第13章 その11 これがホントのガクエンサイ 後篇
その11 これがホントのガクエンサイ 後篇
待機場所に戻ったわたしたちは、まるで優勝騒ぎです。
これで2勝。
そして、ここから2試合の間は休憩できます。
最終戦の相手は王女殿下の率いるヘクストス女子魔法学校(以後 ヘク女魔)です。
しかしヘク女魔は、個々の技量は高いものの組織としてまとまりがなく、既にパントネー魔法女子学園(以後 パン魔女)に敗れています。
わたしたちも、まともに戦えば勝てそうなのです。
ですから「もう勝ったも同然」ってエミルたちが騒ぐ気持ちはわかりますけど。
ですが
「あたい、もうダメ。」
アルユンは真っ青な顔で頭を押さえています。
彼女は持てる魔力を全て「幻影」につぎ込んでしまったのでしょう。
おかげで二戦目に勝てたのですが、最終戦はおそらくムリ。
「アルユンありがとう!よくがんばってくれました。あなたのおかげで勝てたんです。ゆっくり休んでください。」
わたしはアルユンの手を握ります。
アルユンには迷惑そうに振り払われますけど。
「ファラファラ、リル。アルユンを休憩室に連れて行ってあげてください。」
「はいはい。いくよアルユン。」
「照れ屋さん、このまま最終戦も休んじゃってもいのよ~♡」
何が照れ屋さんなのかはわかりませんが、さすがにファラファラもわかっているみたいです。
勝気なアルユンは出たがるでしょうが、もう休ませないといけません。
最悪はスフロユル教官に「ドクターストップ」してもらいましょう。
魔力奴隷でもないのに、魔力欠乏のままでムリさせるわけにはいかなのです。
魔力奴隷・・・ふとメルに視線を向けてしまいます。
彼女は物心つく前から、ある魔術師のもとで魔力を強制的に供与させられる魔力奴隷でした。
廃人寸前まで追い込まれ「処分」される彼女を、叔父様が救ったのが4年前のことです。
そんなことを思い出してしまいました。
ですが、メルはうつむいて指輪の先を見たまままで全然わたしに気づきません。
まあそうでしょうけど。
どうせ、また叔父様と「マジックメール」です。
わたしたちの試合もこの様子ではろくに見てもいないのでしょう。
本当にわかりやすいというか、自分に正直というか、時々うらやましくすらなるのです。
ですが、お隣のエクスェイル教官も?
二人で目くばせして、そのままこの場からばたばたと離れていきます。
あの指輪は、叔父様がつくった術式を呪符したマジックアイテムで、この学園の教官の皆様に支給されているものなんです。
教官二人がその指輪をみて、あわててどこかに行ったということは・・・緊急連絡?
何かあったのでしょうか?
わたしはこの場をヒルデアに任せ、デニーに指示を出して、二人を追跡することにしたのです。
「クラリス?」
リトの声がします。
わたしを追ってきたみたいです。
「えっと・・・あれです。」
そう言って前方の人込みにまぎれそうなメルとエクスェイル教官を指さします。
その人ごみのおかげでメルの鋭敏な五感にも気づかれていないのですけど。
「緊急のマジックメールが教官に来たみたい。きっと何かあったんです。」
「緊急?・・・でも」
「うん。試合中なのに・・・ダメですよね。でもメルが急いでるってことは叔父様からの緊急メールです。あの叔父様が送るメールですから・・・かなりの重大事件かもしれないって気になってしまって・・・」
何しろ先週、邪巨人の「集団転移」でひどいことになったばかり。
このガクエンサイだって、やっとの思いで再開したんです。
「もうあんなのはイヤなんです!」
「しっ!」
リトに引っ張られました。
そして、そのまま前の大きな冒険者さん・・・重戦士さんです・・・の背中に隠れるんです。
「気づかれる。」
さすがに声が大きかったでしょうか。
危なかったです。
そんなことを続けながら、なんとか追跡を続けて・・・。
着いたのは一般の方が立ち入りできない奥の学園施設です。
一見公園風に芝生が敷き詰められ、その中心には小さな四角い建物があるだけですが、実はあれは出入り口で、中身は地下の研究施設につながっています。
軍の魔法学校として、秘密保持の仕組みがいろいろとあるそうです。
メルとエクスェイル教官がその中に入って、しばらくたちます。
さすがにわたしたち学生が無断で入れる場所ではありませんし、「もう戻ろう」ってリトも言い始めます。
それにうなずきかけた時、その扉が開き、中から黒い装いの教官が出てこられました。
叔父様です。
これは直接お聞きするチャンスです。
わたしにはきっと話してくれる・・・そう思って飛び出そうとしました。
しかし!
お隣には水色の制服姿の女生徒がいます!
しかもその女生徒は水色の髪に紅い瞳・・・あの方は!
「王女殿下?」
リトがつぶやく通り、レリューシア王女殿下なんです!
なぜ王女殿下が叔父様と一緒なんでしょうか?
お二人はそのままこちらに向かってやって来ます。
つい物陰に隠れるわたしたち。
やや小柄な王女殿下は叔父様と並んで・・・今、肩が触れ合いました!
近すぎです!
「浮気?」
「バカなこと言わないで・・・モガモガ」
女性が苦手な、あの叔父様がわたし以外の子と!
途中で口が塞がれて言えませんけど。
「フェルノウル師・・・あの。」
「どうしました、王女殿下?」
あ、お二人、立ち止まってお話しを始めました。
隠れた茂みからそっと顔を出して様子をうかがうわたしたちです。
かろうじて小さな声が聞こえる距離ですけど、王女殿下は随分切迫した感じです。
叔父様に向かってお顔を上げて、お二人で見つめあって・・・アレ?
「すみません!わたくし・・・わたくし・・・わたしは・・・」
エ?
ナンデスカ、コノフンイキ。
「わたし!」
そしてガバッという音とともに、王女殿下が叔父様に抱きついて!
ええ!
なんで!?
「・・・殿下。」
しかも叔父様!
なんで抱き締めているんですか!?
さらにその抱き方!
左手で軽く背中を、右手で優しく髪をなでるのは、わたしにしてくださるのと同じなんです!
イヤ!
こんなの、イヤです!
わたしにする仕草で、他の女の子を抱きしめるなんて。
わたしの叔父様、いえ、わたしだけのアンティノウスなのに!
だけど相手は・・・あんなに、おきれいで、しかもこの上なく高貴なお方なのです。
わたしはこの場にいることに耐えきれず、ついに逃げ出しました。
「クラリス、落ちついて。緊急メールした教官が王女殿下と?どこか変。」
わたしに追いついたリトが、いろいろ話しかけてくれるんですが、わたしはロクに返事もできません。
「絶対に事情ある。」
事情も何もあんな光景を見てしまったのです。
「何も聞きたくないです。」
わたしはうつむいて、そのままトボトボ歩くだけ。
「クラリス、リト!どこ行ってたのよ!」
エミルの声がします。
わたしたちを迎えに来たのでしょう。
「ホラ、次の試合の準備もあるし、みんな集まってるよ!もう一試合終わっちゃったんだから。でね、なんと、ルーラさんたち冒険者チームの圧勝!ヘク女魔は王女殿下が休憩中みたいで交代メンバー出たけど、まるで勝負にならなかったわ。」
王女殿下って聞いただけで、耳を塞いで口がとんがるわたしです。
「クラリス?・・・これ、どないしたんや、リト?」
「只今故障中。」
リトの呆れた声が遠くで聞こえます・・・。
気がつくと、みんなの前にいます。
かろうじて声を出します。
「次は・・・ヘク女魔で~す・・・勝ちましょ~。」
デニーがいろいろとみんなに話したことも全く聞こえません。
時々リトが声をかけてくれたりするのですけど、やはりちゃんと答えられません。
「戦隊長?どうしたんだい・・・もう優勝が決まったんで気が抜けたのかい?」
「そうですね。ヘク女魔はすでに二敗。冒険者養成校もパン女魔に敗れて二敗。我々が万が一、次戦で敗れて、二勝一敗でパン魔女と並んでも、その場合は慣例で直接対決の勝者が優勝となってるそうですし。」
「では、最終戦、アルユンはお休みにします。クラリスも調子が悪そうですけれど、わたくしたちでがんばりましょう!」
「「えい、えい、おおお~っ!」」
・・・そして、そのまま最終戦です。
ヘク女魔の先頭には再びレリューシア王女殿下がお立ちになりました。
その勢いは初戦とは全く異なる、別次元の強さ。
個々の力に頼る校風は変わりませんが、一人一人の魔力が大きく上昇したかのような術式の威力で、優勝気分のまま試合に臨んだわたしたちは、あっさりと敗れてしまったのです。
わたしは気力が全くわかず、術式の威力が失せているのが自分でわかります。
今の殿下とまるで正反対。
「レリューシア王女殿下・・・なんでこんなに魔力が増したのでしょうか?」
「いや、殿下だけやない。全員すごい気力やったわ。」
「・・・完敗。」
「せっかくの手はずが・・・何もできませんでした。」
みんなは短期間で急に成長したヘク魔女、特に王女殿下に驚きの声を上げながらも、素直に相手を讃えています。
その声を聴くことも今のわたしにはとてもつらいことなのです。
なのに・・・
「フェルノウル!どうしたのです?あなた方、いえ、あなたらしくない戦い方でしたよ。」
当のご本人が直接目の前にいらっしゃるのは、正直苦痛なんです。
「まだまだ故障中。」
「リト、失礼ですよ。殿下、クラリス戦隊長は連戦で疲れていたようです。それよりも殿下こそ、今までとは全く見違えるほどの魔力の強さでございました!」
シャルノがわたしに代わって答えてくれます。
密かにホッ、です。
「はい!大切なご助言をいただいたのです。お叱りも、ですけれど・・・その・・・フェルノウル師に。」
「当学園の?クラリスの叔父様、フェルノウル教官からですか?」
びくっ、です。
ですけど・・・助言、お叱り?
戸惑うわたしとシャルノです。
そこにリトの直球!
「見た。二人、抱きあってた。」
この子、お人形みたいな大人しい見かけによらず、ストレート一本の剛球派なんです!!
シャルノが仰天して、目がマンマルになってます。
「あ・・・あれ?あれはお詫び。詳しくは立場で言えませんけど・・・」
そう言いながら頬をピンクに染める王女殿下では、説得力がありません!
「直接フェルノウル師にお聞きください。」
「ホントですね!聞いていいんですね!」
わたしは思わず叫んでしまい、気を取り直したシャルノに口を塞がれます。
「あなたもさっきから失礼、挙動不審ですわよ・・・事情は分かりましたけど。故障とやらの原因も。」
「ん。それ。」
「故障・・・なるほど。あなたはそれで。」
図星を指されて、今度はわたしが赤くなる番です。
思わず目をそらしちゃいます。
「フェルノウル。あなたの叔父様に、わたくし達はとても申し訳ないことをしてしまったのです。それで謝罪をしていました。その時・・・少し慰めていただいて、ご助言とお叱りをいただいたのです。もっとも・・・」
そこで口ごもったレリューシア王女殿下は、ご年齢相応にかわいらしいんです。
「とっても優しい叱り方でしたけれど。」
なんだか、今度はムカッです。
絶対に後で叔父様を問い詰めるんです!
「あらあら、余裕ですなぁ。優勝決定戦を前にして。」
そのやんわりとした声はジェフィのもの。
なんて不吉な声。
ですが、この声を聴くと、もう良くも悪くもテンションが上がるわたしです。
「優勝決定戦?勝敗が並んだときは、直接対決の勝者が優勝です!そういう慣例なんです!」
おかげ様で、もうすっかり立ち直って、ジェフィをニラムのです。
しかしジェフィもまたいつもの調子に戻ったようで、一見柔らかい微笑みを崩しません。
再びガンつけです。
「カンレイ?競技規則に明文化しておらへんものをタテに、もう優勝気取りでいらはるん?なにより、この大会、こんなしょうもない勝ち方で終らせてええと思うてはる?」
「しょうもないって、あなた!」
「さっきのうちらとの試合は作戦やいうんならまだガマンもします。せやかて今みたいな負け方されて、それでカンレイで優勝言われても、そんなん納得いきまへん。」
「でもわたしたちは20人しかいなくて、もう一戦戦うなんて・・・」
「対抗魔術戦いうんは団体戦、つまり組織力、総合力です。そなら人数いるいうのも立派な総合力です。今さらそれを言うんは筋が違います。」
ジェフィは次々とわたしたちを論破していきました。
その結果・・・
「「「もう一試合~っ!?」」」
みんなが悲鳴を上げるのは当然です。
「ごめんなさい。わたしが情けない試合にしちゃったせいで、つけいるスキを与えてしまって・・・」
慣例に甘えていて、事前に確認しておくべきでもありました。
相手があのジェフィだと言うのに。
ですが
「閣下!それは違います。」
「そうや、負けたんはうちらが油断してたからや。」
「うんうん。あたいもそう思うよ。敵を甘く見過ぎてたし。」
「・・・レンも。だからクラリスだけのせいじゃない。」
みんな口々にわたしを慰めてくれます。
ここにアルユンがいたらいろいろ文句を言われたんでしょうけど、彼女はまだ休憩室です。
ラッキー・・・では、ありません。
なにしろ四戦目なんて考えていませんでしたし、それで欠員はつらいんです。
「それに・・・勝てば勝ったらで、エス魔院とのエキシビジョンマッチも控えています。」
デニーのメガネがまた曇ってます。
本当に便利なアイテム(?)です。
「待って。それは考えないで。次のことを考えたら、もう終わっちゃうんです!いい、みんなも。エス魔院とのことは忘れて。今は次の決定戦に集中します。」
そうみんなに話すわたしの視界の隅に怪しい人影。
あそこでニヤニヤ笑ってらっしゃるのは、主任です。
よりによってなんでこんな時だけ見に来るんですか、あの根性悪!
やはり超自然的な異世界存在「悪魔」とやらのお仲間なのです。
それでも、イスオルン主任は、自分の交渉したエキシビジョンマッチのことを一言も言わず、そのまま立ち去って行かれました。
わたしたちは、呆れられ見捨てられたのでしょうか?
不安になってしまいます。
でも、みんなはわたしを見て頷いたり、笑いかけてくれたり、ガッツポーズしたり。
それを見ると、不安なんか吹き飛ばして、もうやるだけ!って気分です。
「みんな!行きますよ!!」
「「「はいっ!戦隊長!!」」」
少ない魔力は、意志の強さで補ってみせるんです。
だって「魔術は、空間に人の意志を直接刻む行為」なのですから!
そうですよね!?・・・叔父様。
「もう駆け引きなしの真っ向勝負です!」
わたしは編成をいつもの各班に戻します。
ずっと戦い慣れていますし、班ごとなら小回りも効きます。
各班長には作戦の大筋を伝えましたが、
「後は臨機応変に、です。」
戦隊長兼2班班長のわたし。
「戦術の極意は水の如し、と言いますものね。」
副戦隊長兼1班班長シャルノ。
指揮も魔術も万能で、信頼感だってバツグンです。
これで残念イケメン趣味さえなければ完璧女子なんです。
「猪突猛進でいいんじゃね~か?」
3班班長ジーナは突撃隊長・・・白兵戦はありませんけど、なんとなく、その、気分的に。
アルユンは欠員、ファラファラも消耗していますが、そのことを微塵も感じさない、さすがは戦闘種族ノウキンです・・・そんなのありませんけど。
「ボクはみんなの様子を見て、うまく合わせるよ。」
副戦隊長兼4班班長ヒルデア。
全体を見て要領よく動きます。
そのくせ結構実力派。
みんな性格も戦い方もそれぞれ持ち味が違うのが心強いのです。
「まぁ、我々の取柄は、要は何でもありですからね、閣下。」
作戦担当デニー。
今はメガネが光ってます。
敵情の分析や予測は安心して任せられます。
「うんうん、みんな仲もいいし。」
魔力供与役のリル。
そろそろ彼女の疲労も限界なのに、それでもニッコリ。
笑顔担当の方が似合います。
「・・・いろいろあったしね。」
歳のワリには経験豊富なわたしたちです。
最年少のレンは・・・マスコットガールでしょうか?
「なにより今の指揮官は無敵状態!」
リト。
それはちょっと買いかぶり過ぎです。
さっき情けない所を見せたばかりなのに。
でも・・・ありがとう。
わたしの親友。
「あれれぇ?」
デニーの頓狂な声ですが、気持ちはわかります。
だって
「なんで応援席にもおらんのや?」
「わざわざわたくしたちを決定戦に引きずり出しておいて・・・。」
では、この試合のパン魔女の指揮官は?
「なんだか相手チームのみんな、怖い顔してるよ?」
「・・・うん。すごくにらんでる。」
試合前の握手の時、パン魔女の指揮官は、ジェフィのことを聞いたわたしに
「もう、あんなヤツ知らないわ。」
とだけ告げて去っていきました。
ジェフィが学校をやめたと聞いたのは更に後日のことなのです・・・。
しかし、パン魔女チームは間違えました。
どんなに確執があったとしても、あなたたちをまとめていたのは、あの憎らしいジェフィなんです。
「ジェフィを外したパン魔女は、所詮、烏合の衆です!一気に蹴散らします!」
あんなに嫌いな相手だったのに、この場に、この戦いの場をつくった張本人がいないことが、今のわたしは無性に許せないのです。
あの小憎らしい笑みをまた引っぺがしてやりたかったのに!
「賛成ですわ。どうせ短期決戦以外に勝ち目もありませんし。」
「よっしゃあ、突撃だぁ!」
「みんながそれでいいんなら、ボクも。」
各班長もその気です!
ならば!
「デニー!」
「はい、戦隊長閣下。防御にまわす余力もなし。このまま総がかりでいきましょう!ただ、2班はリトとリルの消耗が激しいので波状攻撃に参加するのは不可能では?」
消耗なら3班も厳しいはずですけど、突撃する気になったジーナはもう止まらないでしょうし。
「2班は「魔力矢」の集団詠唱にまわります。これ一本で決めて見せます。各班は各自得意な術式で、あせらず、思う存分やってください!でも、気持ちだけは合わせて!あとは強い意志で術式を刻んで、そして、一緒に戦って、一緒に勝つんです!」
「お任せになって!」
「へっ、お前の出番が来る前に俺たちでキメてやるぜ!」
「ボクらが一番魔力が残ってる。序盤は引き受けるよ。」
力強く頼もしい返事。
もう負ける気はしません!
「では・・・エスターセル女子魔法学園、決戦です!」
「「「「「はい!戦隊長!!」」」」」
そして優勝決定戦が始まりました。
4人一組の各班が「火撃」を唱えるパン魔女の攻撃は一見恐ろしい波状攻撃です。
しかし!
「・・・大丈夫。」
リトもわかっています。
班ごとの術式のタイミングが悪い意味でそろいすぎです。
ジェフィのいないパン魔女はそれがわかっていない。
ただ・・・それでも選手交代を行い、魔力が豊富なパン魔女は、威力の強い「火撃」を連射してきます。
予想外なほど。
さすが、と言いたくないわたしですけど、一抹の危惧を感じてしまいました。
「ま、念のため小細工してみますので、ご安心を、閣下。」
そう言うデニーがいたずらっぽく笑って、ファラファラに合図を送ります。
「オッケーなのぉ~♡・・・「加力」!」
親指を立てて首を傾けてポーズをするファラファラのユルカワな仕草に騙されるのは、おバカな男子と、目先の感情に目がくらんだパン魔女チームだけで十分なのです。
敵の火の矢が標的に当たり、破片が飛び散ります。
ところが、ファラファラが右手をヒョイって引くたびに、破片の一つが動き、新たな火の矢が標的に当たる前にぶつかるのです。
しかも・・・火の矢を弾いています!?
「あの破片には、リルの「防御」に、レンの「凍結」で硬度と水分を与えています。その破片をファラファラの「加力」で操作して、火の雨を弾く・・・防御術式を使うなら、一人一度きり、しかも一番負担の少ない戦術を考えて、標的全体ではなくて、小さな破片に行使しただけですけど。」
「ありがとう、頼りになるメガネさん。これで万全です。では後はみんなに任せて2班は集団詠唱に入ります!」
後の防御はファラファラに一任。
攻撃はその他全員で波状攻撃。
ただ、わたしたちの魔力はパン魔女とは異なり、互いの妨げにならないばかりか、共振し、わずかながら増幅すらしているように思います。
ですから、たった5人の2班が行使した、集団詠唱の「魔力矢」が一撃で敵の標的を撃ち砕いたのは、その前にみんなの攻撃呪文が十分以上に効果を発揮していたからなんです!
「終戦!勝者・・・」
もちろん、優勝はわたしたちエスターセル女子魔法学園です!
目の前には喜ぶ仲間たち。
ですが、もう立ってる気力すら残っていない子もいて、何人も地面に座り込んでいます。
シャルノにリトにリルにレンたち。
ファラファラなんか気絶してます。
どこまでもスキなくユルカワな笑顔とポーズのままですけど。
短くしてもらった式典の後です。
「エキシビジョンマッチは棄権します・・・これは命令です!みんな、休憩室へ移動して!」
わたしは悔しさを飲み込み、そう指示をするのです。
みんなもわかっていること。
もう戦う力は残っていないって。
「バカいってんじゃね~ぞ!俺はまだやれるっ・・・げぼ。」
約一名は違いましたけど、リトが殴って昏倒させています・・・さすがは白兵戦の王者です。
そのまま、会場の大歓声を浴びながら、互いに支え合って退場するわたしたち。
そんなわたしたちの前に立ちふさがるのは・・・イスオルン主任です。
「戦隊長とやら、随分と御大層な名乗りだが、なにから棄権すると言うのだ?」
カチンとくるのは、その言い様と言葉の中身、何よりも人の悪い傲岸な笑顔。
おまけに、人の悪さ感倍増アイテムの、あの丸眼鏡!
「はい、教官殿・・・すみません。せっかく教官殿がわたしたちのために設定してくれたエスターセル魔法学院とのエキシビジョンマッチですが、わたしたちはもう試合する魔力が残っていません。」
悔しさで唇をかみしめながら答えるのはわたしですが、その悔しさはみんなのものです。
みんなうつむいて・・・。
なのに!
「なんだ、そんなものか・・・まだ気づいてなかったのか?」
その軽い言い方は、いくら主任でも許せないんです!
「頭を冷やせ。そしてよく観察しろ・・・さて、どこにいるんだ、エス魔院の生徒たちは?」
はぁ?
わたしたちは一斉に首をかしげます。
もう、こういう時の「シンクロ率」ってすごいわたしたちです。
・・・でも「どこ」ですか?
「言われてみれば・・・」
「・・・おらんやんか?」
「予定だと、決定戦なんてなくて・・・もうエキシビジョンマッチの時間ですわね?」
「まだ来てないなんて・・・変だよ?」
「・・・うん。」
みんなざわざわし始めます。
「おっさん、ヒトが悪すぎだ。ク・・・っと、生徒たちで遊ぶのもホドホドにしてほしいな。」
「え!?叔父様!?」
イシオルン主任の向こうには、メガネをした叔父様がいて、なぜかその隣にはレリューシア王女殿下に、エリザさんとオルガさん(?)まで従えて。
そう言えば側近の二人とも今日は姿を見せていませんでした。
試合にも全く出ていなかったし・・・?
「あの・・・叔父様?」
「ち・・・またネタ晴らしをもっていくつもりか?」
わたしと主任に視線を向けられた叔父様は、ゆっくりとメガネを外します。
「ならさっさと自分で言えよ。僕だって最初は騙されて、王女様にエキシビジョンマッチの助太刀を頼もうと思ったんだぜ。」
助太刀って、試合不能の仲間に代わって出場くださるのですか!
「ええ。ほかならぬフェルノウル師の依頼であれば、先ほどの不始末のお詫びを抜きにしても参戦せねば、と思い、逸っていたのですけど。残念です。」
随分叔父様に肩入れしている王女殿下です!
さっきの光景がよみがえります!
「クラリス、待つ。」
追及しようとしたわたしは、不穏な空気を察したリトに止められてしまいます。
「どうどう・・・落ち着いて。」
わたしはアバレ馬ですか!
「クラリス、まずはエキシビジョンマッチの事情を聞きましょう!」
デニーまで・・・もう!
わかりました!
「では主任!お聞かせください、そのネタ晴らしとやらを!」
もう力一杯イスオルン主任に迫るわたしです!
「ふん。つまり、エキシビジョンマッチなんて交渉はしていない。」
えっと・・・えええ~!!
「じゃあ、あれはウソなんですか!」
「違う。お前らの感情の行き所をつくって、かつ真剣に授業に向かわせるための高度な教育術だ。」
そのしれっとした言い様!
何が教育術!?
やっぱり「悪魔」なんです!
「しかし、フェルノウル教官殿。お前だって、気づいたら教えてやればいいだろう?」
え?
気づいてた?
「え、いや、僕はだからちゃんと騙されてだね・・・だから王女様にわざわざ・・・」
「下手なウソに無駄な小芝居だな。お前、ゴラオンの秘密保持のための警戒対象に、エス魔院の生徒を入れてなかっただろう。それが証拠だ。」
実は、秘密保持の警備主任は叔父様なんだそうです。
「え、いや、あのね・・・それは名門の生徒を警戒するのは失礼かなって・・・」
でも、叔父様の、そのうろたえ方は怪しいのです!
「言っていいのか?エスターセル魔法学院を外しておきながら、王女殿下のいらっしゃるヘクストス女子魔法学校の警戒レベルをひきあげる?それで何が失礼だって?矛盾してるじゃないか?」
警戒されていたと聞いて、ぎくっとする殿下と側近の三人?
「本当にすみません!いくら命令でもスパイなんて!」
「ですが殿下は本当に無関係なんです!直接命じられたのはわたしたち姉弟だけなんです!」
・・・もうあちこちで秘密が錯綜して大変です。
入り組んだ事情をまとめると・・・真相はこちらです。
まず、一昨日、エス魔院に決闘を申し込んだわたしたちを追い払って、その後イスオルン主任はエス魔院を対抗魔術戦優勝校とのエキシビジョンマッチに招待した、と虚偽の報告をわたしたちにします。
それは、要はわたしたちを無駄な決闘騒ぎから遠ざけると同時に、より授業に集中させるという「教育術」だそうです。
これはわかりやすいんです。
頭にはきますけど!
ホントに悪辣!
一方、叔父様。
相変わらず面倒な方です。
手が込みすぎ・・・。
まず、その後の会議でサーガノス大公殿下とケンカ(!?)した叔父様は、このまま殿下が引き下がらないと考えたそうです・・・どこまで大公殿下と確執があるんですか?
そして殿下がおそらくは、このガクエンサイ当日にヘク女魔の生徒または教官にまぎれてスパイを送ると予想したそうです。
それもすごい話ですが・・・実際にエリザさんとオルガさんは、試合にも出ず王女殿下のお側すら離れて研究施設へ侵入しようとし、叔父様の警戒網に引っかかったとか。
校門からずっと「式神」を張り付けておいた、とは後で叔父様がわたしに教えてくれたことです。
まさに準備万端の網の中に・・・もうエリザさんたちがかわいそうになったくらい。
更にヘク女魔の教官の一人は、エリザさんたちを囮にして本格的に潜入しようとした「プロ」だったそうで、こちらはまだ拘束してるんだそうです。
そして、事情を知らされたレリューシア王女殿下が叔父様に・・・そのシーンを見てしまったのが、緊急メールで警戒強化に呼び出されたメルたちを追跡したわたしとリト、という訳なのです。
「ですけど、おかげでフェルノウル師よりご助言を賜りました。魔術は意志の力を刻む行為!以前ある少年にも教えてもらいましたが」
それ、同一人物なんですけど・・・言えません。
シャルノと目くばせです。
「・・・今度こそは思い知りました。そして自分だけではなく、クラスメイトにもちゃんと向き合って、みんなに本気になってもらえとまで・・・おかげでわたしは初めてみんなと真剣に、仲間としてあることができました。」
王女殿下は全力で最終戦に臨むよう強く訴えたのだそうです。
頭まで下げて。
そうお話なさる殿下・・・ううっ・・・きれいなのにかわいくて、負けそうです。
「叔父様!敵チームである殿下に助言なんて、教官として間違ってます!」
その助言がなければ、決定戦なんて余計なことをしなくてもよかったんです!
なのに
「クラリス?」
「クラリスはフェルノウル教官殿に厳し過ぎです。」
そんなことありません!
なんでみんなも怒んないんですか!
「これは・・・あれやな。」
「そうですね。あれですわね。」
「あれ?あれってなになに?」
「・・・レンも知りたいの。」
みんながわたしを無視してます!
スルーしないで!
これが「ハブられる」ということなんでしょうか!?
「リルにレン、こん前から知りたがっておったやろ?」
「ええ。これが、これこそが女の嫉妬心というモノです。見苦しいですわねぇ~。」
この後、みんなに散々からかわれてしまいました。
納得いかないのです!
「で、お前はなんでエキシビジョンマッチがないことを気づいたんだ?」
その情報は教授以上のものにしか知らされていなかったとか。
そしてエキシビジョンマッチのことは公式には発表せず、サプライズ企画という建前にしていたとか。
道理で観客から何もクレームがなかったのですか・・・こんな悪趣味なことに、ここまでやりますか!
ですが、主任のおっしゃる通り、講師である叔父様が、なんで知ったのでしょうか?
「い、いや、だから僕はちゃんと騙されてだね・・・。」
まだ見苦しく言い訳する叔父様です。
でもその仕草はウソの時のモノなんです。
さっきメガネを外した段階でおかしい、って思ってたんです。
「それはね、フェルノウル教官が、エキシビジョンマッチのことを聞いて、私のところに苦情を言いに押しかけて来たからよ。」
その魅力的なお声は・・・叔父様の後ろからセレーシェル学園長まで現れました。
「この人、ムキになって。こんな過密な試合日程じゃ、負担が大きすぎる。生徒たちが魔力欠乏症になりかねない!絶対にやめろ~って・・・すごい剣幕。さすがの私もなだめるために真相を話しちゃった。」
「だ、だから、それは言わない約束だろ・・・コホン。ま、そんな感じさ。万が一にも成長期に魔力の使い過ぎで後遺症が出るなんて、絶対にダメなんだ!」
顔を真っ赤にして言い張る叔父様は、悪魔というより、いたずらがばれた子どもです。
この方の策謀も秘密主義も実はわたしたちのためなんです。
もちろん、イスオルン主任の邪悪さも、学園長やワグナス教授、他のみなさんも。
「それを地で言うから、お前にはまだまだ任せられんのだ。」
叔父様を見て、ニヤニヤ笑う主任は以前やられた「お返し」をしているのでしょうけど。
「そうね、結局は姪っ子大事なだけかもしれないしね。」
こちらもきれいなお顔をゆがませて、わざわざイヤミなお顔をなさる学園長も、一昨日の「魔法街の沈黙」のことを恨んでいらっしゃったのでしょうか。
叔父様は、生徒たちにもクスクス笑われて、この場から逃げていくのです。
もっとも「なんて生徒思いな・・・おやさしいお方です」って王女殿下がつぶやく声はなんだかおもしろくないんです。
それに、魔力欠乏の後遺症・・・叔父様はおそらくメルのことを考えていたに決まっています。
みんなは叔父様の逃走劇を見て、すっかり留飲を下げ、エキシビジョンマッチのことを忘れたみたいです。
でも、わたしは不満だらけです。
そして・・・気がつくと、目の前には無様に倒れた七色の衣装の戦士たち。
「お~ほほほほ!なんですか、そのザマは!それでもこの街を守る七光衛団ですか!何が虹の閃撃ですか!」
黒一色。
ミニスカートにタイツ姿のわたしはポーズを決めて思いっきりあざ笑います。
「クラリス・・・やりすぎちゃうんか?」
黒の基本色に赤のスーツ姿は性悪商人です。
なぜか顔色が悪いです。
「ええ、本番だけでもちゃんとやられてくれと、ソニエラたちがさっき土下座で頼んできたばかりなのに・・・」
同じく黒に青の悪知恵参謀。
こっちはメガネが曇ってます。
二人とも思いっきり引いていますけど、観客には大うけ。
あそこの野暮ったい茶色のベレー帽はクレオさん・・・さては、あおりましたね!
ふん、です!
「何をおっしゃるの!それでも悪女帝クラリスの幹部ですか!逃げる敵にはドロップキック、倒れた敵にはフライングボディプレスです!二人とも、さあ!追い打ちですわ!」
「せやかて・・・」
「さすがにそれは・・・」
二人とも中途半端ですね、ええい、面倒臭い!
「わたしの言うことを聞かない幹部なんて首です!今からあなたたちもわたしの敵よ!かかってきなさい!」
「そんな、ありえへん展開や!」
「お許しください、悪女帝様!」
驚き怯える二人ですが、そのままわたしは両腕を広げ突進します。
「お仕置きです!ダブルラリアットォ!」
大きく飛ばされ、そのままステージから退場しようとする二人です。
その背中に「有言実行ドロップキック」を浴びせます!
こうして、わたしが裏切り幹部たちを成敗し、
「おぉっほっほっほ!」
高笑いを上げたところで幕が下りたのです。
会場は大歓声。
その中でポツリ。
「ダメダコリャ」
ってつぶやきが聞こえましたけど、きっと気のせいなのです。
こうしてわたしたちの初めてのガクエンサイは無事終了したのです。




