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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三章:レキの力
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第60話:魔術士の男

トゥセコの街の宿屋。


昼間の報復だと言って魔鉄級冒険者らしい男達から深夜の襲撃を受けたレキ達。

フィルニイリスが魔術で撃退した後、起きていたリーニャに軽く説明し、再び寝入ったのは四時間ほど前。

深夜という、いつもなら眠っている時間に起こされたレキは、それでも普段の習慣からか朝日と共に目覚めた。


「あれっ?

 また?」


「おはようござますレキ君。

 昨晩はお疲れ様でした」

「おはよう、レキ。

 まだ朝食の時間まで大分あるようだぞ」


起きていたのはリーニャとミリス。

フランとフィルニイリスは、マイペースにレキに抱き着きながら眠っていた。


「フランは抱きつきグセがありますから」

「そうなんだ」


思い返してみれば、魔の森の小屋で一晩明かした時からずっと、朝はこの状態だった。

カランの村ではフランはユミと眠っていた為、レキに抱き着く事は無かったが。

リーニャのいう事が正しいなら、おそらくはユミに抱きついて眠ったのだろう。


この五人で寝泊まりした場合、毎朝こうなるらしい。

いい加減慣れたつもりでも、やはり体が自由に動かせないのは困りものだった。


と言うか・・・。


「フラン寝てたのに」

「いつものことですよ?」

「フィルだって俺と一緒に寝たのに・・・」

「いつものことだな」


その言葉に「なんだかなぁ~」と思いつつ、まぁいいやとあっさり納得したレキである。

諦めた、と言っても良い。

少しだけ、両親と共に眠っていた頃を思い出して嬉しかったりもする。


「さて、レキ君も目覚めたことですし、そろそろ支度をしましょうか」

「うん!」


いつもの様にフランとフィルニイリスを起こしつつ、レキ達は支度を始めた。

森で出会ってはや十数日、すっかり"いつもの"となった一日が始まろうとしていた。


いつも道りなかなか目覚めないフランに、レキがようやく制御(手加減)できるようになった青系等の魔術を行使する。

途中、いつの間にか目覚めていたフィルニイリスが、まるで定位置であるかのようにレキの背に乗り、水球をぶつけられたにも関わらず楽しそうなフランと共に食堂へ向かう。


食堂に着く頃にはフランとフィルニイリスもすっかり目覚め、いつも道りの賑やかな食事が始まった。


昨夜の襲撃の件をフランにどう話そうか迷うレキ。

素直に話せば「なぜわらわを起こさなかったのじゃ!」と不機嫌になるに違いない。

だからと言って内緒にしておくのも、ばれた時が大変だ。


こういった情報は仲間同士共有するべきだ。

襲撃してきた冒険者達が再び現れないとも限らない。

警戒を促す上でも、フランには伝えておくべきなのだ。


どう伝えようかとリーニャ達の顔色を窺うレキだったが、そんなのお構いなしにとフィルニイリスが話し始めてしまった。

朝が苦手なフランにリーニャが小言を漏らした際、「フィルだって寝坊したのじゃ!」と反論したフランに「私は襲撃者の対応をしてた」と弁解(?)したのだ。

「どういうことじゃ?」と驚くフランに、フィルニイリスが懇切丁寧に説明を始めた。


昨日の冒険者が夜中に報復に来た。

それをレキが察知し、ミリスとフィルニイリスと共に迎撃に向かった。

向こうから襲い掛かってきたので魔術で吹き飛ばした。


夜中に起こされた事もそうだが、街中での襲撃など迷惑以外の何物でもない。

フランからすればまたしても仲間外れになった事に、案の定頬を膨らませた。


フランを起こさなかったのはレキのせいではないし、第一ただでさえ寝起きの悪いフランが夜中に起きるとは思えない。

実際、男達の気配はまだしも、宿の前で起きた言い争いにフィルニイリスの魔術とそれなりにうるさかったはずだが、フランは起きる気配すら見せなかった。


それでもみんなが戦っている時に自分だけ眠っていたのが不満だったらしく、フランの文句は食事中ずっと続いた。


仲間とは言え、王女であり子供でもあるフランを騒動の真ん中に連れて行けるはずが無い。

下手をすれば再び人質にされかねないからだ。

いくら今回はミリスやフィルニイリスがいるとは言え、あえて火中に突っ込ませる必要は無いだろう。


夜中に起こすわけにもいかず、そもそも起こしたところで戦力になるわけでもない。

おとなしく寝ていてくれた方が何かと助かるのだが、そんな理屈がフランに通じるはずもなかった。

結局、食後のデザートに出てきたフルーツをレキがあげるまで、フランの不機嫌は治らなかった。


食事が終わり、フランの機嫌がようやく治った頃、一行は次の街へと向かうべく宿を出た。

宿の裏手に止めた馬車に乗り込み、いざ出発となったところに。


「おっ、間に合ったかよ?」


どこかで見たことのある男が現れた。


――――――――――


「おじさん誰?」

「おじ・・・」

「レキ、こいつは昨日の襲撃者の一人だ」

「なんじゃと!」

「そうだっけ?」


立っていたのは、昨夜の襲撃犯の一人である魔術士の男だった。

昼間の諍いには参加しておらず、昨夜もやる気にはやる男達を諫めていた男。

最終的には仲間の為に参戦したものの、フィルニイリスの魔術の前にあえなく倒れた男だ。


レキが覚えていないのは印象が薄かったせいだろう。

昼間に対峙したのは兄貴分の男とその子分であり、目の前の男とはあまり言葉を交わしていない。

害も受けていない為、記憶に残っていなかったのだ。


おじさん呼ばわりされ、ショックを受ける男にミリスが声をかけた。


「それで、なんのようだ?」

「・・・いや、昨夜の件で少しよ」


昼間の男達に比べれば、ずいぶんと理知的なようだ。


「報復に来たのか?」

「まさか。

 あんたらと敵対するつもりは俺にはねえよ」

「ならばなんだ?」


一応は襲撃者の仲間である男に、ミリスが軽く身構える。

昨日の今日で仕返しに来たとは考えづらいが、自分達は今から街を出るところ。

足止め目的で現れた可能性は高い。


魔術士の男が時間を稼ぎつつ、残り二人が背後から攻撃。

あるいは今頃街の外で罠でも仕掛けているのかも知れない。

背後からの奇襲など、レキやフィルニイリスが待機している以上問題無い。

罠とて、フィルニイリスなら正攻法で打ち破れるだろうし、レキなら強引に打ち破るだろう。


レキやフィルニイリスに背後を任せ、ミリスは油断なく男と話しを進めた。


「そりゃもちろん謝罪に来たのよ」

「・・・どういう風の吹き回しだ?」


警戒するミリスに対し、魔術士の男はそんなことを言いだした。


もちろんそれを素直に受け取るミリスではない。

相手はこちらが寝静まった頃を見計らい襲撃してくるような男なのだ。

謝罪すると言いながら、不意打ちを仕掛けるくらいやってのけるだろう。


「いや、そもそも昨夜の襲撃自体、オレぁ乗り気じゃなかったんだがよ」

「・・・ほう?」

「ガキの持ち物奪おうとして女子供にやられたってだけでも情けねぇのに、夜中に報復するなんざ男の風上にも置けねぇだろうがよ?

 流石に愛想が尽きたんでよ」


魔術士の男の言い分は良く分かる。

ミリスも同じ思いを抱いているからだ。

レキですら情けないと感じている連中の行動。

謝罪しに来たのも分からない話ではない。


「あなたはその方々のお仲間では?」


背後に控えたリーニャから、当然の質問が男にとんだ。

昨夜の襲撃はともかく、昼間の諍いに関してはリーニャも当事者である。

男の目的が報復であるなら、負ければリーニャとフランは攫われていたに違いない。


「あんたは昨日の女かよ?」

「質問に答えていただけますか?」

「まぁ、仲間っちゃ仲間なんだがよ・・・」


頭の後ろを撫でながら、男は嘆息気味に語りだした。


「もともとガキの頃からいろいろやってた仲でよ。

 学も何もねぇオレ達が唯一なれたのが冒険者でよ。

 力のある奴、器用ですばしっこい奴、それと魔術の才能があった俺の三人で仲間組んでよ。

 まぁ一応魔鉄級にはなれたわけよ」


力のある奴、というのはおそらく兄貴分である斧使いの男だろう。

器用ですばしっこい奴と言うのはその子分っぽい男。

そして、目の前にいる魔術の才があるらしい男。

戦士と斥候、そして魔術士。

パーティーとしては問題なく、バランスの取れた三人組だ。


「まあ魔鉄級から上にゃいけねぇんだけどよ。

 何せ上に上がる為にゃ護衛依頼をこなさにゃならねぇからよ?

 んでもほら、俺らみてぇな奴は基本的に貴族や金持ちが嫌いだからよ。

 そんな連中の護衛なんざまっぴらごめんってわけよ」

「なんで嫌いなの?」

「ん、そりゃ俺達がスラム出身だからよ」

「すらむ?」


スラムについては一応説明を受けたものの、教育上良くないからと近づくことを避けている為、レキはスラムという場所を見た事がない。

もちろん具体的な事も知らない。


「エラスの街で絡んできた連中。

 ああいう奴らがたくさんいるところ」


場所は知らずともその住人には会っている為、フィルニイリスが軽く説明するだけでレキは何となく理解した。


「話続けていいかよ?」

「うん」


律義に待ってくれていた男に、レキが頷いた。


「貴族の護衛はまっぴらだが、いつまでもんなこと言ってたら魔鉄級から上にゃいけねぇのよ。

 まぁあいつらはそれでも満足してたみてぇだがよ。

 俺ぁ少しばかり上に行きたくなってよ」

「向上心のあるのは良いこと」

「おう、ありがとよ。

 んで、この間もそのことで喧嘩しちまってよ。

 依頼の途中だってのにあいつら街に戻りやがってよ。

 俺だけでなんとか依頼こなして街に戻ったら、揉め事起こした挙句女子供にやられたって言うじゃねぇかよ。

 なんだか情けなくなっちまってよ」

「女子供にやられたのがか?」

「それもあるが、貴族や商人が嫌いなのは連中が力もねぇくせに威張ってたからでよ。

 俺達が威張ってられるのは力があるからだってのに、その力で負けちまったわけよ。

 力で負けた俺達にあるのは魔鉄級っつ~称号だけでよ。

 でもそれじゃ貴族ってだけで威張ってる連中と同じじゃねぇか、ってよ。

 そう考えたらよ・・・」

「なるほど」


嫌っていた貴族連中と何も変わらない。

男達もそれが分かっていたのだろう、夜中の報復にはそんな理由もあったのだ。

それも負けた男達に残ったのは、魔鉄級冒険者という肩書だけ。

それだけで威張るのは、爵位で威張る貴族と何も変わらない。


乗り越えるには上に上がるしかない。

今のままではダメだと思い、昨日の件もあって袂を分かつ決意をしたのだそうだ。


「あいつらと一緒じゃいつまでたっても護衛依頼できそうにないしよ」

「だろうな・・・」

「ゴブリンは群れで行動するが、仲間以外には常に敵対行動をとる」

「いや、一応純人族よ?オレ達」


昨夜の襲撃の後、なんとか復活した魔術士の男が他の二人に治癒魔術をかけ、自分達のねぐらへと戻った。

その後、上を目指す決意を固めた魔術士の男と、そんなことより何としてもやり返したいという二人とで言い争いになり・・・。


「あいつらは夜明け前にゃ出てったよ」

「・・・そうか」


魔術士の男は、少しだけ寂しそうな顔をした。


――――――――――


報復を誓った男達ではあるが、今のままでは再び返り討ちにあうだけだというのは理解しているらしい。

いつか力をつけ今度は勝ってやるのだと意気込んで出て行ったのは、ある意味向上心の芽生えとも言えるかも知れない。


「・・・そういえば、貴様は何故昨夜の襲撃に参加したのだ?」

「ん?

 いや参加したっつ~よりちょいと気になっただけでよ?」

「気になった?」

「あいつらが手も足も出なかったっつ~ガキを見てみたかったってのと、出来れば手合わせしてみたかったってとこよ」

「それで連中の襲撃に便乗した、と?」

「おうよ」


やってることはむちゃくちゃだが、こちらもある意味向上心のなせる行動と言えなくもない。

ただ、夜中の襲撃はフランの対処にこまるからやめてほしいとレキは思った。

起こすのはフランに悪いし、かといって起こさなければ今朝の様に不機嫌になるからだ。


冒険者に限らず、今以上の力を付けるのに手っ取り早いのはやはり実戦を重ねる事だろう。

日頃から鍛錬を欠かさない騎士とて、模擬戦や魔物相手に経験を積んでいる。

魔術士とてそれは同じで、知識の習得と魔術の鍛錬を重ねた上で、実戦で試すのだ。

冒険者なら、討伐依頼を通して魔物や野盗を相手に腕を振るう事で、実力と経験をつけていくのである。


同一ランクにとどまっていれば受けられる依頼も同じ物になってしまう。

冒険者ギルドではランクごとに討伐対象の魔物が分けられている。

魔鉄級の冒険者であれば、フォレストウルフやソードボア、ダークホーン、ブラッドホース、ロックフォックス辺りが対象となる。

この内、フォレストウルフやダークホーンなどは群れで行動する為、数によっては魔鉄級以上でなければ依頼を受けられない事もあるが、長く魔鉄級で活動していた男にとっては慣れ親しんだ魔物だった。


魔物は人に比べれば知恵が回らない。

攻撃は単調で、慣れてしまえば仕留めるのは容易くなってしまう。

それに満足してしまってはいつまでたっても今以上の力を得ることは出来ないだろう。

だからこそ、昨夜の襲撃に便乗したのだそうだ。


「・・・それで満足したのか?」

「おうよ。

 そっちのガキとは手合わせ出来なかったがよ。

 自分より格上の魔術士と戦えただけでも十分ってもんよ」

「魔術食らっただけなのに?」

「詠唱速度、威力、どちらも今の俺より全然上だったからよ。

 とりあえず今のあんたを目標に頑張るのよ」

「そう」

「おうよ。

 んで、強くなったらそん時ゃリベンジすっからよ。

 またよろしくよ」

「・・・」

「んじゃよ!」


一方的に宣言し、魔術士の男は笑顔で去っていった。


「結局、何しに来たのだあいつは」

「ん?

 謝りに来たって言ってたよ?」

「・・・そうか」

「変なおじさんだったね」

「自分勝手ではあるな」

「ある意味冒険者らしい」

「そうなの?」

「地位や名誉、力や金銭、夢、仲間、冒険。

 みんな様々な物を求めて冒険者になる」

「うん」

「求めるものが異なる以上、冒険者としての形もまた異なってくる」

「冒険者としての形?」

「そのうち分かる」

「うん」


遠ざかっていく魔術士の背中を見ながら、レキ達はそんな会話をしていた。

エラスの街で出会った冒険者と昨日の連中、そして今の男。

誰もが等しく冒険者であったが、その有り様に考えさせられるレキである。


「む~、話は終わったのか?」

「あ、フラン」

「そうですね、いい加減出発しませんと」

「そうだな」

「次の街の賑やかさは下手をすれば王都以上」

「わらわも何度か行ったことあるぞ!

 王都には無い店とかあって楽しいのじゃ」

「そうなの?」

「エラスやトゥセコ、その他いろんな街へ行く際の中継地のような場所ですからね。

 必然的に人が集まるのですよ」

「へ~」

「まぁ、行けば分かる」

「うん!」


少しばかり時間を取られつつ、レキ達はトゥセコの街を後にする。

次はどんな街だろうか。

レキの期待は膨らむばかりだ。


「どんな街だろうね」

「レキ、レキ」

「ん?」

「今度はわらわが案内してやるからのう」

「うん!」


フランの笑顔を見て、レキの中で次の街への期待がさらに膨れた。

どんな街だろうと、フランと一緒なら楽しいに違いない。


「楽しみだね!」

「うむ!」


次の街を楽しみにするレキとフラン。

だが、二人が次の街を楽しむ事は、残念ながら出来なかった。

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