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黄金の双剣士  作者: ひろよし
五章:王宮のレキ
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第93話:ガレムとリーニャの関係、そして魔術の授業

「内緒にしていたわけではありませんよ?

 言う機会が無かっただけで」

「ふ~ん」

「・・・確かにあんな人が父親というのを知られたくない、という気持ちはありますが」

「ぐふっ!」

「ガレムは脳筋集団の中でも一、二を争う。

 リーニャが恥に思うのも無理はない」

「いえ恥と言うほどでは・・・。

 ただ少々鬱陶しいというか暑苦しいというか情けないというか」

「がはっ!」

「騎士団長ともあろう御方があんな行動を取るのもどうかと思いますし」

「強者と見るとまず私がっ!

 だからな、団長は」

「ミ、ミリスまで・・・」

「娘として申し訳ありません」

「・・・うぅ」


驚きはしたものの、翌々考えれば別に大した事はない。

顔が似ていないとか、性格も似ていないとかいろいろあるが、それを除けばおかしい話では無いのだ。


リーニャが恥じる気持ちは良く分からないが、レキは騎士団長さんがお父さんなんて凄い!とも思っている。


事あるごとに自分と戦いたがるのは「のうきん」のせいらしく、騎士団はみんな「のうきん」だと言う。

肝心の「のうきん」が何なのかは良く分からないが、多分戦いが好きな人の事なんだろうな、とレキは思った。


そんなレキの内心も知らず、何故か必死に弁解するリーニャ。

時折ガレムが胸を抑えながら苦悶の声を漏らすも、今のリーニャはそれどころでは無いようだ。


時折、ミリスやフィルニイリスがリーニャに参戦するが、こちらは当然分かった上での言動である。


「リーニャは侍女の中でも一番優秀なのじゃ。

 ガレムとは出来が違うと父上も言うておったぞ!」

「なぁっ!」


そしてフラン(と国王)がとどめを刺した。


四人から一方的に責められ、ガレムが地面に伏した。

その姿にフロイオニア最強の騎士の面影は無く、あるのは娘にないがしろにされる情けない父親の姿だった。


「さ、あんな父親は放って置いて」

「ぐっ!」

「フラン様は鍛錬の続きを」

「うむ!

 さぁレキ、やるのじゃ!」

「いいの?」

「良い」

「良いです」

「良いですね」

「良いのじゃ!」


こうしてフランはレキとの鍛錬を再開した。


余談ではあるが・・・。

フランとの鍛錬の後、レキはガレムとも手合わせをした。


理由は主に三つ。


父さんも良く母さんに叱られてたなぁと、何となくガレムに同情したのが一つ。

ミリスとの手合わせが想像以上に楽しかったので、ガレムともやってみたかったのが一つ。

ミリスとの手合わせでいろいろ気付いた事があり、それをガレムで試したかったのが一つ。


結果は言うまでも無いだろう。

その日の夕食時、フランが「御前試合よりもさらに飛んだのじゃ」と、とても楽しそうに両親に語っていた。


更に余談として・・・。


ミリスだけでなくガレムとも手合わせをしたせいか、翌日、他の騎士達が次はオレだ私だと言ってレキに群がった。

どうやら皆、レキとの手合わせをしたくて仕方なかったらしい。


ガレムの「強者とやり合いたいと言うのはこの国の騎士ならば当然」という言葉は、間違っていなかったらしい。


――――――――――


午前中は一般的な知識を、昼食の後はフランや騎士団と剣の鍛錬を行ったレキ。

お次は魔術の時間である。

教えるのは当然。


「私」

「おねがいしますっ!」

「うん」


フロイオニア宮廷魔術士長にして魔術研究の第一人者、フランの魔術指南役、国王の相談役、魔術馬鹿のフィルニイリスである。


その膨大な魔力を用い、詠唱も無しに魔術を行使出来てしまうレキだが、行使できるのはあくまで自分が知っている魔術のみ。

旅の途中でフィルニイリスが使った低級の魔術がほとんどで、魔術に関しては素人以下である。

レキの両親や村長など、村の大人達も魔術は使っていたのだが、レキは覚えていなかった。


という事で、レキはフィルニイリスから魔術の基礎を教わる事になったのだ。


「ふっふっふ、魔術ならわらわも教えられるのじゃ!」


レキの隣でフランが張り切っている。


一般的な知識については、五歳から習い始めたフランと最近ようやく文字を覚えたレキとの間に差がありすぎる為、もうしばらくは別々に勉強をする事になっている。

剣術の鍛錬は一緒に行っているものの、実力や体力その他もろもろに差がありすぎる為、こちらはフランがレキの真似をしているようなもの。

ようやく自分も教えられると、フランが先輩面(?)をした。


とんでもない威力の魔術を「えいっ!」という掛け声一つで繰り出せるレキと、最近ようやく初級魔術の呪文を習い始めたフランとの間には、埋めようもない絶望的な力の差があるのだが。

魔術の知識や知っている魔術の数(あくまで知っているだけであり、扱える数ではない)という点で見れば、確かにフランの方が上である。


もっとも。


「レキにはまだ基礎知識が足りていない。

 よって私が教える」

「にゃ!

 わらわも教えられるのじゃ!」

「私が教える」


レキに何かを教えるという立場を、フィルニイリスは他者に譲るつもりが無かった。


「む~・・・」

「ではおさらい。

 上位魔術には何がある?」

「えっと・・・真紅と、深緑と、あとえっと・・・」

「紺碧と雄黄じゃ!」

「正解」


得意げに胸を張るフランを、フィルニイリスが一応褒めた。

午前中に習ったばかりの知識な為、出来ればレキに思い出してほしかったのだが・・・。

一応、レキが答えに詰まるまで待っただけ偉いのだろう。


「上級魔術の属性は?」

「うむ、真紅は炎、紺碧は氷、深緑は・・・深緑は・・・」

「レキ分かる?」

「えっとね、確か・・・雷っ!」

「正解」

「・・・む~」


次も答えようとしたフランだが、残念ながら二つまでしか答えられず、引き継いだレキがなんとか答えた。


「赤は真紅となって炎となり、青は紺碧となって氷を生み出す。

 緑は深緑となって雷を呼び、黄は雄黄となって大地を動かす」

「真紅が炎、紺碧が氷・・・」

「深緑が雷で雄黄が大地じゃな」

「そう」


ここまでが魔術の基礎中の基礎。

基本となる四系統と上級魔術、属する魔術。

フランは習いはしたが覚えきれておらず、レキに至っては午前中に聞いたばかり。

なんだか良く分かんないや、と言うのがレキの本音だった。


「全ての魔術士が上級魔術を習得できるわけではない。

 火は扱えても炎にはならず、水は生み出せても氷へと至らず、風は起こせても雷は呼べず、土は操れても大地へは干渉できず。

 上級へ至るには研鑽が必要」

「むぅ・・・」

「フィルは?」

「私は紺碧と深緑、そして雄黄へは至れた」

「「おぉ~!」」

「真紅は種族的に難しい」


上級魔術へ至るには並々ならぬ努力が必要である。

宮廷魔術士長であるフィルニイリスも、三系統の上級魔術を扱えるようになるまでには長い時間と研鑽が必要だった。


「森人は森の住人。

 水は木々を育て、風は木々の間を流れ、土は木々を支える。

 でも、火は森を焼いてしまう。

 だから森人は赤系統がどうしても苦手になる」

「でも使えるんだよね?」

「努力した」

「ふわぁ~・・・」


フィルニイリスでも努力をするんだ、とレキが感心した。

レキの中で、フィルニイリスはある種の天才のような人だった。

何でも知ってて、何でも教えてくれて、どんな魔術も使いこなす。

剣の鍛錬の様に汗水流して必死に練習するフィルニイリスというのを、どうしても思い浮かべなかった。


「フランは?」

「ふふん、わらわは赤と緑じゃ!」

「・・・へ~」


自慢げに答えるフラン。

実際、この年齢で二系統の魔術を扱えるのは素晴らしいと言えるのだが、フィルニイリスの後でどうしても霞んで聞こえてしまう。

それに、フランが扱えるのはあくまで初級魔術のみ。

基本四系統、上級なら三系統も扱えるフィルニイリスとは天と地ほどの差があると言って良い。


返事をするのに一瞬間が空いてしまい、フランが不満気な表情を浮かべた。


「フィルはコレでも宮廷魔術士長なのじゃぞ。

 わらわと比べてはダメじゃ!」

「ん~・・・」

「わらわだってこの歳で二つ使えるのは凄いって言われたのじゃ!」

「そうなの?」

「そう」


どうやらフランも魔術の才能は高いらしい。


フィルニイリスの様な森人族とは違い、純人族は魔術の適性はそれほど高く無い。

努力次第では二~三系統、上級魔術も一系統くらいならば扱えるようになるが、相応の才能と努力が必要となる。

五歳の頃から魔術を習い始めたフランがわずか三年で二系統の初級魔術が扱えるのも、努力と才能のなせる技だった。


ちなみに、この世界における四つの種族の内、魔術がもっとも得意なのが森人族である。

ほとんどの森人族が三系統、上級魔術も二系統なら扱えるようになるらしい。

森に生まれ、森とともに生きる種族である為か、赤や真紅の系統は種族的に向かないそうだが、それも努力次第で扱えるようになるそうだ。

レキ付きの侍女であるサリアミルニスも、赤以外の基本三系統は扱えるらしい。


逆に、魔術がもっとも苦手なのは獣人族である。

獣人族は保有する魔力が種族的に少なく、その少ない魔力も身体強化に費やすため、魔術はめったに使わないらしい。


生まれつき身体能力が高い種族であり、その力を魔力によって高めた彼らは近接戦闘においては他の種族を圧倒する。

その分距離を取った戦いは苦手で、相手が遠距離から攻撃してきた場合、身体強化を施した上で強引に距離を詰めるのが彼らの戦い方なのだ。

ある獣人曰く「魔術をぶっ放すより近づいてぶん殴った方が早ぇ」とのこと。

下手をすれば騎士団以上の脳筋である。


「あっ、じゃあ山人族は?」

「山人族が得意なのは赤と黄。

 赤は鍛冶、黄は採掘の際用いられる。

 と言うか鍛冶や採掘に有用という理由で彼らは赤と黄を覚える」

「へ~」

「鍛冶馬鹿と言っても良い」

「へぇ~」


少々辛辣な物言いではあるが、それこそが山人の特徴でもあった。

身体強化も獣人族ほどではないが得意らしいが、それすら鍛冶や採掘の際に用いる為に身に付けたに過ぎない。

戦闘時は自らが鍛えた武具で戦う為、魔術は使用しない。

山人族にとっての戦いとは、自らが鍛えた武具を試す場でもあるのだ。

まさに「鍛冶馬鹿」であった。


「じゃあフランは凄いんだ」

「うむ!」

「この歳では優秀な方。

 もちろん上には上がいる」

「うにゃっ、それは・・・」

「レキは含めていない」

「む~・・・」


レキと比べるな、とでも言いたかったのだろうか。

先んじて言われてしまい、フランのほっぺたが膨らんだ。

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