第13書 その12 これがホントのガクエンサイ おまけ篇
第13書 これがホントのガクエンサイ おまけ篇
対抗魔術戦を終え、休憩室である程度回復し、学園内を歩いていた時です。
そのきっかけはデニーが
「実はわたしたちとは別に、教官方が展示コーナーをおつくりになって市民に公開していらしたんです。」
なんて言い出したことです。
「初耳。」
「展示ですか?ですが創立一年目の本校に公開する資料もありませんし・・・」
「だいたい、なんでわたいら生徒に教えなかったのよ?」
「それがわかりません。ぜひその謎を探ろうと思いまして。しかも担当は・・・」
デニーがそのメガネを光らせ、わざとらしくわたしを見ます。
それで一同担当者を察しました。
思わず額を抑えるわたしです。
左右の肩にポンと置かれたリトとエミルの手がとっても重いんです。
「あたいも行くぞ!ゼッタイなんかある!」
「・・・レンもいく。アヤしいって思うの。」
展示コーナーは、ガクエンサイ中にわたしたちが使用する区画から離れていて、これも作為を感じます。
しかも大盛況のようで、離れた廊下にも観客の声が聞こえるのです。
「すごい!」
「とってもきれい!」
「あの子なんか、もうかわいくて・・・家に持って帰りたい!」
・・・思わずみんなで顔を見合わせます。
そこに、展示室から出て来た4人の家族連れが・・・
「あ、ママ。本物だよ!」
「ホント、そっくりね~」
「わたしにもつくってぇ、パパ。」
「それはムリだよ。あんなのどうやって作るか見当もつかない。」
そっくり?
つくって?
思わずよぎる不吉な予感!
まさか・・・わたしは忌まわしい、3月の「あの事件」を思い出すのです。
もう飛び込むような勢いで入った展示室の中身とは!
「あれはクラリス!」
「リトもおるやんか。ちっこいけど本物そっくりでかわいいで。」
「エミルも、その表情や体形まで忠実に再現されておりますわよ。」
「シャルノの、髪バサッてやってるとこまでそっくり!この立体感はイラストでも再現できないよぉ・・・負けた。」
「・・・リルのおムネもね。」
「レンのその髪や瞳の、緑ががかった色合いの微妙な表現まで・・・すごいです!」
「デニーの、あのメガネをいじる仕草まで完璧や!」
「ジーナ、アルユン、ファラファラ・・・みんないる。」
「20人全員ですか!・・・いえ、あれはメル助手ではありませんか!」
「制服制服!メルちゃんもみんなと同じ。ちゃんと制式戦闘衣着てる!」
「・・・すごい、この生地、本物みたい!」
かつての「トラウマ」がよみがえり、その場に崩れ落ちているわたしです。
脳内に再生されているのは、実家の叔父様のお部屋で見つけた、14体のわたしの「ふぃぎゅあ」。
毎年一つずつわたしに無断であんなものを作っておいて、とってもいやらしく感じます!
なんてハレンチなんでしょう。
ですが、そんなわたしを尻目に、みんなは大興奮です。
そうです。
展示室には、学園の立体模型と、その一角に整然と置かれたあの忌まわしい「ふぃぎゅあ」が!
しかもクラス20人に加え、メルの「制服ばーじょん」まで!
「いつの間に、こんなモノを・・・あのひきこもり・・・。」
うめき声を上げるしかないわたしですが、みんなは
「これが、あの『ふぃぎゅあ』かい!」
「思っていたのとは違って全くいやらしさを感じさせんわ!これは肖像画よりも優れた芸術です!」
「・・・すごい。なんかうれしい。」
以前わたしから聞いていたエミル、シャルノ、リトは意外にも「ふぃぎゅあ」を受け容れ、無断で作られたことなんか全然気にしてません。
むしろつくられて喜んでいます。
おかしいです!?
しかも
「わたしって、こんな感じなんですね、メガネをいじる仕草まで・・・うれしいです!ミスター!」
感激してオイオイ泣いてるデニー。
「リルも歳より若い感じ!この躍動感がサイコーだよ!」
大きなム・・・を揺らして飛び跳ねるリル。
「・・・アント。」
両手を胸に組んで、何かに浸っちゃってるレン。
初めて見た2班の仲間まで・・・。
「みんな、これは叔父様の策略です!目を覚ましてください!」
そんなわたしの絶叫は誰にも届かないのです。
おかしな雰囲気を察し観客の皆さんが誰もいなくなったことにも気づかないわたしです。
「おや、ヒトがいないな・・・おかしいな、人気コーナーになってるって聞いたんだけど。」
「あの・・・フェルノウル師。学園内のご案内を引き受けてくださって、ありがとうございます。」
静かになった廊下から、そんな会話が!
「なんだい、王女様がかしこまっちゃ、僕の方が偉そうに見えちゃうよ。もっと普通に話してくれ。」
あなたが普通過ぎるのです!
王女殿下相手になんて・・・さすがは叔父様ですけど。
「そんな・・・尊敬するお方ですから、当然です。それに・・・できればわたしを名前で・・・いえ、レリシアとお呼びください。」
思わず床から飛び上るわたしです。
つい聞き耳を立てていたみんなも口々に「うそ」とか「ひえ」とか奇声をもらしています。
「王女殿下!」
「さすがに無位無官の者にそれは・・・」
側近のエリザさんとオルガさんがそう言ってお止めするのは当然なんですけど
「黙れ!いくら父の命とは言え、わたくしが尊敬する師の秘密を探ろうとした痴れ者どもが何を言うか!・・・学校に戻ったら秘密法廷で裁いてくれる!」
「「そればかりはお許しを・・・」」
すっかり立場が弱くなった双子の姉弟です。
ヘク女魔につくられた、あの「秘密法廷」ですか・・・かわいそうに。
しかし王女殿下・・・人、変わり過ぎ。
「んじゃ、レリシア様って呼ばせてもらうけど。悪いのはレドガーだ。二人は命令されただけだ。許してあげなよ。」
「まぁ・・・客として招かれながら間諜などになった者をお許しに?・・・なんて寛大なお方・・・。」
・・・王女殿下、なぜかすんごく変な補正のかかった目で叔父様を見ていらっしゃるようです。
だいたい父君であり王弟であられる大公殿下を実名で呼び捨てにする人を、そんな尊敬するのが、もう間違ってます!
「あの姉弟、すっかり立場が弱くなって・・・」
二人とお知り合いなせいか、同情するシャルノです。
「オルガさんってホントに男なの?」
エミルが先日の騒動の件を、シャルノから聞いていたようです。
「はい。叔父様・・・アントには一目でバレましたけど。」
「実はあたいらの体形も目測で?すごいなぁ。」
年上のくせに無邪気過ぎじゃないですか、リルは!
・・・体形に悩みがない人の強みでしょうか?
「いくら女性が苦手な叔父様とは言え、見ただけで、その、わたしたちの体のサイズをわかって、それで勝手に『ろくぶんのいちふぃぎゅあ』とか作られちゃったんですよ?」
「あたいだって悩みくらいあるよ。もう少しは身長欲しいし。このままじゃレンに抜かれちゃうよ。」
「しっ・・・こっちに来る。」
リトにたしなめられました。
でも・・・
「来るなら来い!です!」
レリューシア王女殿下に、この「ふぃぎゅあ」の群れを見ていただいて、叔父様の真の姿をお教えしてさしあげるのです!
ふふふ、の、ふ、です。
「また故障?」
「まったく、さっきからクラリスは壊れっぱなしですわね。」
「邪念に満ちています。」
「嫉妬でしょ。」
「これがオンナの嫉妬かぁ。」
「・・・やきもち焼き。」
なんとでもおっしゃりなさい!
だいたいみんなも叔父様のことをよくわかっていないんです!
わたしみたいにずっと一緒にいれば、もっと怒る場面なんです!
「ここが?」
「ああ、僕が担当した学園祭企画だ。」
叔父様と王女殿下はわたしの期待にたがわず展示室に入ってきました。
思わず「よっしゃぁ」って「がっつぽーず」のわたしです。
そしてみんなに思いっきり引かれながらも、笑顔を作って立ち上がるのです。
「あれ、クラリス?みんなも。」
「あら、叔父様にレリューシア王女殿下まで。」
「うわっ、わざとらしい・・・」
エミル、うるさいです。
「王女殿下、これをご覧ください!叔父様は女性の人形を無断で作る、変質者なんです!しかも手当たり次第に誰のでも!どんな女性でもいいんです!女嫌いなんてフリだけで、ホントは『マンジュウ怖い』なんです!」
「ぐさ、ぐさ」
わたしの一言一言に擬音を口で入れながら胸を抑える叔父様です。
それを見かねたリトは
「言い過ぎ。」
って・・・もう。
リト、黙ってて。
いいんです、あんな人。
「いつもは誰かに言われたら、すさまじい勢いで怒りますのに。」
シャルノも!
「王女殿下、こんな人を尊敬なんてしたら、王女殿下の恥になります。お考え直しください!」
「クラリス・・・もう無茶苦茶です。」
「嫉妬って怖いなぁ。」
「・・・ひどいよ。」
デニー、リル、レンまでわたしを非難します。
もしや、これがウワサの「四面楚歌」!?
しかし、当の王女殿下はわたしの剣幕に向き合いながら、こうおっしゃるのです。
「フェルノウル?・・・確かクラリスでしたね。以前と言ってることが全く違うのですけれど・・・さてはわたくしを試しているのですね!?以前はフェルノウル師を侮辱したわたくしがこうも豹変したことが疑わしいのでしょう・・・仕方ありませんね。わたくしはあなたに信頼されることなど何もしていないのですから・・・」
そして、うなだれる王女殿下・・・いけません。
これではわたしはただの・・・
「小姑。」
ぐさっ!です。
直球過ぎです、リト!
思わず胸を抑えてうずくまります。
「ふふふ。クラリス?そんな仕草は叔父様とそっくりなのですね?さすがは姪です。」
それはうれしくないのです。
しかし、結局わたしはそのまま黙ってしまうのです。
「これが至高の芸術、フィギュアドール・・・すばらしいですわ!」
王女殿下、「ふぃぎゅあ」を見てもイヤがったりしませんでした。
むしろ・・・感動していらっしゃいます?
ご自分の「ふぃぎゅあ」がないからの余裕でしょうけど。
「そんなに褒めてもらうと、学園の警備を片手間にして、こっちに集中した甲斐があるよ。」
何をメインにしてるんですか!
でもそんな片手間警備に引っかかった双子の側近は、もう小さくなってしまって、存在感なし。
「ですが・・・やはり、これ一つ、出来栄えが抜けておりますね。」
え!?
そう言って数ある「ふぃぎゅあ」の中から一つを取り出す王女殿下です。
でも!
「ん。同感。」
ホント、リト?
いえ、リトはホントの事しか言いません。
「そうですわね。表情の細やかさが違いますわね。」
「めっちゃ思い入れを感じるなぁ~。」
審美眼のあるシャルノに、直観に優れたエミルまで!
「共に過ごした年月と言いますか・・・。」
「重ねた想い出の数だよ。」
「・・・込められた愛情なの。」
デニーにリルにレンも?
ホントに?
思わず叔父様を見てしまいます。
もちろん王女殿下がお取りになったのは、わたしの「ふぃぎゅあ」!
「え?そ・・・そうかな?まぁ・・・そうかもな。」
頬をかく叔父様。
その仕草は新鮮なんです。
「だけどレリシア様。これ、展示物だから『触らないで』って書いてるんだよ。そこに。」
「え?あ、本当です。申し訳ありません。あまりの出来栄えのすばらしさに思わず・・・」
そう頭を下げて、戻そうとした王女殿下ですが、
「あ!?」
慌てたせいか、展示物の柵に「ふぃぎゅあ」がひっかかって落ちて!
「おっと!」
って、床に落ちる寸前、叔父様が「ふぃぎゅあ」の足をつかまれました。
さすがにこういう時は素早いのです・・・しかもわたしの「ふぃぎゅあ」ですし!
「ふう~。いくら観賞用保管用宣伝用の三種類作ったからって、これが万が一にも壊れたら僕は一か月はひきこもる自信があるね。」
・・・・・・・・・・・・・。
「一人分につき三つ?」
「20人分ですわよ?」
「メルッちの分もあるで。ざっと21×3で63体や。」
それを聞いて、さすがのレリューシア王女殿下も一瞬顔が引きつったようです。
ですがそれを悟られまいとなさったのでしょうか、叔父様の手の「ふぃぎゅあ」を見て再び感心なさるのです。
「あら、このフィギュア、女性の嗜みまでしっかりとおつくりなのですね。フェルノウル師は。すばらしい再現度ですわね。」
え・・・!?
ジョセイノタシナミ?
・・・ってそれは!
「ダ、ダメです!それは見ないでください!」
思わずわたしは叔父様からわたしをモデルにした「ふぃぎゅあ」を奪い取ったんです!
だって、足をつかまれて、はしたなくもスカートがめくれてしまったからには・・・「ふぃぎゅあ」の下着が見えてしまうんです!
しかも!
「叔父様!この『ふぃぎゅあ』の下着って・・・先週の!」
そうなんです!!
わたしがゴラオンの中で魔力供給のため頭から下の座席に飛びこんで・・・スカートの中が見えてしまった時の!
「やはりあの時見てらしたんですね!叔父様のウソツキ!変質者!」
わたしは思わず自分のスカートを押さえて叫ぶんです。
すると、みんなが「まさか?」って顔をして、自分がモデルになった「ふぃぎゅあ」を一斉に取り出すのです。
「いや、みんな、あのそれは展示品で、触らないでって・・・」
「叔父様!」
「ふぃぎゅあ」を投げ捨てて、あばれる叔父様を取り押さえるわたしです。
ちなみにわたしが放り投げた「ふぃぎゅあ」は王女殿下が「じゃんぴんぐきゃっち」なさいました。
「これ・・・この前の。」
「確かに。休憩室で採寸した時に着用していたモノですわ?」
「げげ・・・うちの商会、何をてつどうとるんや!」
「・・・わたしのも・・・」
「あたいのお気に入りの!」
「・・・教官のH。」
さすがにみんな、叔父様を思いっきり白い目でにらむのです。
叔父様は見苦しく「だって、完璧を目指したかったんだよ!変なことには使ってないから!」なんて言い訳していました。
でも、何が「変なこと」かはわかりませんが、こんなモノを作るだけで充分「変なこと」なんです!
わたしたちは、この後、みんなで散々寄ってたかって、叔父様を絞めあげました。
最終的に、叔父様に今日のガクエンサイの後のクラスパーティーの準備をさせること・・・もちろん料理・飲みもの付き・・・そしてみんなに何かプレゼントをすることで許すことにしました。
こっちは他のクラスメイトには内緒ですけど。
ですが、こんな光景を見ても、王女殿下は
「・・・生徒とこんなに仲良くして・・・なんて楽しいお方・・・。」
なんて口走っていました。
絶対ずれています!
歪んだ叔父様象で固めすぎです!
この日は、このままパーティーが終わるまで、叔父様はわたしたちの下僕として使役され続けたのです。
「なんだかわからないが、イイざまだな、フェルノウル教官殿。」
相変わらずの人の悪さですが、いつになく上機嫌なイスオルン主任教授。
「ええ。全くです。でもパーティーを開いてくれるなんて彼にしては気が利いてるじゃない。」
最近、少し大人のイメージが崩れ気味なセレーシェル学園長も。
「・・・お二人とも人が悪い。わたしはさすがに気の毒ですけど・・・おいしいですね、このフライドチキン。」
いつも温厚なワグナス教授まで・・・。
「おじさ・・・じゃなくて先輩!いいんですか僕たちまで?」
エクスェイル教官は、「おじさん」って言いかけて、叔父様ににらまれました。
「いいんだよ、くそ兄貴・・・アンティパパ!パパの手料理なんか久しぶりだよ・・・涙でそう!」
神出鬼没のクレオさん。叔父様の前なんで、野暮ったいベレー帽をとって、きれいな紺色の髪を見せています。
・・・参加者もずいぶん増えましたけど。
叔父様はコック兼ウエイターで大忙しです。
メルにも手伝わせて・・・手伝いを禁止するべきでした。
ちっ、です。
いえ舌打ちはしませんけど。
でも、みんなはこんなことで許しても、わたしは絶対に許さないのです。
もう他所へはお嫁にいけないのです!
せめて責任をとっていただかなくては!
「クラリス様?素直に他の女子のフィギュアを作られて悔しいとおっしゃればよろしいのです。」
うるさいです!
この犬娘メイド!
こうして、ガクエンサイの夜は更けていきました。
来年も、こんな思い出ができるといいなって思います。
・・・訂正。
もっと素直に楽しめる、きれいな思い出がいいです、叔父様。




