第9話 和紗の安堵
そこに居たのは新治小父ちゃんだった。
恐る恐る助手席を見ると希和子さんが。
このパターンはやばい・・・・・
「お父さん和紗早くー」
お母さんは急かす。
私は心の中で願いを唱えながら新治小父さんの座っている席の隣をお父さんのために空け一番後ろの席に座る。
居ませんように。居ませんように。居ませんように。
荷物を膝に置きゆっくりと頭を回し隣を見る。
そこには私の願いもむなしく新ちゃんがいた。
「和紗おはよう」
「おはよう・・」
新ちゃんはこちらに顔は向けるが目を合わせずに気だるそうに挨拶をしすぐに窓の方に顔を向ける。
何でそんな顔するの・・・・
窓ガラスに映る新ちゃんはいつもどうりに見えるけど伏せ気味な睫毛が憂鬱さを物語っている。
前からはお母さんと希和子さんの明るい話し声。新治小父さんは新ちゃんのお父さん。希和子さんはお母さん。
「結婚記念日にこのメンバーで出かけれるなんて最高」
「そうね〜」
新ちゃん夫婦と私の親はただのお隣さんじゃない。
実は新ちゃん夫婦の結婚式に呼ばれた私の親はそこで出会い二人の仲介があって一年後の同日に結婚したのだ。
そして私たち家族が住んでいた隣に丁度いい空き地があったので新居を建てたかった新ちゃん夫婦が越してきたのだ。
お隣さんになって仲良くなった訳ではなく昔からの延長線で今の関係がある。
忘れてた。今日結婚記念日だったのか・・・・
「治人君も行ければよかったのにね」
「あ、あの子結婚するのよ」
「え、本当?おめでとう」
治人とは私達より四歳年上の新ちゃんのお兄ちゃん。知らなかった・・・まぁ おめでとう兄ちゃん。
でも恨むよ。何で今日来なかったのよ。
結婚記念日なんだから4人だけで行けばいいのに毎年必ず私たちも巻き込まれる。
よりによってあんなことがあった翌日に再び顔を合わせるなんて。気まずすぎる。沈黙が続く。せめて治兄がいればなぁ
『ぐうー』
やばい。緊張感に欠けるけどお腹すいた。晩御飯と朝ごはん抜くのはやっぱりきつい。耐えるしかない。だってお母さんが用意してくれたカバンの中には食べ物なんて一つも入ってなかった。
「和紗」
沈黙を破ったのは新ちゃんだった。
「なに?」
なお流れる気まずい雰囲気。重い空気耐えられない。
「やる」
ぽいっと何かが投げられる。
ポテトチップスだった。袋の。
お腹の足しになりそう。コレ食べてもいいの?
「ありがとう!」
うきうきと袋を開ける。
塩味〜♪塩味〜♪美味しい〜♪
あっという間に一袋食べる。
新ちゃんが何か言いたそうにこちらを見る。
その顔は“食べすぎ”っていう顔だな。
「しょうがないじゃん。晩御飯も朝ごはんも抜いたんだよ?」
「・・・何で?」
「何でって・・・」
泣きつかれて寝ちゃったとはさすがに言えない。
「あ・・・うーえっと…」
下を向きもごもごと口を動かす。
自分から墓穴掘った。私は馬鹿だ。
新ちゃんはその様子を見てぷいっと顔を窓に向ける。
あーまた気まずくなった・・・・
「和紗〜そんなに食べてどうするのよ・・・お昼ごはん食べてなくなっても仕方ないわよ?」
お母さんが口を挿む。
「う〜〜だって・・・」
耐えれなかったんだもん。
「グロスも落ちてるじゃない。」
うそ?!
慌てて自分の口元を鏡で確認する。
本当だ・・・落ちてる。
「ま・いっか」
もともと乗り気のしなかった化粧だ。落ちようがどうってことない。
「よくねぇよ。ほれ貸し」
新ちゃんは私の手にあったポーチからグロスを取りだす。
何?
「動くな」
私はその言葉にぴたりと体を固める。
その反応に新ちゃんはにこりと笑う。うー笑うなー
新ちゃんはグロスの蓋をあけ器用に私の唇にのせていく。私はされるがままだ。
間近に新ちゃんの顔が見える。
肌がきめ細かくて綺麗だ。男の人なのに・・・
こんなけ近いと息遣いまで聞こえてきそうだ。
思い出すのは先日のキス。
すごく新ちゃんが近く感じられあたたかかった。
・・・嫌じゃなかった。
唇を求められても、私は新ちゃんを拒否しなかった。
「ん 完成」
ゆっくりと首をめぐらせ正面を向く。
体がどっと疲れたのが分かった。
決して新ちゃんの目を合わせないようそれでも再び彼の方に向き合う。
「ありがとう」
「うん」
新ちゃんが優しい声で返事をする。
和やかな雰囲気が流れる。
私は緊張するけど・・・・新ちゃんは機嫌良くなったのかな・・・?
良かった。新ちゃんの態度がおかしいのが続いてたらこの一日がかなり辛かっただろう。
私の気持ちの整理は相変わらずついていない。もやもやしてるけど。
「良かったわね。」
「そうだよね。ちょっと雰囲気が重過ぎてこっちが息詰るかと思ったわ」
母達が後ろの夫と子供達に聞こえないように話し出す。
「あーんなに仲良かったのに・・・あの沈黙。重すぎたわ・・・」
「でも新希ちゃんって何時もポテトチップスとか持ち歩いてるの?」
男子高校生があんな嵩張るもの持ち歩いてて邪魔じゃないのか?と疑問に思ったのだ。
「あーあの子がお菓子溜め込んで持ってるのは和紗ちゃんのためよ」
和紗はよく食べる。お菓子も大好きだ。そんな彼女のためにわざわざ彼女の好きなお菓子を持ち歩くのは勿論のこと新製品が出るたび買い込み食べさせ彼女が気に入ればそのお菓子をまた買い込む。
それだけ甘い。甘すぎる。
「はー和紗思われてるわね〜でも可哀相にね・・・あからさまなのにあの子気付かないんだから・・・」
「気付いたからあんなに気まずくなったんじゃない?」
「なるほど。」
やっと和紗に意識してもらえるようになったのか。あんなに鈍い子をどうやって気がつかせたかは深追いさせたかはあまり深く追わないが普通の告白では笑い飛ばされるのが関の山。何かしらの行動(笑い飛ばせないような)を起こしたのだろう。
「我が娘ながら本当によくやるわ…新希ちゃんみたいなレベルの子をあそこまで夢中にさせるとは」
「我が息子ながら人前であれだけのことをやるとはね…」
“あれだけのこと”とは先程の“グロス”のこと。
あの息子は和紗ちゃんのことになると悩んだり思い詰めたり迷ったり消極的になったり積極的になったり…感情が揺れ動きやすくそれでもって様々な行動を起こす。
思い悩んでも幼馴染みが愛おしくてしょうがないという甘い顔。
「あんな表情、女の子にグロスをぬるなんていう行動する子だったかしら」
「ふふ確かにそんな子じゃないわね」
新希ちゃんは昔からしっかりしている子だった。何時も周囲の空気を読み行動する聡い子だ。
それでも昔から和紗をそうとう甘やかしていたのには間違いないが。
「希和子。後ろ見てみ」
後ろをそっとミラーで確認する。
そこに映っていたのは娘を男に取られやしないかちろちろ後ろの様子をそれとなく確認している和紗父だった。
ちなみにその顔には余裕が無く新希に鋭い殺気を送っている。きっとあの“グロス”の時は気が気ではなく冷や汗をかいて見守っていただろう。
だが和紗のことで頭がいっぱいになっている新希はそれに気付いていない。
「あの人もいい加減諦めたらいのに」
和紗も十七になった。
恋人の一人や二人いくらでも作れる。(二人はおかしいか)
聞くところによると告白もされたことはあるようだし(ムギさんにであるが)恋人がいないほうが珍しいのではないか。(新希が頑張って虫よけした成果である)
「新希ちゃんは昔から知っている仲なんだしそんな目くじらたてなくてもいいのにね」
「それでも嫌なもねは嫌なんだと思う。あんなに可愛い娘ならなおさらね。私は可愛い娘が来ることは凄く嬉しいけどね。」
「私だってカッコイイ息子欲しいわよ」
二人は豪快に笑いあった。
次話は少し長くなりそうです。




