116 恋物語
王立図書館。
「今日は何の御用ですか」
ジョエルって言ったっけ?
「確か、司書だよな?」
「はい」
「愛の複雑な気持ちについて書かれている本を探してるんだ。相手を信じられなくなるとか、不安になるとか、言いたいことが言えないとか……。そんな話が載った本」
ジョエルが眼鏡をかけ直す。
「山のようにありますが」
「山のよう?」
「作者など、もう少し具体的に仰っていただけませんか?」
「作者なんて知らない。一番新しくて有名な奴は?」
「だとしたら、こちらでしょうね」
ジョエルが返却棚から本を持って来る。
トリオット物語?
どっかで聞いたような……。
「去年完結したものですが、今でも根強い人気のあるお話です」
そういえば、物語は感情について一番書かれてるものだったな。
「これが一巻?」
「はい。全五巻です」
これぐらいならすぐに読めそうだ。
「全部貸して」
「人気の本は複数冊置いておりますから、文学コーナーに行けば……、どこに行くんですか!」
「そこで読んでいくから、持ってきて」
眼鏡をかけて、カウンターの脇にある机で本を開く。
まともに物語を読んだことなんてあったかな。
こういうのは、いつも誰かから聞いてばかりだ。
中身なんて、あらすじを聞けば十分。
その過程に意味があると思ったことはないけど……。
あれ?
―愛し合う二人が引き裂かれるところから始まるんだよ。
―女性の方が殺されて、棺に閉じ込められて、東の果てに連れて行かれる。
この話って。
―……けれど、殺されたはずの彼女は実は死んでいなくて。
―連れて行かれた東の果てで目覚める。
―そして、恋人を求めて西を目指すんだ。
―一方で、そんなことは知らずに、彼の方は、死んだはずの彼女が入っている棺を求めて、東へ赴く。
本を閉じて、改めて物語のタイトルを見る。
トリオット物語。
―相変わらず想像力が足りないのね。
これは、死んだ人間が復活する物語。
リリーが読んでいた本だ。
主人公は二人。物語は、「彼」視点と、「彼女」視点で、交互に描かれていく。
あらすじはリリーから聞いた通りだけど、読んでいると全然違う印象を受ける。
この物語は、恋物語と言うよりは冒険譚。
どちらの主人公にも魔法使いの相棒居て、共に冒険者ギルドの依頼をこなしながら旅をする。目的は恋人探しとはいえ、メインとなるのはこちらだ。
自分が似たような仕事をしていたのを思い出すな。冒険者でもやっていなければ、ここまで詳細な冒険の描写なんて書けないだろう。
恋物語と呼べるのは、主人公が相棒に自分の旅の目的や胸中を明かす部分ぐらいだ。
でも、主人公二人の独白が交互に語られるシーンを読んでいると、二人が一緒に居るような錯覚を起こす。
不思議な描かれ方だ。
物理的な距離は離れているし、物語の冒頭で別れて以来、一度も会っていないと言うのに。二人は常に相手の愛を信じて、幸福そうに愛を語る。
『散らかってないなんて珍しいわ』
『こんなに集中して一冊を読んでることなんてあったかしらぁ?』
『あまり見ない光景だな』
『そうだねー』
『でも、周りの声は聞こえてないみたいよ』
『この人、すごく怒ってるけど……』
『放っておけ』
『ふふふ。そこはエルらしいわねぇ』
―途中、彼の方は棺までたどり着くんだけど、棺が空っぽで、彼女が旅に出たことを知るんだ。
―彼女の方も、故郷に帰って、彼が自分を探していることを知る。
―物語の中でも、会いそうで会えないってことが何度もあって。
―最新刊では、同じ町に居たのに、結局、会えなかった。
ようやく会える。
期待を膨らませるべき所なのに、少女の視点で彼に会うことをためらう描写が続く。
何故?
もし、彼が新しい恋人を見つけていたとしたら。私が目の前に現れるべきではないのかもしれない。幸福な時間の全てを否定されるぐらいなら、このまま会わないという選択もある。その方が彼も幸せだろう。
どうして、相手の幸福を勝手に決めつけるんだ。
何の解決もなく四巻が終わる。
次の巻は……。
手元を探しても、次の本がない。
ここに順番に積まれていたはずなのに。
読み終わった本を持って受付けに行く。
「次の本は?」
ジョエルが俺を睨む。
「すべて貸出中で、今は図書館にないと申し上げたはずですが?」
『言っていたぞ』
『そうよ。大きな声で怒っていたわ』
『読書中のエルは人の話を聞かないものねぇ』
ないのか。
この話しの結末を知りたい。その過程も。
そういえば、リリーはマリーから借りてたよな。
オルロワール家にあるかもしれない。
※
主人公の少年は、冒険者の癖に情に流されやすく、依頼で損をしたりトラブルに巻き込まれることがしょっちゅうある。一方、相棒の少年は魔法使いらしく堅実で損得勘定を優先する。その為、二人はいつも喧嘩になる。
でも、冒険者として活動するならバランスの良い組み合わせだろう。主人公の少年は大陸の文化や地理に精通しているし、魔法使いの方は若い設定と思えないぐらい錬金術の知識が豊富だ。話しが進むにつれて良い関係になっているのも読み取れる。ここまで性格が真逆なら、お互いに学ぶところがありそうだ。
主人公の少女は、少しフラーダリーに似てる。
正義感が強く、優しくて高潔。常に、誰かを幸福にすることが自分の使命であるかのように行動している。時には自分の身を犠牲にしてでも何かを救おうとする彼女を、たびたび相棒の少女が諌めている。確かに、この性格なら止めに入る人間が必要だ。
こっちの二人組は気が合うらしく、最初から姉妹のように仲が良い。
そういえば、四巻では相棒の少女が活躍していたっけ。思ったよりも頑固な面があって、極度の方向音痴だってことが語られてたな。
だから、一人では旅をできないと。
こっちは、リリーみたいだ。
リリーは魔法使いではないけれど。
―今、目の前にフラーダリーが現れたら、
答えは決まってる。
だから、主人公の少女が新しい恋人の可能性に戸惑う気持ちもわからなくはない。
でも……。
―リリーシアはあなたの元を去るでしょうね。
一緒に居るのに?
その気持ちを理解できるようなことは書いてなかった。
五巻に何か書いてあれば良いけど。
※
オルロワール家。
今日も使用人が忙しそうに走り回っている。
なんで?
剣術大会の件も、ヴェラチュールの件も一段落したはずだけど。
ロジーヌが廊下を走って来る。
「エルロック様」
「ロジーヌ。何かあるのか?」
「今夜、フェリックス王子をお招きしての晩餐会がございます」
明日に出発なら、マリーとゆっくり会えるのは今日だけ。
オルロワール家に来るって話しも急に決まったんだろう。王子の正式な訪問となれば、準備しなければならないことは多い。
「リリーシア様はマリアンヌ様のお部屋にいらっしゃいます。お呼びしましょうか?」
「いや。リリーを迎えに来たわけじゃない」
ナインシェの用事が終わるのを待たないと。
「図書室に行きたいんだけど」
「それは……。私では判断いたしかねます」
『皆、エルに本を触らせたくないんだね』
『当然だ』
なんで?
「アルベールもレオナールもいないのか?」
「はい。旦那様と奥様も戻られておりません」
当てが外れたな。
「じゃあ、また後で来る」
人気の本なら、本屋にも売ってるだろう。
オルロワール家を出ようとしたところで、扉が開いた。
「エル?」
「リック?」
「フェリックス様!」
真っ赤な髪。
本当にこれで出席したのか。
「伯爵の叙任おめでとう」
「祝う気持ちがあるなら、式ぐらい出席しろよ」
『良くエルが居なかったって分かったわねぇ』
「アレクともリリーシアとも一緒じゃないなら、居ないに決まってるだろ」
リリーは出席したのか。
「リリー、どんな服を着てた?」
「服?マリーの侍女って感じだったぞ。あれは、アレクの騎士じゃなったのか」
侍女ってことは、衣装を着替えたな。
マリーが選んだなら可愛い服だったに違いない。
「行けば良かった」
リックが俺の頭を小突く。
「誰の式だと思ってんだよ」
「堅苦しい貴族の行事なんて興味ない」
「何言ってるんだ。お前も晩餐に参加するんだろ?」
「しないよ」
「なら、なんでここに……」
ロジーヌが咳払いをする。
「フェリックス様、エルロック様。応接室へご案内いたします」
俺も?
ロジーヌが俺に耳打ちする。
「図書室の件は、マリアンヌ様にお伺いしてまいります」
あぁ、そういうわけか。
「ん」
リックが早く来過ぎたせいで、相手をする人間が居ないらしい。
この様子じゃ、マリーの準備もすぐには出来ないんだろう。
別に、本さえ用意してもらえれば図書室に行かなくても良いんだけど。リリーを待つならオルロワール家に居ても良いか。
※
応接室。
「では、こちらでお待ちください」
ロジーヌが頭を下げて部屋を出る。
リックと向かい合ってソファーに座ると、部屋に居たメイドが淹れたてのコーヒーを持って来た。
良い香り。
そういえば。
「今日は薔薇は持ってきてないのか?」
マリーに会うのに、手ぶらだ。
「持ってきてるぜ」
リックが箱を取り出して開く。
中には、オレンジ色の薔薇の髪飾りが二つ。
可愛いけど。
「こんなの、マリーには似合わないだろ」
「マリーのじゃない。リリーシアにプレゼントする約束だったんだよ」
確かに、リリーに似合いそうだ。
「渡しておいてくれ」
「ん。わかった」
ツインテールに飾ったら可愛いだろう。
この色なら、あのドレスにも合いそうだ。
「で?マリーに渡すのは?」
「後で従者が持って来る」
リリーに髪飾りを持って来てるのに、マリーに贈るプレゼントがないなんて有り得ない。何か持って来てるんだろうけど。
「また従者を置いて歩いてるのか」
「全員、伯爵領への移動準備中だ。俺が居ても邪魔だから、先にオルロワール家に行けって言われたんだよ」
マリーと過ごす時間を優先してくれたらしい。
「そういえば、リックはマリーの研究を知ってるか?」
「研究?お前の方が詳しいんじゃないのか?エルの卒業研究を発展させたものって言ってたぜ」
やっぱり、そうなのか。
「最新の研究なんて知らない。発展って、どんな風に?」
「そうだな……。お前が材料に使ってたのは、亜麻糸だったか?今は、亜精霊が出す糸を使ってるらしいぜ。亜精霊が生み出す素材は魔法との相性が良い。お前が持ち込んだアラクネの糸も試してるって話だ」
亜精霊の糸。
糸を産み出す亜精霊は何種類か居る。確か、蚕に似た亜精霊も居たな。
アレクがアラクネを捕まえるように言ったのも、この研究に利用出来そうだったからか。
「亜精霊の糸って、どんな属性とも相性が良いのか?」
「特別合わないってのはないらしいが。真空の魔法だけは試す機会が少なくて検証中だ」
『当然よぉ』
「お前も力を貸してやったらどうだ?研究の目的は、すべての魔法の効果を織り込んだ防具の作成なんだぜ」
「すべて?」
『エル以外の手伝いなんてしないわよぅ』
「相変わらずだな。仲間にするなら、惚れさせるのが手っ取り早いか」
『わかってないわねぇ。エルは特別なのよぉ』
「反属性を一緒に織り込むなんて無理があるんじゃないのか?」
「それは、布の織り方で解消できる可能性があるんだ。特殊な織り方も研究してるんだよ」
「織り方?」
「お前だって、あれを作る時には魔法陣を応用した編み方をしていただろ」
そういえば、そうだったかもしれない。
「魔法を留めておくには、織り方は重要な要素なんだ。永続的に魔法の効果が安定しなければ、魔法の防具とは呼べないからな」
「確かに」
「それに、付与できる魔法は一つの魔法陣に付き一つだ。光の属性には、癒しの魔法、呪いを解く魔法、光の力を増幅させる魔法なんかがあるが、これらは重複して付与出来ない。仮に、二つの魔法陣を織り込んで二種類の魔法を付与しても、より魔法の効果が強い方に魔法の力が吸収され、一つの効果しか発揮しない」
癒しの魔法と解呪の魔法を織り込んでも、癒しの魔法が強ければ、癒しの魔法の効果しか発揮しないってことか。
「上手くやれば、他の魔法に吸収されずに付与できそうな気もするけど」
「俺も可能だと思うぜ。でも、まだ研究中だ」
だとすると……。
「光の癒しの魔法と、水の解呪の魔法なら?」
「上手く行くぜ。要は、そっちの方が簡単ってことだ」
属性の違う魔法なら、効果が吸収されることはないらしい。
「風の魔法で空を飛ぶ実験は?」
「まだ手をつけてない。まず、人間が風の魔法で空を飛ぶ時のことを考えてみろ」
人を浮かせるほどの風の魔法を使えば、強過ぎる魔法の力でその身を切り裂かれる。
「だから、攻撃に耐え得る防具を作るんだよ」
「攻撃魔法と防御魔法は逆の効果を期待する魔法だ。お互いの力を相殺する」
「それ、魔法の防具をつけた状態だと、風の魔法の補助を使って飛ぼうとしても飛べないってことか?」
「風の魔法に耐性を持つ防具ならそうなるな。織り込む魔法が強ければ魔法同士の干渉の度合いも高くなる。魔法の使用方法にも注意が必要だ」
同時に使える魔法や効果を相殺する魔法は、魔法を使う時の感覚と同じみたいだな。
「でも、布の織り方や魔法の折り込み方を工夫すれば、特定の魔法の影響を受けない防具の作成も可能な気がする」
「そんな簡単な話しじゃないぜ」
「精霊の魔法陣を応用すれば良い。転移の魔法陣みたいに、新しい魔法陣を開発するんだ」
リックがため息を吐く。
「お前、魔法研究所に入れ」
「嫌だよ」
「知りたいことも、やりたいことも、好きなだけできるだろ」
「興味ない」
「はぁ?」
そろそろ、本題を聞いて切り上げよう。
「実用可能なものは出来てるのか?」
「研究所が目指してる防具と呼べるものは出来てないぜ」
「一つも?」
「あぁ。ただ、魔法使いが使う場合に、魔法の効果を増幅させたり、効果を安定させたりする布は完成している」
リックが、緑のスカーフを取り出す。
「これを怪我をしている場所に当てて大地の魔法を使えば、傷の治りが早くなる。軽傷の場合は、傷跡の回復も早まるぜ」
「おぉ」
包帯に替わる素材として使えそうだ。
「王家に献上できるレベルでの完成品は、これだけだ」
「これだけ?」
「興味があるなら、お前が作れば良いだろ」
「興味ない」
「お前なぁ……」
ため息を吐くリックをしり目に、まだ温かいコーヒーを口に含む。
―これは、マリアンヌが研究中の技術を盗んで作られたものだ。
アレクが持っていたマントは、魔法研究所よりも高い技術で作られている可能性がある……?
魔法の力を増幅させる力を持った布が完成しているとはいえ、大きさにも性能にも差があり過ぎる。明るい場所で人間一人を完全に消せる魔法の防具なんて。
でも、いくら技術を盗んだところで、魔法研究所並みの設備と人材、資金が無ければ作るのは無理だ。
名のある人物が関わっているに違いない。
そして、その人物がアレクにマントを渡したんだ。
……誰だ?
あれだけ退屈にしていたんだから、俺が行く前は持ってなかったはず。
でも、国王陛下の監視下にあるアレクに直接会える人物なんて限られるし、贈り物はすべて厳重にチェック済み。そんな状況で、あんな怪しいものがアレクの手に渡るルートなんてない。
そもそも、それだけの研究設備が知られてないなんて……。
『リリーが来た』
リリーだけ?
マリーの支度、まだ終わらないのか?
「エル、リックさん。マリーの部屋に来てもらえる?」
扉を開くなりそう言って、リリーがこっちに来る。
「マリアンヌ様の許可は得ております。どうか、いらっしゃって頂けますでしょうか」
ロジーヌがここまで言うってことは、マリーの部屋じゃないと駄目な理由があるんだろう。
ナインシェがやりたかったことにも関係あるのか?
「行くぞ、リック」
リックがため息を吐く。
「わかったよ」
ロジーヌの案内で、マリーの部屋に向かう。
「今日はリックさんと一緒だったの?」
「いや。王立図書館に居たんだ」
「そっか。だから、眼鏡をかけてたんだ」
そういえば、かけっぱなしだったな。
眼鏡を外して仕舞う。
「何か調べてたの?」
「トリオット物語を読んでたんだ」
「えっ?トリオット物語?」
リリーが驚く。
「全部読んだの?」
「いや。王立図書館で四巻まで読んだんだけど、五巻がなかったんだ。マリーなら持ってると思って来たんだよ」
「そうだったんだ。トリオット物語なら、マリーの部屋に全巻揃ってたよ」
マリーの部屋か。
探す手間が省けたな。
「ロジーヌ、悪かったな。図書室に用はない」
「いいえ。お探しの本を御用意出来そうで安心しました」
振り返ったロジーヌが微笑む。
マリーの部屋の前でロジーヌが止まる。
「フェリックス様。エルロック様。申し訳ありませんが、少々、こちらでお待ちくださいませ」
「ん」
「別に良いぜ」
「ありがとうございます。リリーシア様は私と御一緒に」
「うん」
リリーとロジーヌが部屋に入る。
それを見送ってから、リックがため息を吐く。
「あの娘は何を考えてるんだ。嫁入り前の大事な娘の部屋に男が入ったなんて知れたら、伯爵だって怒るぞ」
『意外だわ。あなたって常識があるのね』
「聞き覚えのない声だな」
リックの前だと、ナターシャよりもユールの方が良く喋るからな。
『来るぞ』
扉が開く。
「準備できたよ」
そう言って、リリーが俺の方に来る。
「マリー?」
開け放たれた扉から、部屋の中に居るマリーの姿が見える。
淡く輝く黄色の衣装。
……見ただけで分かる。
これが、魔法研究所で研究されている内容。
光の魔法を織り込んだ防具。
リックが言っていたものよりも高度な技術で作られているんだろう。これなら、アレクが持っていたマント並みの効果が期待できそうだ。
「ごめんなさい。ドレスを作る予定なのだけど、未完成なの。これが今、私がやっている仕事よ。私の研究を話したところで、何も変わらないのはわかっているわ。でも……」
「何も言わなくて良い」
リックがマリーの目の前まで行って、マリーの手を取る。
「結婚式は、このドレスを着てくれ」
「え?」
「ドレスが完成するまで、いくらでも待つ」
「そんな。いつになるかわからないわ」
「それでも」
「だって、伯爵としての責任が……」
「だったら、俺は自分の発言に責任を持つ」
リックがマリーの指に指輪を嵌める。
やっぱり、持ってたんじゃないか。マリーへのプレゼント。
「結婚を申し込んだ時に言ったはずだ。好きなだけ、好きなことをやって良いって。今、形になりかけているものを手放す必要なんてない」
「でも……」
「待つって言っただろ?しおれた薔薇なんて欲しくない。その輝きのまま、俺のところに来てくれ。完成したドレスと一緒に」
リリーの腕を引く。
もう、放っておいても大丈夫だろう。
『ありがとう』
ナインシェ。
これが、リリーの協力が必要だったことか。




