9.元魔女とお茶会
いきなり茶飲み話を始めると聞いて、コーネリアスは首を傾げている。一休みのついでにいろいろと話を聞いてみようというのがアメリアの考えだ。
テーブルの上に並べられた紅茶のカップにアメリアはシュガーポットから一匙砂糖を入れる。
「王子は、お砂糖とミルクはいれますか?」
「いや、いつもストレートで飲んでいる」
「わかりました」
ティースプーンを置いてアメリアは息を吐くと、コーネリアスをじっと見つめる。
「……何を」
「いえ、どんなお人柄なのか知りたいと思いまして」
「私のことを……か?」
「ええ。他人から伝え聞く評判だけでは、実際の気持ちはわかりませんから」
微笑むアメリアに、コーネリアスは戸惑いつつも何かを言おうとする。だがどれもうまく言葉にできず、ぼそぼそとした独り言になるばかりだ。
「では、お互い自己紹介いたしましょうか。私はアメリア・ウェイレット。ご存知の通り王立医局にヒーラーとして勤めております。王子も、どうぞ」
コーネリアスは少し戸惑っていたが、やがてアメリアに促されるまま自分のことを話し始めた。
「コーネリアス・リーヴズ・フルオライト。フローリアン王国の第二王子で、守護騎士団団長としても籍を置いている」
「守護騎士団は、王国軍の中でも上位の組織ですね。団長ともなればいろいろと気苦労は絶えないのでは?」
アメリアの言葉に、コーネリアスの瞳が揺らぐ。
「いや、一人の守護騎士として弱音を吐くことなどできない。そのために訓練や修練を欠かさずに行ってきたからな」
「なるほど。ではお休みの日に何をなさっているのか、差し支えない範囲で教えていただければ。私は魔法の研究をしていますよ。後は使い魔を構って遊んでやりもします」
「アメリア嬢は仕事熱心なのだな。私は、そう、だな……」
またうまく言葉にできなくなっているコーネリアスにアメリアはコーネリアスは休息の取り方が不得手なのでは、と踏んだ。
「ここでお話したことは他言しません。全てここだけのお話です。それでもお気に召さないのであれば、無理だとお伝えしてくだされば」
「……いや、そこまでしてもらって話さないのは道義に悖るだろう。む……笑わないでくれるか」
「もちろん。私は殿下のことをもっと知る必要がありますので」
コーネリアスの固い表情を和らげようと、アメリアは穏やかに促した。
「兄上と……第一王子アレクシスと過ごしている」
「アレクシス様は確か病弱で床に伏せっておられることが多いと聞きます。そのお見舞いでしょうか」
コーネリアスは少し恥ずかしそうに目をそらしながら続ける。
「兄上は病弱でこそあるが聡明なお方だ。暇があるときは兄上とボードゲームに興じている。兄上は盤上では無類の強さであってな、私はまだ一度も勝利を得たことがない」
「それは、ご兄弟で楽しく過ごすのはよいことですね。いつもアレクシス様にお付き合いを?」
アメリアの問いにコーネリアスははにかみながら答えた。
「いや、私の方から誘うときもある。兄弟仲は、悪くはないと自負しているつもりだ」
「仲がよろしいのは悪い事ではありませんわ。でも、そんなに話しづらいようなことには私は思えなかったのですが」
王族であることを取り払ってしまえば、病弱な兄に顔を見せ共に遊んでいるだけだ。だというのにそれを話すことを妙に気にしている。何かある、そうアメリアは踏んでさらにコーネリアスとの話を進めた。
「兄弟仲が良いのに、どうしてそのように隠すようなことを?」
ぐ、とコーネリアスが言葉に詰まる。普通であれば兄弟仲のよいことくらいは公にするものである。だが、それを口にできないとなると恐らく口外できない圧力がかかっているのだろう。
それがコーネリアスの心が頑なになっている原因かもしれない。
だがあまり一気に聞き出すと精神的な疲労も大きい。段階的に聞き出すべきか、とアメリアは脳内で素早く計画を立てる。
「答えづらかったのでしたら、そのようなことを伺ってしまい申し訳ありません。いろいろとお話してお疲れでしょう。午後からの治療は昼食後、一休みしてからはじめさせていただきます。よろしいでしょうか?」
「あ、ああ。構わない」
「では、今日はいろいろとお聞かせくださってありがとうございました」
アメリアは席を立ってからコーネリアスにお辞儀をすると、使用人のようにそそくさと医務室を後にする。
残されたコーネリアスは、飲みかけの紅茶のカップに視線を落としたまま、もどかしげに唇を噛んでいた。




