その1
太陽暦538年4月、第1子であるリ・リエの誕生から半年が過ぎ、一息ついたエリオがいた。
一息つけたのは、リ・リラの公務復帰が大きい。
リ・リラの分の仕事を肩代わりしなくて良くなったエリオは、怠惰の時を過ごしたかったのだった。
「殿下、急報です」
シャルスが、お使いから駆け戻ってきて、そう告げた。
「……」
エリオは、当然嫌そうな表情で、急報の書類を受け取った。
シャルスが真面目に仕事をし出す時は、碌でもない事が起きている証拠だと思っていたからだった。
まあ、シャルスから言わせれば、エリオが真面目に仕事をしたから、碌でもない事を呼び込んだという認識なのだけどね。
そして、そんな2人の雰囲気を察したマイルスターが、いつの間にか、2人のそばに寄ってきていた。
エリオは、無言のまま書類を読むと、すぐにマイルスターに渡した。
シャルスが急報だと言っているのに、エリオは、すぐに反応しなかったのだった。
(やれやれ……)
マイルスターは、エリオの態度でとんでもない事が起きた事を覚悟した。
そして、報告書を読んでそれを確信したのだった。
マイルスターは、報告書から顔を上げて、エリオを見た。
無論、命令を待ち構えている姿勢である。
緊張感が高まる中、エリオはぬべーっとした表情のままだった。
そして、何もなかったように、状態を捻り、後ろの窓から外を眺めるのだった。
(やれやれ……)
マイルスターは、和やかにいつも通りの行動に出るしかないと悟った。
「帝国北方艦隊に動きがあるとの事ですが、殿下の御意見は?」
マイルスターは、和やかにエリオに尋ねた。
「……」
エリオは、当然の権利を使用した。
「連動して、バルディオン第2艦隊にも動きがあるとの事ですが……」
マイルスターは、続けざまに和やかにエリオに尋ねた。
まあ、これくらいで動じる様では、総参謀長は務まらないのである。
「……」
エリオは、またしても当然の権利を行使した。
まあ、これに関しては、エリオだけが、それを当然の権利だと思っていたのが明らかになっていくのだけどね。
「まあ、ワタトラ伯が動いていて、避けたいのは分かりますがね。
各艦隊にこの事は伝わるでしょうから、直ぐに西方艦隊が動き出しますね。
その他の迎撃艦隊は如何なさいますか?
中央艦隊のみで対応させますか?」
マイルスターは、外堀だけではなく、一気に内堀も埋めた立てしまった。
向こうは複数の艦隊が出てくる。
ならば、こちらも複数の艦隊を出撃させる事になる。
そうなると、自然に総指揮を執る人間は限定されるのであった。
という事は、そう言う事なのである。
「……」
当然、無言のエリオが、その事に気が付いていない訳がないのであった。
流石、仕事が増える事に関しては敏感なのである。
「迎撃場所はどこにしますか?
商売に影響を及ぼさないようにする為には、遠い場所になりますかね?」
マイルスターは、そう言うと地図の例の場所を指差した。
ここで、海戦となると4度目の海戦となる場所だった。
その海は広い為、必ずしも前回と同じ場所で戦闘とはならないやも知れない。
だが、エリオにとっては嫌な場所であり、縁起がいいとは言えない場所である。
しかしながら、両軍が激突するとしたら最適な場所になるのである。
でなければ、過去3回も同じ場所では戦いが起きないのである。
とは言え、エリオがまだ一言も発していないうちに、次々と決まって言っている。
まあ、エリオにはというより、状況的にはほぼ選択肢がないからすんなりと決まっていくのであった。
「新造艦隊はどうなさいますか?
今回も戦力外としますか?」
マイルスターは、この質問だけは真面目に尋ねてきた。
あっ、まあ、これまでも真面目にやって来てはいたとは思う。
だが、この案件だけは別種であった。




