスに習ってたら……」

「ああ、それは不安しかないわね」


 レイラさんも、幼少期から冥剣ケルベロスとゼスタさんのやり取りを聞いていた。ケルベロスは大雑把な性格で、細かい事は気にしない。

 伝わればいいんだよと言いながら、伝え方は教えてくれなさそうだ。


「そういえばバルドル」

「なんだい、シーク」

「君は誰に言葉を習ったんだい? テュールもグレイプニールも炎剣アレスも、言葉遣いが丁寧なのに。アルジュナも態度は丁寧だし」

「おっと。それはまるでグングニルとケルベロスの言葉遣いと態度が悪いかのような言い方だね」

「何で今自分を除いたんだよ」


 父さんとバルドルのやり取りは相変わらずで、なんだかホッとする。オレとグレイプニールも、ずっと変わらない関係でいられるのかな。

 その、グレイプニールがバルドルのような性格にならないとして。


「武器ってほんと1つ1つ個性が違うよな。持ち主を選ぶってのも分かる気がする。俺は銃を選びたい。それに銃にとって何が一番かを考えて、色々試す方が合ってる」

「グレイプニールはイースの事を大切に思っているし、イースは凄いんだと信じてるよね。健気で忠実な剣だと思うわ」

「うん、オレも応えなきゃって気になるよ。世界の事はオレが教えて、戦いの事はグレイプニールが教えてくれる。なんだか丁度いい気がするよ」


 バルドルも父さんの事を大切に思っているし、どの武器にも負けないくらい忠実だ。ショートソードと比べたら扱いやすく、威力も出易い。

 それでも、オレに合っているのはグレイプニールの方だと思う。同時に、父さんに合うのはグレイプニールでもケルベロスでもない、バルドルだけ。


「武器は意思を持っているから主と相性が合うんじゃない。例えばオルターの銃のように、良い持ち主にはちゃんと応えるのさ」

「ぬし、良い持ち主ますよ? ボクしまわせます」

「あ、そうだ。イース、君には魔力があるんだったね。それじゃあちょっとグレイプニールと2本きりにしてくれないかい」


 バルドルが何かを思いつき、オレは6人と2本と一緒に写真を撮った後、就寝用スペースに2本を置いた。

 グレイプニールが「置いで行かまいで!」と駄々をこねたけれど、人には聞こえない武器同士の会話が始まったのか、暫くすると静かになった。


「武器達はあまり潮風が好きじゃないみたいだからね。個室に置いとくくらいでちょうどいいよ。サハギンやソードフィッシュが襲ってきたら、魔法でなんとかしよう」


 そう言って父さんは躊躇いなく魔術書を取り出した。父さんはバスター初の「魔法剣士」だ。バルドルは魔術書をライバル視しているけど、同時に父さんがどうすれば一番強くなれるかも分かっている。


 父さんが魔力を高め、バルドルがそれを蓄えて増幅し、刃に変える。バルドルは文句を言うけれど、本当は不満じゃないんだ。


 ……その点、グレイプニールの方が難しいかもしれないな。オレが将来魔術書に興味を持ったら、何で魔術書を持つのか、ボクが一番じゃないのかと喚き散らしそうだ。


「さ、出発しますよ」

「ま、待って! ケアを唱えてから……キャッ!」

「ああ、駄目だ……もう気分が」


 レイラさんとオルターがソファーで横になる。船が走り始めて5秒も経たずに戦力外だなんて。


「はははっ、レイラちゃんとオルターくんは船酔いするのか。大丈夫、いざ戦いになったら不思議と集中して気にならなくなるさ」

「ねえ、父さんがエインダー島に行った時、どんな事があったの?」

「ん? そうだな、時間もあるし教えておこうか」


 父さんは自身が魔王教徒と戦った時の話や、エインダー島の事、そこで起きた出来事などを話してくれた。

 全て、オレとそう変わらない歳の頃に経験した事ばかり。


 グレイプニールは「伝説の剣」になる事を望んでいるけれど、伝説になるって事は父さん達のような活躍をしないといけないって事。


 オレはこんな人を超えられるんだろうか。

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