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黄金の双剣士  作者: ひろよし
五章:王宮のレキ
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第97話:護衛部隊との再会

謁見の間でのやり取りの後、何故かまたレキの実力を見る事になり、鍛錬場へと向かうこととなったレキ達。


「良いかレキ?

 絶対に勝つのじゃ!」

「うん、頑張る」

「うむ!」


今から戦うのはレキだが、気合が入っていたのはむしろフランだった。

友人として、レキの強くて格好良いところが見たいのだろう。

一応レキも、王宮の騎士以外の人との試合に少しばかりやる気を見せている。


勝つと言わないのは性格故か。

だが、レキが頑張る以上結果は勝利以外ありえない。

その事を知るフランは、レキの返事に満足気に頷いた。


「あ、あの。

 決して無理はなさらないでくださいね?」

「うん。

 ありがと・・・えっと?」

「あ、申し遅れました。

 私、フィサス領を治めるイオシス公爵家当主ニアデル=イオシスの娘、ルミニア=イオシスと申します。

 よろしくお願いいたします」


その横には、フランと違いレキを気遣う少女がいた。

フランの親友にしてフィサス領を治める領主の娘、ルミニア=イオシスである。


初対面にも関わらずレキの心配をする彼女は、心優しい少女なのだろう。


レキを心配する必要などどこにもないのだが、彼女はレキの実力を知らない。

フランやルミニアと同い年の少年であるレキが試合をするとなれば、怪我の一つも心配するのが当然だろう。


ルミニアの言葉にレキがお礼を返す。

レキの身を案じる者など、今となってはこの王宮には皆無である。

初日にガレムをぶっ飛ばして以降、レキを心配するなど無駄で無意味、むしろ無礼であるというのが、王宮の騎士団を始めとした者達の共通の認識なのだ。


「お~・・・」

「えっと、どうかなさいましたか?」


レキのお礼と反応に、遅ればせながらと自己紹介するルミニア。

貴族の子女らしい丁寧な名乗りを受け、レキが感心した。


「なんか、凄いお姫様っぽい」


何か失礼な事を言ってしまったのだろうかと不安になるルミニアに対し、レキがそんな感想を返した。

フランでは決して出来ないであろう礼儀正しい挨拶。

レキの思う、お淑やかなお姫様像そのものだった。


「そ、そんな私など。

 それに、お姫様と言えば」

「なんじゃ?」


とは言えルミニアはあくまで公爵令嬢。

一貴族の娘でしかない。

爵位こそ高く、自領であれば姫扱いされる事もあるが、決して姫では無いのだ。

と言うか、ここには正真正銘の姫がいる。

恐縮するルミニアがフランを見るが、そんな態度すらお姫様っぽいとレキは思った。


フロイオニア王国の貴族の家では、大体五歳の頃から貴族としての教育が始まる。

公爵家の娘であり、フランの様に活発ではなく真面目で大人しい性格のルミニアは、この年にして貴族の子女らしい教養や仕草をある程度身に着けている。

貴族としての振る舞い、礼儀作法など一通りだ。

勉強嫌いでしょっちゅう抜け出してしまうフランのような子供ならともかく、ルミニアの様な真面目な子供であれば、三年でもこのくらいは身に着くのだろう。


「フランはそんな挨拶したこと無いよ?」

「そ、そんな事おっしゃっては。

 それにフラン様を呼び捨てになど」

「ねぇフラン」

「ちょっ!」


公爵家の娘として、自分が仕える王家の娘フランを呼び捨てにするレキに注意するルミニアだが、もちろんレキはそんな事気にも留めない。

そもそもレキが呼び捨てにするのはフラン本人の意志である。

王族と平民と言う関係ではなく、純粋な友達として接して欲しい。

そんなフランの願いを、レキは叶えているに過ぎない。


まあ、今更レキがフランを敬称付きで呼ぶ事などないのだろうが。

周囲もそれを認めている以上、レキとフランの呼び方は変わる事は無いのである。


「なんじゃレキ?」

「フランはお姫様っぽい挨拶って出来る?」

「レ、レキ様」


戸惑うルミニアをよそに、レキが自分の疑問をストレートに尋ねた。


「お姫様っぽいじゃと?

 それはアレか?

 "おうこうきぞくのたしなみ"というやつか?」


身分に合った挨拶とでも言うべきか。

フランは一応王族であり、それなりの気品が求められる。

それは普段の言動、挨拶から立ち居振る舞い、食事のマナーなど多岐にわたり、ルミニアがこの三年間で身に着けたもの。


「ん~、良く分かんないけど、ルミニアみたいなの」

「おお、ルミみたいなのじゃな。

 う~む、やろうと思えば出来るのじゃが・・・」

「じゃが?」

「面倒くさいのじゃ」

「フ、フラン様っ!」


レキの思うお姫様像と、実際のお姫様のフランがどうしても結びつかず、なので直接聞いてみたレキ。

フランもフランで、そんなレキのある意味失礼な質問を気にせず、また自身の振る舞いを悪びれもせず、当たり前のように面倒くさいと言ってのけた。

そんな二人のやり取りに、由緒正しき公爵家の娘であるルミニアは右往左往するばかりだ。


「・・・」

「どうしたの?」

「あっ、いえその・・・」


フランらしい言い方に、レキが笑顔を見せる。

そんなレキの笑顔にフランも笑顔を返し、和気藹々とおしゃべりを続ける二人。


そんな二人を、最初は戸惑い、そして羨ましそうにルミニアが見つめていた。


「その、お二人のやり取りがとても親しげで・・・」

「ん~友達だし?」

「ですがフラン様は仮にも王族ですし」

「フランは様付けとか嫌がるよ?」

「で、でもフラン様の臣下たる私達が、敬称無くお呼びするわけには」

「けいしょう?

 フラン様って呼んだらイヤな顔するし」

「で、でも王族である以上敬称を外すわけには」

「でも・・・」


でもでも言い合うレキとルミニアである。

ルミニアは王族とその臣下としての間柄をレキに教え、レキはフランが嫌がるからと拒否する。

臣下としてどちらが正しいかと言えばおそらくはルミニアなのだろう。

だが、友人として正しいのがどちらかと言えば・・・。


「でもフランはフランだし」

「でも私達はフロイオニア王国の臣下ですし」

「でも」

「うにゃ~!

 でもでもうるさいのじゃ!」

「うわっ」

「きゃっ」


お互い一歩も引かずにでもでも言い合う二人に対し、前を歩くフランが両手を上げた。


「レキは友達じゃ。

 友達なら呼びやすい名前で呼べば良いのじゃ!」

「ですが・・・」


友達というのであればルミニアもそうである。

むしろレキより付き合いの長い、親友と呼べる間柄だ。


親しき中にも礼儀ありという言葉もある。

ましてやフランとルミニアの関係は王族とその臣下。

いくら親しい間柄と言えども、やはり敬称は不可欠なのだろう。


とはいえ、そんな事気にしないのがフランという少女だ。

自分が王族であり、ルミニアがその臣下である事は一応理解している。

もちろんレキが平民である事も。


ただ、それ以上にルミニアは親友で、レキもまた友達、否、フランの中では既に親友なのだ。

だからこそ呼ばれ方など気にしないし、むしろ様付けされない方が友達っぽくて良いとすら思っているくらいだった。


「ルミも呼びやすい呼び方で呼べばよいぞ」

「わ、私はその・・・フラン様という呼び方に慣れていますし」

「む~」

「それにその、やはりフラン様はフロイオニアの王族ですし」

「そんな事関係ないのじゃ」

「そ、そう言われましても・・・」


関係ないと言われて、そうですねと言えないのはルミニアの立場と性格ゆえだろう。

ただ、出来ない理由を告げて納得するフランではない。

立場を持ち出したところで、わらわが許すのじゃ!と言うだけ。

実際、レキのフランに対する呼び方については、フラン自身が許可、というかむしろお願いをしている。


だからと言ってルミニアまでも敬称を外して呼ぶわけにはいかなかった。

由緒正しき公爵家の娘として、どうしても譲れないものがあるのだ。


「ほら、フランが良いって」

「レ、レキ様・・・」

「うむ、良いのじゃ!」

「フ、フラン様まで・・・」


結局、フランの呼び方やレキの態度については現状維持となった。

微妙に納得が行かないルミニアだが、「わらわが許可したのじゃ」とフランに言われてしまえば納得するしかないのが公爵家の娘の辛い所である。

もちろんルミニアは今まで道り礼儀正しく接するつもりだ。


少しだけ・・・レキとフランの親し気な関係が羨ましく、敬称を外せない自分を寂しく感じたが。


――――――――――


「着いたのじゃ~!」

「お~!」

「お、お~」


そんなこんなでようやく鍛錬場に着いたレキ達。

一番乗り、と言わんばかりに両手を上げて鍛錬場に入るフランに続き、レキと、更にはルミニアも恥ずかし気に続いた。


別段鍛錬場が遠かったわけではない。

ほぼ毎日剣術の鍛錬で通っている場所である。

今更着いたからと言って声を上げるような場所では決してない。


それでもはしゃいでいるのは、フランは今から行われるレキの試合が楽しみで、レキはそんなフランに釣られただけ。

ついでにルミニアも、レキやフランのノリについていく為頑張って真似をしてみた。

慣れないのか、あるいは単純に恥ずかしいのかは不明だが、その声はとても小さく頬は赤く染まっている。


「おや、姫様。

 それにレキとルミニア様まで」


そんな仲良し三人組をミリスが出迎えた。

いつもならフランとレキに稽古をつける時間であり、二人の鍛錬が無い日でも自身の鍛錬は欠かさない。

ミリスだけでなく、騎士団の面々がほぼ勢ぞろいしているのは、脳筋にふさわしく自己鍛錬を行っているからだ。


「おおミリス!

 今からレキが試合をす・・・おぉ!」


これから行われる試合について話そうとしたフランだが、ミリスの後ろで整列している騎士達を見て目を丸くした。


「フラン様。

 護衛部隊十名。

 ご命令道り、皆無事に戻ってまいりました」

「うむ・・・うむっ!」


ミリスの後ろに並んでいたのは、野盗の襲撃からその身を呈してフラン達を逃した護衛部隊の面々だった。


「よくぞ無事に戻ったのじゃ!」

「はい。

 フラン様のご命令とあらば」


フランがフィサスの街へと向かう際、ミリス達と共に付き添った護衛部隊十名。

騎士八名と魔術士二名からなる部隊である。

そこにフラン専属の護衛兼護衛部隊隊長ミリスと、道中のまとめ役であるフィルニイリスが加わっていた。


あの時、野盗の襲撃からフランを守るべくその身を挺した護衛部隊。

人数的な不利もあり、せめてフラン達の乗る馬車だけでも逃がそうと、その身を盾とし野盗を防いだ。


命すら賭ける護衛部隊に、フランはもちろん猛烈に反対した。


「最後まで一緒に居るのじゃ!」と。

「皆で城に帰るのじゃ!」と。


その言葉に、護衛部隊はためらうこと無く命を捨てる覚悟を持った。

その場に残ろうとするフランを説得する為、護衛部隊はこう告げたのだ。


「我々も必ず後を追いますから。

 先に王都でお待ち下さい」


それがフランを逃がす為の言い訳であることくらい、フランにも分かった。

だが、フランは護衛部隊を信じ、そしてこう命令したのだ。


「絶対、全員無事に城へ戻るのじゃ!

 絶対じゃぞ!」


そうして泣く泣く護衛部隊と別れ、フランは魔の森へと逃げ込んだのだ。


その約束は見事果たされた。

フランの護衛部隊十名は、誰一人欠ける事なくこうして無事全員戻って来た。

そんな護衛部隊をフランは笑顔でねぎらった。


「あの人達がフランの護衛の人達?」

「は、はい。

 フラン様がフィサスの街へ来た際の護衛の方々です。

 フラン様がはぐれた際も、お一人は伝令としてフィサスの街へ戻ってこられました。

 その方はそのまま王都へ向かわれ、残りの方々も傷ついたその身のままにフラン様の捜索に当たられておりました」

「ふぇ~」


なお、その伝令役も王都へたどり着いた後、フランの捜索に参加する為すぐさまフィサスの街へと即座に戻っている。

野盗の襲撃からずっと、休みなくフランを捜索し続けていた護衛部隊もそうだが、伝令役もろくに休息を取らずに移動を続けたわけだ。


その後、手がかり一つ見つからなかった護衛部隊は、一度フィサスの街へと戻りイオシス公爵が新たに編成した捜索部隊と合流。

公爵の指揮の下で再度捜索に当たっていたところ、フラン発見の報が王都より伝わり、イオシス公爵とその娘ルミニアと共にこうして王都まで戻って来たのである。


「・・・いいな~」

「レキ様?」


その身を盾にしてフランを逃し、傷ついた体をそのままにフランを捜索し続けた騎士達。

何より、フランとの約束を守り、誰一人欠けること無く王都まで戻って来た騎士達を、レキは凄いと思った。


フランを悲しませること無く、全員無事に戻った。


自分の村が野盗に襲われた時、レキの父親もその身を盾にしてレキと母親を逃した。

母親もまた、レキが魔の森の小屋へ逃げ込む為の時間を稼ぐべく、襲い来る魔物を食い止めた。

その結果は悲しいものだったが、レキは両親の愛情を疑った事はない。


今、目の前で繰り広げられる笑顔の再会劇。


その光景を、レキは少しだけ羨ましく思った。


――――――――――


「姫様は何故こちらに?」

「うにゃ?」


再会を喜びあったフランと護衛部隊の面々。

落ち着いた頃を見計らい、ミリスが声をかけた。


「先程、本日の鍛錬は中止だと伺ったのですが」

「おお、それじゃ!」


知っての通り、本日はイオシス公爵親子が来訪している。

王族であるフランも公爵と謁見する為、本日の鍛錬は中止になっていた。

フランの護衛であるらしいレキも、一応事件の関係者な為、本人には知らされていなかったがフランに同行する予定となっていたのだ。


そんなフランが、レキとルミニアを連れて鍛錬場にやってきた。

護衛部隊を労う為なら日を改めるだろう。


「レキが試合をするのじゃ!」

「試合?

 手合わせではなく?」

「うむ。

 ちゃんとした試合じゃ」

「ふむ」


いつものような鍛錬の一貫としての手合わせではなく、試合。

ちゃんとしたというくらいなのだから、鍛錬でも手合わせでもなく、以前レキとガレムが行ったような試合なのだろう。

騎士団長であり王国騎士最強の男であるガレムを圧倒したあの試合。

そんな試合が再び行われると聞かされ、ミリスが首を傾げた。


「何故試合を?」

「レキが命の恩人だというのを叔父上が信じないからじゃ」

「・・・なるほど」


理由を聞いて納得するミリスである。

どれほど力を持っていても、レキの見た目はただの子供でしかない。

そんな子供が野盗を撃退し、魔の森ではオーガをも倒したと聞いて誰が信じるだろうか。


おそらく、フランはこれでもかと言うほどレキの活躍を語ったのだろう。

だが、フランが語れば語るほどその内容は物語じみて聞こえたはず。

魔の森のオーガやカラン村を襲った100匹以上のゴブリンの群れ。

それらを子供であるレキが瞬殺したと聞いて、信じる方がおかしい。


要するに、フランの口から語られた内容が信じられず、実際にレキの実力を見る為改めて試合を、という事なのだろう。

つまりは王宮に来た初日に行われた御前試合、それのやり直しなのだ。


「して、相手は誰でしょうか?」

「うにゃ?」


理由はともかく久しぶりのレキの試合。

見る価値は高いが、それも相手次第。


また団長だろうか?

あるいは自分が・・・などと思ったミリスだが、フランも首を傾げるばかりで誰かは知らないようだった。


「レキは聞いておるか?」

「ん~、知らない。

 ルミニアは?」

「わ、私ですか・・・いえ、私も存じ上げておりません」

「そっか」


当のレキも知らない様子。

もっとも誰が相手でもレキに敵う者などいないのだが。


手合わせという形で、お互い身体強化無しという条件下でようやく勝てる。

レキが全力を出したなら、相手が誰であろうと結果は変わらない。

試合場の壁まで飛ばされ、それで終わりである。


それでも一見の価値はあるだろうと、ミリスだけでなく、周りの騎士達もまた期待するような目をレキに向けた。

レキの実力を知らない護衛部隊の面々と、ルミニアだけは良く分からず首を傾げていた。


「あの、ミリス隊長」

「ん?

 なんだ?」

「その、そちらの少年は?」


見た目はただの子供。

服装こそ整えられたものの、仕草などは実に普通で、貴族の子供にすら見えない。

ただの平民、どこにでもいる普通の村の子供という風情だ。


王宮に迷い込んだにしては服が立派すぎるが、それでも場違いな感じは否めない。

何より分からないのは、そんなレキに対してフランはおろかミリスまでもが親しげな点にある。


フランはその性格ゆえに誰とでも親しくなるが、ミリスはそうではない。

もちろん子供を粗雑に扱うような真似はしないが。


王国騎士の、それも小隊長として遠征に赴く事も多いミリスは、整った外見と人当たりの良さで方々で人気がある。

剣姫と称されるほどの実力も相まって、騎士団の中でも有名な一人なのだ。


それでも騎士団の小隊長として、あるいはフランの護衛として、相応しい態度をいつもはとっている。

そんなミリスが先ほどから実に親しげに接しているのを見て、一体どこの子供だろうかと訝しむ護衛部隊の面々。


「ああ、そう言えばまだ言ってなかったな。

 彼は・・・」

「待たせたようだな」


ミリスがレキを紹介しようとした所で、国王であるロランとイオシス公爵、更には騎士団長のガレムと宮廷魔術士長のフィルニイリスが鍛錬場へとやってきた。

先程部屋を出た際は一緒だったはずだが、気付かぬ内に途中で分かれていたらしい。


「おお、遅かったのう、父う・・・?」

「お、お父様?」


彼らが一緒に来なかったのは、準備が必要だったから。


「申し訳ありませんな、フラン様。

 いささか仕度に手間取りまして」


ルミニアの父ニアデル=イオシスが、まるで今から試合でもするかのような、立派な鎧を身に着けていた。

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