48.国王の決断
「魔物の大群がリムネア高原の向こうよりこちらの療養地に向かって進行を始めております。進行スピードから考えて二時間もあれば温泉街に到達するかと」
急ぎの報せを聞きつけ、国王は居室からホールに出て伝令の話を聞いていた。国王の侍従が慌てふためいて伝令を叱責する。
「リムネアはマナこそ豊富だが魔物の出ない土地として有名だっただろう?! どうして魔物が、しかも大群で押し寄せてくるのだ?!」
「も、申し訳ありません! 見回りは徹底していたのですが、何分高原は広く兆候を見逃してしまい……」
「ええい何をやっておるのだ!」
「お、王! 兵を、とにかく兵を呼びませんと!」
口々に侍従達が国王に進言するが、エドモンドは黙ったままである。そして、ゆっくりと口を開いた。
「兵を集めるにしてもここは療養地だ。駐屯している兵をかき集めるにしても大群に対処できるだけの数は集められないだろう」
「で、では王都から応援を……!」
「王都からリムネアまでは早馬を走らせたところで二日以上はかかる。今からでも間に合うと思うか?」
「そ、そんな……それでは、一体どうすれば」
「そ、そうだ! 王、王だけでも今からリムネアを離れれば襲われないはず! それから軍を率いればっ」
冷や汗をかく侍従たちにエドモンドが一喝する。
「臣民を置いて一人逃げ出すような人間が王と呼べようか!」
「ひいっ」
侍従はエドモンドの言葉に縮み上がってしまい、もうろくな進言もできない。エドモンドは護衛の騎士に目配せをし、騎士は少し驚いたがすぐに一礼してその場を辞した。
「王、一体何を」
「代々騎士として剣を振るってきたのであれば、王として民を守るのも我が務め。今集められるだけの兵を集めよ。わしが指揮を執り魔物と相対する」
「国王! いくら何でも無茶な!」
侍従が反対するが、エドモンドの意思は変わらないようだ。先ほど目配せした騎士が王の剣を両手に拝し持ってくると、膝をついてエドモンドに差し出した。
その剣を手に取り、大きくエドモンドは掲げた。
「陛下……!」
「お前達は下がっておれ。戦えぬものは同じ戦えぬ者達を避難させよ。場所がないのであれば、この屋敷に入れても構わん」
エドモンドが次々に指示を出す最中、コーネリアスとアレクシスが異変に気付いてホールに駆けつける。
「父上! 何事ですか?!」
コーネリアスが問うと、エドモンドは厳しい顔で魔物の大群が押し寄せようとしていることを告げる。
コーネリアスとアレクシスは共に驚いた顔をしていたが、コーネリアスはすぐにエドモンド前で共に戦うことを進言した。
「であれば、私にも前線に立って戦う許可を! 傷なら癒えております。勘を取り戻すための鍛錬も続けて参りました。ですから」
「であれば。お前はアレクシスを守れ」
また、突き放されるようなことを言われた。コーネリアスが言葉を継げなくなっていることに、アレクシスが反論する。
「父様、私は大丈夫です。コーネリアスにも前線で戦う許可をください。コーネリアスほどの力を持つ騎士であれば、きっと父様のお役に立てるはずです」
だが、エドモンドはアレクシスを一瞥しただけで首を横に振った。
「駄目だ。コーネリアスには、この屋敷を守らせる」
「父様!」
アレクシスが訴えるも、エドモンドは聞き入れることをしない。あくまでコーネリアスを前線に出さず、アレクシスや使用人達のいる御用邸を守らせようとした。
エドモンドの前でうなだれていたコーネリアスだったが、やがてゆっくりをと手を握りしめる。
「ダメなのですか、どうしても……!」
苦しげに、コーネリアスが口を開く。
「どうして、あなたは私を見てくれないのですか! そんなに母上の面影に苛まれているのですか!」
コーネリアスの訴えに、エドモンドは渋面を作る。




