1話:異世界転移
RPGにおいて、最も有利なプレイヤーは誰か。頭脳明晰なものか、はたまた操作の巧みなものか。いや違う、攻略法を知っているものだ。
カイト:範囲攻撃が来るぞ。全員下がれ!
カイト:丁度この位置でアイテムを捨ててロードしなおすとバグでそのアイテムが増えて戻ってくる。
カイト:こいつらは赤眼のリーダーを倒さないと無限に蘇る。つまりリーダーをたたかない限り無限に経験値稼ぎ放題ということだ。
「ふぅ、今日はこの辺にしておこう。」
カイト:僕はこの辺で落ちます。お疲れ様でした。
j:カイトさん、ありがとうございました。お疲れ様です。
ぬーす:乙でーす。
「あぁ、疲れた。まだ2徹なのに不思議だなぁ。休憩するか……」
「あ、ニート様が下りてきた。」
「兄をニート呼ばわりするな妹よ。」
「ニート、この荷物倉庫に入れてきてー」
「2日振りの感動の再会にいうことがそれか。絶対に働きたくないでござるー」
「はいはいどうでもいいからさっさとしろ。」
「ちぇっ、冷たいでござるな。」
妹と軽くじゃれあった後、俺は倉庫に向かう。
「相変わらず散らかってるなこの倉庫は……まぁこの辺に置いとけばいいだろう。ん?なんだこれ。」
倉庫の中から明らかに古くてボロい箱が見つかった。
「お宝の香りがする!」
なぜだか知らないが俺はその箱を開けなければならないと思ってしまった。
「MYTH ONLINE……ゲームか?もっと高価なモン期待してたが、これはこれで面白そうだな。」
「で、こっちは攻略本?今日日こんなの読んでるやついるのか?まぁとりあえずやってみるか!」
俺はすぐさま部屋に戻り、MYTH ONLINEを立ち上げた。すると突然強烈な眠気に襲われた。
「2徹だからかすげぇ眠いや。明日から頑張る。おやすみな相棒」
意識がボンヤリする。間違いない、これは夢だ。
(ま……るか…)
「え、なんだって?」
どこからともなく声が聞こえる。性別のノイズ交じりで聞き取りづらい。話者も薄霧かかっていてよく見えない。
(ずっ……っ…て……)
「もっとはっきり言ってくれ!」
(さ……ら)
「いったい何なんだお前は?」
(あい……て…)
「だからそんなんじゃ聞こえないって言ってるだろ!」
(さ……)
――プツンッ――――――
突然目の前が真っ暗になった。
「んっ…頭が痛い……」
「それにしても変な夢だったなぁ…どうせ見るならもっとエロいやつがよかったぜ。さてゲームゲームっと…あれ?パソコンがない!!ってかここどこだ!?」
パソコンどころか、机も、ベットもなくなっていた。というか俺の部屋がなくなっていた。あたり一面大草原である。
「夢か?また夢なのか?夢じゃなかったら洒落になんねぇぞ!!こんな草しかないとこ俺ん家の近くにねえぞ?ここ外国?」
と見当違いな予測をしているところ、草原の向こう側から一羽のウサギが近づいてきた。
「おぉっ!野生のウサギなんて初めて見たぜ!モフモフしてやるぅ!!」
俺はウサギに近づいて行った。近づくにつれてウサギの細部が見えてきた。角が生えていた。
「待って、アレウサギチガウ!!俺の知ってるウサギ角生えてない!!」
「それに俺が最初ウサギを見つけたとき結構遠くからだったよね。見晴らしがよかったせいで気づかなかったけどあのウサギでかくね?」
正確な大きさはわからないが、少なくとも1.5mはありそうな大ウサギがこちらに気付いたようだ。
「あれ、これやばいよね?ちょっとギャァァッァ!!」
俺は一目散に逃げた。あの大ウサギは追ってこないようだが、念のためかなり遠く離れた。
「結局ここはどこなんだ?海外…って訳じゃなさそうだし。」
今しがた見た光景を思い出しながら俺はある種の仮説を立ててみた。
「ひょっとして……異世界?」
俺は動物について詳しいわけではないが、それでもあの大きさのウサギ(角付き)は世の中に存在しないと思っている。仮に存在したとしてもジュラ紀だとか白亜紀とかそういった恐竜さんが生きてた時代の話ザウルス。
「確かにタイムスリップ説もありえる。だがそれでも俺は……」
「異世界転移だと信じる!!」
「だって異世界行きたかったんだもん!!剣とか魔法とかドラゴンとかファンタジーの世界とか男なら一度はあこがれるでしょ!!しかも俺はニートでゲーマーなんだからその思いは人の何倍も強いんだよ!!これ絶対異世界!!」
「と一通り考えてみたところで結論は出ないし現状確認でもするか……」
俺はまず持ち物を調べてみた。
「服とスマホと……あと攻略本。アレおかしいな。これ詰んでない?」
「服はわかる。スマホもまだわかる。だが攻略本ってなんだよ!異世界にゲームの攻略本持ち込んだ話とか滅多に聞かねぇぞ!!」
「いやひょっとしたら神から授かったチート能力とかあるかもしれない!確認する方法ないけど……その辺散策でもするか。」
その時の俺は完全に油断していた。近づいてくる脅威にまったく気づいていなかったのだ。