place of painful memories.
自棄になって乗り込んだ新幹線の中で俺は、マジで馬鹿みたいな理由だったら聖徳太子でも聞こえなかったふりをするくらいの罵詈雑言をブン投げてやろうという意気込みで自由席に腕組みしながら座っていた。
往復六時間ってのは、長編で名高い『十戒』とか『ベン・ハー』を観てもお釣りがくる時間で。
他人にこれだけの時間を使わせてまで、しかも大金を払ってまで呼びつける理由というのが自分には、まるで思い浮かばないのだった。
――例えばこれがハリウッド映画なら、ヤクの取引をミスって凶悪なギャングに捕まってしまったとか、大統領の娘と勘違いされて誘拐されてしまったとか色々あるだろうけど……、いやいや、だったら速攻警察を呼ぶだろうよ。
カンフーを習っているわけでもない、天才少年ハッカーでもない自分へ連絡してくるメリットなんて万が一にも無いわけで。
あ、もしかしたら相当イカれたサイコな犯人に捕まってしまって、
“知り合いの中で一番非力で、何もできない人間にだけ連絡を取っていい”という条件の元、スマホを渡されたのかもしれないな。
あー……だったら、俺だ。
美術科高校に通う日の当たらない生活、帰宅部、居酒屋バイト。
スポーツとは無縁だと一目で解る筋肉量、趣味映画鑑賞。
これはレイも知っている俺の情報で、多分自分の全て。
な、期待させる余地がヒトっつも無いだろ。
まあもしも、もしも、出来ることが一つでもあるとするならば
……映画クイズ?
そう、実はレイはクイズ番組のスタッフのアルバイトをしていて、
映画に詳しい男子高校生を探すように言われているのだ!!
――――なんて。
それだったら電話でそう言ってるだろうが。
ということは、多分、誰でも良いことなんだろうな。
誰でも良いような、誰でも出来るようなことをどうせ頼まれるんだろう。
なのに“死”という単語に動揺して衝動のままに家を飛び出した俺は馬鹿だ。
それでなくとも、レイにはまんまと踊らされている記憶しかない。
どーでもイイような欲求をぶつけられたら、開口一番にさっき考えた罵声を一言お見舞いしてサヨナラだ。
そうでないとどんどん深みにはまっていきそうな自分が哀れで、これ以上惨めになりそうだった。
頭の中で思考は巡り、格安バスの深夜便なら半額以下の金額で行けんのに、とか他の長尺映画も観れるな、とか、どうでもいいことを考えながら襲い掛かる眠気にうとうとしていると、いつの間にか、もうすぐ東京駅へ到着するというアナウンスが車内に流れた。
あっという間だったな、と今にして思いながら
流されるように乗換口の改札に新幹線の乗車券を通し、そのまま山手線へ。
昼14時の車内はさほど混んでいるわけではなく、上客はまばらで、穏やかな空気が流れていたが俺は何だか落ち着かない。
関西弁を喋っている人間がいないからだ、という事に気付くまでにそう時間はかからなかった。
少し前までは自分も同じようにこの土地にいて、馴染んで居た筈なのに、少しの間でも離れるとこの違和感。
家族のメンバーが揃っていた頃に海外旅行へ何度かいったが、それと同じような気分だった。
普通は生まれ育った久々の東京に、懐かしさの一つでも覚えるんじゃねーの?とも思う。
でも“故郷へ帰ったわあ”とは微塵も感じない。
窓からの気色にもまるで見覚えがないし、その割には何処を見てもビルばかりで、恐らく俺が住んでた頃もずっと灰銀色におおわれた街だったに違いないんだろうけど。
山に囲まれた今の住んでいる場所がひどく恋しい、と思うのは、
此処と別れた時の最後の思い出が辛く悲惨なものだったからなのかもしれない。
レイが呼びつけた場所が日暮里でよかった、と内心ホッとする。
昔住んでたあの場所。
幸いにも電車から見えることはなかった土地に近い場所だったら、この苦しさはもっと重みを増したものになっていただろうから。




