〜6章〜
「よう、待たせたようだな。」
死神少女は一瞬人間と変わらない嬉しそうな表情をしてすぐに真剣な顔になる。
「命令の1つを完了しました。ただこのようにマスターにとって厄介なことになっています。いかが致しましょう」
「別に構わん。肉体は持ってきた。後は移し替えるだけだ。」
黒猫が足元に擦り寄る。
「大切な人なんだろ。ラブラブじゃないか」
黒猫はこらえきれないように、にやける。
「なッ何言ってんだよ!」
「まあ、図星ですね。」
金髪の女は微笑んでる。
江崎がオロオロと少女に寄る。
「この人がお前達の主人なのか?」
「ええ。そうです。この方が私のマスター。作って頂いた時に感じました。とても強いお方です。とても…強い…」
強い。強さを求めた人が。私は知ってる。でも誰だろう。
「そうだ、お前エネルギーは平気か?そろそろ活動限界だと思っていたが。」
エネルギーチャージ用に出力制御した光球が一つ、出現した。
「ありがとうございます。マスター。」
光球を受け取り、胸に近づける。光は分散してコアに吸い込まれていった。
「雨宮さんよ。将来のフィアンセを取り戻すのもそうだが、いろいろと面倒なことになってる。ここ半年で歪みが生まれて処理に追われている」
「やっぱりそうなったか。予想通りっちゃあ予想通りだが。」
「えぇ、元々は私の研究。この事態に関してはおそらく私が一番詳しいでしょう。
申し遅れました。私、猩の身内の在哀-アリア-と申します。」
すらりとした身体に美しい曲線美。紅を塗られた唇が艶かしさを演出する。
「よろしくお願いします。記者をしてます江崎と言います。あのぅ、あなたもアナザーワールドの方ですよね」
なんて綺麗な人だろう。はっきりいって俺の好みだ。
「えぇ、私も彼らと同じ、貴方が呼ぶアナザーワールドの住人でしたわ。もう12年も前までの話ですが。」
猩が在哀を見、江崎に視線をもどす。
「在哀さんは俺たちがこっちにくるための転送装置をつくった人だ。」
猩と在哀はなんだかぎこちない
「転送装置!?はたまた凄い物が出てきたな……。それにしてもアリアさんは綺麗だ。よかったらいつかお食事でも…?」
猩はへッ、と笑いが溢れる。
「母さんをナンパか?身の程を知った方がいいぜ。江崎さんよぉ。」
「あら、人前で母さんって呼ぶなんて……。」
「バッ、ちちちちちげーよッ!今のは口が滑っただけで深い意味なんかねーからなッ」
「あら、そんなに慌てるだなんてまるで図星みたいね。」
「ゔ……」
猩は嘘をつけないことを改めて自覚する。
「で、ですよね〜。あはは……。こんなにも綺麗な人なら男の一人や二人くらいね……」
黒猫が足元で転げ回りながら大笑いしていた。
「マスター。魂の移植準備を」
「じゃあ江崎さん、このカプセルに寝てくれ。後はこっちでする。」
「心配しなくても私の研究の一つですわ。自信はあります。」
「アリアさんが言うなら……」
俺は制服姿の女の子が寝ていた場所の隣のカプセルに入った。途端に眠気と身体が軽くなるような感覚が襲う。
「ん……ここは?猩は何処にいますの?」
「純白-シロ-……俺はここにいるぜ。」
純白はゆっくりと身体を起こし、周りを見渡す。
「あれからどれだけ経ちましたの?」
「半年だ。遅れてごめんな?」
「本当に遅いですわ。踏まれたいんですの?大体貴方は何もかも遅いのですよ。いつも私ばかりが苦労をして」
「ーー本当にごめん……お前がどれだけ苦労してきたはよくわかったんだ。だから。」
「わ、わかったらいいんですのよ?!とにかく離してくださいまし!いい加減恥ずかしいですの!」
純白の顔が真っ赤に染まる。
「あらあら可愛らしい。ウフフ。」
黒猫が純白に寄り、尻尾を2本揺らす。
「久しぶりだな。あなたが俺を覚えているかは知らんが、誤解されないうちに言っておこう。今は人形はあなたの味方だ」
歯車少女は慌てて純白に寄る。
「えっと。ジョーカーの話だとお久しぶりなのかな?よろしくね。あ、マスターの大切な人だからよろしくお願いしますのほうがいいかな?」
いつの間にか起きていた江崎がニコニコと在哀に話しかける。
「いやぁ。なんだかんだで仲いい子たちですねアリアさん」
「……本当にそうならいいのだけれど。」
純白が猩に支えられて立ち上がると、優雅に制服のスカートをつまみ、挨拶する。
「あら、あの時のお人形ね。お久しぶりにございますわ。」
にこやかに挨拶する純白に猩は困惑する。
「お久しぶり?ちょっと待て、こいつは俺が」
「しっ!口を塞げ。」
黒猫が猩を止める。
歯車少女が目を閉じ、集中力を高める。
「……マスター。能力者がこちらに接近してます。距離にして1キロ先。撃墜を開始しますか?」
黒猫が少し毛を逆立て、警戒を示す。
「彼女に足止めを任せてお嬢さんに能力を返すのが最善策じゃないのか?雨宮さんよ」
江崎はただうろうろとするだけ。
「ちょっと待ってよ。俺たち以外に転送装置を使ったやつが居るってのか!?」
「おそらく影から奴が逃げ出したのでしょうね。あのクソザルがぁ!!」
態度が豹変した在哀にびくりと猩以外の周りが震える。
「ア、アリアさん?」
猩が怒る母親に変わり、指示を出す。
「とりあえずそのクソザルはお前に任せる。純白!こっちにきてくれ。」
「能力の受信ですのね。もう少しで完了ですわよ。」
「さすがワガママお嬢様だ。手が早い。」
「江崎さんと言ったかしら?半年もお世話になりましたが、ここは逃げた方がよろしくてよ。ただの人間には、なにもできないのですから。」
江崎はあまりにも急な展開についていけなくなる。
「お、俺にも何か役に立てないか?」
黒猫が江崎の周りをパタパタと飛び回る。
「……お嬢が言った通り。お前に出来ることは何もない。せめて安全な場所に逃げるがいい」
な、なんて無慈悲な。
歯車少女は重力を無視したジャンプで目標に向かって去っていった。
黒猫も少女の後を追う。
「私が会社までご案内しますよ。江崎さん」
在哀が江崎を誘導して屋上から出ていく。
「受信が終わりましたわ。さて、私達はどうしましょうか」
猩は黙ったまま、何も言わない。
「猩?聞いていますの?聞く耳を持たないなら踏んずけてさしあげ」
「後ろだ!伏せろッ!」
猩が純白を抱いて前に倒れ込む。二人の背をかするように拳がフルスイング。
「きゃあ!」
バランスを崩した何者かに猩は氷の刃をピンポイントで投擲。
バラバラと音がして崩れさったのは人形の破片。残った拳には棘がびっしりと並んでいた。
「あ、危ないところでしたわ」
「純白-シロ-がボケっとしてるからいけないんだろ」
「な、なんですって!半年ぶりに猩に会えたのにそれはないでしょう!どんな思いで待っていたと思ってますの!」
言い切ってから自分がとんでもなく恥ずかしいことを言ったことに気づく。頬がかぁっと熱くなる。
しかし猩は全く気がつかない。
「何か変な音がしないか?」
純白が耳を澄ますと、ビルの下のほうからカタカタという音がする。
それが次第に近づいて姿を現す。
人形。人形。辺り全てが人形に囲まれていた。屋上に上がってきたものだけでも、かなりの数だった。
人型もいれば、獣型、蟲型、竜型、よく分からないものなど色々だ。
全部が全部、節や継ぎ目があらわになっていた。歯車少女のような見た目は普通の人間というものが一つもない。
「気持ち悪いですわ……」
純白は無意識に猩のほうにすり寄る。
「真っ昼間から面倒くさいぜ。一気にカタを付けるぞ純白。巻き込まれるんじゃねーぞ」
「誰に向かって言ってるのかしら。あなたの全てをけ止めて差し上げますわっ!」




