明日、デートするぞ③
おかあさんの、においがした。
おひさまのような、おはなのような、ほんのりあまくて、やわらかいにおい。
ずっとまえになくしてしまった、あるはずのないにおい。
だから、はしった。
にほんのあしはおそすぎるから、よんほんのあしではしった。
あたまのなかと、まわりのけしきが、まっしろなまま、はしった。
はしって。
はしって。
そうして。
たくさんのさくらのしたで。
みつけた。
きれいな、おんなのひとだ。
やさしいよこがおが、さくらをみあげている。
ゆったりとしたスカートが、かぜにゆれてふわりとふくらむ。
ああ、おかあさんだ。
そこに、おかあさんが、いる。
おかあさん。ねえ、おかあさん。
そのすがたでも、ユキのことわかる?
ユキのこと、まだだいすき?
ふらふらと、おんなのひとのもとへふみだしかけたあしが、きゅうにじめんにはりついたようにうごかなくなる。
――おんなのひとのてを、おとこのひとがとっていた。
あったかいえがお。
あったかいくうき。
しあわせそうにほほえむおんなのひとが、もうかたほうのてでじぶんのおなかをやさしくさする。
ちゃんとした、まあるいかたち。
ちゃんとした、ただしいかたち。
「――ユキ」
おもくなってうごかなくなったからだを、うしろからすくいあげられた。
こえと、においと、くうきが、おとうさんだとおしえてくれる。
「あれは、もう別の人生を送っている」
おとこのひととよりそいながら、おんなのひとがあるいていく。
とおくにいってしまう。
はなれてしまう。
また、あえなくなってしまう。
おかあさん、まって。
おかあさん、ユキだよ。
そうさけんで、おいかけたい。
でも。
おとうさんのうでが、とてもつよく、いたいほどつよく、だきしめてくるから。
なにも、できなかった。
ただ、そこにいた。
――おんなのひとが、みえなくなるまで。