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第六話~儀式3日目~

儀式も三日目に入り、神殿の作成はほぼ完了していた。


ここまでくれば、後は設計図通りに地面の(みぞ)()って陣を完成させるだけなので、(ほとん)ど単純な流れ作業に近い。


禊は今までの設計図と(にら)めっこしながら細かい修正(しゅうせい)を加えていた慎重(しんちょう)な作業から一転して、ただひたすら黙々と手を動かしていた。


そのため、作業の進み具合は前半よりも格段に速かったが、陣の面積が広いためそれなりに時間が掛かる。


夕暮れになり、日が沈む前に屋敷に戻るため今日の作業を終えた禊は先に車を取りに行った周防と合流するために、車道を目指して剛と二人で歩いていた。


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


しかし、相も変わらず、二人の間に会話らしい会話はない。


お互いに距離を(はか)りかねているのだ。


「「あの・・・・」」


いざ話し掛けようとすると、まるで(しめ)し合わせたあのように同時に声をかけてしまい、ますます気まずくなる。


「先にどうぞ・・・・」

「そっちが先に話したら?」


剛は遠慮(えんりょ)がちに禊に先を(うなが)すも、(かたく)なな態度に素直(すなお)に従い、こちらから切り出す。


「禊と一緒に儀式に参加していた女の子・・・・ええっと、確か結城家の・・・・」

「弥生ちゃんが一体どうしたんだよ?」


自分以外の女の話題を出されて、やや不機嫌に返事してしまう禊。


「ずいぶんと仲がいいと思ってね。心を許せる友人ができて、私も安心したよ」

「はあ?一体いつの話をしてるんだ?いつまでも子ども扱いするんじゃないよ」


照れて少し赤くなった(ほほ)を隠すように、禊は剛から顔を(そむ)け、ずんずんと森の中を進んでいく。


「きゃっ!!」


しかし、少し進んだところで、足を(すべ)らせたのか、倒れ込んでしまった。


「禊!!大丈夫か!?」


(あわ)てて剛が禊のそばに駆け寄る。


どうやら、禊が足を踏み込んだ地面の部分だけ少し深く(くぼ)んでいたようで、そこに足を取られたのだ。


不幸にも、ちょうどそこに、木の根や葉っぱの(しげ)みがあり、そのせいで足元がよく見えなかったらしい。


「だ、大丈・・・・あ()っ!!」


差し出された剛の手を振り払い、立ち上がろうとする禊だが、足を(ひね)ったのか、足首に走る鈍痛(どんつう)のせいで上手く立ち上がることが出来ない。


(ひね)ったのか?見せてみろ」

「や、いいって!!これくらい平気だから!!」


禊は足が痛むのも気にせずに後ずさる。


一日中歩き回ったため汗臭くなってしまっている足を、(かり)にも幼いころから(あこが)れ続けてきた兄に見せるのは、彼女の羞恥(しゅうち)が限界であった。


「いいから。見せろ」

「あう・・・・」


今までと違って真剣な目で見つめられ、禊は何も言えなくなってしまう。


別に剛の命令口調にときめいているわけではない。断じてない。


「・・・・ふむ・・少し(ひね)っただけのようだ。今は応急処置で足首を固定しておいて、別荘に戻った時に冷やせば問題ないだろう」


軽く触診(しょくしん)をしてそう判断した剛は、汗に()れた足をハンカチで()くと、何処からか取り出した包帯を禊の足首に巻いていく。


「どこから出したの、包帯(それ)?・・って言うかいつも持ち歩いてるの?」

「なに・・警察官の裏必需品だ」


剛はそうはぐらかす。


実は他にも、迷子の子供をあやすための飴玉(あめだま)や行きつけの神社の野良(ノラ)たちにあげる用の(えさ)を常に(ふところ)(しの)ばせているのだが、完全に余談であろう。


「よし。とりあえず、応急処置はこれで終わりだ」

「う・・ありがとう」


今回は自分の不注意が(まね)いたことなので、禊は素直(すなお)にお礼を言った。


「さてと・・・・」

「え?きゃああ!!」


剛は禊をお姫様だっこで()きかかえた。


「な、ななななな何、何を!?」


突然の剛の行動に、半分パニックになる禊。


剛にお姫様だっこされるのは二度目であるが、あの時は気絶していたため、禊にとって初めての体験に、嬉しさと恥ずかしさが混じりあい、何も考えられなくなる。


「悪化する危険があるから足は動かさない方がいい。車まで運ぶよ」

「い、いいって!!おろしてよ!!」


剛の腕の中で暴れるが、禊の細い腕では、剛の巨体はビクともしない。


逆に力強い腕で強く抱きしめられてしまい、抵抗できないと(さと)った禊は顔を真っ赤にしながら剛に運ばれていくのであった。


余談であるが、その後の禊は、弥生がドン引きするくらい、幸せオーラ全開のだらしがない表情であったと言う。






イギリス。


正式な国名を『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国』と呼ばれる、この国の首都ロンドン。


そのロンドンの象徴であり、『ビック・ベン』の愛称で親しまれている時計塔に一人の男が来ていた。


余談であるが、『ビック・ベン』は時計塔の中に収められている大鐘楼(だいしょうろう)の通称であり、時計塔自体は『クロックタワー』、あるいは『エリザベスタワー』と呼ぶのが正しい。


「お待ちしておりました。ミスター・モリミヤ」

「うむ。お出迎えご苦労」


彼は現在の守宮家当主、そして魔術組合(ギルド)『封杖院』の組長(ギルドマスター)でもある守宮孝則(もりみやたかのり)である。


孝則は迎えにきた男に導かれながら、時計塔のエレベーターに乗りこむ。


男が(ふところ)から取り出した鍵をエレベーターのパネルに差し込み、左に回すと、エレベーターは時計塔の地下へと下っていった。


「しかし、わざわざ本拠地にまで呼びつけるとは『円卓十三議席』はどういったご用件で?」

「それは、今私の口からは(もう)し上げることができません。皆様が会議室でお待ちですので、そちらで説明があるでしょう」

「皆様?」


男の物言いに疑問を浮かべる孝則であったが、ちょうど目的の階層に着いたようだ。


エレベーターの階数表示が通常のものと全く違うものに変わっている。


ここは一般人にはその存在を知られておれず、設計図にさえ記されていない場所なのである。


エレベーターから降りると、大きな会議室のような場所に出ていた。


そこには国籍や人種を問わず、20人近くの人々が集まっている。


いずれも、魔術業界では知らぬ者はいない、国際的に有名な人々ばかりであった。


「ミスター・モリミヤ。遠路はるばるよく来てくださいました。ロンドン観光は満喫(まんきつ)してもらえましたかな?」


一番奥の席に座っていた男が、孝則に日本語で話し掛けてくきた。


「昨日は時差ボケと長旅で疲れていましたから、そんな暇ありませんでしたよ」

「おや、そうですか。それではミスター・モリミヤが観光を楽しめるように手早く本題に入りましょう」


どうやら、孝則が最後の一人であったようである。


孝則を含めた全員が席に着き、それぞれに一枚の護符(ごふ)が配られ始めた。


それは国際的な会議になると必需品とも言われる、翻訳(ほんやく)用のMCBであった。


MCBとは『魔術術式基板【Magic Circuit Board】』の略称であり、魔術師が魔術を行使するのをサポートする道具全般を指す言葉である。


このMCBは首の裏に貼り付け、魔力を流すことで、同じMCBを着けている者同士の会話を即座に翻訳(ほんやく)してくれる機能があるのだ。


男は会議室のメンバー全員がMCBを装着したのを確認し、説明を始めた。


「皆様。本日はお忙しい中、我々『円卓十三議席』の招集(しょうしゅう)に応え、遠路はるばるお越しいただき、(まこと)に感謝いたします」


魔術協会(ソサイティー)『円卓十三議席』。


元々はイギリスの魔術師や超常現象を研究する学者らの集まりであったが、徐々に規模を拡大化し、今では世界最大の魔術組織と言っても過言ではない。


イギリスの名門貴族7人と彼らに推薦(すいせん)された6人の計13人を幹部とし、大英博物館や大英図書館などの複数の下部組織を持っている。


彼らの主な仕事は、世界各地の超常現象の研究、魔術師による事件への資料提供、国際的な魔術師同士の交流の仲介役、世界唯一の魔術師ライセンスの審査や登録など非常に多岐(たき)にわたっている。


「まず最初に説明しておきたいのは、これから話すことは、世界規模で重要とされる事案であり、また、一般の人々に情報が()れれば未曽有(みぞう)の大パニックを引き起こしかねない非常に重要なことであると言うことです。そこで、機密漏洩(きみつろうえい)を防ぐ目的で、(まこと)に失礼ながら、皆さんにはこちらの契約書にサインをお願いしたいのです」


男の言葉に、控えていた人たちがそれぞれ書類を配り始める。


孝則もその書類に目を通す。


ご丁寧にも日本語で書かれていたその書類からは凄まじいほどの神々(こうごう)しさを感じた。


「これって、まさか・・・・」

「気がつきましたか。その通り、この契約書類は『ミスラの羽ペン』で書かれています」


その一言と、男が取り出した万年筆に会議室は騒然(そうぜん)となる。


一見するとただの万年筆にしか見えないが、それから発せられるあまりにも神々(こうごう)しい神気(オーラ)に、それが疑いようもない本物である事が感じ取れる。


周りからは「なんだと!?」「神話(クラス)遺産(レリック)!?」「本当かよ・・」と言った声が聞こえてくる。


遺産(レリック)とは、一言でいうならに伝説に登場する道具の総称であり、『世界が残した遺産』を意味する。


妖魔(オーガ)と同じように下からは童謡(クラス)から上は神話(クラス)まで格付けがされており、『ミスラの羽ペン』はゾロアスター教の太陽神ミスラが使用していたと言われる物で、神話(クラス)遺産(レリック)である。


ミスラは契約の神としての側面(そくめん)があり、このペンで作られた契約書にサインしてしまったが最後、契約書自体を破棄(はき)してしまわない限り、いかなる手段を用いても契約内容を反故(ほご)にすることができなくなると言う、非常に強力な力を持っているのだ。


そのあまりにも強力な効果から、非人道的だとされ、『円卓十三議席』の三大遺産(レリック)と呼ばれながら、決して使用されることのない封印指定を受けている代物(しろもの)である。


ちなみに、万年筆の形をしているのは、これに掛けられた魔術によって姿形(すがたかたち)を変えているからである。


遺産(レリック)の外見を魔術的な干渉で変えることはよくあることであり、巻物(スクロール)型の魔導書を皮製の手帳に変えたり、聖剣や魔剣をポケットナイフに変えたりと、現代の景観(けいかん)に合わせることで、一般人に対して違和感を持たれないようにしているのだ。


「サインが出来ないとおっしゃる方は、遠慮(えんりょ)はいりませんのですぐに退室をお願いします」


その一言に、2、3人が退室したが、孝則を含めた残ったメンバーは事の重要性を(さと)り、契約書にサインをしていた。


「それでは、まずは資料をお配りいたします」


そして、孝則の元に資料が配られる。


全員、(しばら)くその資料に目を通していたが、後半にいくにつれて、その表情は険しさを増していく。


「おい」


まず最初に声を上げたのは孝則であった。


その声には先ほどまではなかった、怖いくらいの真剣さがに(にじ)んでいる。


「これはどういうことだ(、、、、、、、)?」

「それが貴方たちをお呼びした理由です。どうか力を貸していただけませんか?この世界の未来の為に」


補足:大英博物館と大英図書館にも、それぞれ秘密の隠し部屋が存在し、今まで研究された数多くの魔術関連の道具や魔導書が保管されている。

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