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蒼黒アリス  作者: 朱華 麒月&カロン
31/33

エピソード31 復讐相手は桜の花








「……あー、えーと、その……今まですいませんでした……」




「謝って許される程軽い罪だったら裁判になんてならない」



「……ごめんなさい」






役所から解放されたハリーシアを待っていたのはお叱りと謝罪会見だった。



ヴァレンにヴィオラ、特にサクヤとタカオミは物凄い形相で出迎え、さっきからずっと怒り謝りが続いている。





「……そ、そのくらいでいいんじゃないか?」




なんかそろそろハリーシアが可哀想になってきたのでそう言うと、




「アリスは黙ってて」


「これは北極星ポラリスの為にしてるんです」


「主人が甘やかすからこいつが調子に乗るんでしょ」


「てめーも一発殴っとけ。殴れるうちにな」





皆血の気多くない?




まあ四人の気持ちは分からなくもない。



もともとサボリ魔だったハリーシアが長期行方知れずになり拘束具まで自己解除して逃げ、ようやく探し当てたと思ったら戦闘になりこっちは瀕死になるし、裁判で処刑されそうになって最終的には国王陛下が動く羽目になるし。



百パーセント悪いのはこいつだ。庇う気も失せる。





「それにアリス、ハリーシアに一番酷い目に遭わされてるのはあなただと思うけど」




サクヤのその一言はごもっともだ。



実際酷い目に遭った自覚はある。


あの時は本当に死ぬかと思ったし怖かった。




「……でもハリーシアは俺達を巻き込まない為にしてたんだし、確かに死にかけたけどハリーシアに殺意は無かった。それにただ居なくなったんじゃなくてリリスの情報も集めてたんだろ?あいこでいいじゃないか」



「あぁアリス、あんたに一生ついて行くよ!」





ハリーシアは笑いながらそう言ったが、他の四人は凄い剣幕で、






「そういう甘い考えが身を滅ぼすの」


「それはそれ、これはこれです!」


「主人、本気で言ってる?」


「軍律を守れねぇ奴は不要だ。それが軍隊という所だと覚えておけアホ」





まあ当然そうなるか。




「っておいタカオミ今アホって言っただろ!」


「で、今後の作戦展開だが」


「おい聞こえてんだろバカオミ」


「まずハリーシアが集めていた情報によるとリリスは魔力を集めて回っているようだ」




だめだこれ何言っても通じないな。




「魔力、ですか?マナではなく?」


「ああ。魔力はマナの一部だが、マナより変換力が高い。何かを製作しているのかも知れないな」


「その情報、信用できるの?」




サクヤがまたチームに亀裂が入りそうな事を言う。





「疑うのは勝手だが、あたしのこの情報を疑ったらこの作戦自体おしゃかになるよ。ねぇタカオミ?」




タカオミは何か言いたそうだが、結局目を逸らして続けた。




「兎に角、俺たちには情報が足りない。痛みなくして得るものなし、やってみない事に真実は解らない。例えハリーシアの情報が間違ってたとしても、何、せいぜいそこまでの命だ」




タカオミはシャレにならない顔でハリーシアを睨んだ。いや怖。




「ありがとうねタカオミ。サクヤも、司令官に逆らうなよ」




ハリーシアがわざとらしくサクヤに笑いかけた。


サクヤは無視を決め込んでるのか無表情だが。





タカオミはハリーシアを憎んでて、ハリーシアはサクヤを憎んでて、俺もサクヤの命を狙ってる。



成る程、忠実なる復讐者達(フリアエロイヤルズ)とは、国王陛下はぴったりな名前をつけたな。






「で、どんな計画を立てたの?タカオミ」




ヴァレンが催促する。




「魔力を集めてるなら、それを使わない手はない。魔力で悪魔リリスを釣り上げる」




釣り上げる……つまり、




「リリスが引っかかるほどの上質な魔力となる餌が必要ですが、それはどうするんですか?」


「ハリーシアを囮に使う」


「えぇ〜〜?それ、私情入ってない?」


「入ってない。理性的な判断だ」


「理性的、ねぇ……?」





ハリーシアは魔族。確かに適してるとは思うけど、あんなこと(エピソード25、26参照)の後じゃハリーシアの言い分も否めないよな……。





「お前はキャパオーバーするくらい上質で大量の魔力を放出しているだろ。本作戦には欠かせない要だ」


「まぁ、買うとしても魔法石高いしねー。出費ゼロで済むあたしを使いたいわけか」


「その通りだ。嫌というなら強制的に従わせるが」


「んー、じゃあさ、今度のオフタカオミがあたしとデートしてくれるならやってあげてもいいよー」


「あ?」






ハリーシアがタカオミをからかっている間に俺は浮かんだ疑問を解消すべくサクヤに話しかけた。




「なあサクヤ、ハリーシアって異能者だろ?でも魔族でもある。ならあいつは、マナも魔力も体内で生産してるのか?」


「あれは両方持ってるから変換が容易なの。普通の異能者はマナから魔力には変換できないけどあれは特別。マナを魔力に、魔力をマナに瞬時に変えられる」


「そういうことか。じゃああいつがいつも使ってる術って、魔法なのか?それとも生命力?」


「魔法。あれは生命力を滅多に使わない。でも魔法は魔理サワリの産物、生命力は条理の産物。魔理より条理の方が上のことわりだから……」



「……ハリーシアが生命力を使った場合は、桁違いの威力ってことか」


「そういうこと」






十分わかってるつもりだったけど、やっぱり改めて見てみると破壊の救世主(セイヴァー)って化け物ばかりだ。


そしてタカオミやハリーシアを見て思った。本当に強い異能者は、“生命力を使わなくても勝つ”。





俺はまだあいつらを見上げてるだけの弱者だ。






……強くなりたい。




見上げてるだけじゃなくて、肩を並べて、いつか追い越したい。






「……解った、解ったから離れろ。近いし気分の悪い」


「言ったな?じゃあオフ予定入れるなよ」


「こほん、取り敢えずハリーシアを囮にすることは決定した。それで問題は誘い出す場所だが、ヴァレン、ヴィオラ、お前たちなら何処を決戦の地に選ぶ?」


「そんなこと言ってもう決めてるでしょ」


「そうですねぇ、適した場所は幾つかありますが、わたしはラーモ00891533ktmayglがいいと思います」


「僕も同じく。スティーム00ハレルヤからも近いし、敵潜伏予想範囲内でもある。文明も滅びているから戦闘になった時楽だし、歪みも少ない。何よりこの世界の固有魔力がかなりの値だ。罠を張っても気づかれにくい」




そう言えばこいつらAIだったな。


普段普通の人間とほぼ変わりないから忘れがちだけど。





「うむ。では作戦の大まかな概要を説明する。まずフレイム少将とテイラーピール中将がラーモ00891533ktmayglに侵入し、待機。貴官らはヴィオラで現地観測、解析し、本部のハヤミ少佐、ヴァレンに送る。小官とハヤミ少佐はヴィオラから送られた情報を解析しつつハリーシアの魔力放出をバックアップ。リリスを観測したらフレイム少将、テイラーピール中将で奴を目標ポイントまで誘導。あとは技術部に任せる。質問はあるか」





もう作戦内容を話すってことは、今日にも作戦が始動する、いや、既に始まっているのか。



それにしても、技術部って何だ?




「タカオミ、主人は技術部をよく知らないみたい。説明してあげて」




ヴァレンが代弁してくれた。





「技術部ってのは北極星ポラリス技術本部の事だ。ただの軍隊の技術部でなく、異能者や生命力、パラレルワールドについての研究・開発機関。拘束具も、俺たちの使ってる武器も、ヴァレンとヴィオラも奴らが生み出した」


「へぇ。凄い所なんですね」



そんな機関があったのか。




「あいつらの手を借りるなんて、タカオミもらしくないなぁ。何か動いてるの?」



ハリーシアが小馬鹿にするように言う。




「陛下の命令だ。逆らう権利は無い」


「その技術部と何をする気なの、タカオミ」




それもそうだ。この作戦、破壊の救世主(セイヴァー)に与えられた任務のはず。何故陛下は作戦の大事な所に技術部を加えたんだ?




「悪いが内容は言えん。理解しろ」





言えない理由があるのか。


国王陛下は何を考えている……?




本当は問い詰めたい所だけど、ここは引いた方がよさそうだ。





「作戦は既に始まっている。俺たちの出動は3時間後。それまでに各自補給とメンテナンスをしておけ。以上、解散」





サクヤは不服そうな顔をしながらも踵を返し、ヴィオラがそれに続く。




「んじゃ、あたしは腹ごしらえでもしますかねー」



ハリーシアもそう言って食堂に向かった。




タカオミは俺と長い間睨めっこをしていたが、やがてタカオミは俺の横を通り過ぎ出て行った。





残されたのは俺とヴァレンの二人だけ。





『主人、問い詰めなかったのは賢明な判断だ。あそこで口を開いていたら色々台無しになってた』


「どう言うことだ?あと何で喋んないで脳内通信……」


『黙って。主人も脳内通信にして』


『あ、ああ……』




ヴァレンは何か調べたあと、口を動かさずに俺の目を見て言った。





『タカオミは工作員の存在を懸念してるんだ』


『工作員……スパイが居るかもって事か?』


『うん。タカオミが疑いにかかってるのはあいつだと思うけど』


『…………ハリーシアか』


『本作戦はあいつが持ってきた情報が真実かどうか確かめるためでもある。だからタカオミは作戦の最重要にハリーシアを置いた。技術部の事を言わなかったのも裏切りを警戒しているからだ』





確かに行方不明時にハリーシアが何をしていたのかを識るのは不可能だ。俺達の知らない所でハリーシアがリリスと接触して寝返ってる可能性も十分にあり得る。



まさか陛下はこの事を見越してハリーシアを助けたのか?ハリーシアがリリスと繋がっていた場合、ハリーシアを使ってリリスを誘き寄せるために。





でも、俺は別の意見を持った。




『それにしては、皆ハリーシアを疑いすぎな気もするけれど。一番怪しいのは誰だって言われたら俺もあいつだと思うけど、もし他にも裏切り者がいたらーー』




「裏切り者はもう北極星ポラリスに居るんじゃないかな?」








背後から声がかかり勢いよく振り返ると、ドアにハリーシアが寄りかかっていた。






『半径五十メートルに生体反応は無かったのに、魔族の力か……』



ヴァレンが舌打ちすると、




「ああ、魔族の力さ」




脳内通信なのに見透かしたかのように返した。





「……ハリーシア、答えてくれ。お前は裏切り者なのか?」




俺が肉声で聞くと、ハリーシアは




「あたしに質問するな。あたしはあんたに嘘はつかない」





そうは言っても、質問しないと答えは聞けないんじゃ……。




いや、逆に質問しないで答えを引き出せばいいのか?





「……俺はお前のことよく知らないけど、敵には回って欲しくない」


「あたしが怖いからか?それとも戦力ダウン?」


「違う。今まで仲間だった奴と戦うのが嫌なだけだ」


「よく知らない、と言った割には随分勝手な理由だね。…………変わらないな」


「え?」


「いーやこっちの話さ。あんたも作戦に備えてシャワーでも浴びときな。正体が何であれ、相手は悪魔なんだから」


「あ、おい!」





ハリーシアはそのまま出て行ってしまった。




結局何も解らなかったな……。






『…………変わらないな』





俺、前に何かあいつに言っただろうか。






………………。





いや、やっぱり思い出せない。もうさっきから頭が緊張続きで疲れているのに、これ以上考える気が起きない。


ここはひとつハリーシアの言う通りシャワーでも浴びるか。




「なら僕はヴィオラの所に行ってくる。呼べば戻るから」




ヴァレンは言いながら粒子となって消えた。









シャワールームは誰もいなかった。



昼だし当たり前か。





コックを回すと、お湯が俺を伝って流れ落ちていく。



何だか、前にもこんな事あったような。












その瞬間、俺は何かを走馬灯のように思い出した。





……真っ赤な、血の雨。尸の平野に、俺が立っていた。



慌てて自分の手を見るが、滴っているのは血じゃなくて透明なお湯。


当たり前のことなのに、俺は何故か酷く安堵した。




「……何だったんだ、今の?」














シャワールームを出て、自販機前でコーラを飲んでいると、サクヤが頭をタオルで拭きながら歩いてきた。


あいつもシャワー入ってたのか。




そのままサクヤは自販機の画面を押してミルクが排出される。




「隣、いい?」


「……ああ」




隣にサクヤが座る。





「……なんか久し振りだな。前はずっとお前と一緒に居たのに」


「そうかな。……そうかも」




サクヤがミルクを開け、一口飲む。







「……アリス、あの事知ってたんだね。もう一人のアリスがそう言ってた」





あの事……。




「いいのか?近くにヴィオラ居ないのか?」


「あの子達はもう準備に取り掛かった。それに居ても居なくてもヴィオラには聞こえてる」





あの事というのは、きっとサクヤを取り巻くきな臭い『実験』のこと。



ヴァレン、特にヴィオラが深く関わっている、北極星ポラリスの極秘事項。





「あなたの目的は承知してる。世界を再生することも、私を殺すことも、揺るぎない信念の元だったらそれでいい。でも……」




サクヤの紅目が、今日はいつもより深く見えた。


さっきあんな走馬灯を見たからだろうか。






「私を殺したいなら、どうしてあの実験のこと知ってたの?弱みを握る為?それとも違う何か思惑があったの?」





新しい血櫻を渡したもう一人の俺は結構色々くっちゃべったようだ。



言うつもりも言わないつもりもなかったから別にいいけど、サクヤも案外ストレートだな。






「…………それを識っているのは、俺が識ろうと思ったからだ。復讐する為じゃない。単純に興味があった。俺は、お前を識りたかった」




サクヤが大きく目を見開く。





「……別に、おかしな事じゃないだろう。こんな仕事してるんだ、もし、って考えるさ。もしこういう出会い方をしてなかったら。ただのクラスメイトとして出会ってたら、普通の友達になれたかもしれないって。お前も考えたことくらいあるだろ」





そういう考えが出てくるくらい、俺はこの復讐者と復讐相手という関係が嫌になってたのかも知れない。



憎しみだけじゃなくなってしまったサクヤのことを、憎しみ以外の感情が識りたいと思った。



だから、調べて回った。復讐のためと言い聞かせて。






「でも」




俺はきちんとサクヤに向き直った。




「それは『俺』じゃない。他の誰かの人生だ。使命感でもない。憎悪も後悔も消えないけど、過去を変えたいなんて思わない」





サクヤは頷いた。顔を上げると、少し微笑んでいた。





「解った。あなたの復讐相手になれてよかった」



















「今フレイム少将とテイラーピール中将に持ってもらったのはガッハ63。目標世界に侵入したらそれを指定したポイントに設置しろ。実際に設置するのは各三つづつだが、念のため予備一つ追加してある。設置したらそのまま次の指示が来るまで待機。以上だ」


「「了解」」





円形の銀色の物体を拘束具に収納し、長期遠征用バックパックとショルダーホルスターを装備したサクヤとハリーシアは、この作戦が下手したら長期化する事を物語っていた。



何しろリリスがこちらの手に乗らなくては作戦が成立しないからだ。





「貴官らのどちらにも戦線離脱権を与える。危険を感じたら迷わず使え」


「あたしも使っていいのか?」


「そう言っている」




ハリーシアは少し得意そうに笑い、




「じゃあ、バックアップは任せたよ、タカオミ、アリス」




そう言ってウィンクした。



「あ、ああ……気をつけろよ、サクヤとヴィオラも」


「はい、行ってきます!」




ヴィオラはグッドサインし、サクヤは無言で頷いた。


俺も頷き返し、敬礼する。



ヴィオラとサクヤだけが敬礼して、ハリーシアは手をぶらぶら振り次の瞬間消えた。




そして本部の巨大画面にサクヤとハリーシアのバイタルと二人の侵入した世界の映像、魔力数値のグラフに半径20000メートルのミニマップが表示された。




『侵入成功。1530、作戦開始。二手に分かれて目標地点AとFに向かいます』


「了解」




バックアップ(こっち)側のオペレーターはヴァレンだ。俺にされなくてよかった。多分死ぬほど向いてない。




それにしても、前線に出ないってことは今までなかった。安全な場所で見守るのって、なんだか落ち着かない。


ヴァレンの方がヴィオラより演算能力が優れてて、そのヴァレンを維持するために主人マスターの俺が前線に行けないのは解ってるけど……。





……死ぬなよ、サクヤ。お前を殺すのは俺だ。






『こちらフレイム少将、目標地点Aに到着。ガッハ63を設置します』


「了解。A地点設置完了確認」



『おーい、こっちも置いたぞー』


「F地点設置完了確認。任務を続行してください」







やがて全てのガッハ63を設置し、あっちの世界もこっちの世界も時差はあるが夜を迎えた。



現在23時10分。少し眠くなってくる時間だ。




そこでずっと無言だったタカオミが動いた。




「ヴィオラは周辺の索敵を続けろ。フレイム少将とテイラーピール中将は2時間おきに交代で見張れ。アリス、お前もだ。2時間仮眠室で寝てこい」


「あ、はい。分かりました」


「言っとくけど起こさないからな。自力で起きろ」


「は、はい……」





目覚ましかけよう。


















「…………に……て……だったんだ」



「……したな……殺したな」



「お前も……殺してやるっ!!」










「ーーーーっ!?」










現実に引き戻されたかのように夢の区切りがはっきり分かれた。




暗い天井。12時55分を示す時計。聞こえるのは俺の息切れだけだ。



今の、夢……?





またあそこだ。尸の平野。でも今回雨は降ってなかった。





……俺は、俺に殺された。




あれは俺だ。憎悪に歪んだ、血塗れの俺だった。


なんで俺が俺を。あれは予知夢なのか?






『嫌なものを見たようだね』




そのとき声がした。


俺は手首の拘束具を見た。






「……コールブランドか」



『こっちで話すのは始めてかな?なんにしろ久し振りだ』


「見てたのか。俺の夢」


『ああ。君がよく見るその夢、十中八九僕のせいだからね』


「もしかしてお前の前の持ち主の記憶……なのか?」


『そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。でもひとつ言えるのは、それは君じゃない他人の記憶だ。無視して構わない』


「で、でも俺がいた。俺が俺を殺してた。無関係に思えるかよ。…………それよりお前、世界樹(ハレルヤ・)の救世主(セイヴァー)の資格を与える剣の一振りなんだろ、もう一人の資格を与えられた人物を知らないか?」


『悪いが答えられない。心配しなくても、両者は必ず相見える。そう世界樹に設定されてるんだから』


「設定?おい、世界樹(ハレルヤ・)の救世主(セイヴァー)の出さなきゃいけない答えって何なんだ?教えてくれ、おい!」






通信切りやがった、あの竜聖剣。




「何なんだよ……」












それから二日間、リリスは現れなかった。



あの妙な夢もあれから見てない。


眠れてる気は全然しなかったけど。






変化が訪れたのは三日目の夜のことだった。




ヴァレンが画面に映し出された数値を食い入るように見つめる。




「波動関数が変化した……?エルミート演算子……固有値がおかしい…………まさか!!」





ヴァレン……?






「ヴィオラ、聞こえる!?リリスがその世界に侵入した可能性がある、ハリーシアを起こして周囲を警戒して!!」


『えぇえ!?わ、解りました!!』


「アリス、君はタカオミに通信して!」


「あ、ああ!」





よく判らんが来たのか?リリスが本当に?





「タカオミ起きろ、リリスが侵入した可能性があるってヴァレンが!」


『アホ、俺のことは将軍か閣下と呼べと言ってるだろう』


「そんなの今はどうでもいい、早く本部に戻れ!」


『今入るとこだ五月蝿え!』




すると本当に言葉通り、次の瞬間ドアが開きタカオミが入ってきた。



……ここから仮眠室、結構距離あるのに。まさかタカオミ寝てないのか?






「どうしたヴァレン、状況を説明しろ」


「どうもこうも、向こうの世界に居る三人以外の波動関数が変化したんだ。この世界文明滅びてて人間も生物も居ないし、風が吹いて何か動いたのかとも思ったんだけど、オブザーバブルを表すエルミート演算子が正常じゃない。実数じゃないんだよ。つまりさっきのは可観測量オブザーバブルじゃない。普通の人間にとっては」


「成る程、普通の人間は観測できないモノ。それは条理を持つ異能者なら観測できる。だからリリスが侵入したと言うんだな」





何が成る程なんだ。俺には一片も解らん。



取り敢えず理解できたのはリリスが侵入したということだけ。






『ヴァレン、見つけました!未観測物体がこちらに近づいてきます!』


「未観測?リリスじゃないの?」


『はい、違うようです。一体何者でしょう……?』


「警戒を怠るな。味方の可能性は低い」





リリスじゃないって、さっき俺が理解した一片がこうもすぐ否定されるとは本当何者なんだ?




でもそれを聞いて、俺はどこかほっとしてる。


リリスは仇なのに、どうして……?








『接触まであと3……2……1……ゼロ!』






その瞬間、画面が爆風に包まれ、何も見えなくなる。



砂埃が舞い、だんだんそれが引いていくと、









ーーーー宙に浮いた10歳くらいの幼女が姿を現した。







薄紫色のくるぶしまである長い髪、前髪はセンター分け。


髪と同じ色のつり目は光が宿っておらず、見開いている。口元は笑っていて八重歯が光る。


そして露出度が高い。隠せばいいとこだけ最低限隠したみたいな無関心さ。なのに背中には紫のマントを着けている。前を隠せよ。



なんかどこかヴィオラに似ている。






『な……なんなんですか貴女!わたしと同い年くらいで同じイメージカラーの幼女なんて、世界(ワールド・)の守護者(ガーディアン)といい貴女といい、わたしとキャラ被せてこないでくださいー!!』





最初に口を開いたのはヴィオラだった。いや怒る場所そこかよ。




幼女はヴィオラを見つめ、静かに呟いた。






『…………哀れなもの、誰にも気づいてもらえないなんて。蒼と紅の仔、愚かなヴィオラ……否、ヴィオレッテ』








……ヴィオレッテ?



確か、ヴィオラの真名まな。他言するなって言われたパスコード。






『……な、なんで、わたしのフィリアスコードを、識ってるんですか……』


『些細なこと。リリスはまだ来ない。ワタシがお前たちの相手をする』





リリス……!





『リリスってことは、あんたあいつの仲間かい?』


『仲間……仲間とはなんだ。ワタシとリリスは契約した、それだけ。そこの娘の魔力と、イヴを回収する』


『させません。それにイヴじゃなくてサクヤです!』


『些細なこと。邪魔するなら殺す』







幼女はそのまま攻撃を仕掛けてきた。




ヴィオラが札でそれを防ぎ、その隙にサクヤとハリーシアが幼女の背後に回る。



サクヤの刀が煌めき、ハリーシアの魔法が炸裂する。




巨大な爆発が辺りを包んだが、それでも戦いの音は止まない。






『魔力、生産』


勝利だ(ヴィットーリア)!』


『月斬桜!』







爆風の中でさらに弾幕が発生しこっちからは何も見えない。


頼りになるのは音声だけ。




剣と剣がぶつかる音がする。サクヤの血櫻ともうひとつ。幼女は剣を使うのか。


そしてそれに紛れて爆発音、破壊音、シールド展開した音など、後衛に従事してるヴィオラの音。


もうひとつは、空を切る音、本を捲る音、宝石が割れる音がする。これはハリーシアか。




いずれにしろ3対1。圧倒的にこっちが有利だ。




やがてだんだん画面が見えるようになった頃、両者とも攻撃が止まった。








『……明らかにこちらが不利。リリスはまだ来ない。応援を要求する』




『貴女、何者なの。リリスは何故“まだ”この世界に来ないの』





サクヤが血櫻を一振りして幼女に聞く。





『ワタシはノア。リリスがアダムを恨むモノなら、ワタシはイヴを呪うモノ。ワタシに気づいてくれなかったイヴをワタシは許さない』





ノア。



確か聖書では、アダムとイヴの子孫である、方舟に乗ることを選ばれた男性。



そいつが、『イヴに気づいてもらえなかった』?






リリスことイーモン王子は、自分を捨てたアダム、イヴ、世界樹に復讐する『正しい歪み(リリス)』に寄生されていた。



ならあの幼女も、『ノア』を名乗る何かに寄生されているんじゃ……?






『あんた、リリスみたいに他人に寄生してるのかい?それともあんた自身が『ノア』なのかい?』




ハリーシアが俺の聞きたいことを的確に聞いてくれた。





『ワタシは『ノア』以外の何者でもない。ワタシは“寄生する側”。でも今は誰にも寄生はしてないけれど』






じゃああいつ、寄生しなくても生きていられるのか。



……リリスも、もしかして?







『……時間は稼いだ。応援が到着する』






応援…………って、まさか!








「ワームホール出現!奪う者(ローバー)が侵入してきてる!敵兵……約2000万!!」



ヴァレンが悲鳴のように叫んだ。





『にせんまん!?そんな大量にですか!?無理です無理ゲーです死にます!!』


『3対2000万?ちょっと、これは舐めてるでしょ』


『それにあのノアも同時に相手しないといけない。こっちも応援を要求した方がいい』





じゃあ俺……は行けないのか、タカオミか他の異能者達に応援を頼んでーー。





その時、本部に誰かが突っ込んできた。


修正者コレクターのライラック准将だ。





「将軍、大変です!リリスを名乗る少年と、奪う者(ローバー)が出現しました!奪う者(ローバー)の数、約5000万です!!」



「なんだって!?」





タカオミも目を見開いている。




何で?だってノアは“まだリリスは来ない”って……。





「あのノアとかいうクソガキ、“まだ来ない”とか言ってさもあっちの世界にリリスが行くみたいなの醸し出してたが本命はこっちだったってわけか!!」




タカオミは今にも銃を取り出してあっちの世界に飛び込みそうな顔をしているが、拳を握りしめるに留まり、ライラック准将の方を向いた。





「ベティ、今現在北極星(ポラリス)に残ってる異能者は俺たちを含んで何人だ」


「えっと、49名です!」


「全員出動だ。経理部も衛生部も技術部でのさぼってる奴らも全員叩きだして来い。ただしヘラクレスは残しておけ。非戦闘科らの指揮にはガレスの方のスコーピオ中将、ベテルギウス少将、そしてライラック准将が当たれ!」


「りょ、了解!」





ライラック准将が走って出て行くと、タカオミは俺の方を向き、





「アリス、お前はリリスと戦え。司令官命令だ」


「で、でも将軍、俺がここから離れたらヴァレンが維持できなくなります!向こうの世界の三人に何かあったらどうするんですか!!」


「サクヤ、頭に乗っかってるヴァレン本体をこっちの世界に送れ。本体が近くにあればマスターが側に居なくてもヴァレンは擬人体を維持できる」


「じゃあ三人の応援に行かせてください!こっちは敵兵5000万だけど、異能者は49人も居ますし、軍隊も合わせれば勝機もあります!でもサクヤ達は3対2000万です!いくらあいつらでも死にますよ!」


「アホ、あいつらがたかだか奪う者(ローバー)程度で死ぬか。それに俺が何のために技術部に手を借りたと思ってる。こうなる事を想定してたわけじゃねぇが、あれを使えばだいぶ戦局も変わる。いいからお前はリリスの所へ行け。仇なんだろ」





タカオミは最後の言葉にやけに重みを持たせた。


タカオミも復讐者だから思うところがあるのは解ってる。正直ありがたいし。





……でも、サクヤが血櫻を貰った世界のあいつらは、奪う者(ローバー)との戦いで死んだ。



タカオミ、お前も。





あいつらは俺なんかよりずっと強い。俺が行っても足手まといか何もできずに死ぬかだろう。



でも、だからって…………。










「タカオミ、ここは俺に任せてくれないか」






その時、背後で男性の声がした。



振り返ると、茶色い寝癖だらけの髪にしわくちゃの白衣、顔はかっこいいのに色々残念で三枚目に落ち着いてる男が立っていた。




この人、誰かに似て……。






「ガリレオ、てめー外の奪う者(ローバー)に対処しろってさっき全異能者に命令しただろこのタコ墨野郎」


「だから話があって来たんだよ、ちょっと聞けって。え、タコ墨?」


「聞く耳持たん最前線で戦死しろ」


「ははは、きついなー。生憎俺は殺されて死ぬのは死んでもごめんだ。てか本当に今回は真面目なの、話くらい聞いてくれよ」




「……将軍、この人は?」





俺が聞くとタカオミは鼻を鳴らして言いたくなさそうに言った。





「お前は会ったことないか。そいつは北極星ポラリス技術本部部長、ガリレオ・アルテア・スコーピオ中将。駆逐隊デストロイヤーのガレスの長兄だ」




スコーピオ中将のお兄さんか。

道理で誰かに似てると思った。



それに、技術部の部長って、この人が?





「君がアリス君か。直接会うのは初めてだね。俺はガリレオ、タカオミには嫌われてるけど仲良くしてくれたら嬉しくて死んじゃう」





……確かにタカオミは嫌いそうな人だ。



タカオミ、ガレス中将のことは弟みたいに可愛がってるけど。





「それでさタカオミ、アリス君、君達はリリスの元へ行って、ここは俺に任せてくれないか」


「なんで俺がお前の指図を受けないとならんのだ俺は北極星ポラリス最高司令官だぞ身の程をわきまえろ」


「まあまあ聞きなって。タカオミは現場で指揮を執らなきゃいけない。それにリリスの目的はアリス君と戦うことだろう。今アリス君がここ、ひとつめの楽園(エデン)に居るのは極めてまずい。生命の実はここにあるからね。彼の復讐対象には世界樹も含まれてるから、ここを見逃してくれるとも思えないし。だからアリス君にはリリスを外に引きつけておいてもらいたい。そうしたら本部にはヴァレンだけ。タカオミ、あっちの世界の面々にはガッハ63の使い方教えてないんだろ?」





タカオミは無視してる。それを肯定と受け取ったのかガリレオ中将は続けた。




「だから技術部の人間がここに残らないといけない。彼女たち三人を救いたいならね」





なるほど。確かに最善の策に聞こえる。




でも技術部のこと俺はよく知らないし、スコーピオ中将のお兄さんとはいえサクヤ達のバックアップを任せる信用に足りるだろうか。



決めるのは俺じゃなくてタカオミだけど。






「……解った。だがサクヤ達に何かあったらてめーを今度こそぶっ殺す。その気でやれよ」


「オーケー、ありがとタカオミ。持つべきものは最高司令官の友だね」


「てかてめーは前線に出たくないだけだろ」


「あ、バレてた?」



「あ、あの将軍、サクヤ達に応援送りますよね?」




俺はちょっと不安になってた事を聞いた。




「たりめーだ。まあケイトあたりを送っときゃ大丈夫だろ」


「ケイト?」


「そうと決まれば急がねーとな。アリス、お前はベティの班に入れ。ガリレオ」





タカオミがガリレオ中将の方を向く。



そしてやけに小さな声で





「頼んだぞ」





そう呟いた。



ガリレオ中将は星が降ったかのような顔をしてが、すぐににやっと笑った。



「おう」






「アリス、エントランスまで走るぞ!」


「え?えぇ!?待ってください、速いって!!」





タカオミが廊下を独走する。サクヤも大概速かったけど、こいつも馬鹿みたいに速い。靴になんか仕込んでるのか?





俺はタカオミを追いかけながら遠ざかる本部入り口を振り返って見る。









『あなたの復讐相手になれてよかった』

















「………………俺も、よかったよ。お前が復讐相手で」












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