第2話 ムギさんの正体
『キンコーンカーコン』
スピーカーからチャイムの音が鳴り出した途端、今まで大人しく席に着いていた生徒たちが一斉に立ち上がる。
「おいまだ話終わってないぞ!」
そんな先生の話を聞き流し生徒は無情にも教室からどんどん去っていく。
私も席を立ち上がり先生に申し訳ない気持ちを抱きながらも教室の扉を潜る。
私の右手にはサブバック。左手にはジャージと下駄、麦藁帽子、手ぬぐいを詰め込んだやや大きめのバック。
(早くしないと新ちゃんが来ちゃう…!)
私は小走りで長い廊下の先のトイレを目指す。
こんなとき校舎の一番端にある自分の教室の位置が恨めしい。
「今日ムギさん庭に来るかしら」
前方から来た女子生徒2人とすれ違う。2人の話していた内容が聞こえてくる。
私は思わず『ムギさん』と言う言葉に反応し後ろを振り返る。
「来るよ」
「そうかなぁ…ムギさんは神出鬼没だし…まだ遠目でしか見たことないの」
私はその噂に食いつき女子生徒達の後ろを着いて行く。決して前の2人に気付かれぬよう。
彼女たちは私の目指しているトイレとは逆を目指して歩いていく。
うっ逆だ。だけど…気になる。
「ムギさんの顔拝見てみたいなあ…たぶんカッコイイよ。声聞いてみたいなぁ」
「そういえば誰もムギさんの声聞いたことないよね」
ムギさんの人気は絶大。
やばいです。ムギさんは崇拝の対象になっています。
それは私にとって非常にまずい。
(何でこんなことになってるんだ…)
どんどん私は悩み自分の世界に入っていく。
彼女たちを尾行していた筈がいつのまにか足はとまっていた。
(だってムギさんは・・・・・・・・・)
「和紗何処行く」
「ぎゃっ」
自分の右肩に誰かの手が置かれているのが分かる。
慌てて後ろを振り返る。そこにいたのは…………
「新ちゃんっ」
やばい。せっかく新ちゃんに見つからないようさっさと教室出てきたのに。
「和紗。教室で待っとけって言ったよなぁ?」
新ちゃんは笑顔でこちらを攻めてくる。
「そうだったけ〜?」
しらばっくれる。勿論そんなの通用しないげど。
「今日は俺に付き合う約束だよな」
新ちゃんは私の家のお隣りさん。いわゆる幼なじみというやつ?
「あ〜そうだったかも。けど庭の世話しなくちゃいけないから行けないや。や〜本当に残念。残念。」
「庭の世話なら朝俺がしておいた。校長にも言ってある。」
校長先生は私と放課後庭の世話をするお仲間。
・・・新ちゃんは逃げ道を作ってくれなかった。
「行くぞ」
新ちゃんは私の腕を掴み引きずっていく。
「そこのあなたー助けてー」
さっきまで後を付けてた女の子たちに助けを求める。
「新希君!」
女の子は新ちゃんの姿に気付きキャアキャア歓声をあげる。
(喜ばずにまず助けて〜)
「お前の味方は誰もいないよ」
新ちゃんは『にぃ』と悪魔のような笑顔を作る。
その顔すごくムカつく。
モテるんだよ新ちゃんは。ムギさんと争うほどに。
ムギさんは大人っぽくて(おじ様っぽくて)
新ちゃんはジャニーズ(?たぶんね)系
「いい加減止めたら・・・」
新ちゃんの目線は私のジャージと下駄、麦藁帽子、手ぬぐいを詰めたバックにいく。
そしてそれを取り上げ溜息を吐く。そして私の耳に囁く。
「ムギさん」
話数の関係により本日は2話分の更新です。




