大好きな人たちを
死体を燃やしながらメラメラと揺れる揺れる炎のせいでゾンビたちは近寄ってこない。危険だと本能的に思ったのだろうか。それとも、人間として火を見て落ち着いているだけなのだろうか。それは生きている俺にはわからない。
徐々にゾンビたちはその場を逃げるように去っていった。
追いかけたいが今もなお燃え盛る炎の中に突っ込んで行く度胸はない。
「理人! 雨音! 終わったならこっち来て!」
背後から聞こえる声に我に帰る。
俺たちはくるりと踵を返し、今も戦い続けている要と珠理の元へと向かう。
二人が相手をしているのはたった一体のスケルトン。
剥き出しになった頭蓋骨には銃弾を何発か受けた痕がある。なのにも関わらずこいつも倒れる気配がない。
「雨音、プラスチック爆弾まだ持ってるか?」
「うん、あと一個あるよぉ」
「十分だ。一発お見舞いしてやれ」
「わかったぁ。みんな避けてぇ」
そう言って最後のプラスチック爆弾を投げつけ、そして爆発する。
閃光を見ると同時にやったか? なんてフラグみたいなことを思ってしまった。
煙の中からゆったりと姿を現すスケルトン。
「効いてないじゃん!」
「すまん、やったか? って思っちゃった……」
「理人って馬鹿なのぉ?」
雨音にガチのトーンで侮辱された。
しまった……。俺がフラグ立てたからか?
燃える体で襲ってくるスケルトン。体に残った肉が焼け爛れ、またしても不快な匂いが一面に広がる。だが先程とは違い、すぐに火は収まった。
もしかして肉が少ないから燃えないのか?
要が乱射する。体には当たるものの動きは止めれていない。
「あいつってずっと耐えてるのか?」
「そうよ、撃っても撃っても効きやしないんだから!」
苛立っているのか珠理声は荒い。
「理人交代!」
銃弾が切れた要と交代し、スケルトンの相手をする。
効くかどうかわからないが剥き出しの首の骨を斬る。
ゴリっとした骨の感触が手に伝わってくる。人間の首を一刀で斬り落とすのは容易ではない。今日は何十体ものゾンビを斬ったせいで先程から腕に力が入らない。そのせいで斬り落とすことができなかった。
「くっ!」
間髪いれずにもう一度斬りかかる。だがスケルトンは己の左腕を盾にし、俺の斬撃を防いだ。肉が剥がれ、骨が見えている部分で防がれたため俺の持つ刀ははじかれ地に落とされてしまった。その瞬間スケルトンは右手で俺の左腕を掴み、大きく口を開けて噛み付こうとしてきた。
「理人!」
俺とスケルトンが重なり、珠理は銃を撃つことができなかった。要もまだ銃弾を補充できていない。
――ここまでか。
走馬灯のように四人で過ごした日々が脳裏に浮かぶ。
これでみんなともお別れか。早かったな。できることならもう少し、もう少しだけみんなと一緒にいたかった……。
瞼を閉じようとした瞬間――
「理人頭下げて!」
雨音の力強い声が聞こえ、俺は反射的に頭を下げた。
「ガァ……」
スケルトンが今までに聞いたことのない呻き声を出した。
「理人離れろ!」
雨音と要に肩を掴まれ、スケルトンから離された。
頭を上げるとスケルトンの口には七本束になったダイナマイトがくわえられていた。
それでも逃げる俺たちを追いかけ、ゾンビは手を伸ばす。
「やべっ! ダイナマイトを咥えたまま追いかけてきてる!」
「要撃ってよぉ」
「撃ちたいけど弾切れのままなんだよ!」
「俺が殺る。俺だって銃くらい持ってるよ」
逃げながら腰につけたホルスターから銃を取り出し、足に狙いを定める。
この距離なら俺でも外さない。
というか、ここで外したらリーダー失格だな。人間失格になろうともこいつらのリーダーだけは譲れない。譲りたくない、誰にも。
両手でしっかり拳銃を握り、引き金を引く。
淡白な銃声が響き、スケルトンの足から僅かに血が吹き出る。
足を撃ち抜かれたことでスケルトンは地に倒れ込んだ。
倒れた衝撃で咥えていたダイナマイトも地に落ちた。それでも導火線の火は消えることなくチリチリと微かな音を立てながら燃え尽きた。
そして大爆発が屋上を支配する。凄まじい威力の爆風が俺らを襲う。黒い爆煙はモクモクと広がり空を支配した。先程の爆発でスロープが完全に壊れ、屋上を孤立させる。
そして宙からバラバラになった骨が降ってくる。手の指の骨と足の骨だった。それ以外の骨は細かく、チリに近かった。
骨は動く気配はなく、本当にただの骨と化していた。
長かった戦いにピリオドが打たれた。
「爆弾だってたまには役に立つでしょ?」
雨音の満面の笑みが向けられる。
「ああ、侮ってたよ」
俺もつられて笑った。
みんな返り血に染まっていたが、誰も怪我はしていない。
俺たちは勝ったのだ。そして今もしっかり生きている。ニートをやっている時では感じなかった生というものを実感している。
血まみれでボロボロのダサい姿だが、なぜだか誇らしく感じてしまう。弱い命を振り絞り戦った人の姿がカッコ悪いわけがない。
「あー終わったー」
要が座り込みながらそう言った。
その言葉を聞き珠理も雨音も安堵したように息を吐き、要と同じように座り込む。
「お疲れみんな」
そして俺も座り込んだ。
ニート万歳。ニートもたまには役に立つ。
こんな俺たちが街を守っているなんて、本当に世界はどうかしている。
東地区は大丈夫。俺たちがいるから。俺たちがいる限り、この街はゾンビたちの好きにはさせない。
「やったな」
「やったぜ」
「やったわね」
「やったねぇ」
こんな世界でも辛いことばかりじゃない。
四人背中を合わせ、一斉に口に出した言葉は同じだった。思わず笑みがこぼれてしまった。いつまでも笑い声が千代浦市に響く。
ピシピシとスロープが音を立てていることも気付かずに。
バキっと大きな音をたててようやく俺たちは今いる場所の状況を思い知る。
「やべぇ! 降りるぞ! 壊れる!」
「やっぱり爆弾はダメだな」
「えー、私のダイナマイトが無かったらどうなってたかわからないよぉ?」
確かにそうなんだけど、後々大変なことになるしな。今も全力で降りてるわけだし。
「喧嘩してないで早く逃げなさいよ! 要なんてもう避難しちゃってるわよ!」
はやっ!
俺らがスロープを降りきるのとほぼ同時に駐車場が屋上から崩れていった。
「俺ら決まらないな。いい感じで終わりそうだったのに」
「私らっぽくていいんじゃない?」
「やめろよ! 俺らが爆発と破壊の申し子みたいじゃないか!」
数分で千代浦町に瓦礫の山が出来上がった。半壊したデパートを見てみんなは呆然としていた。
「えーっと……今日も前線異常なし!」
「……異常しかないねぇ」
俺たちが鈴さんと四月一日さんに怒られるのはもう少しだけ後の話。
次話の更新は3月19日です。




