第6話
なにこれ気味が悪い。もしかしてこれも夢? 顔をつねってみよう。
「……痛いな、夢じゃない」
何だろう。妙な緊張感が漂う。え? まさか? そんなことあり得るのか? いや、そんな馬鹿な。
「右端にある本は……日記だったけど……」
僕は恐る恐る本棚の右端の本を取り出す。その本が僕が思った通りの本なら、本当に確信せざるを得ない。
「……そんな……馬鹿な……」
僕は思わず膝をついてしまった。体も震えだしている。もう間違いない。確定してしまった。
「……僕の……日記だ……。そんな、そんな……!」
……その本は日記だった。持ち主の名前も書いてある。それは『アカト・ルア・ヴァルフロビット』。まぎれもない。僕の名前だ……!
「う、う、う、うわあああああぁぁぁぁぁっ!」
僕は本当に恐ろしくなって叫んだ。今の僕は、無くなってしまったはずの実家で、無いはずの自分の部屋で、10歳の姿に戻っていたのだから!
つまり、僕は10歳の頃に戻って人生をやり直すことになってしまったのだ。
僕の叫びは結構響いたらしく、すでに死んだはずの家族に伝わった。
「今の叫びは何だ!」
「どうしたの、アカト!」
入ってきたのは、黒髪黒目の日本人を連想させる男性と栗色の髪を肩まで伸ばした赤い瞳の女性だった。
「……っ! と、父さん! 母さん!」
生きてる――あの二人が目の前で生きてる!
「あ、あ、あああああぁぁぁぁぁ!」
「「ええ!?」」
二人は僕の両親、『アスター・ルア・ヴァルフロビット』と『クロエ・ルア・ヴァルフロビット』だ。
死に分かれた両親の姿を見た僕は涙を流して抱き着いてしまった。もちろん母さんのほうにだ。父さんだとむさくるしいし。
「ど、どうしたの、アカト? 叫び声がしたみたいだけど」
「泣いてんじゃねえかよ、何かあったのか?」
「うっ、うっ、うう……。はっ!」
しまった! 生きて再会できるなんて思ってもいなかったから、つい抱き着いてしまった! この後、どう反応すればいいんだ?
いきなり、「僕は10年以上の未来の記憶があるんだ」なんて言えないし、「僕を残して家族みんな戦争で死ぬはずなんだ」と言うわけにもいかない。
縁起でもないこと言って嫌われるわけにもいかないし、ここは子供らしく振舞おう。今の僕は姿は子供・頭脳は大人のアカト・ルア・ヴァルフロビットなんだ!
「うう、僕ね、すごく怖い夢を見たんだ」
「怖い夢?」
「何だ――悪夢を見て泣き叫んだのか馬鹿馬鹿しい」
……何とか誤魔化せた。10歳の子供としてはこの反応でも怪しまれないだろう。
「そう、怖い夢ね。可哀そうに……」
「心配させるなよ。さっさと朝飯食え。お前にも仕事があるからな」
「……うん」
優しい母と厳しい父。この二人は間違いなく生きている。それを見て聞いて触れて感じることで、自分が『戻った』ことをより実感できる。
……どうしてこんなことに。
この後、朝食で兄・姉・弟・妹とも再会(?)した。戦場に出てから会えなくなったのに、こんな形で顔を見ることになるとは思わなかったな。家族のみんなには今日の僕は不審に見えたことだろう。




