第20話予告 「美雪の秘密」
夕暮れ。
悠斗は駅前から全力で走っていた。
結奈と別れたあと、美雪から届いたメッセージがどうしても気になった。
『今、少しだけ会えない?』
たったそれだけ。
だけど、いつもの美雪とは違う空気を感じた。
MIYUKI'sカフェ。
店の灯りはついている。
だが営業時間は終わっていた。
カラン。
ドアを開ける。
「美雪!」
カウンターの奥。
美雪が一人で座っていた。
「来てくれたんだ」
いつもの笑顔。
だけどどこか硬い。
「どうした?」
「座って」
悠斗は向かい側へ座る。
静かな店内。
時計の音だけが響いていた。
そして。
美雪はテーブルの上の封筒を見つめる。
「ねぇ」
「うん」
「私、隠してたことがある」
悠斗の表情が変わる。
「隠してたこと?」
「うん」
少しだけ俯く。
そして。
「春休みが終わったら」
「?」
「この街を離れるかもしれない」
時間が止まった。
「……え?」
悠斗は理解できなかった。
「どういうことだ」
美雪は封筒を差し出す。
そこには書類が入っていた。
悠斗が目を通す。
『海外研修プログラム』
『一年間留学』
『推薦候補者』
そこには白石美雪の名前があった。
「これ……」
「ずっと前に応募してた」
「聞いてないぞ」
「言えなかった」
美雪は苦笑する。
「だって受かるか分からなかったし」
「それでも」
「うん」
美雪は頷く。
「でもね」
少しだけ笑う。
「合格しちゃった」
嬉しそうではなかった。
むしろ。
困っているように見えた。
「本当なら喜ぶべきなんだよ」
「……」
「夢だったから」
美雪は昔から海外のカフェ文化に興味があった。
世界中の店を見たい。
いろんな人と出会いたい。
そんな話を何度も聞いたことがある。
だからこそ。
悠斗は何も言えなかった。
「でも」
美雪は小さく笑う。
「今は少し困ってる」
「恋か」
「うん」
即答だった。
「結奈ちゃんに会う前だったら」
「……」
「迷わず行ってたと思う」
店内が静かになる。
「でも今は違う」
美雪は悠斗を見る。
「好きな人ができた」
真っ直ぐだった。
逃げない目。
「だから悩んでる」
悠斗は息を吐く。
美雪が本気だと分かる。
この留学も。
恋も。
どちらも本気だから苦しんでいる。
「まだ決まったのか?」
「返事は来月まで」
「そうか」
「うん」
沈黙。
そして。
美雪が少し笑う。
「変だよね」
「何が」
「恋したら夢と迷うなんて」
「普通じゃないか」
「そうかな」
「そうだろ」
美雪は少し安心したようだった。
「ありがとう」
そう言った時。
カラン。
ドアベルが鳴った。
二人とも驚く。
営業時間は終わっている。
振り返る。
そこに立っていたのは。
「結奈ちゃん?」
朝霧結奈だった。
「ごめん」
少し息を切らしている。
「忘れ物したから」
そう言って店内へ入る。
しかし。
テーブルの上の書類に気付いた。
「それ……」
美雪は少し迷った。
だが。
隠さなかった。
「留学の話」
結奈の表情が変わる。
「留学?」
「うん」
事情を説明する。
結奈は静かに聞いていた。
やがて。
「すごいね」
そう言った。
「え?」
「夢だったんでしょ?」
美雪は少し驚く。
もっと複雑な反応を予想していた。
しかし結奈は笑っていた。
「だったら誇っていいと思う」
「……」
「私だったら応援する」
美雪の目が少し潤む。
「結奈ちゃんってさ」
「ん?」
「たまに反則だよね」
「なんで」
「そういう優しいところ」
結奈は少し照れた。
その様子を見て。
悠斗は思う。
やっぱり二人とも優しい。
だから余計に難しい。
その時だった。
店の奥から店長が出てくる。
「おーい三人とも」
「店長?」
「話終わったか?」
「はい」
店長は腕を組む。
そして。
少しだけ真面目な顔で言った。
「青春してるな」
全員。
「茶化さないでください!」
店内に笑い声が響く。
だけど。
その夜。
悠斗は帰宅しても眠れなかった。
結奈。
美雪。
そして。
美雪の夢。
選択の時は近付いている。
そして翌日。
学校で。
ある人物が転校してくることになる。
その人物は。
悠斗の過去を知る人物だった――。




