エピソード33 それぞれの朔夜
考えろ。
こんな所で止まってどうする。
俺は今リリスに跨がられて、俺の喉元で剣と剣が拮抗している。
これはだいぶまずい。俺はさっきの爆発で怪我してる上に視界も血で滲んではっきりしない。
心なしか意識もたまに遠くなる。心臓の音だけがやけに煩い。
考えろ。
考える事だけはやめるな、俺。
リリスに勝つんだ。そのためにここに来たんじゃないか。
考えろ、勝つ方法を。
勝つ…………。
………………違う。
『考えろ。勝つ方法じゃない。『死なない方法』をだ』。
……死なない方法。
そうだ。もう忘れたのか。
俺はリリスに勝たなきゃいけないわけじゃない。
俺が『死ななければ』それで俺の勝ち。
数分前の俺の方が頭がいいじゃないか。
死なない方法。生き残る方法。
それはーーーー!
「……救世主の栄光!!」
叫び声は閃光となり、光を浴びたモノは一瞬動きを封じられる。
リリスだってそれは例外ではない。
「ーーふんッ!!」
そしてリリスが硬直した一瞬、俺は全身の力と色々な感情を込めて思いっきり頭突きした。
リリスの体は大きく仰け反り、その隙にリリスをコールブランドと腕で押しのけ、俺はコールブランドをリリスの胴体に突き刺した。
初めてのリリスの赤い血と、彼の屈辱を受けたような顔、初めて彼に一本入れた嬉しさが激流のように俺を襲う。
が、そんな歓喜の味を覚える間もなくリリスは目を大きく開き、俺の腹に剣がするりと刺さった。
俺の口から血飛沫が飛び出すのが見えた。
「……調子に……乗らないでください」
その言葉とともにリリスの剣は勢いよく俺の胴体から抜ける。
血が個体みたいにぼたぼた地面に叩き落ち、失った血と同じだけ力も入らなくなる。
……痛い。
本当は涙を流して叫びまくりたいが、何故か頭は全く別の事を考えていた。
俺は腹を抑えながらリリスを挑発するように、引き攣った笑顔で呟いた。
「…………俺は、お前を止める。お前を止めて、奪う者を止めて、この世界に、抗い続ける。俺を、連れて行きたかったら、腕でも足でも引き千切ってしまえ!」
それは俺の中の『死にたくない』という本能が自分に言い聞かせる為に口を衝いて出た言葉だったのかもしれない。
それでもリリスの怒りを頂点に達させるには十分だったようで、奴は今度は俺の心臓ではなく、左腕を狙ってきた。
俺はそれをどうにかして受け止める。
今この負傷した状態であとどれくらい保つか判らないが、喰いつかないと俺は死ぬ。喰いつけなくなった時が俺の死ぬ時。
「……僕は言った筈です。貴方が絶望するまで痛めつけて是が非でも生命の実をその喉に流し込んでやると。この本当の意味を理解してますか?後悔してももう遅いですよ!」
リリスの切っ先は完全に俺を捉えていた。
**********
世界が切り替わり、私サクヤ・ノヴァ・フレイムとヴィオラ、ハリーシア、そしてケイトはひとつめの楽園に帰ってきた。
「みんなお疲れ様!よくあれだけの奪う者を凌ぎ切ったね。今すぐ補給をとってメンテナンス室に行ってもらいたいけど、残念ながらまだ君達に休んでもらうわけにはいかなくてね……」
普段ごろ寝してる無能ちんちくりん(曰くヴィオラ)のスコーピオ中将は、笑顔で大事なことをど忘れしているようだ。
私は中将に向き直る。
「私達が帰還したということは、スコーピオ中将、あなたも前線復帰してもらうことになるという事です。まさか他の異能者たちが戦っているにもかかわらず研究室に閉じこもるなんて言いませんよね?」
私も、ここにいる全員、いやバカのケイトを除いて三人がスコーピオ中将を睨みつけた。
「はははー、なんかみんなタカオミに似てきてない?……あーあ、やっぱ前線出なきゃだめかい?」
「当たり前ですAIですら出撃するんですよ?ねえヴァレン」
「サクヤ、僕を頭に着けて」
「分かった」
「あたしだって魔法使いなのに出撃するんだ、ひとりだけ出ないなんて税金泥棒だ!」
「む、ハリーシア君は異能者ではなかったのか?」
「あーはいもう分かった!もういろいろ渋滞するから出ます!うん!」
「……でも捕まえた奪う者、大丈夫なんですか?誰もかもが異能者管理塔から居なくなるんですよね?」
その場の全員が私とヴィオラが手に持つガッハ63へ視線を移す。
私達は1000万近くの奪う者の捕獲に成功した。
だから残りの奪う者を仕留め、ガッハ63を全て回収してこの世界に帰ってきた。
その肝心のガッハ63を誰も居ない本部に置いて出撃するのは少し不用心か。
「大丈夫大丈夫、警備用AIだってたくさん配置されてるし、何より技術部の者じゃないとガッハ63は開けない。そんな心配しないで」
スコーピオ中将はそうは言うが、私は少し不安に駆られていた。
……ノアはどうなったのだろう。捕まっててくれればいいが、そんな馬鹿にも見えない。
「……ハリーシア、頼みがあるんだけど」
ハリーシアの顔にはいつもの胡散臭い笑顔が貼り付いている。
「なになに?サクヤがあたしに頼み事?明日は超新星爆発でも拝めるかな?」
「心配しなくてもすぐ前線で拝める。これは真面目な話」
「まあだいたい察しはつくよね。でもいいの?あたし、リリスの間者かもしれないよ」
「……解ってる。その上で頼んでる。それにあんたと私は目的は同じ筈」
紅い目と金の目が探り合うように一点を見つめ、やがて金色がそれを逸らした。
「……やれやれ。あんた、いつからそういうのばっかり上手くなったんだい?」
「頼まれてくれるの」
「ああそうさ大っ変面倒くさいがね。今度ホットチョコレート奢れよ。マシュマロ二個付きで」
……ホットチョコレートってなんだろう?ハリーシアの家に行った時出された茶色い甘い液体だろうか?
あとでアリスに聞こう。
…………アリスに。
私は本部の出入り口へ爪先を向けた。
「行こう。奪う者を排除し、リリスを名乗る少年を回収する!」
**********
また剣が折れた。
コールブランドではない。リリスの剣がだ。
コールブランドによく似たその剣たちは、しかしコールブランドには敵わずよく折れる。
それでもリリスは絶えることなく次々と剣を出して折って出して。
あとどれくらいスペアがある?弾切れならぬ剣切れは期待できるのか?
……あの剣はエクスカリバーではないのか?
「幾らでもありますよ。これを作るために僕は魔力を集めてたんです」
リリスは俺の心を見透かしたのごとく言った。
魔力を……集めてた?
そういえばタカオミが言っていた。リリスは魔力を集めている、そしてそれはハリーシアが持ってきた情報だと。
じゃあハリーシアは嘘は言ってなかったのか。
「マナより魔力の方が変換効率がいい。だから大量生産ができたんですけど……質は見ての通りです。本物には遠く及ばない」
そう言いつつリリスはその場を動くことなく、目で追えないほど速い剣筋で俺に斬撃を繰り出し、俺の肩や膝に傷と痛みが走った。
やばい。見切れなくなってきてる。
いつもの俺なら見切れるはずなのに。
出血が多すぎたか……。
「え」
瞬間、重力がおかしくなり風が体を痛いくらいに殴ってくる。
太陽の街がだんだん近くなって来て、黒い物体のようだった奪う者が人のカタチを成していって…………。
って、俺いま落下してる!?
「ぅわああぁぁああああ!!?」
遅れて飛び出る情けない悲鳴。
どうやら貧血かそれとも他の何かが原因で足場を踏み外したらしい。
嘘だろ何してんだ馬鹿か!このままだと地面に一直線、三途の川をマッハで飛び越えることになる!
考えろ考えろ考えろ。死んだらだめだ。死んだら何もかも終わりだ。
俺はもう昔と違って普通じゃない。基本なんでもありの異能者だ。装備なしのスカイダイビングをしても生き残る手段くらいあるだろ。
誰か俺の落下予想地点に居るけどこの際知るか。当たったら土下座して謝ろう。
「っはぁぁああっ!!」
俺は掌を地面に向け、思いっくそ大量の水を地面に噴射した。
ビル街がこの時だけ川のようになる。
そのおかげでどんどん減速し、無事着地
……となるわけがなく、俺は頭からコンクリートの地面に突っ込んだ。
勢いよく落ちた割には痛みや破壊音や落ちてくる瓦礫の音が少ない。
「あいたた……あれ?なんか温い……」
頭を押さえて重力を手探りしながら起き上がる。
目を開けると白かった。
白くて温かく、そして目は紅い。
「…………サクヤ?」
「アリス……怪我してる……」
落下予想地点に居たのは俺の噴射した水でびしょ濡れになったサクヤだった。凄い偶然だ。
どうやらあっちの世界から帰ってきたようだ。
……思いっきり年頃の女子をクッション代わりに使ってしまったがそれは不問で。
「作戦はうまくいったんだな。無事でよかった」
「……アリスは無事に見えない。今までで一番怪我してる、メンテナンス室に行った方がいい」
濡れた服を炎で一瞬で乾かしながらサクヤは俺の腕を鷲掴み、北極星本部に引きずっていこうとする。
あまりの手際のよさと細身の怪力に俺は狼狽えた。
「ま、待てって怪我なら大丈夫、それに俺は今リリスと戦ってる最中なんだ。あいつをここに引きつけないといけないから今戦線を離れるわけには」
「……なんで使わないの」
「え?」
サクヤは今度はコールブランドを俺の手から取り上げると、なんの迷いもなく俺の腹にぶっ刺した。
するとコールブランドが蒼く輝き、みるみる傷が治り血が止まっていく。
「……あ」
「こんな手札がありながらどうして使わなかったの。忘れてたわけでもないでしょ。出し惜しみ?」
……サクヤ、まさか怒ってる?
俺は色んな感情を誤魔化すため頭をかく。
「それは、使う暇がなかったというか、それにこんなチートになんのデメリットも無いとも考えられないし……」
「デメリットが無かったらどうするの。戦場では生き残ることが最優先。後のことはあとで考えればいい。死んだら考えることもできなくなるんだから」
「それはそうかもしれないけど……」
その時かなり近くで爆発音のような音が響いた。
いや、爆発じゃない。落下だ。
「!伏せて!」
サクヤが叫び俺を地面に叩きつけた瞬間、頭上を10本の剣が通り過ぎ、背後の建物に衝突し建物が崩壊する。
サクヤと俺が立ち上がると、リリスが砂埃の中から姿を現した。
「コールブランド、ちゃんと強化してたんですね。それにイヴまで一緒だなんて、今日は運がいい。イヴは生かす理由なんてありませんから、殺す一択ですけど」
リリスの殺気が比較にならないほど強くなった。
俺はそんなリリスの言葉を聞きながら右手をグーパーする。
動く。指先の感覚が戻ってきた。
これならまだ戦える。
「……リリス、教えろ。生命の実って何なんだ?なんでそれを食べれば、世界樹と同等になれる?」
リリスが剣を振り、俺の方を向く。
「識ってどうするのです」
「…………俺は、俺が識りたいと思ったことを嘘偽りなく識りたい。この世界のことも、お前のこともだ」
思えば俺は生命の実、生命の実と言いながらそれがどんなモノなのかを全く識らないのだ。
誰も話そうとしないから何かあるのだろうが。
リリスの腹の傷が俺に絶望を植えつけるかのように一瞬で回復した。
「……生命の実とは、スティーム00ハレルヤ……全パラレルワールドを探してもこの世界にしか存在しない、永遠の命をもたらす妙薬。不思議に思った事はないのですか。何故人間にだけ異能力者が現れ、人間だけが世界を破壊する能力を持つのか。それは、人間の祖アダムとイヴが知識の実を食したから。世界樹は宇宙、宇宙は神。人間が生命の実をも得ることができた時、その人間は神と同等になれるのです」
歪んだ笑顔のリリスに俺は恐怖を感じた。
そんなものがこの世にあり、そんなものの為に奪う者がこの世界を攻めていて、そんなものをリリスは俺に食べさせようとしてる事が。
そして、サクヤから聞いた“もう一人の俺”がいた世界は、そんな奪う者達をこの世界から遠ざける為に犠牲になったんだ。
「……それを俺に食べさせるつもりか。悪いが俺は神になるつもりはないし、サクヤをお前に殺させる気もないし、世界樹が無くなったら世界再生もできない。何より、お前は俺の世界を壊したも同然だ。俺はお前を止める!」
脳裏を貫くのは、楸や姉貴、学校、俺の帰る家、帰る世界、樹月、ーーーーもう一人の速水有澄。
こいつは殺したんだ。俺を神にするなんてしょうもない理由で、俺を形作っていたモノ全てを。
退屈で窮屈でつまらなくて息苦しくて泳げない者は沈むだけ。そんな世界でも、『俺にとっての唯一の世界』だったのに。
許さない。絶対に許さない!!
「それでいいです。僕を殺せ。その気になって初めて戦いは成立するのだから。さあ、今期の世界樹の救世主の資格持ちの力、見せてもらいますよ!」
リリスは姿勢を低くし、光速で落ちた瓦礫を避けながら俺に迫ってきた。
二つの剣が太陽の街で交差する。
今度はちゃんと受け止めることができた。
ーーーーまだ“生き残れる”かも知れない。
まだ、勝てるかも知れない!
「サクヤ、お前は北極星の援護に行け!最前線は困窮している、お前の戦闘力が必要だ!」
俺は背後で血櫻を構えようとするサクヤに向かって叫んだ。
「でも、破壊の救世主の任務はリリスを生け捕りにすること。それにアリスひとりでリリスを倒すのは無謀」
「随分はっきり言ってくれるな……それでも駄目だ!奪う者って異能者の生命力しか効かないんだろ!?」
「!何故それを……」
「国何個分かの軍隊を動かせるこの地球国が、多勢に無勢で奪う者に挑んでいるのには理由がある。そのくらい俺だって判らないほど馬鹿じゃない、って!」
サクヤに言い聞かせながら、リリスの僅かに見せた隙をついて剣を弾く。
宙に剣が舞い、呆気にとられるリリスを見ずに俺はサクヤに叱咤した。
「行け、サクヤ!必ずお前の所に行くから、それまで首を長くして待ってろ!心配しなくても、お前を殺さないと俺は死ねないからな!行け!!」
リリスが剣をとり、俺に襲いかかった。
剣筋がーーーー見える!
弾いたコールブランドに手応えが残る。
頭がリリスの次の動作を考えてない。
身体が、剣が、蓄積された経験値が勝手に俺を動かしてる。
サクヤはまだ俺の後ろに居た。
俺とリリスの戦いを見ている。
やがて両者が呼吸を整えるために休んだ一瞬、サクヤの声が聞こえた。
「ーー私を殺していいのはアリスだけ。忘れないで」
俺とサクヤは、同時に足を踏み出した。
**********
「南南東で分散した敵はケイトに任せる。帰還したテイラーピール中将を中心に陣形を再編成。魚鱗の陣に移行しろ!」
「メテオライト司令、スコーピオ中将より入電です。『よぉタカオミ、ガッハ22プロトタイプ設置完了、いつでもいけるよ。これで敵右翼は全滅する筈だ。ごめんねー、プロトタイプしか残ってなくて。あと電波妨害直しといたから今度500は入金しといて欲しいなー』。以上です」
「あいつの口座消すか。よし、今が好機だ。一気に畳み掛けるぞ!」
ここは一番見渡しのいい太陽の街の建築物の屋上だ。今だけ臨時作戦本部となっている。
俺ーーロキ・タカオミ・アルテア・メテオライトは忘れられてるかもしれないが北極星最高司令官として、軍を指揮しなければならないのだ。
「し、司令!6時の方向、新たなワームホール出現!奪う者の数、約1万!」
俺は振り返る。
遠くで小さな黒い塊がこちらに迫ってきていた。
「現在動かせる兵力はありません。いかが致しますか、司令」
臨時副官が落ち着き払って言う。
敵は別動隊を用意していたか。最前線はもういっぱいいっぱいで手が回らない。ガッハシリーズを使えば一万の敵兵など造作もないのだろうが、ガリレオはもう残っていないと言ったな。
どうするべきか。
「……ガレス・ボーマン・スコーピオ中将に繋げろ」
「了解」
ガレスは駆逐隊でガリレオの末弟。スカート履いて性別詐欺してる俺の親友。
まあ、スカート履いてるのにはちゃんとした理由があるのだが。
間もなく空中に敬礼したガレスの顔が映し出された。
「ガレス、敵別動隊が後方から迫っている。奴らは俺が対処する。その間の指揮をお前に任せたい」
『……正気ですか司令。司令官自ら出向いて、もし貴方を失ったら北極星は……』
「俺が死ぬわけあるか。それに奪う者を倒して戻ってくるまでの間だけだ」
『しかし、司令にもしもの事があったらと思うと気が気でならない。北極星の癖者達をまとめられるのは司令だけです。士気が落ちるのは避けられないでしょう。…………それに比べ小官は、いつ死んでも……』
「ガレス・ボーマン・スコーピオ中将!!」
俺が腹の底から声を捻り出すと、ガレスは俯くのをやめてびっくりしたように顔を上げた。
「……俺の次席はお前だ。頼むぞ」
俺は自分で通信を切った。
そして陸軍から派遣されてきた異能者ではない将校に向かって言う。
「自分がここに再び戻るまで指揮権はスコーピオ中将に移ったことを全隊に伝えるんだ。貴官らも彼に従え。何が起きたとしても全ては最高司令である自分の責任だ。わきまえるように」
了解、というなんの重みもない言葉に背を向け、俺はビル伝いに走り出す。
するとまもなく通信が入った。
『……自分は、メテオライト最高司令官幕僚、ガレス・ボーマン・スコーピオ中将であります。我が軍の後方に新たに敵軍1万が出現、司令はその対処に向かわれ、司令が戻ってくるまでの間自分が全隊指揮を執ります。司令が不在で心穏やかではないかもしれませんが、だからこそ司令が戻ってくるまで戦線を必ず死守して下さい!』
なんと声の主はガレス本人だった。
至極正論を述べ、なのに上官から通信を切られ、屈辱だった筈だ。
それでもなお俺の押し付けがましい大任を自分の実声で通してくれるらしい。
ーーーーなら俺も仁義を通さないとな。
「おらおめーらの相手は俺だこっち向きやがれ!!」
叫びながら俺はRPG-82を構える。
奪う者達はもうランチャーの射程内だ。
トリガーを引くと、弾頭は発砲音とともに敵に吸い込まれ、爆発した。
見渡す限りの奪う者が一瞬で爆殺される。
さすが対戦車用。良い破壊力だ。
が、スペックは重いうえに弾一発一発が使い捨て。射程もそこまで長くない。
キャニスターを放り捨て、新たなキャニスターを装填し終わる頃には、奪う者は俺をロックし何千もの弾丸が俺めがけて空を切る。
「まあそんな弾、当たる気ねぇけどな」
撃たれた弾は俺めがけて飛んでは来たが、俺の手前で減速し地面に転がる。
そして焦る奪う者達のライフルが次々とジャムった。
「物理に属する弾丸を、条理を操る異能者の俺が制御できないわけねぇだろ。んじゃ、二発目いくぜ」
二発目のランチャーは礼儀正しく狙った場所へヒットした。
しかしこれだと効率は悪いし面白くない。
俺は三発目を放って拘束具にしまい、ウィンチェスターM3000を取り出しフルオートする。
すると第一線、第二戦、第三戦。戦線が崩れ敵が面白いようにバッタバッタ倒れた。
散弾銃であることを活かして敵陣営の奥まで切り込んだのだ。弾丸制御できる人はやってみると楽しいぞ。
パン!!
一発の銃声とともに衝撃が走った。
俺の防弾コートに潰れた弾が食い込んでいる。
そう、さっきまでのはジャブ中のジャブ。
本命は『生命力を持つ奪う者達』。
なぜ奪う者が異能者達にしか倒せないのか。それは奪う者も生命力を持っているからだ。
どこで手に入れたのかは判らない。元から持っていたか、何者かに与えられたのか。
ともかく奴らは適正と威力は異能者ほどではないがただの人間からしたら斬っても撃っても焼いても死なない化け物だ。だから正規軍ではなく同じ生命力を持つ異能者管理塔、北極星が奴らを殲滅する。
何も知らない異能者は気づかないで戦ってるかもしれないが。
俺は静まり返った奪う者に向き直り問いかけた。
「……カルロス・ハスコックを知ってるか。1キロ三日間匍匐前進のあいつだ。そいつが提唱したある概念、ガンマンなら当然知ってるよなぁ?」
俺が喋っても誰も何も言わない。ただただ銃口を構えてこちらをロックしている。
たった一人に向けられる何千のバレル。体の痺れが俺の持つ銃まで伝わる。
全く、これだから北極星は辞められない。
「……知らねえのか。それでもガンナーかよ。いいか、よーく覚えとけ。正解はな…………『一撃必殺』だ!!」
叫んだ瞬間、何千人もの奪う者達が一斉に血の花を咲かせた。
道路も建物も血糊がべっとり付き、血が雨のように流れ出る。
いくら生命力を持つとはいえ、奴らは異能者ではない。なら、抵抗されても倍以上の力で返せば弾丸制御くらいやはり容易い。
本来弾は狙撃手の前方に飛んでいく。俺はその軌道を逆にした。
暴発を故意に引き起こさせたのだ。
だから狙撃手は俺を撃ったと同時に自分を貫く羽目になる。
さっき俺を撃たなかった奴らを除いてほぼ全員ーーーー目視で約8500人くらいが今ので死んだ。
生き残った奴らは撃っても自分に返ってくることを察し、銃を捨て敗走し始める。
「逃がすかよ!」
俺はAWPに持ち替え奪う者をロックした。
……が、突然バレルが曲がった。不測の力を受けたかのように直角でぐにゃりと。
敗走する奪う者の最期の足掻きだとでも言うように。
しかもこんな時に限ってスペアのバレルが無い。
辺りを見回すと、同じAWPを持って死んでいる奴がいたので
「貰うぞ」
そう言ってバレルを外す。
俺のAWPに新しいバレルを装着し終わる頃、奪う者が作り出した離脱用のワームホールがもう少しで完成しそうなところだった。
「盗んだバレルで撃ちまくる、ってな!」
銃声と悲鳴と赤が飛び出すのが同時刻。
数秒後、全ての奪う者を殲滅し終わる頃には、辺り一面骸と血の海となっていた。
俺は血で汚れていない地面を見つけてそこにどっかり腰掛ける。
ふと、足元に転がる知らない誰かが、何故か俺の頭に妹と母親の死に顔を過ぎらせた。
「……何も感じねぇのは俺も狂ってる証拠か」
結局同じ穴の狢。コイツらも俺も母親も妹も。
…………ハリーシアも。
俺は拘束具の通信をオンにする。
「こちらメテオライト大将。敵別動隊の殲滅に成功。ただちに本部に帰還する」
すると無線から何人もの異能者達の声が溢れた。
『敵殲滅を確認。お疲れ様です、司令』
『ナイスです司令!』
『こっちは大丈夫ですのでゆっくり戻ってきてください』
『ナイスショット!』
『信じてました!』
『メテオライト大将万歳!!』
たかだか一万の兵力を殲滅しただけなのにずいぶん過度な喜びようである。
だが通信を聞く限り幸いにもまだ誰も死んでいないようだ。
生きているならそれでいい。
思わず零れた笑みを隠すと、遅れて一通通信が入った。
『……敵兵一万に何分かけてやがる。さっさと戻ってこい黒ずくめ。親の死に顔でも思い出したのか。
盗んだバレル、後であたしにも見せてくれよ』
声の主は、ハリーシアだった。
死にかけの俺を拾って育ててくれた、俺に銃の使い方を教えたハリーシアと同じ声の。
…………そして、ハリーシアを殺した化け物の声だ。
いつもの俺なら心中に燃え盛る殺意を理性で冷やしている所だが、どうしてか今日は殺意を冷やす気にも、それを何かにぶつける気にもなれなかった。
普段銃のことなんて全く興味ないような顔をしてるくせに、たまに見せる化け物の何かがハリーシア……否、ブランウェンに似ていたからだろうか。
本当に気にくわない。
「…………俺のことは将軍か閣下と呼べと言っているだろう、化け物が」
俺たちは破壊者だ。
他人を殺して生きる愚か者ども。
破壊は何も生まないというが果たして本当にそうだろうか?
違う。
壊しても残る。壊しても生まれる。
世界が終わらなければ何度でも再生する。
きっと俺たちは、このクソみたいに澱んだ世界をブッ壊す為に生まれてきたんだ。




