call and response.
そんな会話をしてしばらく経った昼下がり、登録していない電話番号から着信があった。
俺は作業していたPCから目を離し、いつもの様に聴いていたCDを停止させて、画面を睨みながらしばし頭を悩ませる。
東京の番号ではなく、携帯、しかも080始まり、ということは最近新たに番号を取得した人物からだと予想され、メールをスっ飛ばしていきなり電話をかけてくるような繋がりのニンゲンって誰だよ……
嫌な予感しかしなくて、通話モードを実行出来ず、躊躇する。
クソ忌々しい叔父叔母の、どうでもいい用件だったら異常者のフリをして絶叫して切ろう。
そう思い立って勢いよく指をスライドさせ、スマホを耳へ宛がった。
「……イトちゃん?」
あ、これは。
先ほどまで聴いていた、CDのケースへ自然と目が移る。
「おー、久しぶり。CDどーも。」
俺は3か月ぶりに聞く、レイの歌ではない声に多少動揺しながらもそう挨拶した。
「……電話、出るの遅かった…何かしてる?」
東京~京都間と距離が遠いせいか、それともレイの声が小さいせいか、聞こえ辛いな、と感じながらも俺は取り繕うように言った。
ロクでもないジジイかババアの電話じゃないかと疑って、出るタイミングが遅れたなんて言えるはずがない。
「ちょっとパソコンで作業してたから、まあそれほど重要なやつじゃないんだけど。」
「それって、忙しくないってこと?」
「え?まあ、今日は土曜で学校も無いし。忙しいってわけじゃ。」
「仕事は?」
矢継ぎ早に聞いてくるレイの密やかだが切羽詰まった声に、不安を覚えながらも正直に答える。
「バイトのこと?今夜はシフト入ってないけど。」
「じゃあお姉さんは?」
「咲乃は相変わらず一日中働いてるよ。」
「暇?」
「んー、まあ今んとこ。」
「じゃあ、来て。」
レイは息をつめた後、思いつめたように言い放った。
「はあ!?」
その台詞に耳を疑った俺はビックリしてやや大きめの声を出す。
「何処に!?」
いや、まさか?まさか今から?今すぐに?
ん?あ、もしかして関西方面に遊びにでも来てるとか?
それなら有り得る。
うんうん、そうかも。
「日暮里。」
―――日暮里!
にっぽり!!!
思いっきり東京じゃねーか……
ぎりぎり23区内だからまだマシ、だとでも?
山手線上だもんね、東京駅からも一本で行けるし?
って、ってそんな問題じゃないだろ……。
「いや、ここ京都なんだけど。」
「知ってるよ。」
「知ってるか。」
呆れてますよ、という声色がシッカリ伝わるように俺は言ったつもりだったが、
レイは尚もひるまず俺を呼び出そうとするつもりらしい。
これってもう、イオンどころか近所のちょっとした公園に誘うくらいの気軽いノリじゃね?
俺が自家用ジェット機を持つ大統領とかならまだ理解できなくもないけどさあ。
「でもイトちゃん、暇って言ったよ。」
「いやいや、そっちまで行くとすれば三時間かかるんだけど?」
「三時間でどうこうできる問題じゃない、かも。」
「え、何か巻き込まれてんの?」
「うん。」
レイの声が心なしか震えているように聞こえる。
「喧嘩とかだったら、俺、全然役立たずなんだけど。」
「そんなんじゃない。」
「ってかさ、新幹線使うんだったら、知ってるかもだけど、往復三万近くかかんだけど。」
金の話はしたくなかったけど、こっちも大したことない用件にそんな大金ホイホイ出せない。
「お金なら、出すから。」
渋り続ける俺に業を煮やしたのかレイはそう言った。
「ハ、イ?」
顎が外れるんじゃないだろうかというくらいポカンと口を空けて、俺は聞き返す。
「だから、早く来てよ!死んじゃうかも……」
――死、って言った。
突然飛び出した単語に背筋が凍る。
「……解った、行く。」
日暮里だっけ、着いたらこの番号に電話するから。
俺は静かにそう言って通話終了ボタンを押した。




