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自宅警備員=ニートではない  作者: 七城 七瀬
第一章 希望に溢れる三千世界
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宵に差し込む月光

 この世界はどこに行っても緑色で、目に良いような気にもなるが、ここまで緑色だと逆に目に悪いように思えてくる。色彩多数のものを目にすることで目が疲れるというのなら、俺は目を甘やかせ過ぎだ。ブルーライトもフレッシュグリーンも大差ないのかもしれない。疲れを知らないとデリケートになる。それはいつしか人間として大事な機能を一つ失うことに繋がる。なんて思うものの、人間として失ったものが多すぎる俺はこれ以上何かを失うわけにはいかないのだ。とりあえず視力が低下したら遠くを見とけ。そしたら視力は大丈夫、視力だけは大丈夫。多少は回復する。それ以外は知らない。信頼とかは二度と回復しない。


 徐々に薄暗くなっていく道を手回し式の小さなライトで照らしながら歩いていく。長かった冬は終わったものの、春先は日が沈むのは少しばかり早い。


「ねぇ、やっぱり泊まったほうが良かったんじゃないの?」


 二時間程歩いたところで珠理が言った。

 今更言うなよ……。


 オレンジ色に染まった雲は徐々に黒くなり、夜の訪れを感じさせる。街中と言っても明かりは全くない。そりゃそうだ。東地区には四人しかいない。兵士の家にはソーラーパネルと自家発電機が設置されているが街は論外だ。出歩く人がいないからだ。つまり18時を過ぎる頃には辺りが真っ暗になり、月明かりだけが俺らを照らしてくれる。


 視界は悪くなる一方だ。時々、木々をざわつかせる強い風が落ち葉を吹き飛ばし、カサカサと音を立てる。何かしらの音が聞こえては周囲を見渡し安全を確認しながら進む。

 闇夜というのは本当に恐ろしいものだ。小さなライトだけでは安心することなどできやしない。こういう時に自宅のありがたさがわかる。やっぱり俺は家から出たくない。できることなら家と結婚したい。


「今日ってもしかして野宿?」

「多分……」


 野宿は避けたいが俺らの自宅に着くまでまだまだ時間がかかる。こんなことになるとわかっていたら遠出なんてしなかった。やはり人生は何があるかわかっている方がいい。


「こればっかりは仕方ないわね。もう移動するの疲れたしここで野宿しましょ」


 渋々納得した珠理がレジャーシートと寝袋を取り出す。アスファルトの上で寝るのって痛いだろうな……。所々雨音が爆破したせいで土が見えているところがある。せめてそこで寝ようと提案した。


 辺りは暗い、ゾンビに襲われる可能性もある。枝や落ち葉を拾って来て火を起こす。

 焚き火というキャンプのようなことをしているが全然ワクワクしない。ガクブルしてる。

 未だにゾンビの姿は見ない。だからと言って安心することはできない。外にいる限り俺らは死と隣り合わせだ。


「なんかこういうのって楽しいねぇ」


 それなのに一人だけこの状況を満喫しているやつがいる。どういうことなの? 雨音の頭はお花畑なの?


「林間学校みたいだよな。キャンプファイヤーを思い出すな」


 あれ? 要も楽しんでる?


「要ってキャンプファイヤーとかやったことあるの? 私ないんだけど」


 珠理も楽しんでるの?


「理人はある?」

「いや、俺もない。……じゃなくて! なんでお前ら楽しんでんの? 緊張感持てよ! 俺一人だけガクブルだぞ、馬鹿みたいじゃねーか!」


 なんだお前ら。テンション上がってんじゃねーよ。


「落ち着けって、俺らはまともに青春時代を送ってないんだ。こういうのは必然とドキドキしちゃうんだよ」


 俺は別の意味でドキドキしてんだよ!


「何カリカリしてんの? ご飯食べて落ち着きましょ?」


 俺がおかしいの? 俺だけがおかしいの? もういいよ……。俺もご飯食べる……。


 バッグからレーションを取り出し、晩ご飯の用意に取り掛かる。昼ご飯を抜いたせいでかなり空腹だ。四人で火を囲み、ご飯を食べる。みんなが楽しいって思うのもわかる。俺もこういうのいいなって思う。要も言っていた少し遅い青春時代を満喫する。


 火はパチパチと小さな音を立てている。焚き火の音を聞くと癒される。遥か昔から人は暗闇に潜む敵から身を守る為に火を使ってきた。この小さな音が安全と安心の象徴だ。

 だからかな、すっごい眠い。腹も膨れ、疲れもありさらに眠気が倍増された。


「理人? 眠いのか?」


 俺がうとうとしてるのに気付いたようだ。


「今日は疲れたもんねぇ。寝てもいいよぉ、私まだ眠くないから見張りしてるよぉ」

「悪いな雨音、頼むわ」

「一人じゃキツいでしょ。二人ずつ交代にしましょ」


 それがいい。一人は危険だし、うっかり寝てしまうことだってある。


「そうだな、じゃあ最初は雨音と理人頼むわ。俺と珠理が寝る」

「はぁ!?」


 馬鹿なんじゃねーのお前! どう考えても俺が一番やばいだろ。俺を一番に寝させろよ。もう瞼が上がらないんだよ。お前らまだまだ元気そうだろ! 変われ! どっちでもいいから俺と変われ!


「じゃあ頼むわね」

「なんでだ!? なんでそうなった!?」


 鬼かお前ら! ツッコめや珠理の馬鹿野郎!


「頑張ろうねぇ」


 お前も掌返してんじゃねーよ! さっきまで俺のこと気遣ってくれてたじゃん! あれはなんだったの? 自分の意見を貫き通せよ!


 要と珠理がすぐに横になる。そしてすぐに二人の寝息が聞こえてくる。


「…………」


 ほんとに寝ちゃった!? 冗談じゃなくて?

 俺と雨音を残し、二人はガチで眠っていた。


 起してやりたいが、生憎不条理には慣れてるんだ。

 両頬を思いっきり叩き眠気を飛ばす。俺はお前らのリーダーだからな、このくらい我慢するよ。


「……理人、こっくりこっくりしてるけど大丈夫なのぉ?」


 感情論はどんなに足掻いても睡眠欲には勝てないようだ。


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