第14話:犬のおまわりさん(リアル)
昨晩、雷志に何度もしつこく質問をしてなかなか解放しようとしなかった女性警察官――名前は確か、狛木楓だったか。
犬耳を生やしていることから彼女が犬のケモノビトで、ぶんぶんと尻尾を振って人懐っこい笑みを浮かべている癖にして性が絡めばさながら猟犬の如く鋭い牙を剥く。
(おいおい勘弁してくれよ……)
雷志は昨晩で終わったものだと思っていた。話せることは一部隠蔽しつつも全部話していて、有益となる情報はもう持っていない。
それとも、嘘を吐いていたのがバレてしまったのか。
不安に苛まれる雷志に終始屈託のない笑みで返していた狛木楓が他の警官らと共にとうとう校舎へと消えていった。
それとほぼ同時、まるでタイミングを見計らったかのようにけたたましくチャイムが鳴り響いた。
生徒達の顔には未だ不安と好奇心が混ざった感情が浮かんでいて、けれども次の授業を受けるべく各々席へと戻っていく。
「もう休憩時間が終わりか……次はなんだっけ?」
「え? えっと次は歴史だよ」
「歴史か……」
「雷志君って歴史の授業好きなの?」
「あぁ、昔はそうでもなかったんだけど今は好きになったぞ。特にこの世界のはな」
「そうなんだ?」
「あ、あの雷志……!」
「お前も早く席に戻った方がいいぞ可梨菜」
「……っ、ボクは諦めないからね!」
「何をだ……?」
「――、はい静かに。これから授業を始めますよ……の前に、祓御くん」
「は、はい」
「君は今から応接室へ至急行くように。警察の方々が君に聞きたいことがあると……」
「……わかりました」
教室にやって来て早々に発した教師の一言が、雷志の顔を瞬く間に不機嫌な表情に変えた。
どうやらまだ事情聴取は終わっていなかったらしい。
嫌な予感が的中してしまった現状に雷志は嘆くも、呼び出しを受けたからには彼は従う他ない。
「雷志くん……」
「エルトルージェ先生?」
不安げな学友達に見送られて教室から出た雷志の前では、何故かエルトルージェが待機していた。
彼女が案内役なのだろうか、そう思った矢先のことだった。
「大丈夫よ雷志くん! 何があっても先生は雷志くんの味方だからね!」
「いや何もやってませんから!」
「今からでも遅くないよ雷志くん。一緒に逃避行しよう。先生がずっと養ってあげるし守ってあげるから、ね!?」
「いらない心配です!」
どうしてこんな人が教師になれたのやら……――そう疑問に思いながら雷志が応接室に着いた頃には、彼の表情には疲労の色が濃く浮かんでいた。
あの後騒ぎを聞きつけた可梨菜や恋――彼女に至っては、どうやって聞きつけたのだろう――が乱入してきたことで、事態は更に悪化の一途を辿った。
むろん、この事態の収拾に入ったのは他の誰でもない雷志自身である。
性に関して悪い意味で積極的なのは標準として、下手に実力があるだけに誰も怖がって彼女達に関わろうとしない。
かといって放置しておけば、あの闘技場のような技が校内を破壊しないとも限らない……確実だろう。
転入してきてまだ二日目である自分が何故、と思わくもない雷志だったが、自らの不運をこの時ばかりは酷く呪った。
「――、失礼します……」
本音を言えば今すぐにでも帰って寝たい欲求に支配されている雷志も、警察が相手ではわがままも言えず。
疲労を極力表に出さぬよう努めていた彼が入室して早々に、黒い影が疾風の如く突進を仕掛けてくる。
疲労が重くのしかかっている雷志に回避できるだけの余力はない。
従って真正面から甘い香りに包まれた優しい温もりと柔らかさを兼ね備える影を抱擁する形で受け止めざるを得なかった。
「は~い雷志きゅ~ん」
「…………」
「ふっふっふ~、またまたあったわねェ。お姉さんはととってもう・れ・し・い・ぞォ?」
「……できれば俺は会いたくなかったんですけどね」
「ツンデレも嫌いじゃないわよォ、むしろ大好物だったりィ!」
「いや知りませんから、それにツンデレでもありませんから」
「はぁ……はぁ……くんくん……この匂い犯罪的ィ! 今ならどんなことだってやれるゥ!」
「警察官でもある人間がそんな発言したら駄目でしょう普通に考えて」
犬耳をぴんと立てて尻尾を千切れんばかりに振るいつつも、ちゃっかり匂いをすんすんと嗅いでいるこのケモノビト――狛木楓、主に殺人などの凶悪犯罪を取り締まっている第一課に所属している彼女は、こんな人格でこそあるがエリートなのであるという……周囲の呆れている様子を見やるに、どうもいまいち信憑性に欠けていて雷志が疑いの眼差しを向けている。




