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Rematch-01 火山島に行くための条件(2023/11/20イラスト差し替え)


挿絵(By みてみん)



【Rematch】かつて、英雄達が見た景色




「ぬし! あいちゅまん掛けまさい!」

「あ……あいつ、アイス……アイスバーン?」

「そで!」

「呑気にクイズしてないでさっさと……キャーこっちこないで!」

「イース! 早く凍らせてくれ!」


 ミスラ島で、誰もやりたがらない討伐。それが「ケルピー退治」だ。

 今でこそ攻撃術士がいればさほど苦戦しないモンスターだけれど、20年程前までは出会ったらとにかく逃げろと言われていたらしい。


 見た目は馬と一緒。まあ馬もモンスターなんだけど、馬は草食で人を襲う事はまずない。

 魔力を持っているからモンスターに区分されているけど、そろそろ動物に分類されるという噂も聞いた。


 そんな馬と見分けが付かない肉食モンスターがケルピーだ。馬と共存しているから馬の事は襲わない。だから余計に見分けが付かないんだ。


 スライム状のモンスターで、水場で馬に擬態し、油断して近寄った動物や人を襲って体に取り込み、ゆっくりと消化する。

 大きな水の弾を吐き散らし、当たった生き物を水牢に閉じ込め窒息死させ、ゆっくりと捕食。


 水は斬れない。斬ってもくっつくせいで倒せないから、どうにかして逃げるしかない。オレ達のようなほぼ武器攻撃職だけのパーティーとは相性が悪過ぎる。


「アイスバーン! 凍った水弾の裏に隠れて!」

「こっちに近づいたのはあたしが凍らせるから! フェザー掛けるわ、足速くなったでしょ、何とか逃げ回って!」

「凍らせたら教えてくれ! 俺が44口径撃ち込んで粉々にする、イースはトドメを!」


 でもケルピーが倒せないモンスターだったのは過去の話。聖剣バルドルが父さん達と共に戦った時、「凍らせたらくっついて元に戻る事は出来ない」と言ったのがきっかけ。


 纏っていた水を凍らせて砕き、引き剝がす。そうして擬態が解けた本体の核を破壊。オレ達の場合、凍らせるのはオレかレイラさん。砕くのはオルター。

 トドメを刺すのはグレイプニールだ。


 ただ、レイラさんが機敏に動けるようになる魔法を掛けてくれないと、ケルピーが放つ水弾を避けるのは大変だ。

 おまけにオレもレイラさんも攻撃術士ではないから、ただ凍らせるだけのアイスバーンも威力が低い。レイラさんが動きを止めるためのアイスバーン、オレが完全に凍らせるためのアイスバーンを重ね掛け。


 もしくはグレイプニールに魔力を込め、斬りながら断面を凍結させるかだ。


 ここの周囲はうっすらとだが霧が立ち込めている。地面は少しぬかるんでいて、湿地と草原の境目にあたる地域だ。


 ケルピーが出てくるギリギリの域。ここまで誘導するだけでも大変だった。水場が近過ぎると、ケルピーの水分補給が容易な上、水場に引きずり込まれたら助けようがなくなる。水の中に他のケルピーの本体が潜んでいないとも限らない。


「ぬし! あいちゅまん! ボク込めまさい! みじゅたん、むちゅかる、ボク構える、凍ります!」

「なるほど、グレイプニールに触れた瞬間に水弾が凍るから、避け損ねてもなんとかなる、か」

「おじゃべるちまう、込めまさい!」


 戦闘の時だけは本当に頼もしい。グレイプニールは自分がどうすれば役に立つ事が出来るか分かっているんだ。


「アイスバーンの魔力、込めたままにする! よし、避けるだけじゃなくて斬りに行くぞ!」

「アイスバーン! イース、合わせて!」

「アイスバーン! オルター!」


 ケルピーはこちらを向き、水弾を吐こうとしたまま氷結した。オレが大声で合図を送った直後、容赦のない爆音が響き、霧に溶ける。

 数メルテ先にあったケルピーの体は、陶器の置物が撃ち抜かれたように粉々に飛び散った。


 その場に残ったのは、草の緑よりも鮮やかで青い斑点を持つ球体。

 毒々しいその球体がケルピーの本体であるスライムだ。


「ブルクラッシュ!」


 凍ったスライムに対し、グレイプニールを全力で振り下ろす。

 打ち砕くつもりだったけれど、切れ味抜群のグレイプニールの刃は予想外にもスライムを真っ二つにしてしまった。


「うわっと!?」

「おぉう、斬るしまた」


 砕くつもりだったから、サクッとした感触に怯んでしまう。オレはすぐにグレイプニールを構え直し、追加で何度かスライスしてファイアを唱えた。

 まるで肉の脂身を鉄板の上で焼いたように、スライムの肉片がどんどん縮んでいく。


「よし!」

「イース! あと2体いる!」

「……何体いるんだよ」


 ケルピーの水弾から逃げ回り、潤沢ではない魔力を使い、久しぶりに全身を使ってモンスターをぶった斬る。

 いくらグレイプニールが一緒で、倒し方も確立されているとはいえ……休む間はなく、ミスも許されない。

 かつ後衛の2人を狙わせず、かつオルターの射程を気にした位置取りをする。オレの実力以上の戦いをしなければならない。つらい。


「馬達は逃げたよな! レイラさん、魔力障壁をお願いします!」

「え、うっそ、やだ!」

「いきますよ!」

「待って、待って! マジックガード!」

「……グレイプニール! ……ブリザードソード!」


 足りない威力はグレイプニールに溜める事で増幅。そうして巻き起こした吹雪が一帯を瞬時に冷やす。


「うぅぅ……さむっ!」

「もう一回唱えますよ!」

「うっそ!?」


 ブリザードを重ね掛けし、ケルピーの体表が凍った。足が動かず、水弾を吐くための口も開かない。なんとか1回の詠唱で巻き込めるだけの数に絞るため、これまで必死に逃げ回りつつ頑張ったんだ。


「アイスバーン!」


 レイラさんは魔法障壁でオレ達がブリザードで凍えないように守り続けている。ケルピーを芯まで凍らせるのはオレの役目だ。


 オルターが凍ったケルピーから順番に撃ち砕いていき、後には気味の悪い塊だけが残る。グレイプニールで斬り刻み、最後に焼いて再生不能に。


「つ、疲れた……」

「ごめんね、なんだかイースの負担が大き過ぎたかも」

「俺なんて全部段取りしてもらって、美味しい所だけ狙っていくだけだった」

「オレ1人じゃさすがに戦えないよ、とにかくこれでクエストは達成だ」


 写真撮影はオルターに任せていた。3時間かけて歩いて戻り、倒したケルピーの証拠を管理所に見せたら終わりだ。


 これは決してどうしても戦いたいとダダをこねたグレイプニールのためじゃない。いや、ためにはなってるんだけど。


 この島には他にも獰猛な「モウ」というウシ型のモンスターがいるんだけど、そのモウも強い類のモンスターじゃない。

 ギリング周辺に広がるスタ平原にいるボアみたいに、猪突猛進を気を付けるだけ。グレイプニールにとっては、ボアより大きいだけじゃ物足りなかったみたい。


 もちろん、だからケルピーと戦ったってわけでもない。


「これで許可が出るなら易いもんだよ」

「タダで倒してくれるなら考えるなんて、上手く利用された気もする」

「国としてはケルピーの数は減らしたいけど、肝心のクエストを出す人がいない、か。まあラビと馬が大半の島じゃ、仕方ないか」


 島を訪れて4日目。折り返しの船は昨日出航してしまい、ビゼーさん達もミスラを発った。

 強いモンスターがいない熱帯の島なんて、強いバスターが長居する理由がない。わざわざ数時間かけて湿地帯まで移動し、無償でケルピーを倒してくれるバスターなんてもっといない。


「エインダー島に入るためじゃなかったら、俺達もケルピー退治なんかしないもんな」

「ぷぇっ? ボク斬るしたいますよ?」

「グレイプニールはそうだろうけどさ。俺は弾も消費するし、金を稼ぐためにクエストをこなさなきゃ生きていけない。タダで斬って楽しいだけじゃダメなんだ」

「お金を貰えなかったら、手入れの布も、汚れ取りの薬品も新しい鞘も買えないんだぞ?」

「おぉう……おかね。ボク斬ゆ、しまわせ。ぬしおかね、しまわせ。ぬししまわせ、ボクしまわせ。おかねもらえまい、ボクふしまわせ……」


 なんとか分かって貰えたみたいだ。今後グレイプニールにタダ働きさせられる事はなさそう。


 とにかく、エインダー島に船を出してもらうための条件は達成だ。いよいよ2、3日中に火山島に乗り込める。


 ……後は船酔いする2人が宿など当然ない島に着いた後、すぐ動けるかどうかだな。

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